第11章 広範な適応拡散を可能にした 大脳皮質の獲得︱哺乳類の脳

奇妙な標本

 1798年、その動物の標本がイギリスに送られたとき、科学者がそれを精巧な模造品であると疑ったのも無理はない。なにしろ、体表面は獣のように体毛で覆われているが、ガチョウやカモに似たクチバシや水掻きがある。直腸と泌尿生殖が一箇所に開口する「総排泄溝」が確認される。Ornithorhyncus anatinusというこの動物の学名は「カモのような」「口吻」という意味のギリシャ語に由来する。我々はこの動物をカモノハシと呼ぶ。総排泄溝の存在からカモノハシの仲間は「単孔目」と呼ばれるが、現在この仲間はカモノハシの他、2種のハリモグラを含め3種しか地球上に生息していない。
単孔目はまったく奇妙な動物群だ。まるでトカゲやニワトリのように卵殻を持つ卵を総排泄溝から産卵する。ところが、ふ化した幼体は母親の皮膚からにじみ出る母乳のような分泌物で栄養を摂取する。こうした特徴から、単孔目を哺乳類と爬虫類の中間に位置する動物と考える人もいるだろう。しかし、彼らはまぎれもなく哺乳類である。比較解剖学者が骨の断片から動物種を推測できるように、比較神経解剖学者は脳を見ればそれが何の動物群に属するか言い当てることができる。単孔目の脳に、爬虫類の特徴は見られない。外見や生理的特徴がどれほど変わっていようとも、彼らの脳はすでに完全なる「哺乳類型脳」なのだ(図1)。

図1.カモノハシとその大脳の切片。カモノハシには哺乳類型の大脳皮質が存在する。[右: Comparative Mammalian Brain Collectionより]

哺乳類型脳の特徴

 脊椎動物の祖先が出現した時点で、脳の基本構造(大脳、間脳、中脳、小脳、そして延髄)はすでに形成されていた(第7章参照)。しかし、哺乳類では脳のある部分が著しく肥大し、特殊化している。それは「大脳皮質」と呼ばれる部分である。大脳皮質は、胎児の時期の未熟な大脳原基(終脳と呼ぶ)の背中側の部分からできあがる。この部分は、より腹側の部分を覆いかくすように発生するため「パリウム(外套)」と呼ばれる。哺乳類では、胎児が発生する過程でこの外套が風船のように大きく膨らむ。外套からは大脳皮質以外にも様々な構造が発生する。そのひとつが、左右の外套の内側からできあがる「海馬」である。海馬が発生する場所よりも少し外側から大脳皮質が発生し、さらにそこよりも腹側から「梨状皮質」が発生する。また、梨状皮質よりも内側には肉眼で識別可能な幾つかの神経細胞の塊がある。こうした塊を神経核と呼ぶが、特にここには「前障」や「扁桃体」と呼ばれる神経核が形成される。これらすべてが哺乳類に特徴的な脳構造である(図2)。

図2.マウスの大脳の構造。哺乳類型大脳構造の典型である。海馬、大脳皮質、梨状皮質、扁桃体などの構造が認められる。[Allan Mouse Brain Atlasより作成]

 正確に言えば、哺乳類で見られるこうした脳構造が他の動物にまったく存在しないわけではない。スペイン・ムルシア大学のルイス・プエイエス博士をはじめ幾人かの比較神経解剖学者の努力により、外套は4つの領域に区分されることがわかった。さらに、哺乳類だけでなくすべての脊椎動物がこの4つの外套領域を備えていることが明らかとなっている。しかし、それぞれの外套領域からできあがる構造は動物によって著しく異なっている。特に大脳皮質は哺乳類で著しく発達し、かつ他の動物には決して見られない独特な解剖学的構造と発生プロセスが存在する。

大脳皮質の解剖学的特徴

 大脳皮質という言葉を知らなくとも、人々が「脳」と聞いて真っ先にイメージするのは大脳皮質の部分であろう。完成した哺乳類の脳において大脳皮質は大きな容積を占め、残りの脳領域の大半を覆い隠している。大脳皮質は膨大な数の神経細胞とグリア細胞で構成されているが、神経細胞が存在するのは脳のごく表面の部分である。大脳皮質を薄く切って顕微鏡で観察すると、皮質の内部に多くの神経細胞が整然と並んでいることがわかる。この神経細胞の並びから、大脳皮質は6つの層に区分されている。この大脳皮質の6層構造こそが、哺乳類型脳の最大の特徴のひとつである。単孔目が外見上どんなに奇妙な性質を持っていようとも、彼らの脳にはまぎれもなく6層構造を持つ大脳皮質が存在する。哺乳類という分類群を規定する幾つかの形態的な特徴があるが、そうした特徴が必ずしも当てはまらない種もある、例えば、頚椎の数が7つという特徴は多くの哺乳類に共通しているが、ナマケモノやジュゴンなどでは頚椎の一部が融合し数が変化している。しかし、大脳皮質の層構造は現存するすべての哺乳類に形成される。これはいわゆる哺乳類の共有派生形質であり、すべての哺乳類種が共通の祖先に起源を持つことを支持するものだ(図3)。

図3.様々な哺乳類の大脳皮質。皮質6層構造は哺乳類で保存されている(霊長類では6A,Bなどのサブレイヤーが存在する。また、鯨類では4層が認められない)。[Balaramら(2014)より作成]

 大脳皮質を構成する神経細胞は、「興奮性」の神経細胞と「抑制性」の神経細胞に区分される。「興奮性」というのは、相手先の神経細胞の電気的活動を高める神経細胞で、主にグルタミン酸という神経伝達物質を放出する。一方、「抑制性」の神経細胞は逆に相手先の神経細胞の興奮を鎮める働きを持ち、「GABA(ギャバ)」と呼ばれる伝達物質を放出する。
特に、大脳皮質に存在する興奮性の神経細胞は「錐体細胞」と呼ばれる。これは、英語のPyramidal cell(ピラミッド型の細胞)という名の通り、脳の表面に向かって伸びる長い突起(先端樹状突起)と横方向に張り出す比較的短い突起を持ち、全体的に三角錐のような形をしている。錐体細胞の種類によっては、あたかも東大寺の巨大な大仏殿の梁を支える大黒柱のように、頂上突起が大脳皮質の底面から外側の表面まで貫いている(図4)。

図4.哺乳類大脳皮質の錐体細胞。各層の錐体細胞はそれぞれ決まった場所に神経線維を伸ばしている。また、視床などから大脳皮質に侵入する神経線維は第4層および1層に入力する。[Rudolphetら(2005)およびLuzzatt(2015)より作成]

 大脳皮質の6層構造は、さらに比喩を用いると、6階建のビルディングにように異なる種類の錐体細胞が階層上に並ぶことで形成されている。ただ、ビルの階数とは異なり、一番上から1層、2層、という名前が付けられている。この「大脳皮質ビルディング」の最も重要な役割は、ビル外からの情報を受け取り、その情報を処理したのち、再びビルの外へと情報を発信することだ。外界の情報は感覚器官によって感知されるが、その多くは間脳の視床と呼ばれる脳の部分を通過して大脳皮質へと送られる。哺乳類の脳では、視床と大脳皮質を連結する神経線維が大きく発達している。これを「内包」と呼ぶ。内包を通過した神経線維は大脳皮質の内側から皮質内へと侵入し、皮質第4層、第1層の神経細胞に入力する。この入力パターンは鯨類など一部の種を除いて、ほぼすべての哺乳類に普遍的に見られる(鯨類の大脳皮質は次章を読んでいただきたい)。第4層で受けた情報は、そこよりも上層の階である2〜3層の神経細胞に伝達される。2〜3層の神経細胞から情報を受け取った5層の神経細胞は大脳皮質の外へと情報を出力する。つまり、大脳皮質の6層構造は情報の入力と統合、そして出力を受け持つ細胞が整然と配置された電子基盤のようなものである。

何故層構造なのか?

