第1章 進化と現生生物

1.遺伝子の進化

ダーウィンの進化説

  突然変異とか自然選択とか︱現代では、世界中のかなりの割合の人間が、“進化論”を受け入れているであろう。目の前で進化をした生き物を見たことがないにもかかわらず、である。進化という現象は、直接的に見ることはできないが、様々な年代の地層から出土される化石や、他ならぬ我々を含む現生生物が示す様々な進化の痕跡が間接的に語りかけている。地層から出てくる化石は過去に様々な現生動物の中間の形質を示す種が存在していたことを示し、我々の持つ様々な器官がその他の生物との相同性を示すことが進化論を強く支持する。(人類の歴史のスケールで考えると)かなり最近になるまで神が生物を作ったという創造論が信じられ、また為政者により強要されていたため、進化論は神に反する論として虐げられていた。しかし時代は移り変わりチャールズ・ダーウィンがガラパゴス島で着想した自然選択説などを取り入れた進化論はますますその信憑性を高め、現在ではほぼ全ての人から科学的には受け入れられている。それでは生物は進化するというこの進化論、本質は一体何なのであろうか。本書では主に魚の興味深い現象を遺伝子との関連を交えて紹介することになるが、そのバックグラウンドとして進化について簡単に解説する。
 「遺伝子」には様々な捉え方があるが、狭義には4種の核酸で構成されるゲノムのDNAに存在するタンパク質をコードする情報のことで、それぞれの遺伝子のDNAの配列にもとづいてmRNAが転写され、そのmRNAからタンパク質が翻訳されるという、プロセスを経て機能する。この情報の大元となるゲノムDNAは、何重もの修復機構によって極めて強固に護られているが、放射線や紫外線や化学物質などが暴露されることにより、時として(ごく低い確率で)変異が生じ、DNAの配列が変わってしまうことがある。またウイルスやトランスポゾンといった遺伝子を移動させる能力を持つものや、減数分裂時の不等交差により塊の単位でごっそりと遺伝子が増えることもある。こうやって生物の持つゲノムには多様性が生じる。こうやって生じた遺伝的多様性は、特に有性生殖においては母由来の染色体と父由来の染色体が生殖細胞の中で相同組み換えを起こすことにより無数の遺伝的バリエーションとなるのである。もちろん「でたらめ」な変異はほとんどの場合が個体にとって有害で死をもたらす。 しかし、ある条件下で偶然利益が生じた場合、すなわち適応度を上げた場合には、その形質を持った、つまりその「変わった」遺伝子を持った個体は他の個体よりも、より多くの子孫を残すことに成功する。例えば草を食べる競争相手が多い環境において首を伸ばす遺伝子変異が生じたとしよう。その個体は、結果的に多くの子孫を残すことができ、ひとつの新しい種となって繁栄した。これがキリンである。もちろん、首が長ければどんな時でも有利というわけではない。長い首を作り、メンテナンスするエネルギーが必要になるし、また、低木だらけのところでは首が長いことによって得られるメリットはとても小さくなる。このような理由で、すべての動物の首が長くなるわけではなく、たまたまその場所で、短い他個体に対して適応的であったから、キリンの先祖は長い首という特殊な形質を持った個体が結果的に生存競争を勝ち抜いたのである。首を長くしたことによって、地上に住みながら高木の葉を食べるという新たなニッチ(生態学的地位)を獲得した、ということができるであろう。
 このように遺伝子の変異とその後の自然選択によって、生物はそれぞれの環境に適した多様性を獲得してきたのである。 たとえば、魚でも、地味な魚から派手な魚(グッピーなど)、平べったい魚やまん丸な魚など、いろいろな形質が存在することは周知の事実であるが、それぞれの環境における自然選択、性選択、様々な要因によって現在地球上に存在する様々な生き物は、それぞれの環境、同じ空間に住む多種との関係性において最適な形質を示しているはずである。

進化で遺伝子に起こっていること︱脊椎動物と全ゲノム重複

  イクラはサケの卵。キャビアはチョウザメの卵。鶏卵はニワトリの卵である。これらの卵が受精してできたひとつの受精卵から個体は作られる。哺乳類もまた例外ではなく、受精卵のひとつの細胞からまるごとの個体が作られる。つまり、我々の手の筋肉の細胞も、脳の神経細胞も、すべてひとつの受精卵の由来であるわけで、受精卵はすべての細胞になる能力(分化全能性)を持っているわけである。そして、細胞は、他の細胞が使う物も含めて、遺伝子(クリックして注釈を表示)をすべてもっているにもかかわらず(一部の嗅覚受容体、免疫関連遺伝子などの、再構成を起こす例外を除く)、筋肉はミオシンやアクチンなどの筋繊維を構成する遺伝子を発現し、目の水晶体はクリスタリン、といった具合に、それぞれの細胞が使う遺伝子を特異的に発現する。つまり、それぞれの細胞で使う遺伝子のみを“選んで”発現している。しかも、必要なときに、必要な量だけを。このような調節機構は、ゲノムDNAがタンパク質を作る遺伝子のみから構成されている、と仮定するとどう考えても不可能であり、それに加えて発現調節に関わる部分がゲノム上にどうしても必要になる。実際に、ヒトのゲノムは30億塩基対になるが、タンパク質そのものの情報をコードしている部分は2%にも満たない、という事実がある。その他の部分には、遺伝子を発現させるためのタンパク質である転写因子(クリックして注釈を表示)が結合することでタンパク質の発現を調節する、調節領域と呼ばれるDNA配列が含まれているのである(本当に何もしていない部分もたくさんある)。図に示したように、タンパク質の発現は、プロモーターと呼ばれるmRNAの転写開始に関与する部分と、少し離れたところ(遺伝子の上流にあることが比較的多い)から調節するエンハンサーなどといったDNAの部位に転写因子が結合することで転写が開始する(図1)。一方で、その細胞では使わない遺伝子の部位は、翻訳領域も含めてメチル化などといった修飾がDNAになされることによって、全体的に転写が起こらないような状態になるのである。こういった複数の仕組みによって、遺伝子の発現調節はなされている。そして、神経細胞(ニューロン)になったり、筋肉になったりしていくのは、受精卵が分裂していく間に、それぞれの細胞が発現する転写因子やDNAのメチル化状態が、発生中の様々な因子や、位置情報によって変わっていくからである。このような仕組みによって、全く同じゲノムDNAを持つ受精卵から分裂したそれぞれの細胞は、全く同じゲノムDNAを持つにもかかわらず、異なる遺伝子を発現するわけである。この逆も可能であり、山中伸弥博士の発見した3つの遺伝子を既に分化した細胞に導入すると、受精卵のように何の細胞にでもなれるような、DNAのメチル化がリセットされた細胞(iPS細胞)が作れる(脱分化する)、というわけである。この発見は未来の再生医療に大変大きな可能性をもたらしたわけであるが、ではここからどのような遺伝子を導入していけば、筋肉の細胞や水晶体の細胞になるのか、などという分化するプロセスは未解明な部分が多く、将来の再生医療の応用に向けた研究が盛んに行われている。

図1.ゲノムDNAから特定の遺伝子が発現する仕組み
細胞毎に異なる転写因子が発現しており、発現調節領域に作用し、転写を制御することで、細胞が必要な遺伝子を発現する。同じ個体の同じ組織でも、体内、体外の環境によって発現量を調節している。

 少し話が脱線したが、このようにゲノムDNAには、調節する領域とタンパク質自体をコードする部分があり、細胞によって使う遺伝子を使い分けている。生物の進化は遺伝子の進化、といったが、遺伝子とはいっても、タンパク質自体の配列は思ったよりも変わっておらず、特にタンパク質の中でも重要な部分はアミノ酸として置換されること(非同義置換(クリックして注釈を表示))は極めて少なく、変異が大量に起こっているのはアミノ酸をコードしない部分なのである。例えば、膵臓で作られるホルモンであるインスリンの遺伝子を見てみよう(図2)。

図2.インスリン遺伝子からインスリンができるまで
膵臓のランゲルハンス島B細胞で転写が起こる。転写されたmRNA前駆体は、スプライシングを受けることでイントロンを切り落とされる。キャップ構造とポリAテールを付けられ、成熟したmRNAとなったら、リボソームで翻訳される。まずはプレプロインスリンと呼ばれる活性を持たないペプチドとして完成するが、一般的なホルモンなど、分泌顆粒への詰め込みに関わるシグナルペプチドが切り落とされる。そして、A鎖とB鎖がジスルフィド結合を形成した後、Cペプチドが切り落とされ、ホルモンの活性を持つインスリンができあがる。この中で、 A鎖とB鎖は極めて保存性が高く、Cペプチドやシグナルペプチドもある程度保存される。一方、この上流配列やイントロンはかなり種間にバリエーションがある。

