第7章 脊椎動物の脳の起源︱円口類の脳

はじめに

 脊椎動物は古来より魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類に分類されてきた。現在の系統学では、図1のような関係になる。脊椎動物が地球上に最初に現れたのは、およそ5億年前のカンブリア紀である。その頃の脊椎動物は上下で関節する顎を持たない点が特徴で、現生のものとは非常に異なる、奇妙な形を持つものが多い。

図1.脊椎動物の系統。[原図は平沢達矢博士による]

顎を持つものと持たないもの

 顎を持たない(獲得していない)脊椎動物のうち、現在も存続しているのは後述する円口類のみである(図1)。絶滅してしまったグループとしては、アナスピド(欠甲類)、ヘテロストラカン(異甲類)、アランダスピスなどがある(図2)。欠甲類については、その系統的位置について不明な点が多い。異甲類はその名の通り背側と腹側に装甲のような異様な構造が発達している。このグループのドリアスピスは極めて奇妙な形態をしており、まるでノコギリザメのような吻部は可動式であったらしい。目の位置がかなり前にあるアランダスピス類は完全な皮骨性の骨格を持った最初の系統である。顎を持たない魚類にはその他にもガレアスピス、オステオストラカン(骨甲類)がいるが、顎がないにもかかわらず系統的には(ともいう)に含まれている。これらの動物には外骨格の装甲を持つという特徴があり、後に胸鰭が進化した。そして、顎を獲得した最初の系統がプラコダーム(板皮類)である。

図2.初期の脊椎動物の系統関係。ガレアスピドと骨甲類のどちらが現生顎口類に近いのかについては不明な点が多い。

脊椎動物の脳の起源の謎を解く生物︱円口類

 実に多様な形態を発展させた顎無しの脊椎動物が、進化史から姿を消していったのに対し、地球上では顎を進化させたグループが台頭し繁栄していく。現生の顎口類が全て顎を備えていることを鑑みると、脊椎動物の繁栄にとって「顎の獲得」が極めて重要であったと言えるだろう。顎を獲得することで効率的な捕食が可能となり、餌のレパートリーも増え、脊椎動物が捕食者としての生態的地位を確保することが可能になったと思われる。ただし、種数は決して多くはないが、顎を持たない脊椎動物の末裔は今でも地球上の至る所に生息している。それらが円口類であり、ヤツメウナギ類とヌタウナギ類がこれに含まれる(図3)。

図3.ヤツメウナギとヌタウナギ。[提供:菅原文昭博士]

 これらの動物は他の脊椎動物とは大きく異なる怪物的な形態をしている。また両者は互いの姿形も著しく異なっているため、以前は別々の系統に属すると考えられていた。しかし、20世紀の終わり頃から21世紀にかけて詳細な形態比較や遺伝子配列の解析が行われた結果、両者は現在では円口類という共通のグループに含められている(図1)。 生きた円口類が現在も生存していることは、脊椎動物の進化を研究する者にとっては極めてありがたいことだ。というのも円口類は脊椎動物の進化の過程でかなり初期の段階で分岐したグループなので、円口類と他の脊椎動物を比較することで、脊椎動物の祖先が備えていた形質(祖先形質)についての手がかりを得られるからだ。ちなみに円口類もそれが分岐した後、世代交代を重ね進化し、多くの形質を独自に獲得している。したがって円口類が「原始的」であるという表現は誤りである。あくまでも顎口類との比較で共通な形質があれば、それが「円口類と顎口類との分岐以前に獲得された形質である」と言えるのだ。