 層構造は哺乳類の大脳皮質にのみ形成されるものではない。例えば、運動機能を司る小脳、視覚情報を受け取る中脳視蓋、さらに嗅覚情報を受容する嗅球といった脳の領域にも層構造が形成される。また大脳においても、脊椎動物の祖先から非常に早く分岐したと思われる円口類(ヤツメウナギやヌタウナギ)の外套にも層構造が存在する。ではなぜ、層構造が様々な脳の部域に出現するのだろうか。はっきりとした理由はわからないが、層構造が形成される脳の部域にはいくつか機能的な共通点がある。例えば、小脳や中脳視蓋、さらに大脳皮質に感覚情報が入力する際、あたかもスクリーンにスライドを写すように外界の空間情報がそのまま投影される。これをトポグラフィック・マップ(空間地図)と呼び、生物が感覚情報を脳に入力する際の典型的な情報処理様式のひとつである。
哺乳類大脳皮質の場合、体表面の皮膚感覚や体毛で受容された感覚が脳内に投影された空間地図、いわゆる「体性感覚地図」が形成される。何かの本や教科書で、唇や指先が異常に大きな人形を見たことはないだろうか。あの異様な人形は「ホムンクルス」と呼ばれ、ヒトの体性感覚地図を模式的に表したものだ。人間の場合、感覚が鋭敏である唇周辺、舌、指先、性器などを受容する地図が大きくなった独特な体型の人形になる。しかし、ネズミのホムンクルスはちょっと違う体型になるようだ。ネズミのホムンクルスで最も大きいのは鼻先の周囲の「ヒゲ」に当たる部分である。このヒゲは、我々のヒゲとは異なり、三叉神経という感覚神経の支配を受けている感覚器官である。つまりネズミはヒゲを外界の情報をキャッチするセンサーのように使用している。さらに興味深いのは、この章の冒頭に登場したカモノハシである。彼らのホムンクルスはクチバシが異様に大きなものになっている。実はカモノハシのクチバシは電気受容器官であり、泥の中で動き回る小さなエビの筋肉から発生する微弱な電流をキャッチし、捕食するために用いられる(図5)。

図5.カモノハシの大脳皮質の体性感覚野はその大部分がクチバシの感覚に割り当てられている。[Krubitzerら(2003)より作成]

 トポグラフィック・マップが形成されることと、大脳皮質の層構造にはどのような関連があるのだろうか。ヒトの皮膚感覚、ネズミのヒゲ感覚、そしてカモノハシのクチバシの電気受容感覚はいずれも大脳皮質の第4層で受容される。大脳皮質の層構造は、こうした感覚情報を他の層の神経細胞にそのままコピーしたり、あるいは少し修正を加えて転送したりすることに都合が良いのかもしれない。また、既に紹介したように大脳皮質は6階建てのオフィスビルのようなものだ。もし事業を拡大しようと思えば、同じタイプのビルをいくつも建設して、各フロアで担当する事業を変えれば良い。実際、大脳皮質は機能的カラム構造と呼ばれる直径300〜500マイクロメートルの円柱状のユニットで構成されている。体のサイズが変化すると、それに応じた感覚情報処理を行なう脳の部分を準備しないといけない。その際、オフィスビルを連立するようにカラム構造の数を増やすことで新しい情報処理を獲得できるのは大脳皮質の大きな利点と言えるだろう。
それでは、哺乳類型の大脳皮質が進化したのは、こうした機能的利点だけが理由だろうか。もちろんそうかもしれないが、それならば哺乳類以外の動物の大脳にも「哺乳類型大脳皮質」が形成されてもよさそうなものである。しかし実際には、現存する哺乳類以外のいかなる生物にも6層構造の大脳皮質は観察されない。また、体の外部の形態や脳の大きさがどんなに多様化しようとも、すべての哺乳類が大脳皮質の層構造の形成を頑なに守り続けているのはなぜだろうか。もしかするとこれは、そのような形態以外とりようがない、いわゆる「発生拘束」(進化の方向性が制限されるような発生プログラムの特殊化)によるものかもしれない。最近の研究によって哺乳類の大脳皮質がどのようにして発生するのか、その過程が詳細に明らかになってきた。その結果、哺乳類の大脳皮質の発生プログラムは他の動物には見られない大変奇妙なものであることもわかってきた。

インサイド-アウト方式による大脳皮質形成

 エール大学のパスコ・ラキッチ博士らの研究チームは、サルの大脳皮質の発生過程の研究を行なってきた。彼らは、トリチウムチミジンと呼ばれる放射性同位体を発生中の胎児に取り込ませた。トリチウムチミジンは細胞が分裂する際にDNAに取り込まれる。細胞が分裂を続ければ取り込まれたトリチウムチミジンはそのうち希釈されてしまうが、取り込んだ直後に分化した神経細胞はその後分裂しないため、高濃度のトリチウムチミジンを保持し続ける。発生の異なるタイミングでトリチウムチミジンを取りこませることにより、特定の神経細胞が胎児の時期のどのタイミングで分化したのか、いわゆる「誕生日」を特定することができる。こうした実験の結果、面白いことがわかった。大脳皮質の深層の神経細胞は発生の早い時期に分化するが、発生が進行するにつれてより表層の神経細胞が産生されるのだ。これは奇妙な現象である。というのも、神経細胞を産生する元となる前駆細胞(将来神経細胞を産生する細胞)は脳室に面した脳の最も内側の層(脳室帯と呼ぶ)に位置しているため、通常考えれば脳の外側から内側へと細胞を積み重ねた方が効率的なはずだ。後から生まれた神経細胞を脳の表層に配置するには、既に生まれた神経細胞を「乗り越えて」より外側へと移動させる必要がある。実際、このような神経細胞の移動パターンが大脳皮質の発生過程で見られ、こうしたパターンを「インサイド-アウト」方式と呼ぶ(図6)。どうしてこんな厄介な作り方をするのだろうか。

図6.インサイド-アウトによる大脳皮質構築。脳室帯で産生された神経細胞は、発生の進行にともなって脳の表面へと移動する。その際、遅生まれの細胞が早生まれの細胞を追い越していく。また多くの神経細胞は脳室帯を離れると一旦多極性になり、その後双極性へと形を転換し、表層へ移動する。[sites.lafayette.eduより作成]