インスリンは、血糖値を下げる作用があり、このインスリンを産生する膵臓の細胞に異常があったり、インスリンの作用する経路に問題が起こると糖尿病になってしまう、極めて重要なホルモンである。インスリンは、ゲノムからmRNAに転写された後、タンパク質(ペプチド)として翻訳される。この前駆体(その物質が完成する前の段階の物質)のタンパク質はプリプロインスリンと呼ばれ、ただの一本鎖のタンパク質である。このプリプロインスリンにはA鎖、B鎖、Cペプチドという3つの部位が含まれ、A鎖―B鎖がジスルフィド結合により架橋され、さらにCペプチドが切断されて取り除かれ、はじめてインスリンとして機能をする。したがって、A鎖、B鎖の配列は極めて重要であるが、Cペプチドはそれほどホルモンの活性(インスリン受容体を活性化できるかどうか)に重要ではない(A鎖、B鎖が物理的にあまりに離れてしまったり、フレームシフト(クリックして注釈を表示)を起こしてA鎖がうまく合成できなくなるなど、インスリン自体の完成を妨げる変異の場合は、Cペプチドといえど許容されない)。したがって、A鎖、B鎖はタンパク質の配列としてメダカとヒトで似通っているが、C鎖はかなり保存性が低い。このように、重要な配列にアミノ酸変異を伴うような変異をたまたま受けた個体は、周りの個体に比べて生存力や繁殖力が弱くなり、淘汰されてしまう。したがって、結果的にタンパク質の重要な部位への変異は、仮に起こったとしても子孫に伝えられることなく淘汰されてしまう(非同義置換はその限りではない)。一方で、タンパク質をコードしない部分(遺伝子の上流や下流やイントロン)はかなり変異が起こりやすく(変異を受け入れやすい。有害な形質とならず、変異がそのまま子孫に伝えられる。)、メダカとヒトの間でまったく異なる配列になっている。しかし、この上流配列であるが、転写因子が結合する部位もあるため、極めて重要なところ(これは、飛び飛びの短い配列であることが多い)は、保存されている。実際に、一見まるで違って見える上流配列だが、別の動物に導入しても有効だったりする。筆者の知る例では、ゼブラフィッシュのCardiac Myosin Light Chain-1 (CMLC;心筋で発現する)遺伝子の上流配列にGFPを繋げたコンストラクト(人工的なDNA)をメダカに導入すると、メダカでもちゃんと心筋が緑に光り、GFPの発現を確認することができる(図3)。すなわち、ゼブラフィッシュとメダカという、約2・5億年も前に分岐(クリックして注釈を表示)し、上流配列が見た限りではまったく変わってしまった二つの種間で、本当に転写制御に必要な部分はきちんと保存されているのである。このように、明確に類似した配列を示すタンパク質の翻訳領域と異なり、調節領域の配列は一目見ただけでは見つけることはできないが、機能的には保存されているのである。頭で考えても、なぜこのような配列になっているのか、ということはなかなか説明できない。それは、生物は誰かが意図してプログラムを書いて作ったものではなく、長い歴史の中で途方もない数のトライアンドエラーを繰り返した結果である、と考えると納得できる。

図3.ゼブラフィッシュの心筋の上流配列を用いて光らせたメダカの心筋
A:cDNAの配列とタンパク質の配列。タンパク質の配列は保存性が極めて高い(類似している)のに対し、それをコードする塩基配列はそれなりに異なっている。タンパク質にならない上流の配列はまったく保存性がないこともわかる。このように、タンパク質は、保存性が高く、その制御に関わる可能性のある上流配列は、概して保存性が低い。
B:心筋が光るメダカ。これは、ゼブラフィッシュの心筋で発現するタンパク質の上流配列にGFPをつないだDNAの断片を遺伝子組み換え技術で導入したメダカである。つまり、配列を並べても共通点があまり見えない上流配列も、発現制御に必須な部位はちゃんと種間で保存されていることが多い。矢印で示す心臓全体が緑色の蛍光を示していることがわかる。黄色は自家蛍光といって、遺伝子導入しなくても見られるものである。

 こういった調節に関わるゲノムの配列に変異が入れば、タンパク質の機能自体は同じでも、発現の強さやタイミングなどが変化してくるだろう。たとえば、同種の生物の中でも、生まれつき筋肉量が多い、あるいは、腕が長い、脚が長いなどの個体差がある。また、魚の世界を見回しても、ヒレの長い魚から、短い魚まで、様々だ。こういった長さや量などの多く問題は、その組織をつくるタンパク質自体そのものに起こった変異では説明できず、エンハンサーなどの発現調節配列が変わることにより、転写のタイミングや量が変わってきたことによって生じているのである。
 このように、身体を構成するタンパク質そのものの変異と、その発現調節領域の変異によるふたつの進化があり、それぞれが突然変異を蓄積していく。種の定義は非常に曖昧で、当然ながら、同種の中でも遺伝的多型は認められており、それがヒトであれば顔つきの違いであったり、遺伝的な得手不得手(オリンピックの陸上選手と我々が同じ遺伝子だとはどうしても思えない)の要因になるわけである。それでは、種とは何か、という疑問が生じるのだが、これは様々な考え方があり、一概に「同種」「別種」ということは極めて難しい。ただし、少なくともいえることは、地理的隔離や、生殖的隔離(同じ場所に生息していても、配偶行動を行わない)が起こり、一度交雑が起こらなくなってしまえば、二つの異なる集団として、別種としての歩みを始めることになるのであろう。どこからが別種という明確なラインを引くことは難しいが、交配させて仮に子供が産まれても、その子が必ず不妊になる場合は明らかに別種として認められるであろう。例えば、ライオンとヒョウの一代雑種であるレオポン(leopard+lion)や、ライオンとトラの一代雑種のライガー(lion+tiger)などがそれに当たり、ライオンとヒョウ/トラは別種であることの根拠にもなる。

新しい遺伝子のうまれかた

  さて、 「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ」(ジェームズ・W・ヤング『アイデアのつくり方』)ということは一般的によく指摘されることである。本当に何から何まで新しいことなど、世の中にはほとんど存在しない。だからこそ過去の知見から学ぶことが必要なのであるが……。さて、この「既存の要素の新しい組合せ」という概念は、遺伝子の進化についても近いことがおこっていると考えられている。生物は突然変異によって新しい遺伝子を獲得すると述べた。では、ランダムな変異だけで新しい遺伝子をまるまる作るとしよう。これは、サルにタイプライターで意味の通じる文章を書かせるような、大変確率の低いことである。これでは、これだけ多くの遺伝子が進化したことが説明できない。しかし、そのサルのタイプライターにコピーアンドペースト機能がついていたらどうであろうか。コピーアンドペーストのあとにランダムに変異を挿れていく、ということであれば、より早く、効率的に新しい遺伝子ができるのである。This is a pencil.という文をランダムに打つよりも、すでにあるThis is a pen.をコピーし、それに修正を加えたほうが圧倒的に早くThis is a pencil.という文ができる。
 遺伝子の進化においても、この文章の例のように、ランダムな変異だけではなく既存にある遺伝子を再利用して、新しい遺伝子ができると考えられている。そして、コピーが利用された、という根拠は、我々生物のゲノムに複数残されている。一つ目の根拠は、「遺伝子ファミリー」というふうに、複数の遺伝子が似た配列、構造を持っていることでグループ化できる、という事実である。成長ホルモンとプロラクチンという同一ファミリーに属するとされるホルモンを例に考えよう。我々脊椎動物の成長ホルモンは、脳下垂体前葉から血中に放出され、全身の成長や代謝をコントロールする。一方で、同じ「成長ホルモンファミリー」というグループに属する「プロラクチン」と呼ばれるホルモンも、成長ホルモンと同じく脳下垂体前葉の別の細胞から放出されるが、成長ホルモンの持つ成長や代謝に関する機能とはあまり関係がなく、哺乳類では乳腺の分化や乳汁合成などに関わる。このように、全く異なる機能を持つふたつのホルモンであるが、その構造は極めて類似していることが、立体構造解析の面からも、そして、タンパク質の一次構造である遺伝子の相同性に基づいた系統樹から見ても明白である。この例から考えても、極めて類似した構造が独立してゼロからランダムに生じた、というよりも、ひとつの完成品からコピーができて、片方が元の働きをしている間に、もうひとつのコピーが変異を蓄積し、新しい機能(別の受容体に対する結合能)を得た、あるいは、役割分担をするようになった、と考えるのが自然であろう。
 もうひとつの根拠もやはり現生生物のゲノムDNAに残されている。それは、簡単に言ってしまえば、遺伝子の並び順である。一般的には遺伝子はゲノム上に並んでいるが、この並び方というのは比較的保存されやすい傾向がある(転座などといった遺伝子の位置が変わるイベントは生物の長い進化の途上でしばしば生じていることではあるが)。たとえば、遺伝子ABCと並んでいる遺伝子座(遺伝子がある位置。特に何個の遺伝子が並んでいれば遺伝子座、という明確な基準はないが、概ねゲノム上での数十個くらいのまでの遺伝子の集団を指す)が重複した場合には、遺伝子a1、b1、c1とa2、b2、c2という遺伝子座が生じることになる。その後の例えば a1、b2、c1が正常に機能している場合a2、 b2、c2に関しては、仮になくても障害は起こらない。コピーがちゃんと働いているからである。そうすると、a1/2、b1/2、c1/2のいずれかに変異が蓄積しても生存に問題がないので、これらに突然変異が生じた個体も、他の個体と遜色なく生活を営み、子孫を残すことができる。そうすると、これらの変異を含んだ新しい遺伝子が生じるのである。このように、それまでの仕事を丸々もう片方に任せてしまい、代わりに新しい機能を獲得することがある(neo-functionalization)。先程のプロラクチンと成長ホルモンの関係は、おそらくこの例に当たるであろう。一方で、一度どちらかのコピーが壊れ始めてしまうと(non-functionalization)、もう一つのコピーはまた一人っ子に戻ってしまうので、頑張り続けなければならない。したがって、一般的には遺伝子重複後に、新しい機能を持った遺伝子が生じることもあれば、元の木阿弥になってしまうことがある。もう一つのケースとしては、元々あった複数の機能に関して、ある機能はこちら、ある機能はもう一つが分担、となったり、同じ働きでも組織(脳と肝臓など)やタイミング(稚魚期と成魚期など)において分担するなどという具合になることがある (sub-functionalizationと呼ばれる)。ここで説明してきたことは、あたかも方向性をもって進化しているように見えているわけであるが、無論、進化に意図や意志はなく、ただ、まずいことになってしまった場合に死滅したり、より有利な形質をもつ別の個体によって淘汰されてしまう、膨大なトライアンドエラーの結果であることには変わらない。遺伝子重複と、その後の3つの運命について、簡単な図に示した(図4)。

図4.遺伝子重複とその後の運命
新しい遺伝子は主にコピーから生まれる。同じ機能を保ちながらも、時空間的に役割分担するようなケースであるsub-functionalization、片方が元のはたらきをしている間に、もう一方が新しい機能を獲得するneo-functionalization、片方はまったく機能しなくなってしまうnon-functionalizationが想定される。

全ゲノム重複で何が起こるか︱脊椎動物の1-3R WGD

  脊椎動物の1-3R WGDと「魚」
 我々の一般的に魚と呼ぶものは何であろう。魚のイメージといえば水の中にいてヒレがあり、エラで呼吸をしている。そういったイメージを多くの方が抱くであろう。脊椎動物の中で、これらの形質を持つものは、軟骨魚綱、および、条鰭類と、肉鰭類の一部(ハイギョ、シーラカンス)、脊椎動物の基部に生じたと考えられている無顎類である。そして、ヒレが腕へと進化した我々四肢動物を、“魚”とは認識しないであろう。つまり、この“魚”という呼び方は、我々の都合による複数の集団をまとめた呼称であり、一つの系統的にまとまったグループ(単一系統)を示すものではない。複数の系統にまたがるものを、経験的にまとめてそう呼んでいるのだ。分類学的には(現生生物では)軟骨魚綱、硬骨魚綱が魚を冠する分類となり、この硬骨魚綱には、我々四肢動物も含むのである。つまり、我々も魚である。そう言い始めると、本書は脊椎動物のほとんどの種について触れなければならなくなってしまうので、本書では一般的に魚、と呼ばれるものの中で、比較的馴染みの深い軟骨魚類と硬骨魚類(四肢動物を除く)、無顎類について、遺伝子と生態の関係について様々な興味深い現象を、それぞれの分野の専門家が最新の知見を交えて紹介していく。
 脊椎動物の中での魚の系統分類上での位置づけを説明する。脊椎動物は、大きな分類としては、動物界脊索動物門の中の脊椎動物亜門に分類される(図5A)。この脊索動物亜門は、前後軸に伸びる脊索を発生させる特徴を持つ。この脊索は、脊索動物門の一部である脊椎動物亜門の一部では個体発生の際に脊椎に置き換わる。しかし、我々ヒトも含め、初期にこの脊索という器官を利用する点は、脊索動物門として、必須の発生様式なのである。そして、脊索と並行する神経管を持ち、その一部が膨大することにより中枢神経系を形成する。この膨大部を我々は「脳」と呼んでいる。この特徴的な神経管由来の中枢神経系をはじめとして、脊索動物門は様々な共通した性質、ボディプランを示す。(人それぞれではあるが)直感的に昆虫やウニ・ヒトデ・ゴキブリなどに比べれば、魚に親近感を感じるのも、実際に脊索動物・動物に共通した構造を持っているからであろう。

図5A.動物の系統樹
本書の対象である魚は、この中で脊索動物門に分類される。多くの動物の中の、ほんの一握りの種である。

 脊索動物門の中では、脊椎動物亜門が現在では特に繁栄しており、この中にはもちろん我々ヒトや本書のテーマであるすべての魚も含んでいる。脊椎動物には共通した遺伝子が多く用いられているが、前述の遺伝子重複には、1~2遺伝子のみのローカルな遺伝子重複に加えて、全ゲノムが重複するという現象が知られている。全ゲノムが重複すると、すべての遺伝子が、それまで致死的だった変異への制約から自由になり、片方が何をしてもかまわない、ということになる(neo-functionalization、sub-functionalizationを起こす可能性が生じる)。この状態は、一気に進化速度が上がるだろうということは想像に難くない。この全ゲノム重複は植物でかなり多く頻繁にみられるが、動物では数えられる程度しか見られない現象である(そこには、遺伝子が倍になる=重くなることが運動性に大きな問題を生じさせる、といったことがあるのかもしれない)。実際、脊椎動物においては、把握できる程度の数しか全ゲノム重複は起こっておらず、脊椎動物の生じる前に2回の全ゲノム重複が起こり、また真骨魚類と呼ばれるいわゆる我々の食卓にのぼる魚が生じる少し前にもう一度全ゲノム重複が起きている(図5B)。(注:アフリカツメガエルや、コイ科、サケ目など、ところどころでさらに全ゲノム重複が起こっている。) 全ゲノム重複がおこれば一つの遺伝子セットはそのままに、余ったもので新しい機能をどんどん獲得していくことができる。真骨魚類は多様性が高いと言われることがあるがその原因の一つとしてこの遺伝子が重複にしたことによる進化の自由度の上昇もあるのかもしれない。

図5B.脊椎動物の系統樹と分岐年代

 この、遺伝子はコピーから始まること、そして脊椎動物の進化の途上で三回の全ゲノム重複が起こった(3R仮説)、という仮説は、大野乾博士が提唱し、1970年に出版した著書、「Evolution by Gene Duplication」で広めたものである。当時はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と呼ばれる現代の遺伝子解析には不可欠な技術も、遺伝子配列を決定するジデオキシ法もまだ開発されていない時代である。彼は、細胞あたりのDNAの重さを種間で比較した、真骨魚類は細胞あたりのDNAの重さが重い、ということをヒントに、この仮説を提唱したのだった。今となっては先見の明、という一言で終わらせてしまうのも恐れ多いほど、実に的確な仮説である。この仮説はその後に遺伝子の配列が明らかになるにしたがい、かなり確からしいものとして証明されてきた。さらにその後に様々な脊椎動物、脊索動物の全ゲノムが決定され、シンテニー解析をゲノム全体で行うことにより、現在では3R仮説は正しい、と考えられている。

系統樹と生態

分子の相同性から生物の系統関係を知る

   先程、生物の遺伝子は、時間が経つと変異がある一定の確率で蓄積されていくと述べた。その変異が個体にとって有害であれば、子孫を残すことができず、固定されず、たまたま無害なもの、あるいは有利だった場合にその変異が固定される。最初は個体間での差だったものが、地理的隔離や生殖的隔離によって別種として歩み始めれば、それぞれの先祖がもっていた配列が、子孫となる別種の共通の配列として残されていくのだ。こういった遺伝子の配列・タンパク質の配列の違いは、種が分岐してから経った時間が長ければ長いほど大きくなっていくことは想像に難くない。たとえば、ヒトとチンパンジーの間の遺伝的な差というものは、当然ヒトとマウスの間よりも小さい。裏返せば、種間でのある遺伝子の配列にどれだけの違いがあるか、ということを数値として示し、複数の種間で比較すれば、その種間がどれだけ離れた生物であるか、ということを予想することができる(分子時計と呼ばれる)。離れれば離れるほど、変異が蓄積しやすくなっていくので、遠い系統を比較するときには保存性の高いタンパク質の変異の蓄積を解析する。一方で、同種内やごく近縁の種間での解析の場合、あえて変異を受け入れやすい、機能を持たないゲノムDNAの配列を使うこともある。こういった遺伝子の配列が安易に解読できるようになるまでは、形の似ている生物を近い種として系統樹をつくっていた。これら分類学者の観察眼は極めて的確で、ほとんどの場合、遺伝子配列による系統解析はこの古典的な系統樹を裏付ける結果となったが、一部、形態は異なっているが実は近縁種だった、などという例も見つかってきている。