 発生中の大脳皮質の中で神経細胞がどのように移動するかについて、ラキッチ博士はある説を提唱した。それは、脳の内側で誕生した神経細胞は周囲にある突起に沿って脳の表層へと移動するというものだ。この突起を伸ばす細胞は「放射状グリア細胞」と呼ばれ、細胞体は脳室帯に存在するが、その突起は大脳皮質の内部を貫き、最も外側の軟膜層の真下まで達している。「ジャックと豆の木」のごとく、天まで伸びる放射状グリア細胞の突起をよじ登って神経細胞は表層に移動するというわけだ。確かに、発生過程の大脳皮質を顕微鏡で観察すると、放射状グリアの突起に付着して移動している最中と思われる神経細胞が認められる。では、何故そのような特別な「豆の木細胞」が脳に存在するのか、そしてジャックはなぜわざわざ豆の木を登ろうと思ったのか?
発生中のマウスの大脳皮質を薄くスライス状にしてシャーレの中で培養することにより、放射状グリア細胞が時間とともにどのような変化を遂げるのかが調べられた。すると、放射状グリア細胞は突起を持ったまま分裂する能力があり、さらに放射状グリア細胞から神経細胞が分化することがわかった。つまり、大脳皮質の発生過程では「ジャックと豆の木」ではなく「豆の木からジャック」だったのだ。
慶応義塾大学の仲嶋一範博士と田畑秀典博士(現愛知県コロニー発達障害研究所)らは、発生中の大脳皮質の細胞に直接蛍光タンパク質を産生する遺伝子を導入することにより、移動中の神経細胞の形態を詳細に観察する研究を行なった。すると、脳室帯から分化した神経細胞はあたかもウニのように短い突起を伸縮させながら、漂うようにゆっくりと脳の表層へと移動することがわかった。このような形態の細胞を「多極性移動細胞」と呼ぶ。この多極性移動細胞はある程度脳内を移動すると、突如その形態をウニ型から油滴のような形に変化させ、放射状グリア細胞の突起に沿って脳の表面へと移動することがわかった。この油滴型の細胞は「双極性細胞」と呼ばれ、大脳皮質の興奮性神経細胞はすべてこの双極性細胞として脳の深部から表層側へと順次移動していく。移動を終えた神経細胞が配置された領域を「皮質板」と呼び、大脳皮質のほとんどはこの皮質板に由来する(抑制性神経細胞については後述しよう)。
哺乳類以外の大脳外套の発生を調べてみると、移動中の神経細胞の大部分は多極性の形のままであり、双極性の移動細胞はほとんど観察されない。つまり、多極性から双極性へと神経細胞がその形をダイナミックに変化させるのは哺乳類の大脳皮質に独得の発生プロセスである。ここ10年ほどの間に、この多極性から双極性への神経細胞の形態変化をコントロールする遺伝子が多く発見された。ここではその詳細は省くが、大まかに言えば移動する神経細胞の外部に存在する分子と細胞内在性の分子の両方によって細胞骨格の再配置が起こり、神経細胞の形態が大きく変化する。さらに、細胞接着分子の変化により移動する神経細胞が放射状グリアの突起との接着をコントロールしながら脳の表層へと移動し、最も表層まで移動した神経細胞はさらにお互いの接着を強固にすることで、脳の最表面に規則正しく並ぶ。すなわち、「インサイド-アウト」の皮質構築はそれ自体が目的ではなく、分化した神経細胞を常に軟膜直下という壁際に並列させるプロセスを獲得した結果であるのかもしれない。
このプロセスが可能になったのも、多極性から双極性への形態変化という一大イベントを成し遂げたおかげであろう。大きな変革には痛みがつきものだ。大脳皮質の神経細胞の移動に関係する様々な遺伝子の機能を阻害すると、ほとんどの場合、この多極性から双極性への形態変化に異常が生じ、神経細胞が皮質板に侵入できなくなる。もしかすると、この独得な形態変化は非常に繊細かつ脆弱なプロセスであるため、わずかな遺伝子発現の変化で大きな影響を受けるのかもしれない。実際、ダブルコルテックスと呼ばれるヒト大脳皮質の先天異常では、神経細胞がうまく移動できず皮質の下に蓄積してしまう。このような複雑な発生機構をあえて採用したのは何故だろうか。実はこの問題は、大脳皮質の神経細胞の誕生日を決めるメカニズムと深く関わっている。

神経細胞の誕生日をいつ誰が決めるのか

 大脳皮質の各層を構成する神経細胞が胎児の特定の時期に誕生することは、1970年代にはすでに明らかになっていた。しかし、一体それがどのようなメカニズムによるものなのかは長い間謎のままであった。1990年代、スタンフォード大学のスーザン・マッコーネル博士は、フェレットを用いてこの謎の解明に取り組んだ。他の哺乳類の大脳皮質と同様に、フェレットの場合も発生の早い段階で誕生した神経細胞は大脳皮質の深い層を構成するが、発生後期で生まれた神経細胞は皮質の表層を構成する。彼女は、発生段階の早い時期のフェレットの大脳皮質から前駆細胞(将来神経細胞を産生する細胞)を取り出し、発生の遅い時期の大脳皮質の脳室体付近に移植した。すると、本来皮質の深い層を生み出す前駆細胞が、皮質表層の神経細胞を生み出すようになったのだ。つまり、移植された前駆細胞が周囲の環境(遅い時期の大脳皮質)に合わせて、どのような神経細胞を生み出すかというプログラムを変更したということだ。一方、発生の遅い時期の前駆細胞を発生の早い時期の大脳皮質に移植しても、移植された前駆細胞は早い時期の前駆細胞のように皮質深層の神経細胞を産生することはなかった。つまり、どのような神経細胞を生み出すかというプログラムは不可逆的なものであり、一度進行してしまったプログラムを元に戻すことはできないのだ。
マッコーネル博士の研究によって、大脳皮質の神経細胞の誕生日を決めるメカニズムについて、ふたつの法則が存在することがわかった。ひとつは、前駆細胞がどのような種類の神経細胞を生み出すのかは、周囲の組織環境に影響されるということだ。もうひとつは、いつ、どんな種類の神経細胞を生み出すかというプログラムは時間と共に変化するというものだ。以後、こうした法則の検証と、さらにこのプログラムがどのような遺伝子によってコントロールされているかを解明することが研究の中心課題となった。
マッコーネル博士の研究から約10年後、アルバニー医科大学のサリー・テンプル博士は発生中の大脳皮質の前駆細胞をばらばらにしてシャーレの中で培養した。培養日数が経過すると、それぞれの前駆細胞から大脳皮質の各層を構成する神経細胞が分化することが観察された。興味深いことに、皮質の深い層の神経細胞は培養開始後すぐに誕生するが、表層の神経細胞は日数が経過してから誕生することがわかった。つまり、時間ごとに異なる神経細胞を生み出すプログラムは前駆細胞自身の中に備わっているということだ。
これらふたつの研究結果をまとめると、次のようなことが言える。まず、大脳皮質の各層の神経細胞がいつ生まれるかは、前駆細胞自身に備わる「細胞自律的な」プログラムによって決定される。しかし、このプログラムを発動させたりお互いに同調させるためには、周囲の細胞との相互作用が重要である。さらに、このプログラムは一度進行すると後戻りができず、それは前駆細胞自身の遺伝子やゲノムの不可逆的な変化によるものと考えられる。
今世紀に入って、こうしたプログラムの実体を担う数々の遺伝子や分子メカニズムが明らかになってきた。概略すると、まず発生期の大脳皮質の前駆細胞では様々な転写因子の発現が時間とともに変化し、この転写調節のメカニズムが神経細胞の誕生日を決めるタイマーのにように働いている。また、前駆細胞の膜表面のタンパク質や前駆細胞から分泌される液性因子が前駆細胞のタイマーの進行をコントロールしている。さらに、タイマーの進行とともに前駆細胞のゲノムDNAやヒストンタンパク質の修飾状態が変化し、それが次のプログラムが発動する引き金となったり、あるいはプログラムが後戻りすることを防いだりしている。こうした細胞内在的なプログラムに加えて、前駆細胞や分化した神経細胞の周囲の環境も神経細胞の運命決定に重要な役割を果たす。これらのメカニズムがお互いに協調し合うことにより、大脳皮質を構成する2〜6層の神経細胞が規則的に産生される。しかし、第1層の神経細胞は違う。第1層の神経細胞は、実は大脳皮質の中ではちょっとした異端児なのだ。

移民のような神経細胞

 筆者はスウェーデンという国で生活したことがある。かの国で滞在を続けるためには、1年ごとに「滞在許可証」というものを更新する必要があった。更新手続きのために、毎年夏の終わりにストックホルム市郊外にある「Migrationsverket(移民局)」に出かけて行った。移民局はいつも大勢の人々でごった返していた。窓口業務は遅々として進まず、人々の怒声や赤ん坊の泣き声がホールの中に響いていた。様々な民族衣装を纏う人々、香水の強い香り、そしてエスニックな響きを持つ無数の言語が飛び交う喧騒の中に身を沈めていると、自分もこの地では移民のひとりに過ぎないことを強く意識したものだった。
世界史は民族移動の歴史でもある。様々な生活習慣を持つ人々の移動によって異なる文化が接触し、時には衝突や軋轢が起こる。しかしやがてそれらは融合し、ときとして新しい文化が生み出される。大脳皮質の中で、第1層を構成する「カハール・レチウス細胞」という神経細胞は移民のような細胞だ。彼らは大脳皮質の外で誕生し、発生の早い時期に大脳皮質という領土に流入する。現在、少なくとも3つの場所からカハール・レチウス細胞が生まれることがわかっている。ひとつ目は、大脳半球の内側の縁の部分、Cortical hemと呼ばれる領域だ。ふたつ目は、将来左右の大脳半球を隔てる壁のような構造となる中隔野と呼ばれる領域、そして3つ目は外套と外套下部の境目に相当する領域である(図7)。