化石年代の推定と系統樹

   創世記では、神が「神は言われた、『わたしたちの像に、わたしたちと似た様に人を造り、彼らに海の魚と天の飛ぶ生き物と家畜と全地と地の上を動くあらゆる動く生き物を服従させよう。』」(創世記1:26)との記載があるが、このお話は、地面を掘ってわかってきた状況とつじつまがあわなくなってくる。発掘される化石の“古さ”がまるで異なるのである。例えば約1300万年前の類人猿の化石が見つかれば大ニュースになる一方、魚の化石は4億1900万年前のものが見つかるとようやくニュースになる。すなわち、魚は大昔から、そして、類人猿のような生き物は比較的最近出現したのではないかということが示唆されるわけである。この比較的よく聞く何万年前の化石、というのはどうやって知るのであろうか。これには放射性同位元素を用いた年代推定がよく用いられている。最もよく知られている放射性炭素年代測定を例に説明しよう。炭素12Cは紫外線や宇宙線によって空気中では、一部(1/1012)が常に14Cに変換されている。 つまり大気中では いつの時代も1兆個の炭素原子のうち1つが14C、残りが12Cという割合なのである(太陽活動の変化などにより若干のブレはある)。しかし一旦生物の体内に炭素が取り込まれ、そしてその生物が死に、地中に埋まってしまえば、もう宇宙線も紫外線も当たらないので、14Cへの変換は起こらない。ここで14Cは放射性同位元素であることに注目したい。14Cは約5730年で半分が崩壊し12Cに変換される。したがって、14Cの比率でいつその物質が地中に埋まったのかがわかるのである。
 ただし、この放射性炭素年代測定では、14Cの検出限界の関係で、せいぜい6万年が限界である。それより昔は火山岩に含まれる物質の、やはり放射性崩壊の半減期を元に推定される。たとえば、K-Ar法では、40Kが40Arに13億年の半減期で放射性崩壊することを利用する。溶岩からできたての火山岩か、あるいは何億年も経ったものかを調べることができる。40Kは岩石中に元々大量に存在するため、差異を検出することは不可能だが、40Ar(常温で気体)は大気中には微量しか含まれないため、岩石中に封入された気体の中の40Arの含有率を計測することにより、その岩石の古さがわかる。当然、40Arの率が高い物が古い岩石である。
 このように、複数の放射性元素の崩壊の半減期から地質年代というのは推定される。この地層や化石の絶対年代を元に、この系統の生物は何億年前から存在していた、などというような推定がなされるわけである。
 実を言うと、地質年代という概念は、こういった20世紀の放射性元素を用いた方法が開発される前から存在した。それは、古い物は深い地層から出てくる、そして、ある年代に特徴的な生物の化石(示準化石)が存在すること、である。これにより、たとえば、ある種のアンモナイトを含む層であったから、白亜紀であったなど、というふうに、いちいち放射性同位元素の含有率を定量せずとも推定が可能である。これらの化石を元にした分岐年代推定と先述の分子時計、形態の差など、様々なことを考慮し、系統樹は作られているのだ。

大陸移動と動物の系統

   ウェゲナーが大陸移動説に気づいた、といわれているのが1910年。たった百年前である。この大陸移動という地球レベルでの現象は、脊椎動物の進化と切っても切り離せない関係にある。なぜならば、タイムスケールとして脊椎動物の進化と重なっているからである。脊椎動物誕生が約4〜5億年前、真骨魚類の誕生が約3〜3・5億年前、最古の哺乳類の化石は2・25億年前のものである。特に、魚類はその間淡水魚と海水魚が複数誕生し、様々な時期に、様々な淡水魚の系統が「閉じ込められた」ような状況になってもいるのだ。それに対し、巨大大陸パンゲアが、ふたたび分裂し、移動を開始したのが2億年前。この大陸分裂、移動がどういったタイミングで起こっているかは、淡水や陸上に住む生物にとっては大きな影響を与えている(図6)。たとえば、オーストラリアは特殊な生態系を示すことでよく知られている。哺乳類の中で、単孔類のカモノハシやハリモグラが生存し、カンガルーやコアラをはじめとする有袋類が大いに繁栄している。現生の有袋類は、元々南米大陸でうまれ、6000万年前頃に当時陸続きだった南米-南極大陸-オーストラリア大陸と移動した、と考えられている(注:南米にもごく少数ながら有袋類が現存しており、これらのゲノム解析・比較から、オーストラリア・南米で現生の有袋類の共通祖先は、実は南米で生まれ、当時陸続きだった南極大陸を経て、オーストラリアに至ったと考えられている)。3500万年前には、オーストラリア大陸は完全に孤立し、哺乳類では単孔類と有袋類が存在することとなった。一方で、オーストラリア・南極・南米大陸が隔絶された後にローラシア大陸で誕生した真獣類(有胎盤類)によって、単孔類はオーストラリアを残して、有袋類はオーストラリアと南米を残して駆逐されてしまった。なお、南米大陸も永らく隔絶状態にあり、300万年前になってはじめて北米大陸と陸続きになったため、それ以降に真獣類が流入、かなり多くの有袋類が滅ぼされた。現在では、オポッサム類が生きながらえている。

 これら、有袋類と真獣類は独立した場所で非常に近いニッチ(生態的位置)を得ることがある。有袋類のフクロオオカミやフクロモモンガと、真獣類のオオカミ・モモンガはまさにその好例で、長い歴史の中で、二回独立して同じような形態に進化した(収斂進化した)、という、適応進化の興味深い例を提供してくれる。当然、このようにニッチがかぶってしまう場合は特に、種間競争になってしまい、どちらかが滅ぼされてしまうことが多い。
 近年、オーストラリアには人間によって真獣類が持ち込まれた。オオカミや犬の仲間であるディンゴは、オーストラリアの先住民であるアボリジニによって持ち込まれ、野生化し、相対的な適応度(繁殖力や生存力を含む、子孫を残していく力)の高さゆえに、元々オーストラリア大陸にいたフクロオオカミを絶滅に追い込んだ。300万年前、北米大陸と陸続きになった南米大陸におこったことを、人類は今再現実験を行おうとしているような状況である。もちろん、地球の自然な状態を保護する、という観点から、大変好ましくない実験である。
 魚の進化でも、特に淡水魚については大陸移動の影響を考えなくてはならない。カラシン目(ピラニアやネオンテトラ)は、南米で繁栄しており、アマゾンを代表する魚、といっても過言ではないだろう。カラシン目は、1600種を越えており、スズキ類、コイ目、ナマズ目に次いで4番目に種数の多いグループとなっている。カラシン目、というとイメージがわかないかもしれないが、個々の魚種について一度は名前を聞いたことがあるのではないだろうか。小さくて綺麗なネオンテトラから、鋭い歯を持つピラニア、巨大なパクーまで、我々の食卓に上ることはほとんどないものの、いわゆる「熱帯魚」としてかなりポピュラーな魚が多く含まれている。ここで、魚の系統について、簡単な図を示した(図7)。本書ではしばしば魚の系統分類上の位置関係が重要になってくるが、この図を参照していただければ理解しやすいと思う。

図7.我々と魚の共通点と相違点
脊椎動物はすべて脊索を体軸の中心にしながら発生し、軟骨魚類では軟骨性の脊柱を持つ。一方、硬骨魚綱では、リン酸カルシウムを蓄積した硬骨性の脊柱を持つ。硬骨魚綱のオリジンは淡水であると考えられており、酸欠に対応するための肺を獲得した。この肺は、真骨魚類における鰾と発生起源的に相同である。肺で酸素をまかなえるようになり、陸上化した我々は、鰓を失っている。我々の四肢の系統発生的起源は無顎類を除く「魚」のヒレに相当する。また、顎口類では顎を持つ。各系統で、共通に持っている器官を色分けをした。

 このカラシン目は1・5〜1億年程度前にコイ目と分岐し、誕生したと考えられているが、この頃はゴンドワナ大陸が分裂し、南米大陸とアフリカ大陸に分かれるか分かれないか、というような状況であった(1億年程度前にアフリカと南米は離れた)。したがって、カラシン目はアマゾン川=南米大陸での繁栄が有名で、そのイメージが強いが、カラシンの仲間は現在のアフリカ大陸にもいたはずであり、実際今も一部現存しているのである。系統樹をみてみると、アフリカ型のカラシンは、アメリカ型のカラシンの一部と系統樹が近くなっている。これは、カラシンは、南米・アフリカがくっついていた時期に誕生し、ある程度分岐したところで南米とアフリカ大陸が分断され、それぞれの独自の進化を遂げた、ということを意味するのであろう。また、おそらくピラニアなどの含まれる科も、アフリカにも本来いたのではないかということが、系統樹から読み取れるわけである。もう一つの可能性としては、カラシン目の一部の系統が、塩水耐性を獲得し、海を渡ってアフリカの川を渡り、そして再び淡水魚として定着した、ということも考えることができる。ただ、現存する骨鰾上目(コイ、ナマズ、デンキウナギ、カラシンなど)は、ほとんど全てが淡水性であることから(例外はゴンズイなどごく一部)、海を渡ったというのは考えづらく、前者の説を確からしいと私は思っている。いずれかの仮説が、今後化石の発見などで否定されるかもしれないが、このように、遅くともいつから存在していたかを示す化石と、どの生物とどの生物が近縁であるか、ということを示してくれる遺伝子という、生物が与えてくれるヒントから、少しずつ過去に生物が辿った歴史がわかってくる。この二つを指標に、太古の昔から生物がどのような足取りで分布してきたのか、という歴史に思いをはせるのは、過去を見ているようでワクワクしてくる。
 もう一つのおもしろい例はアフリカの大地溝帯にある。アフリカの大地溝帯とは、アフリカ大陸同士が、左右に分断しようとする動きによって生じた大きな溝である。これも大陸移動によって生じたものであり、である。およそ1000〜500万年前から始まっているとされ、この割れ目に水が溜まり、巨大な湖ができた。これらは、地理的には近接しているものの、それぞれが独立しているため、ここでは閉ざされた空間としてそれぞれに固有種が数多に存在する。特にアフリカンシクリッドと呼ばれるスズキ目の魚のグループに関しては、種分化などのモデルとして、すぐれた研究材料になっている。詳細は、第4章をお読みいただきたい。
 もちろん、海はひとつながりであるから、この大陸移動の影響を余り受けない。(短い時間を考えれば、太平洋と大西洋はほぼ隔絶されているが、長く考えれば、温暖と寒冷を繰り返したり、生物が進化を繰り返して様々な地域に適応しているので、結局行ったりきたりすすることが不可能なわけではないわけである。一方で、陸生生物は泳ぐのが苦手であるし、淡水魚は海を渡ることができない。ちなみに、淡水魚が多いが塩水適応が比較的得意な系統というのも存在し、たとえばメダカの仲間は塩水適応、淡水への封鎖を繰り返して、アジアの各地に散らばっている。13章参照。)、

現生生物から推測される進化

脊椎動物の共通する構造

   さて、我々と魚。当たり前だが、いろいろと違うところがある。魚といえば、鰓で呼吸し、ヒレで泳ぐ。一方で、我々は(ヒトは二足歩行であるが)、四肢で陸上を歩き、肺を使って酸素を取り入れている。軟骨魚類は硬骨性の内骨格を持たず、硬骨魚綱は我々も含めて硬い骨を持っている。一方で、魚も我々も脳があり、そこで(程度の差はあれ)思考したり、本能行動や反射を司っている。(雌雄同体などの例外を除いて)雌雄がそれぞれ精子と卵をつくり、受精することで子孫を残す。こういった相違点や共通点はいくつか思いつくだろう。特にこの相違点が生じた経緯について、脊椎動物の歴史を追って考えていこう(図8)。

図8.魚類の系統樹
本書で扱う章番号を括弧書きで示した。なお、スズキ目は単一系統ではなく、混とした分類になっているので8、スズキ類という大きなくくりで示しつつ、より明瞭な亜目で示した。

  ⑴脳︱脊椎動物(脊索動物)は、神経管と呼ばれる一本の管から神経を作る。この神経管の膨大部が脳となるわけだ。この発生の仕方は、昆虫のハシゴ神経系や、クラゲなどに見られる散在神経系とは異なる独特のもので、いわゆる我々が“脳”と呼んでいるものに関しても、昆虫の脳と脊椎動物の脳は大きく異なる(図9)。この神経管を由来とする中枢神経を持つグループは、我々や魚類などの脊椎動物やホヤ・ナメクジウオなどの原索動物を加えた脊索動物門のみなのである。したがって、この脊索動物で既にできあがっている神経管由来の中枢神経系が、長い歴史の中でそれぞれの生態に応じた進化を成し遂げたことでできあがったのが我々や魚類の脳なのである。原始的な性質を残す脊椎動物と考えられている現生の無顎類は、終脳、間脳(視床下部等を含む)、中脳などの構造を持つ一方で、小脳を持たない。したがって、高度な運動を制御している小脳を欠くヌタウナギやヤツメウナギは、アジやウナギのような泳ぎ方をすることができず、海底の死体や、他の魚に張り付いて体液を吸うなどとして生きているのである(後述の通り彼らにはヒレもない)。しかし、小脳になるマーカーの遺伝子はヤツメウナギやヌタウナギでも発現しており、脊椎動物の脳の原型のかなりの部分は脊椎動物の基部ですでにできているようである。

図9.動物の神経系
神経管から発生するタイプの管状神経系は脊索動物門のみである。

  ⑵ヒレ・四肢︱ヤツメウナギやヌタウナギは無顎類といわれるとおり、顎がないことに加え、我々の四肢にもなる対鰭(胸びれと腹びれ)がない。対鰭の発生には、四肢の形成時に発現してくるソニックヘッジホッグの発現を引き起こすエンハンサー(ZRS)が必要で、このエンハンサーは顎口類の中でもヘビやアシナシイモリなど、足のない動物では欠いており、このエンハンサーを含む領域をマウスでノックアウトすると、足のないマウスができあがることもわかっている。それでは、と、ヤツメウナギを調べてみると、やはりこのエンハンサーを持たないことから、顎口類の誕生前後に、このエンハンサーをなんらかの要因で獲得したことにより、脊椎動物は鰭を獲得し、そして陸上化の際には四肢になったのであろうと考えられる。現生の無顎類は、無顎類の中でも一部の円口類しか現生しておらず、多くは絶滅した化石種である。彼らもまた顎口類と分岐してから同じだけの時間を進化し続けている現生生物であることから、無顎類の共通の形質として確信的な結論を導き出すことは難しいが、現時点でのもっとも確からしいと思われる説明をここでは記した。(詳細は第3章参照)

  ⑶浸透圧調節、骨、顎、肺︱さて、浸透圧適応の仕方も脊椎動物の進化で変遷を遂げている。無顎類、円口類の一種であるヌタウナギは、海に住んでいて、貝やイカなどの無脊椎動物と同じように、海水と等張(我々の約3倍の塩分濃度)の体液をもつ。したがって、海水の中にいても、水分やイオン(塩分)を奪われることがない(別の円口類であるヤツメウナギは淡水適応している。これは、いわゆる一般的な淡水魚とは収斂進化の関係にあり、顎口類の淡水適応とは全く独立した適応進化である)。
 その後、脊椎動物は顎を獲得した。これらは顎口類と呼ばれ、現生生物では円口類を除いた全ての脊椎動物は顎口類である。顎口上綱(顎口類)の特徴は、顎に加えて、ニューロンのミエリン化(跳躍伝導を可能にし、素早い情報伝達が可能になった)、免疫グロブリンを中心とした獲得免疫(水疱瘡や麻疹に二回はかからないことや、アレルギーなどに強く関与)を持つことである。現生の顎口類では顎、ミエリン鞘、獲得免疫を二次的に失った顎口類はおらず、これらの獲得が顎口類の繁栄を助けた必須要素であったことは想像に難くない。現存の顎口類で最も起源の古いのは軟骨魚綱である(起源の順番には諸説ある)。彼らはその名の通り我々のような硬い骨は持たない。そして、興味深いことに、海水よりも低いイオン濃度を示すが、その代わりに尿素を体内にため込んで海水と等張にすることにより水が逃げないようにしている(詳細は第2章を参照)。そのため、サメやエイの肉は古くなるとアンモニアが大量に生じてしまうことになる。この性質を利用し、韓国では、ホンオフェと呼ばれるガンギエイを発酵させた郷土料理が存在、世界の強烈な臭いの食べ物ランキングの上位に常にランクインしている。一方、日本の一般的な食卓では、硬い骨がないから食べやすい、といってサメ肉を好んで食べることはあまりないだろう。それは、尿素が分解されてすぐアンモニア臭くなってしまうからだろう。一度強烈な臭いに悶絶してみたい(クリックして注釈を表示)
 内骨格がすべて軟骨出てきている軟骨魚綱に対し、硬骨を内骨格とするグループが硬骨魚綱である。硬骨魚綱とは、硬骨の内骨格を持つ単一系統と定義した以上、我々四肢動物を含むことになる。ヒトを含めて魚と呼ぶことに抵抗があるかもしれないが、現在の系統分類学の趨勢から、本書では、ヒトも含めて硬骨魚綱という立場を採る。硬骨魚綱の特徴は、その名の通り、硬い骨を持つこと、そして肺を持つことである。また、体内のイオン濃度が軟骨魚類同様に海水よりも低くなっているが、硬骨魚綱は尿素を蓄積していない。事実、世界最強とも言われる強烈な臭いシュールストレミング(スウェーデン)は、やはり悩殺される臭いではあるが、その臭いはアンモニアの臭いではないし、一般的に食卓にのぼるアジやイワシも、ちょっと古くなったくらいでアンモニアの強烈な臭いに苦しむことはないであろう。それもそのはずで、海水に棲む真骨魚類は、尿素を蓄積する代わりに、主にエラの塩類細胞で塩分を排出している。それでは、なぜ真骨魚類はこのようにエネルギーを使って海水中のNa+やCl-イオンを排出する仕組みになったのだろうか。硬骨魚綱の特徴は、海水よりも低い浸透圧、肺、そしてその名の通りの硬い骨である。この三つの特徴は、我々硬骨魚綱のルーツが、実は海ではなく、淡水にあることを示唆している。どういった経緯で、この共通形質を手に入れたかを考えていこう。
 真骨魚類は海水よりも低い浸透圧の体液を持つ。海水環境でエネルギーを消費しながら、エラから塩分を常に排出する仕組みを獲得していく積極的な理由は考えがたい。これらのことを考えると、我々の祖先は、何世代もかけて海水からおそらく徐々に汽水に適応していったのだろうと想像できる。その後、あるとき、淡水に閉じ込められてしまったが、その中でも生きていける進化を遂げていたもののみが生き残った。淡水環境は、海と異なり、水は循環しておらず、酸素分圧が低い。そこで、肺を獲得した。もちろん、肺はその後の四肢動物の陸上化に直接的に役立ったわけだが、その後酸素分圧の高いところに移り住んだ真骨魚類は肺が不要になってしまった。そこで、彼らの肺は鰾として浮力調節に利用し、素早い動きが可能になったのである。一方、生物のシグナル伝達に必須な二価イオンであるカルシウムイオンが淡水にはほとんど存在しない。カルシウムイオンは、神経伝達物質の放出からアポトーシスに至るまで、数多の生命現象に関わっており、カルシウムイオンなしに我々の生命はあり得ない。しかし、淡水環境に閉じ込められた我々の先祖は、ひと雨ふた雨降る度にどんどんと環境中のイオンが失われていき、ここで自然選択が起こった。このカルシウムイオンを貯蔵する能力を獲得したものだけが生き残ったのだ。硬骨魚綱は、その名の通り、硬い骨を持ち、そのおかげで結果的に陸上化することができた。しかし、硬骨の意味は、身体を支えることとは二次的に生じたことで、おそらくカルシウム欠乏を防ぐことがそれ以上に必須であったのである。我々の躯幹および四肢のほとんどの骨は、発生の段階では軟骨として形成され、その後にリン酸カルシウムを蓄積させることにより、硬骨化している(直接形成される硬骨もある(クリックして注釈を表示))。リン酸カルシウムは、(無脊椎動物の貝などが蓄積する炭酸カルシウムと比べて)カルシウムイオンとして取り出しやすい形で蓄積することができる。実際に、硬骨の内骨格を持たない軟骨魚類ではこのリン酸カルシウムを作るのに必要な遺伝子(分泌性カルシウム結合性リン酸化タンパク質)を持たないことがわかっている。ここでもまた重複遺伝子の使い回しが行われており、脊椎動物誕生時に獲得していた分泌型リン酸化タンパク質が重複し、硬骨魚綱では変異が蓄積し、カルシウムと結合する機能を獲得、分泌性カルシウム結合性リン酸化タンパク質となったことがわかっている(図10)。