図7.カハール・レチウス細胞の脳における産生場所と移動パターン。[Tomaら(2015)より作成]

カハール・レチウス細胞という民族の大移動は、大脳皮質に何をもたらすのだろうか。実は、カハール・レチウス細胞は大脳皮質が6層構造を形成するのに不可欠な役割を果たす。
Reeler(リーラー)と呼ばれるマウスがいる。遺伝子に起きた突然変異により、うまく歩くことができない。脳を調べた結果、リーラーマウスでは小脳や大脳の形成に異常があることがわかった。特に大脳では、大脳皮質の6層構造が大きく乱れており、これは後から生まれた神経細胞が先に生まれた神経細胞を追い越すことができない、つまりインサイドーアウトで進行するはずの神経細胞移動がうまく行なわれていないことが原因である。
高知医科大学(当時)で研究を行なっていた小川正晴博士(理化学研究所)は、リーラーマウスでは脳の発生に重要なタンパク質が欠落していると予測し、ある実験を行なった。正常なマウスの脳組織をリーラーマウスに注射し、リーラーマウスに抗体を作らせたのだ。通常、抗体というものは体内に侵入した異物(抗原と呼ぶ)に対して産生される。しかし、自分自身が本来持つ抗原に対して抗体は産生されない。リーラーマウスは本来正常なマウスに備わる何がしかのタンパク質を欠いているはずである。従って、もし正常なマウスの脳組織にそのタンパク質が含まれていれば、それを抗原として認識し抗体を産生するはずだ。実際、リーラーマウスが産生した抗体のうち、CR-50と呼ばれる抗体は興味深い反応を示した。この抗体を用いてマウス胎児の脳を染色すると、カハール・レチウス細胞が非常に強く染まったのだ。さらに、リーラーマウスの脳ではこの染色反応が全く見られなかった。すなわち、リーラーマウスではCR-50抗体の抗原であるタンパク質が産生されていない、ということだ。一方、リーラーマウスの原因遺伝子の情報は、まったく予期せぬところからもたらされた。
セイント・ジュード小児研究病院のトム・カラン博士は、マウスを用いて腫瘍の研究を行なっていた。彼が着目していたある遺伝子をマウスの受精卵に注入したところ、生まれたマウスの中で歩行障害を示す個体が現れた。調べてみると、注入した遺伝子がマウス受精卵のゲノムに挿入された際、マウスのゲノムに本来存在する内在性の遺伝子の機能を偶然に破壊したため、リーラーマウスとよく似た症状を引き起こしたことがわかった。破壊された遺伝子から本来作られるべきタンパク質は非常に巨大で、かつ細胞外に分泌される性質を持ち、さらにこのタンパク質はカハール・レチウス細胞で産生されていた。リーラーマウスの原因遺伝子として同定されたこの遺伝子はreelin(リーリン)と命名された。
カハール・レチウス細胞から分泌されるリーリンタンパクは、脳表面に向かって移動する神経細胞に受け取られ、移動する細胞の形や接着性をコントロールする。リーリンタンパク質が産生されないと、神経細胞は軟膜直下までうまく移動できず、結果的にインサイド-アウトの皮質構築が乱れてしまう。リーリン遺伝子、そしてそこから産生されるタンパク質は大脳皮質の層形成に不可欠であるため、この遺伝子が大脳皮質の進化と深く関係しているのではないか、と多くの研究者が考えた。ベルギーのアンドレ・ゴフィネ博士らは、様々な動物の大脳におけるリーリン遺伝子の発現を調べたところ、胎児期のトカゲやワニ、ニワトリの大脳でもリーリン遺伝子は活性化されているが、やはり哺乳類と比較すると大脳表面でのリーリン遺伝子の活性化が弱いようであった。また、我々の以前の研究により、鳥類の大脳ではカハール・レチウス細胞のようにリーリンを産生しつつ脳表面を移動する細胞の数が、哺乳類と比べると非常に少ないことがわかっている。つまり、哺乳類進化の過程でカハール・レチウス細胞の産生量が大きく亢進するような変革が起こり、大脳皮質の層構造の構築がもたらされた可能性がある。
理化学研究所の花嶋かりな博士(現早稲田大学)は、FoxG1(フォックス・ジー1)と呼ばれる遺伝子の機能を破壊したマウスの解析を行なっている。フォックス・ジー1は将来大脳になるべき脳の領域を形づくるのに重要である。フォックス・ジー1の機能が破壊されると、マウスの大脳は著しく小さくなる。変異マウスの大脳を調べてみると、驚くべきことに大脳皮質で産生されるべき6種類の興奮性神経細胞はすべてカハール・レチウス細胞になり変わっていた。カハール・レチウス細胞は本来大脳皮質の外で産生される神経細胞である。しかし、フォックス・ジー1の機能が失われると、大脳皮質の前駆細胞からもカハール・レチウス細胞が産生されるようになる。それどころか、他の5種類の神経細胞を生み出すプログラムをすべてキャンセルし、カハール・レチウス細胞しか生み出さなくなるのだ。ここから、この遺伝子のふたつの機能が推測される。ひとつは、大脳皮質でカハール・レチウス細胞を産生しないようにしておくこと、さらに、大脳皮質の前駆細胞から残りの5種類の神経細胞を生み出すようなタイマーを進行させることだ。フォックス・ジー1遺伝子は他の遺伝子の発現をコントロールする転写因子とよばれるタンパク質を産生する。花嶋博士と隈元拓馬博士(現パリ・視覚研究所)がフォックス・ジー1遺伝子によって抑制される遺伝子を調べると、多くがカハール・レチウス細胞に発現するものであった。もしかすると、哺乳類においてカハール・レチウス細胞の数が爆発的に増えたのは、フォックス・ジー1の機能に変化が生じたせいかもしれない。
大脳皮質に流入する移民の細胞はカハール・レチウス細胞だけではない。すでに紹介したように、大脳皮質には、興奮性神経細胞の他に抑制性の神経細胞が存在している。この抑制性の神経細胞は、大脳皮質ができる部分よりも腹側の「外套下部」という部分で産生され、まるで川を遡上する魚のごとく発生途中の外套領域に侵入し、大脳皮質の神経回路の中に組み込まれる。抑制性神経細胞のこのような発生プロセスは、調べうるかぎりすべての脊椎動物で共通しているようだ。
しかし、哺乳類大脳皮質というのは、他の動物には決して見られない構造だ。かりにもし、哺乳類以外の動物の抑制性神経細胞を哺乳類脳に移植した場合、移植された細胞は哺乳類脳という新しい環境に馴染めるのだろうか? 慶応義塾大学の仲嶋一範博士と田中大介博士(現東京医科歯科大学)は、爬虫類や鳥類の抑制性神経細胞を哺乳類であるマウスの大脳に移植するという大胆な実験を行なった。その結果、移植された爬虫類や鳥類の神経細胞は、外套下部から外套まではきちんと移動するが、皮質板(将来大脳皮質を構築する部分)には侵入できないことが明らかとなった。先に紹介したように、皮質板は大脳皮質の6層構造を形作る領域であり、興奮性神経細胞がその形を双極性に変えて移動を行なう部分だ。やはりこの部分の発生には哺乳類独特の発生プロセスが働いているようで、移民である抑制性神経細胞の方もこのプロセスに合わせた「哺乳類型」でなければ、うまくこの領域には入り込めないようだ。
ここまで紹介した大脳皮質の発生過程について、時間経過を追ってまとめてみよう。まず、皮質外からカハール・レチウス細胞が大脳皮質領域に侵入する。その後、皮質の各層を構成する神経細胞が、6、5、4、3、の順番で産生される。2〜3の神経細胞は脳室帯を離れると一旦多極性になるが、皮質板に入る前に双極性になり、順次脳の表面へと移動する。その間に、大脳腹側から侵入した介在神経細胞が皮質の各層に落ち着き、やがて機能的な神経回路が形成される。特に、多極性から双極性へと神経細胞が形を変えることにより、興奮性神経細胞の最終形態、いわゆる「錐体細胞」として完成する。さらに、インサイド-アウトの移動形態により、後から生まれた神経細胞が脳の外側へと配置される。6層の大脳皮質構造がすべての哺乳類で保存されているのは、神経細胞の種類が誕生日によって決まるメカニズムと、生まれた神経細胞を常に脳の外側へと配置するメカニズムが変更不可能であるためかもしれない。
一方、こうした頑固な「脳の設計図」がもたらした利点もあるだろう。進化の過程では、より後半の発生プログラムが延長される傾向にある。大脳皮質のプログラムの後半で産生されるのは、皮質の表層の神経細胞である。確かに、大脳皮質マウスと比較すると、サルやヒトの大脳皮質では皮質2〜3層の神経細胞の数が圧倒的に多い。もし、双極性への細胞形態変化、それに伴うインサイド-アウトの皮質構築を獲得していなければ、たとえ神経細胞の数が増えたとしてもその置き場所に困ったことだろう。また、脳の中の神経細胞の数が増えた場合、神経細胞同士をつなぐ配線である軸索をどう配置するかが大問題となる。哺乳類型大脳皮質は、神経細胞体、いわゆるネットワーク端末を表面にすべて配置し、脳内にすべて配線をまとめる方式を採用している。先に紹介した「内包」は、まとめられた配線の典型的な例である。このような構造が可能となるのも、興奮性神経細胞が並列に配置され(層構造)、各々の神経細胞に明確な極性が存在するからである。こうした哺乳類型の大脳皮質の構築方法であるならば、スペースが許す限り脳の表面積を増やすことができる。つまり、大脳皮質の発生過程に独特なプロセスである移動神経細胞の形態変化は、脳の構造的・機能的な可能性の許容範囲を大幅に広げ、それは哺乳類の適応放散に大きく貢献したのかもしれない。