図10.遺伝子重複と分泌性カルシウム結合リン酸化タンパク質遺伝子の獲得
無顎類の脊椎動物はすでに分泌型リン酸化タンパク質が重複し、硬骨魚綱では変異が蓄積し、カルシウムと結合する機能を獲得。分泌性カルシウム結合性リン酸化タンパク質となった。

 このように、硬骨魚綱というグループは、我々も含め、肺と硬骨を持っている。共通祖先の「水たまりの魚」は、その後、二つに分岐したと考えられている(詳細は第3章参照)。肉鰭類と条鰭類である。その名の通り、肉のような鰭(我々の四肢に相当、英語だとsarcopterygii;sarco肉の+pterygii翼)を持つものと、条の鰭(英語だとactinopterygii;actino放射形の+pterygii翼)を持つものである。肉鰭類の中でも原始的なハイギョやシーラカンスは魚の形質を残しているが、肉鰭類で現在種数・個体数の上で繁栄しているのは四肢動物である。一方で、条鰭類は、原始的なものとしてはポリプテルス目、チョウザメ目、ガー目、アミア目が現存する。彼らは、ガノイン鱗と呼ばれる鎧のように堅い鱗に囲まれ(ガノイン鱗には我々の歯のエナメル質をつくる遺伝子と相同な遺伝子が発現しており、歯で身体を覆われているようなイメージで、当然極めて強固である。)、そして、一般的に肺での呼吸が優勢である。泳ぐ姿を見ていると、時々水上に出て呼吸する様子が見られる(図11)。

図11.水面で呼吸をするスポッテッドガー
北米原産とあって、低温には強いが、水面が凍ると窒息死するといわれるくらい、肺呼吸に依存している。

 それ以外はすべて真骨魚類である。真骨魚類は、3回目の全ゲノム重複を経験しており(3R全ゲノム重複)、それによってひとつの特徴的なグループができあがったと考えられている。この真骨魚類が、一般に「魚」と認識されているもののほとんどであろう。原始的な条鰭類がもっていたガノイン鱗はなくなり、いわゆる一般的な鱗(軟鱗とも呼ばれる)をもっている。物理的衝撃には弱いが、遊泳には圧倒的に有利になっている。また、肺は空気呼吸としての機能を失い、浮力調節としての鰾となった。このようにしてできた真骨魚類は、概して高い運動能力を持ち、ここから3億年以上の長い時間を辿りながら、様々な種として、海へ、川へ、湖へと、ありとあらゆるところへと適応放散していったのである。
 本章ではごく簡単に遺伝子の一般的な知識、魚の系統について記したが、第2章以降、遺伝子が作り上げる魚の世界について、各分野の専門家が詳細に解説していく。

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ミエリン鞘はとも呼ばれ、軸索に巻き付いて絶縁体として働く構造である。これにより神経パルスはミエリン鞘の間隙を跳躍的に伝わる(跳躍伝導)ことで神経伝達が高速になる。ミエリン鞘は末梢神経系の神経ではシュワン細胞、中枢神経系ではオリゴデンドロサイトから構成される。

脳の中にある空洞のこと。脳脊髄液で満たされている。脊髄にあるものは中心管と呼ばれる。

神経堤細胞は脊椎動物の発生時に見られる神経管に隣接した組織。頭部では神経、骨、軟骨、甲状腺、眼、結合組織などの一部に分化する。

細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質の一種で、特定のイオンを選択的に通過させる孔をつくるものを総称してチャネルと呼ぶ。筒状の構造をしていて、イオンチャネルタンパク質が刺激を受けると筒の孔が開き、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを通過させることで、細胞膜で厳密に区切られた細胞の内外のイオンの行き来を制御している。刺激の受け方は種類によって多様で、cGMPが結合すると筒の穴が開くものをcGMP依存性イオンチャネルと呼ぶ。TRPチャネルも複数のファミリーからなるイオンチャネルの一群であり、非選択性の陽イオンチャネルである。発見された際に用いられた活性化因子の頭文字や構造的特徴から、A (Ankyrin), C (canonical), M (melastatin), ML (mucolipin), N (no mechanoreceptor), P (polycystin), V(vanilloid)の7つのサブファミリーに分類されている。TRPは、細胞内や細胞外の様々な刺激によって活性化してセンサーとして働いたり、シグナルを変換したり増幅したりするトランスデューサーとしての機能も併せ持つ。温度センサーやトウガラシに含まれるカプサイシンのセンサーとしても機能していることが知られている。

任意の遺伝子の転写産物(mRNA)の相同な2本鎖RNAを人工的に合成し生物体内に導入することで、2本鎖RNAが相同部分を切断して遺伝子の発現を抑制する手法。2006年には、この手法の功績者がノーベル生理・医学賞を受賞している。

様々な動物種間で塩基配列やアミノ酸配列を比較することによって、類似性や相違を明らかにする手法。この解析によって動物種間の近縁関係や進化の過程を予測することが可能になる。

発生過程で神経管を裏打ちする中胚葉組織であり、頭索類・尾索類では背骨のような支持組織としての役割を持つ。脊椎動物では運動ニューロンの分化を誘導するなど発生学的役割を持つ

魚類に顕著にみられる鰓のスリットで、哺乳類では発生の初期にはみられる。発生が進むと複雑な形態形成変化が起き、消失するが、外耳孔などは鰓裂の名残ということができる。

動物の初期発生において最初の形態形成運動として原腸陥入が起こる。原腸は消化管に分化する。この原腸陥入によって生じる「孔」を原口と呼ぶが、これが将来の動物の体の口になるのが前口動物であり、肛門になるのが後口動物である。半索動物、脊索動物は後口動物である。

ナマコの幼生のことをオーリクラリア幼生と呼ぶが、ウニのプルテウス幼生、ヒトデのビピンナリア幼生、ギボシムシのトルナリア幼生など、形態的共通性をもつ幼生全体をまとめてオーリクラリア(型)幼生と呼ぶ。今日ではディプルールラ型幼生という呼び方が広く使われている。この説はガルスタングが1928年に提唱した。その時代にはオーリクラリアという用語が使われたため(ディプリュールラ説ではなく)オーリクラリア説と呼ばれている。

Hox遺伝子はショウジョウバエで発見されたホメオティック遺伝子の相同遺伝子である。無脊椎動物のゲノムには基本的に1つのHoxクラスターがあり、脊椎動物のゲノムには4つのHoxクラスターがある。Hoxb1は4つあるクラスターのうちのBクラスターに属する1番目のHox遺伝子という意味である。

脊椎動物胚の後脳領域には頭尾軸にそった分節性(等間隔の仕切り)がみられる。この各分節をロンボメアと呼び、図14に示すように7番目までは形態的に明瞭に観察できる。

脊椎動物のゲノムにはふたつか3つのIsletが存在する。Isletは脳幹(延髄、橋、中脳)の運動性脳神経核に発現して、運動ニューロンの分化に関与している。

感桿型では光刺激はホスホリパーゼCとイノシトールリン酸経路を活性化させる。繊毛型ではホスホジエステラーゼによる環状GMPの代謝が関与している。

気嚢による換気システムは獣脚類と呼ばれる恐竜から鳥類に至る系統で段階的に進化していったと考えられる。

このような特異な形態は胚発生期には見られず、生後に発達する。その過程は頭骨に見られる「テレスコーピング現象」と並行して進む。

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9. Joyce, D. A. et al. (2005) An extant cichlid fish radiation emerged in an extinct Pleistocene lake. Nature 435: 90-95.

10. Kocher, T. D. et al. (1993) Similar morphologies of cichlid fish in Lakes Tanganyika and Malawi are due to convergence. Mol. Phylogenet. Evol. 2:158-165.

31. Janvier, P. (2015) Facts and fancies about early fossil chordates and vertebrates. Nature, 520(7548), 483.

卵や精子、その元となる始原生殖細胞などを指し、子孫に遺伝情報が引き継がれる細胞そのものである。

卵や精子を作る減数分裂において、母由来の染色体と父由来の染色体が対合したときに、同じ領域がランダムに入れ替わる(組み換えられる)。つまり、我々の”配偶子の”染色体は、父親と母親由来の染色体がモザイク状に入り交じったものなのである(体細胞の染色体は免疫グロブリンなどの一部の領域を除いて基本的には均一なものと考えられている)。

 タンパク質にコードされる遺伝情報をもつ塩基配列。狭義にはゲノムDNAのうち、mRNAに転写され、タンパク質になる部分。近年は、タンパク質に翻訳されないものの、機能をもつtRNA、rRNAやノンコーディングRNAなども遺伝子の中に含められるようになっている。本書では、特に注意書きのない限り、タンパク質の元となるmRNAになる部分を遺伝子、と呼ぶ。

 では、その転写因子はなにが発現させるのか、というと、やはり別の転写因子である。卵の段階から、母親からmRNAとして最初期に発現する遺伝子は受け取っているので(母性RNA)、発生の最初期に使う転写因子を含む遺伝子群に関しては、転写の必要がないのである。その後、発生、分化が進んでいくと、それぞれの細胞集団に必要な転写因子が発現し、実際に機能をもつ遺伝子の転写を促す。

遺伝子は、核酸配列の連続した3塩基(コドンと呼ばれる)が1アミノ酸に対応し、順々にペプチド結合で繋げられてタンパク質となる。3つの塩基は43=64通りになるが、アミノ酸の数は20個、stopコドンを含めても21種類しかない。したがって、同じアミノ酸をコードするコドンは複数あり、たとえ変異が入ってもアミノ酸は変わらないことがある。これを同義置換と呼ぶ。一方で、変異によってコードするアミノ酸が変わってしまう置換を非同義置換と呼ぶ。

 ふたつの系統が祖先を共通にした最後の年代。本章では、近年の分岐年代推定を利用して作成された系統樹(当該文献[9]のFig.1を参照)からおよその年代を読み取り、記入している。

 アフリカツメガエルや、コイ科、サケ目など、進化上の随所でも全ゲノム重複が起こっている。

 最もよく知られている放射性同位元素による年代測定は、放射性炭素年代測定である。炭素12Cは紫外線や宇宙線によって、空気中では一部(1/1012)が常に14Cに変換されている。つまり、大気中ではいつの時代も1兆個の炭素原子のうちひとつが14C、残りが12Cという割合なのである(太陽活動の変化などにより若干のブレはある)。しかし一旦生物の体内に炭素が取り込まれ、そしてその生物が死に、地中に埋まってしまえば、もう宇宙線も紫外線も当たらないので、14Cへの変換は起こらない。ここで14Cは放射性同位元素であることに注目したい。14Cは約5730年で半分が崩壊し12Cに変換される。したがって、14Cの比率でいつその物質が地中に埋まったのかがわかるのである(文献7)。

 ただし、この放射性炭素年代測定では、14Cの検出限界の関係で、せいぜい6万年が限界である。それより昔は火山岩に含まれる物質の、やはり放射性崩壊の半減期を元に推定される。例えば、K-Ar法では、40Kが40Arに13億年の半減期で放射性崩壊することを利用する。溶岩からできたての火山岩か、あるいは何億年も経ったものかを調べることができる。40Kは岩石中に元々大量に存在するため、差異を検出することは不可能だが、40Ar(常温で気体)は大気中には微量しか含まれないため、岩石中に封入された気体の中の40Arの含有率を計測することにより、その岩石の古さがわかる。当然、40Arの率が高い物が古い岩石である。このように、複数の放射性元素の崩壊の半減期から地質年代というのは推定される。

 南米にもごく少数ながら有袋類が現存しており、これらのゲノム解析・比較から、オーストラリア・南米で現生の有袋類の共通祖先は、実は南米で生まれ、当時陸続きだった南極大陸を経て、オーストラリアにいたったと考えられている。

 世界で最も臭いといわれているシュールストレミングをネットで取り寄せて購入したとき、人々は逃げるどころか、わざわざ悶絶するために集まってきた。いい匂いの物を取り寄せても20人もの人数は集まるとは思えず、怖い物見たさという悪趣味な好奇心はたいしたものである。無論、取り寄せた私も例外ではない。ちなみに、シュールストレミングはひとかけらをクラッカーの上に載せるくらいの食べ方なら悪くない気もする。

このふたつの硬骨の作られ方について、第3章に詳述があるので参照。

 ガノイン鱗には我々の歯のエナメル質を作る遺伝子と相同な遺伝子が発現しており(文献18)、イメージとしては歯で身体を覆われているようなもので、当然極めて強固である。

 遺伝子にはその由来によっていくつかの異なる呼び名がある。オーソログとは、共通祖先がもつある遺伝子Aが、種分化によって2種以上の生物に受け継がれた時、受け継がれた遺伝子たちをオーソログと呼ぶ。パラログとは、遺伝子重複によって生じたふたつ以上の遺伝子を指す。最近では大野乾氏の功績をたたえ、ゲノム重複によって生じたパラログで現存するものを特にオオノログOhnologと呼ぶ。

 異化と同化……この2種類の化学反応によって生命活動は維持されている。異化は物質を分解してエネルギーを取り出す代謝経路、同化はエネルギーを使って必要な物質を体の中で作り出す代謝経路。

 アデノシン三リン酸の略。生体内のエネルギー通貨として、様々な化学反応に用いられている。

 組織中の核酸分子(ここでは特定の遺伝子から転写されたmRNAを指す)の分布を検出する手法。調べたい遺伝子の塩基配列を元に、そのmRNAに特異的に結合する分子を設計・合成することで特異度の高い検出が可能となっている。

 通常の生物の核ゲノムはそれぞれの両親に由来する染色体が2本1セット存在し(ディプロイド)、その染色体間で組み替えが起こるため遺伝的な由来を辿る作業がしばしば煩雑になる。しかしミトコンドリアは母親由来であるため(ハプロイド)、そのゲノムを利用することで比較的簡便に遺伝的な類縁関係を遡ることが可能となる。

 増幅断片長多型:制限酵素で切断したゲノムDNA断片をPCRにより増幅し、断片の長さの違いを網羅的に検出比較する方法。この断片長の違いを種間の類縁関係の推定に使用することが多い。

 sexual conflict。ある形質が片方の性にとっては有利だが、もう片方の性にとっては不利な場合にオスメス間で生じる対立。

 次世代シーケンサーを利用して、各組織に発現する遺伝子の種類や量を網羅的かつ定量的に推定する解析方法。

 真核生物のゲノムに散在する反復配列のうち、一度DNAからRNAに転写され、その後に逆転写酵素の働きでcDNAとなってからゲノム中の別の座位に組み込まれるものを指す。数多くのレトロポゾンが存在しており、例えばヒトゲノムは約40%がレトロポゾンによって占められている。

 太陽光には連続したことなる波長成分の光が含まれているが、その波長によってエネルギーが異なるため、水中に到達する波長成分の割合が深さによって異なることがわかっている。特に濁ったビクトリア湖のような水環境では浅場の方が短波長である青色光の成分が多く、深場では長波長の黄色〜赤色の成分が多いことがわかっている。

 タンパク質をコードするDNA配列上の塩基置換にはアミノ酸の置換を伴う非同義置換と、伴わない同義置換がある。一般に、同義置換は生体に影響を及ぼさないため中立であるが、非同義置換は生体にとって不利であることが多い。ただしタンパク質の機能変化が個体にとって有利な場合は非同義置換の割合が上昇することが知られており、それを正の自然選択と呼ぶ。同義置換と非同義置換の割合を統計学的に比較する方法がある。詳細については第7章およびコラム「適応進化に関わる候補遺伝子や候補領域を絞り込むアプローチ」を参照。

   発生初期の胚の一部の細胞群から作られ、生殖細胞を含む様々な組織に分化可能な性質(多能性)を有する細胞株。英語名(embryonic stem cells)の頭文字をとって、ES細胞と呼ばれることも多い。