哺乳類型大脳皮質の進化

 こうした独特の発生プロセスによって構築される大脳皮質は、哺乳類進化の過程で一体いつ出現したのだろうか? カモノハシなどの単孔目が、現存する他の哺乳類の系統と分かれたのは今から約1億年前、中生代のジュラ紀であると考えられている。つまり、その時代に存在していたと思われるすべての哺乳類の共通祖先には、6層構造を持つ大脳皮質がすでに構築されていたと推測される。大脳皮質の起源を探るには、さらに地質年代を遡らなければならない。
これより前の時代にも哺乳類のような動物は存在していた。彼らを「哺乳形類」と呼ぶ。ハドロコディウム・ウイはこうした哺乳形類の1種で、今のハツカネズミよりもさらに小型の昆虫食の動物であった。ハドロコディウム・ウイの頭骨化石の保存状態が良かったため、脳函と呼ばれる脳が入っていた空所の鋳型からこの動物の脳の大きさや形を推測することができる。特に、大脳皮質と梨状皮質の間にある溝(梨状溝)の存在は、大脳皮質の領域を測る重要な要素となる。ハドロコディウム・ウイの脳の鋳型には梨状溝が確認され、この動物にはすでに大脳皮質の領域が備わっていたことが考えられた。一方、さらに古い時代である三畳紀に出現したモルガノコドンとよばれる哺乳形類では、大脳皮質と思われる領域の大きさは非常に小さく、現在の爬虫類の外套領域と同じ程度であったと予測されている(図8)。

図8.哺乳形類から哺乳類に至る過程での大脳皮質の拡大。[Nomuraら(2014)より作成]

 こうした脳の鋳型からは、脳内部の構造はわからないので、一体いつの時点で大脳皮質6層構造が進化したのかは定かではない。初期の哺乳形類で大脳皮質という領域が確認されるということは、この時点ですでに6層構造が出現していたのかもしれない。しかし筆者は、哺乳類型の大脳皮質6層構造を構築するには最低限の脳の大きさが必要ではないかと考えている。というのも、哺乳類型大脳皮質は外界の位置情報を投影し、その情報処理を行なうことに機能的意義がある。この機能を発揮するためには、6階建てオフィスビルが数件建つようなスペースではとても事足りない。つまり、モルガノコドンの「大脳皮質」は機能的な皮質6層構造を構築するには小さすぎるのではなかろうか。
哺乳類大脳皮質の進化を考える上で興味深い遺伝子のひとつがLhx2(エル・エイチ・エックス2)である。この遺伝子は胎児の大脳外套領域で活性化される。この遺伝子の働きを脳の発生初期から無くした変異マウスでは、大脳皮質が著しく小さくなり、逆に梨状皮質が拡大する。外見的には化石哺乳類の大脳とよく似ている。この変異マウスでは大脳皮質6層構造がうまく形成されない。神経細胞の並びは不規則で断続的だ。さらに興味深いことに、Lhx2変異マウスには海馬が形成されない。つまりこの遺伝子は、哺乳類型の大脳皮質と海馬を形成するのに必須の役割を果たす。ではこの遺伝子は爬虫類や鳥類の大脳では働いていないのだろうか? 爬虫類や鳥類の発生初期の外套を調べてみると、この遺伝子がきちんと活性化されていることがわかる。つまり、この遺伝子の発現そのものは普遍的なものであるが、おそらく哺乳類ではこの遺伝子が哺乳類大脳に独特の構造を形成するような役割を担ったのだろう。
哺乳類の起源は、今から約3億年前の古生代石炭紀に出現した単弓類にまでさかのぼことができる。単弓類は当時の環境によく適応し、繁栄を極めた動物群であったが、そのほとんどが古生代末期に起こった大量絶滅の際に姿を消した。古生代の最終期であるペルム紀の末期から大気中の酸素濃度が急激に減少した。それまで最大35%もあった酸素濃度は15%前後にまで下がった。現在の大気中の酸素濃度が21%であるから、もし我々がタイムマシンで古生代や中生代に行くことができても、酸素マスクなしではまともに立ち歩くことさえ難しいだろう。酸素濃度の急激な低下は当時の生物にも深刻なダメージを与えた。ペルム紀末期の大量絶滅の原因は完全に特定されていないが、こうした酸素濃度の低下も一因かもしれない。
しかし、こうした低酸素状態に適応した動物が現れた。そのひとつが、「気嚢」と呼ばれる独特の換気システムの採用により、低酸素の環境下でも行動が可能となった爬虫類の一群である。この動物群は「恐竜」として、その後中生代に爆発的に繁栄し、さらにその中から現在の鳥類の祖先が現れた。一方、胸部と腹部の境界に「横隔膜」と呼ばれる独特の筋肉を構築することによって、呼吸効率を上げた動物群も現れた。彼らこそが哺乳形類であり、我々哺乳類の遠い祖先である。彼らの多くは夜行性となり、視覚よりも嗅覚や聴覚、そして体性感覚を発達させた。体表面には皮膚が変化した体毛が発生したことで、体温の維持、いわゆる恒温性と体性感覚が促進された。彼らの一群である「キノドン」には、現在の哺乳類に見られる様々な解剖学的特徴の萌芽を見ることができる。嗅覚や体性感覚の発達は、彼らの社会性の発達とも関連しているかもしれない。こうした視覚情報以外の感覚情報を統合するための中枢として、哺乳類独特の大脳皮質が進化したと考えられる。過酷な環境の変化を生き残り、祖先の発生プログラムの大胆な変革を行なうことによって大脳皮質構造を獲得した彼らは、やがて陸上のみならず空中や深海、熱帯から極地まで類稀なる適応放散を遂げる。多様化した体の構造や行動様式に合わせて、哺乳類の大脳皮質も大きな変化を遂げてきた。次章では、その一例として鯨類を、そしてもうひとつ特殊化の極みとして、我々人類の脳の進化をとりあげよう。

謝辞
本稿への適切なご助言を頂きました慶応義塾大学医学部の仲嶋一範先生、京都府立医科大学の河本昌也さんに感謝申し上げます。

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ミエリン鞘はとも呼ばれ、軸索に巻き付いて絶縁体として働く構造である。これにより神経パルスはミエリン鞘の間隙を跳躍的に伝わる(跳躍伝導)ことで神経伝達が高速になる。ミエリン鞘は末梢神経系の神経ではシュワン細胞、中枢神経系ではオリゴデンドロサイトから構成される。

脳の中にある空洞のこと。脳脊髄液で満たされている。脊髄にあるものは中心管と呼ばれる。

神経堤細胞は脊椎動物の発生時に見られる神経管に隣接した組織。頭部では神経、骨、軟骨、甲状腺、眼、結合組織などの一部に分化する。

細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質の一種で、特定のイオンを選択的に通過させる孔をつくるものを総称してチャネルと呼ぶ。筒状の構造をしていて、イオンチャネルタンパク質が刺激を受けると筒の孔が開き、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを通過させることで、細胞膜で厳密に区切られた細胞の内外のイオンの行き来を制御している。刺激の受け方は種類によって多様で、cGMPが結合すると筒の穴が開くものをcGMP依存性イオンチャネルと呼ぶ。TRPチャネルも複数のファミリーからなるイオンチャネルの一群であり、非選択性の陽イオンチャネルである。発見された際に用いられた活性化因子の頭文字や構造的特徴から、A (Ankyrin), C (canonical), M (melastatin), ML (mucolipin), N (no mechanoreceptor), P (polycystin), V(vanilloid)の7つのサブファミリーに分類されている。TRPは、細胞内や細胞外の様々な刺激によって活性化してセンサーとして働いたり、シグナルを変換したり増幅したりするトランスデューサーとしての機能も併せ持つ。温度センサーやトウガラシに含まれるカプサイシンのセンサーとしても機能していることが知られている。

任意の遺伝子の転写産物(mRNA)の相同な2本鎖RNAを人工的に合成し生物体内に導入することで、2本鎖RNAが相同部分を切断して遺伝子の発現を抑制する手法。2006年には、この手法の功績者がノーベル生理・医学賞を受賞している。

様々な動物種間で塩基配列やアミノ酸配列を比較することによって、類似性や相違を明らかにする手法。この解析によって動物種間の近縁関係や進化の過程を予測することが可能になる。

発生過程で神経管を裏打ちする中胚葉組織であり、頭索類・尾索類では背骨のような支持組織としての役割を持つ。脊椎動物では運動ニューロンの分化を誘導するなど発生学的役割を持つ

魚類に顕著にみられる鰓のスリットで、哺乳類では発生の初期にはみられる。発生が進むと複雑な形態形成変化が起き、消失するが、外耳孔などは鰓裂の名残ということができる。

動物の初期発生において最初の形態形成運動として原腸陥入が起こる。原腸は消化管に分化する。この原腸陥入によって生じる「孔」を原口と呼ぶが、これが将来の動物の体の口になるのが前口動物であり、肛門になるのが後口動物である。半索動物、脊索動物は後口動物である。

ナマコの幼生のことをオーリクラリア幼生と呼ぶが、ウニのプルテウス幼生、ヒトデのビピンナリア幼生、ギボシムシのトルナリア幼生など、形態的共通性をもつ幼生全体をまとめてオーリクラリア(型)幼生と呼ぶ。今日ではディプルールラ型幼生という呼び方が広く使われている。この説はガルスタングが1928年に提唱した。その時代にはオーリクラリアという用語が使われたため(ディプリュールラ説ではなく)オーリクラリア説と呼ばれている。

Hox遺伝子はショウジョウバエで発見されたホメオティック遺伝子の相同遺伝子である。無脊椎動物のゲノムには基本的に1つのHoxクラスターがあり、脊椎動物のゲノムには4つのHoxクラスターがある。Hoxb1は4つあるクラスターのうちのBクラスターに属する1番目のHox遺伝子という意味である。

脊椎動物胚の後脳領域には頭尾軸にそった分節性(等間隔の仕切り)がみられる。この各分節をロンボメアと呼び、図14に示すように7番目までは形態的に明瞭に観察できる。

脊椎動物のゲノムにはふたつか3つのIsletが存在する。Isletは脳幹(延髄、橋、中脳)の運動性脳神経核に発現して、運動ニューロンの分化に関与している。

感桿型では光刺激はホスホリパーゼCとイノシトールリン酸経路を活性化させる。繊毛型ではホスホジエステラーゼによる環状GMPの代謝が関与している。

気嚢による換気システムは獣脚類と呼ばれる恐竜から鳥類に至る系統で段階的に進化していったと考えられる。

このような特異な形態は胚発生期には見られず、生後に発達する。その過程は頭骨に見られる「テレスコーピング現象」と並行して進む。

1. Sato, T. (1986) A brood parasitic catfish of mouthbrooding cichlid fishes in Lake Tanganyika. Nature 323: 58-59.

2. Taborsky, M. et al. (1981) Helpers in fish. Behav. Ecol. Sociobiol. 8: 143–145.

3. Hori, M. (1993) Frequency-dependent natural selection in the handedness of scale-eating cichlid fish. Science 260: 216-219.

4. Meyer, A. et al. (1990) Monophyletic origin of Lake Victoria cichlid fishes suggested by mitochondrial DNA sequences. Nature 347: 550-553.

5. Salzburger, W. et al. (2005) Out of Tanganyika: genesis, explosive speciation, key-innovations and phylogeography of the haplochromine cichlid fishes. BMC Evol. Biol. 5: 17.

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10. Kocher, T. D. et al. (1993) Similar morphologies of cichlid fish in Lakes Tanganyika and Malawi are due to convergence. Mol. Phylogenet. Evol. 2:158-165.

31. Janvier, P. (2015) Facts and fancies about early fossil chordates and vertebrates. Nature, 520(7548), 483.

卵や精子、その元となる始原生殖細胞などを指し、子孫に遺伝情報が引き継がれる細胞そのものである。

卵や精子を作る減数分裂において、母由来の染色体と父由来の染色体が対合したときに、同じ領域がランダムに入れ替わる(組み換えられる)。つまり、我々の”配偶子の”染色体は、父親と母親由来の染色体がモザイク状に入り交じったものなのである(体細胞の染色体は免疫グロブリンなどの一部の領域を除いて基本的には均一なものと考えられている)。

 タンパク質にコードされる遺伝情報をもつ塩基配列。狭義にはゲノムDNAのうち、mRNAに転写され、タンパク質になる部分。近年は、タンパク質に翻訳されないものの、機能をもつtRNA、rRNAやノンコーディングRNAなども遺伝子の中に含められるようになっている。本書では、特に注意書きのない限り、タンパク質の元となるmRNAになる部分を遺伝子、と呼ぶ。

 では、その転写因子はなにが発現させるのか、というと、やはり別の転写因子である。卵の段階から、母親からmRNAとして最初期に発現する遺伝子は受け取っているので(母性RNA)、発生の最初期に使う転写因子を含む遺伝子群に関しては、転写の必要がないのである。その後、発生、分化が進んでいくと、それぞれの細胞集団に必要な転写因子が発現し、実際に機能をもつ遺伝子の転写を促す。