 変異体を元になった親系統と交配すること。TILLING変異体に関しては変異以外の部分を親系統由来のゲノムに置換するために行う。1回の交配で全体の50%の領域が置換されるため、90%以上を置換するためには最低4回の、99%以上を置換するためには最低7回の戻し交配が必要である。

 タンパク質の二次構造のうち代表的なモチーフのひとつ。水素結合により形成されたらせん状の形である。

 Francis Crickが1958年に提唱した、遺伝情報がDNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質、という流れで伝わるという概念のこと。分子生物学の基本となる極めて重要な概念である。

 ヒメダカの原因遺伝子としてだけでなく、ヒトの先天性白皮症(つまりアルビノ)やホワイトタイガーの原因遺伝子としても知られる。水素イオンを運ぶトランスポーターをコードすることがわかっているが、その黒色素産生(メラニン合成)における機能は未解明な点が多い。

 相同組換えの鋳型となる外来DNA断片のこと。通常、導入したい配列(GFP遺伝子や特定の塩基置換など)の上流・下流それぞれに、導入したいゲノム領域と相同な配列(相同アームと呼ばれる)を持ったDNA断片である。

 RNAポリメラーゼが結合し、RNAを転写するのに必要最小限の遺伝子上流配列。通常、単独では下流の遺伝子は転写されないが、周辺に転写活性化領域(エンハンサーなど)が存在すると、その影響を受けて下流に存在する遺伝子が転写される。

 オオシモフリエダシャクの「工業暗化」の例を考えるとわかりやすい。これは、産業革命以降のイギリスで、暗化型と呼ばれるより黒い個体の割合が多くなったとされる例である。この蛾は、自然が多い地域では淡色型が目立ちにくく、鳥に捕食されづらかったが、すすで黒くなった木が多い工業地帯では、より黒い暗化型のほうが目立ちにくく、生き残りやすかった。この場合、仮に蛾の色をより黒くするアミノ酸変異が生じたとすると、そのアミノ酸変異は工業地帯で生存に有利で、固定されやすいだろう。ちなみに、近年、具体的にどんな遺伝的変異がこの工業暗化に関わっていたのかが詳細に解析されつつある。

 SWS = short wave sensitive opsin、つまり短波長の光に感受性をもつオプシンのサブタイプ。

 第4章にも記載されているように、深いところには波長の長い赤い光のみが届く傾向がある。つまり、水深の深いところに棲む集団では、青い光を感受するSWSの機能は重要ではなくなってしまう。

 Gタンパク質はGTP結合タンパク質ともよばれ、GTPと結合することで活性化される。GTPを加水分解する性質をもっており、結合しているGTPがGDPに加水分解されると自身が不活性化される。受容体からの信号を中継するものは三量体(α、β、γサブユニット)として存在している。

 神経伝達物質は、放出された後、即座に分解されなければ迅速な伝達を成し得ない。したがって、こういった分解酵素の存在は、ATPが実際にその部位で神経伝達物質として働いていることの傍証となる。

 セロトニンは生体内に存在するモノアミンの一種であり、神経系では神経伝達物質として機能する。生体内のセロトニンの大部分(〜95%)は腸管に存在しており、神経系に存在するものは割合としては小さい。神経系では中脳の縫線核という部位のニューロンで産生され、情動機能等に関係しており、セロトニンの再取り込み阻害剤には抗鬱薬の作用がある。味蕾に存在するセロトニンはそれらとは別の働きをもっていると考えられる。

 迷走神経には感覚性の線維と運動性の線維の両方が含まれており、ここでの迷走感覚神経とはその中の感覚性の要素のみを指す。

 神経細胞(ニューロン)で、突起状の構造(軸索や樹状突起)以外の、核の周辺部の構造を細胞体という。

 ある細胞が放出するリガンドが、その細胞自身の受容体に働くことを自己分泌という。近傍の細胞の場合は傍分泌と呼ぶ。近隣の同じ性質をもった細胞に作用する場合と、自分自身に働く場合を合わせて、自己・傍分泌と呼ぶことが多い。哺乳類のキスペプチンニューロンは、キスペプチン以外に放出するニューロキニンB、ダイノルフィンと呼ばれるペプチドが、キスペプチンニューロン自身に作用することで、アクセルとブレーキのように働き、そのタイムラグでキスペプチンの放出を間歇的に引き起こす。これが前述のGnRHパルスを生み出しているとされている。

 市場に出ている子持ち昆布の中には、ニシン以外の魚(タラの仲間など)を用いて加工されているものもある。また、本物のニシンの卵の場合も、自然に海藻に産みつけられた卵はもっとまばらなので、あのようにびっしりと卵が並んで食べ応えのある子持ち昆布は人為的に作られているようだ。

 タンパク質の一次構造を形成する際にアミノ酸間に形成されるペプチド結合ではなく、側鎖にあるアミノ基とカルボキシル基の間に形成されるペプチド結合のこと。

 2-⑴で述べたように魚類の卵膜の別名は“コリオン”である。将来コリオンになるタンパク質のため、“材料”の意味をもつ“-genin”をつけて、コリオジェニンと呼ばれている。

 遺伝子のうち、半数体ゲノムにつき1コピー(体細胞では2コピー)しかない遺伝子以外のもの。

 共通祖先から生じたいくつかの遺伝子のうち、異なる生物種において類似または相同な機能をもつ遺伝子同士のこと。たとえば、ヘモグロビン、ミオグロビン、サイトグロビンなどは共通祖先から由来するグロビン遺伝子ファミリーであり、ヒトもマウスもこれらの遺伝子をもつが、このうちヒトのヘモグロビン遺伝子とマウスのヘモグロビン遺伝子はオーソログの関係にあるといえる。

 遺伝子ファミリーの中には、突然変異などによって機能を失ってしまうものがある。例えば、変異によって翻訳の途中にストップコドンが入ったり、プロモーターの欠損による転写不能や、転写後のプロセッシングに関与する配列の欠如による成熟mRNAの形成不全などがある。このように、配列の痕跡は残っており、どの遺伝子ファミリーに属するかは明らかだが、機能的でない遺伝子を偽遺伝子(Pseudogene)という。

 魚類では毎年数百の新種記載があり、2018年現在において硬骨魚類の現生種の記載数は3万をこえる。

 栄養リボンという邦訳は、山岸宏『比較生殖学』(東海大学出版会、1995年)による。

 第8章で触れられているデンキウナギなどは、長い身体の大部分が発電器官になっており、肛門の位置が同じように著しく前方に位置する。

 酵素活性は同じであるが、アミノ酸配列の違いによって性質の異なる酵素タンパク質。タンパク質の電気泳動度の差異から、その支配遺伝子座における遺伝子型の差異を検出できる。

 生物相の分布境界線で、この線を挟んで動植物相が大きく変化する。この線の西側が東洋区、東側がオーストラリア区とされる。ウォーレスとウェーバーがそれぞれ異なる境界線を提唱した。スラウェシ島やティモール島は両者の境界線の間に位置する。

 個体や系統を識別する上で目印となるDNA配列のこと。系統間で塩基配列が異なる領域があれば、そこをDNAマーカーとして利用できる。

 ゲノムDNAを制限酵素で切断し、100〜200kbの断片を細菌人工染色体(BAC)ベクターに組み込んでクローン化したもの。大きな領域の物理地図や塩基配列決定に必要とされてきた。

 DNAマーカーや既知のクローンを用いて、配列が一部重なり合うクローンを同定する作業を繰り返し、目的遺伝子近傍のクローンコンティグを作成する方法。

 ミュラー管とは哺乳類の発生過程で将来卵管になる管で、オスではこのホルモンの働きによって退縮する。しかし、真骨魚類にミュラー管はなく、別の機能をもつと考えられる。

 メダカ博士こと山本時男博士は、1953年d-rR系統(オスが緋色、メスが白色の限定遺伝をもとに育成作出された系統、X染色体上に潜性(劣性)のr遺伝子、Y染色体状に顕性(優性)のR遺伝子をもつ、体色により遺伝的な性の判別が可能)の孵化直後から性ホルモンを経口投与して性の人為的転換に成功した。すなわちXrXrでもアンドロゲン投与によりオスとなり、正常メスXrXrと交配して、メスメダカばかりを生んだ。XrYRもエストロゲン投与によりメスに性転換し、正常のオスXrYRと交配した。性ホルモンによる性転換が多くの研究者から示されていたが、山本博士によって初めて遺伝的な性と性ホルモンによる性転換の関連が明らかにされた。コラム⑧も参照。

 コ・オプション(co-option)、遺伝子の使い回し。既存の遺伝子が新たな機能を担うようになること。

 非同義置換よりも大きな影響を与えるのがフレームシフトである。3の単位で塩基は読まれていくが、もし、3の倍数以外の挿入/欠失が起こった場合は、その後の配列が全て読み枠がズレてしまい、その挿入/欠失より後(C末端側)ではまったく異なるタンパク質ができてしまう。

008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称

通称ブレグジット(英語: Brexit)とは、イギリスが欧州連合(EU)から離脱すること