遺伝子は、核酸配列の連続した3塩基(コドンと呼ばれる)が1アミノ酸に対応し、順々にペプチド結合で繋げられてタンパク質となる。3つの塩基は43=64通りになるが、アミノ酸の数は20個、stopコドンを含めても21種類しかない。したがって、同じアミノ酸をコードするコドンは複数あり、たとえ変異が入ってもアミノ酸は変わらないことがある。これを同義置換と呼ぶ。一方で、変異によってコードするアミノ酸が変わってしまう置換を非同義置換と呼ぶ。

 ふたつの系統が祖先を共通にした最後の年代。本章では、近年の分岐年代推定を利用して作成された系統樹(当該文献[9]のFig.1を参照)からおよその年代を読み取り、記入している。

 アフリカツメガエルや、コイ科、サケ目など、進化上の随所でも全ゲノム重複が起こっている。

 最もよく知られている放射性同位元素による年代測定は、放射性炭素年代測定である。炭素12Cは紫外線や宇宙線によって、空気中では一部(1/1012)が常に14Cに変換されている。つまり、大気中ではいつの時代も1兆個の炭素原子のうちひとつが14C、残りが12Cという割合なのである(太陽活動の変化などにより若干のブレはある)。しかし一旦生物の体内に炭素が取り込まれ、そしてその生物が死に、地中に埋まってしまえば、もう宇宙線も紫外線も当たらないので、14Cへの変換は起こらない。ここで14Cは放射性同位元素であることに注目したい。14Cは約5730年で半分が崩壊し12Cに変換される。したがって、14Cの比率でいつその物質が地中に埋まったのかがわかるのである(文献7)。

 ただし、この放射性炭素年代測定では、14Cの検出限界の関係で、せいぜい6万年が限界である。それより昔は火山岩に含まれる物質の、やはり放射性崩壊の半減期を元に推定される。例えば、K-Ar法では、40Kが40Arに13億年の半減期で放射性崩壊することを利用する。溶岩からできたての火山岩か、あるいは何億年も経ったものかを調べることができる。40Kは岩石中に元々大量に存在するため、差異を検出することは不可能だが、40Ar(常温で気体)は大気中には微量しか含まれないため、岩石中に封入された気体の中の40Arの含有率を計測することにより、その岩石の古さがわかる。当然、40Arの率が高い物が古い岩石である。このように、複数の放射性元素の崩壊の半減期から地質年代というのは推定される。

 南米にもごく少数ながら有袋類が現存しており、これらのゲノム解析・比較から、オーストラリア・南米で現生の有袋類の共通祖先は、実は南米で生まれ、当時陸続きだった南極大陸を経て、オーストラリアにいたったと考えられている。

 世界で最も臭いといわれているシュールストレミングをネットで取り寄せて購入したとき、人々は逃げるどころか、わざわざ悶絶するために集まってきた。いい匂いの物を取り寄せても20人もの人数は集まるとは思えず、怖い物見たさという悪趣味な好奇心はたいしたものである。無論、取り寄せた私も例外ではない。ちなみに、シュールストレミングはひとかけらをクラッカーの上に載せるくらいの食べ方なら悪くない気もする。

このふたつの硬骨の作られ方について、第3章に詳述があるので参照。

 ガノイン鱗には我々の歯のエナメル質を作る遺伝子と相同な遺伝子が発現しており(文献18)、イメージとしては歯で身体を覆われているようなもので、当然極めて強固である。

 遺伝子にはその由来によっていくつかの異なる呼び名がある。オーソログとは、共通祖先がもつある遺伝子Aが、種分化によって2種以上の生物に受け継がれた時、受け継がれた遺伝子たちをオーソログと呼ぶ。パラログとは、遺伝子重複によって生じたふたつ以上の遺伝子を指す。最近では大野乾氏の功績をたたえ、ゲノム重複によって生じたパラログで現存するものを特にオオノログOhnologと呼ぶ。

 異化と同化……この2種類の化学反応によって生命活動は維持されている。異化は物質を分解してエネルギーを取り出す代謝経路、同化はエネルギーを使って必要な物質を体の中で作り出す代謝経路。

 アデノシン三リン酸の略。生体内のエネルギー通貨として、様々な化学反応に用いられている。

 組織中の核酸分子(ここでは特定の遺伝子から転写されたmRNAを指す)の分布を検出する手法。調べたい遺伝子の塩基配列を元に、そのmRNAに特異的に結合する分子を設計・合成することで特異度の高い検出が可能となっている。

 通常の生物の核ゲノムはそれぞれの両親に由来する染色体が2本1セット存在し(ディプロイド)、その染色体間で組み替えが起こるため遺伝的な由来を辿る作業がしばしば煩雑になる。しかしミトコンドリアは母親由来であるため(ハプロイド)、そのゲノムを利用することで比較的簡便に遺伝的な類縁関係を遡ることが可能となる。

 増幅断片長多型:制限酵素で切断したゲノムDNA断片をPCRにより増幅し、断片の長さの違いを網羅的に検出比較する方法。この断片長の違いを種間の類縁関係の推定に使用することが多い。

 sexual conflict。ある形質が片方の性にとっては有利だが、もう片方の性にとっては不利な場合にオスメス間で生じる対立。

 次世代シーケンサーを利用して、各組織に発現する遺伝子の種類や量を網羅的かつ定量的に推定する解析方法。

 真核生物のゲノムに散在する反復配列のうち、一度DNAからRNAに転写され、その後に逆転写酵素の働きでcDNAとなってからゲノム中の別の座位に組み込まれるものを指す。数多くのレトロポゾンが存在しており、例えばヒトゲノムは約40%がレトロポゾンによって占められている。

 太陽光には連続したことなる波長成分の光が含まれているが、その波長によってエネルギーが異なるため、水中に到達する波長成分の割合が深さによって異なることがわかっている。特に濁ったビクトリア湖のような水環境では浅場の方が短波長である青色光の成分が多く、深場では長波長の黄色〜赤色の成分が多いことがわかっている。

 タンパク質をコードするDNA配列上の塩基置換にはアミノ酸の置換を伴う非同義置換と、伴わない同義置換がある。一般に、同義置換は生体に影響を及ぼさないため中立であるが、非同義置換は生体にとって不利であることが多い。ただしタンパク質の機能変化が個体にとって有利な場合は非同義置換の割合が上昇することが知られており、それを正の自然選択と呼ぶ。同義置換と非同義置換の割合を統計学的に比較する方法がある。詳細については第7章およびコラム「適応進化に関わる候補遺伝子や候補領域を絞り込むアプローチ」を参照。

   発生初期の胚の一部の細胞群から作られ、生殖細胞を含む様々な組織に分化可能な性質(多能性)を有する細胞株。英語名(embryonic stem cells)の頭文字をとって、ES細胞と呼ばれることも多い。

 変異体を元になった親系統と交配すること。TILLING変異体に関しては変異以外の部分を親系統由来のゲノムに置換するために行う。1回の交配で全体の50%の領域が置換されるため、90%以上を置換するためには最低4回の、99%以上を置換するためには最低7回の戻し交配が必要である。

 タンパク質の二次構造のうち代表的なモチーフのひとつ。水素結合により形成されたらせん状の形である。

 Francis Crickが1958年に提唱した、遺伝情報がDNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質、という流れで伝わるという概念のこと。分子生物学の基本となる極めて重要な概念である。

 ヒメダカの原因遺伝子としてだけでなく、ヒトの先天性白皮症(つまりアルビノ)やホワイトタイガーの原因遺伝子としても知られる。水素イオンを運ぶトランスポーターをコードすることがわかっているが、その黒色素産生(メラニン合成)における機能は未解明な点が多い。

 相同組換えの鋳型となる外来DNA断片のこと。通常、導入したい配列(GFP遺伝子や特定の塩基置換など)の上流・下流それぞれに、導入したいゲノム領域と相同な配列(相同アームと呼ばれる)を持ったDNA断片である。

 RNAポリメラーゼが結合し、RNAを転写するのに必要最小限の遺伝子上流配列。通常、単独では下流の遺伝子は転写されないが、周辺に転写活性化領域(エンハンサーなど)が存在すると、その影響を受けて下流に存在する遺伝子が転写される。

 オオシモフリエダシャクの「工業暗化」の例を考えるとわかりやすい。これは、産業革命以降のイギリスで、暗化型と呼ばれるより黒い個体の割合が多くなったとされる例である。この蛾は、自然が多い地域では淡色型が目立ちにくく、鳥に捕食されづらかったが、すすで黒くなった木が多い工業地帯では、より黒い暗化型のほうが目立ちにくく、生き残りやすかった。この場合、仮に蛾の色をより黒くするアミノ酸変異が生じたとすると、そのアミノ酸変異は工業地帯で生存に有利で、固定されやすいだろう。ちなみに、近年、具体的にどんな遺伝的変異がこの工業暗化に関わっていたのかが詳細に解析されつつある。

 SWS = short wave sensitive opsin、つまり短波長の光に感受性をもつオプシンのサブタイプ。

 第4章にも記載されているように、深いところには波長の長い赤い光のみが届く傾向がある。つまり、水深の深いところに棲む集団では、青い光を感受するSWSの機能は重要ではなくなってしまう。

 Gタンパク質はGTP結合タンパク質ともよばれ、GTPと結合することで活性化される。GTPを加水分解する性質をもっており、結合しているGTPがGDPに加水分解されると自身が不活性化される。受容体からの信号を中継するものは三量体(α、β、γサブユニット)として存在している。

 神経伝達物質は、放出された後、即座に分解されなければ迅速な伝達を成し得ない。したがって、こういった分解酵素の存在は、ATPが実際にその部位で神経伝達物質として働いていることの傍証となる。

 セロトニンは生体内に存在するモノアミンの一種であり、神経系では神経伝達物質として機能する。生体内のセロトニンの大部分(〜95%)は腸管に存在しており、神経系に存在するものは割合としては小さい。神経系では中脳の縫線核という部位のニューロンで産生され、情動機能等に関係しており、セロトニンの再取り込み阻害剤には抗鬱薬の作用がある。味蕾に存在するセロトニンはそれらとは別の働きをもっていると考えられる。

 迷走神経には感覚性の線維と運動性の線維の両方が含まれており、ここでの迷走感覚神経とはその中の感覚性の要素のみを指す。

 神経細胞(ニューロン)で、突起状の構造(軸索や樹状突起)以外の、核の周辺部の構造を細胞体という。

 ある細胞が放出するリガンドが、その細胞自身の受容体に働くことを自己分泌という。近傍の細胞の場合は傍分泌と呼ぶ。近隣の同じ性質をもった細胞に作用する場合と、自分自身に働く場合を合わせて、自己・傍分泌と呼ぶことが多い。哺乳類のキスペプチンニューロンは、キスペプチン以外に放出するニューロキニンB、ダイノルフィンと呼ばれるペプチドが、キスペプチンニューロン自身に作用することで、アクセルとブレーキのように働き、そのタイムラグでキスペプチンの放出を間歇的に引き起こす。これが前述のGnRHパルスを生み出しているとされている。

 市場に出ている子持ち昆布の中には、ニシン以外の魚(タラの仲間など)を用いて加工されているものもある。また、本物のニシンの卵の場合も、自然に海藻に産みつけられた卵はもっとまばらなので、あのようにびっしりと卵が並んで食べ応えのある子持ち昆布は人為的に作られているようだ。

 タンパク質の一次構造を形成する際にアミノ酸間に形成されるペプチド結合ではなく、側鎖にあるアミノ基とカルボキシル基の間に形成されるペプチド結合のこと。

 2-⑴で述べたように魚類の卵膜の別名は“コリオン”である。将来コリオンになるタンパク質のため、“材料”の意味をもつ“-genin”をつけて、コリオジェニンと呼ばれている。

 遺伝子のうち、半数体ゲノムにつき1コピー(体細胞では2コピー)しかない遺伝子以外のもの。

 共通祖先から生じたいくつかの遺伝子のうち、異なる生物種において類似または相同な機能をもつ遺伝子同士のこと。たとえば、ヘモグロビン、ミオグロビン、サイトグロビンなどは共通祖先から由来するグロビン遺伝子ファミリーであり、ヒトもマウスもこれらの遺伝子をもつが、このうちヒトのヘモグロビン遺伝子とマウスのヘモグロビン遺伝子はオーソログの関係にあるといえる。

 遺伝子ファミリーの中には、突然変異などによって機能を失ってしまうものがある。例えば、変異によって翻訳の途中にストップコドンが入ったり、プロモーターの欠損による転写不能や、転写後のプロセッシングに関与する配列の欠如による成熟mRNAの形成不全などがある。このように、配列の痕跡は残っており、どの遺伝子ファミリーに属するかは明らかだが、機能的でない遺伝子を偽遺伝子(Pseudogene)という。

 魚類では毎年数百の新種記載があり、2018年現在において硬骨魚類の現生種の記載数は3万をこえる。

 栄養リボンという邦訳は、山岸宏『比較生殖学』(東海大学出版会、1995年)による。

 第8章で触れられているデンキウナギなどは、長い身体の大部分が発電器官になっており、肛門の位置が同じように著しく前方に位置する。

 酵素活性は同じであるが、アミノ酸配列の違いによって性質の異なる酵素タンパク質。タンパク質の電気泳動度の差異から、その支配遺伝子座における遺伝子型の差異を検出できる。

 生物相の分布境界線で、この線を挟んで動植物相が大きく変化する。この線の西側が東洋区、東側がオーストラリア区とされる。ウォーレスとウェーバーがそれぞれ異なる境界線を提唱した。スラウェシ島やティモール島は両者の境界線の間に位置する。

 個体や系統を識別する上で目印となるDNA配列のこと。系統間で塩基配列が異なる領域があれば、そこをDNAマーカーとして利用できる。

 ゲノムDNAを制限酵素で切断し、100〜200kbの断片を細菌人工染色体(BAC)ベクターに組み込んでクローン化したもの。大きな領域の物理地図や塩基配列決定に必要とされてきた。

 DNAマーカーや既知のクローンを用いて、配列が一部重なり合うクローンを同定する作業を繰り返し、目的遺伝子近傍のクローンコンティグを作成する方法。

 ミュラー管とは哺乳類の発生過程で将来卵管になる管で、オスではこのホルモンの働きによって退縮する。しかし、真骨魚類にミュラー管はなく、別の機能をもつと考えられる。

 メダカ博士こと山本時男博士は、1953年d-rR系統(オスが緋色、メスが白色の限定遺伝をもとに育成作出された系統、X染色体上に潜性(劣性)のr遺伝子、Y染色体状に顕性(優性)のR遺伝子をもつ、体色により遺伝的な性の判別が可能)の孵化直後から性ホルモンを経口投与して性の人為的転換に成功した。すなわちXrXrでもアンドロゲン投与によりオスとなり、正常メスXrXrと交配して、メスメダカばかりを生んだ。XrYRもエストロゲン投与によりメスに性転換し、正常のオスXrYRと交配した。性ホルモンによる性転換が多くの研究者から示されていたが、山本博士によって初めて遺伝的な性と性ホルモンによる性転換の関連が明らかにされた。コラム⑧も参照。

 コ・オプション(co-option)、遺伝子の使い回し。既存の遺伝子が新たな機能を担うようになること。

 非同義置換よりも大きな影響を与えるのがフレームシフトである。3の単位で塩基は読まれていくが、もし、3の倍数以外の挿入/欠失が起こった場合は、その後の配列が全て読み枠がズレてしまい、その挿入/欠失より後(C末端側)ではまったく異なるタンパク質ができてしまう。

008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称

通称ブレグジット(英語: Brexit)とは、イギリスが欧州連合(EU)から離脱すること