 ヤツメウナギは38種中29種が淡水性である。ヤツメウナギの成体の頭部にはレンズと外眼筋を備えた一対の眼と、7対の鰓穴がある。そのため眼と鰓穴を足してヤツメ(八つ目)ウナギと呼ぶらしい。ただしドイツ語ではNeunaugenすなわち「九つ目」と呼ばれている。これは目の前方にある単一の鼻孔も目のひとつとして数えているためである。ヤツメウナギ類は吸盤状になった口で他の魚を襲い、体液や筋組織を摂取する。これがサケやマスの体表に吸い付き、鰓の中にまで頭を突っ込んでいる様子はおぞましいとしか言いようがない。一方、その幼生(アンモシーテス)10センチほどの小型の生き物で、濾過食性であり、河川の砂泥中で数年間過ごした後、変態して海へ下る。これら幼生は脊索動物のホヤ類が持つ内柱(粘液タンパク質を口腔内に分泌する器官)と呼ばれる器官を持っていることから、脊椎動物の祖先に近い形態を一部残している可能性がある。

 ヌタウナギは知られている70種が全て海性である。その眼は発生過程の間に眼球や視神経などは形成されるが、その後は皮膚の下に埋もれてしまう。ただし光を感知することはできるようだ。ヌタウナギには116対の鰓穴、鼻孔と口の周囲には34対のヒゲ(肉質の突起)がある。体の各所に粘液腺を備え、外敵に襲われると粘液を放出する。この粘液は相手の鰓を詰まらせてしまう役割を持つようだ。弱った魚やクジラの死体などを食べる。目が退化する代わりに嗅覚がよく発達し(ただしヤツメウナギと同様に鼻孔はひとつである)、その脳も嗅覚情報を処理する嗅球が著しく肥大している。また、ヒゲには三叉神経という神経が入っていて、体性感覚(触覚)や化学感覚の受容に関わっている。一方で、魚類や両生類などに見られる側線神経を持つが、あまり発達しない。

初期の魚類

板皮類・棘魚類・軟骨魚類

 顎を持つ魚類には、板皮類[ばんぴるい]、棘魚類[きょくぎょるい]、軟骨魚類、条鰭類、肉鰭類があるが、板皮類が最初の顎口類のひとつと考えられており、頑丈な頭骨を備えていた。それらのうち、デボン紀後期の北米や北アフリカに生息していたダンクルオステウスは、体長が推定610メートルもあったと考えられており、その大きさもさることながら、その頭部はまさにモンスターである。魚類のふたつ目のグループである棘魚類は主に淡水域で栄えたグループで、クリマティウスやアカントーデスが有名である。尾ビレを除く全てのヒレに鋭い棘を持ち、胸ビレと腹ビレの間にも対になって並ぶ棘(副対鰭)がある。これらはシルル紀頃に出現し、デボン紀の海で繁栄した。しかし残念ながらペルム紀までに絶滅している。

 軟骨魚類は、現生の脊椎動物の中では顎口類の中で最も初期に分岐したグループである。軟骨魚類にはギンザメ(全頭類)とサメ・エイ(板鰓類)がいる。これらのうち、サメとエイはその機能的で美しい形態や、優雅な泳ぎ方、大型種を含むことから、古来より人々の注目を集めてきた。何よりも人を襲う種がいるという事実が、人々の畏怖と好奇心をかき立ててきたと思われる。スティーブン・スピルバーグ監督の映画「ジョーズ」1975で描かれたホホジロザメの迫力は凄まじいものがあった。また日本の神話においても、出雲大社の祭神であるオオクニヌシにまつわる「因幡の白兎」伝説にサメが登場する(物語中ではと呼ばれている)。また、学術的な面でも、板鰓類は比較形態学、比較発生学の分野で古くから用いられており、サメを用いた研究により得られた重要な知見は数多い。頭部分節説における頭腔に関する論争や、神経科学の分野では終神経の発見などが挙げられる。

 一方、板鰓類に比べてギンザメの知名度はそれほど高くない。しかしながら、ギンザメ類は軟骨魚類の中でも原始的な形質を有しているとされ、ゲノム解析などにより興味深い結果が得られつつある。

 板鰓類はシルル紀後期頃に出現して以来、海洋の食物連鎖の頂点に君臨し続けてきた。地球の海洋には真骨類や爬虫類や哺乳類など、より洗練されたシステムを持つ動物が次々と進出していき、それらの中には体長およそ21メートルの条鰭類リードシクティスや巨大な海棲爬虫類のモササウルス(オオトカゲに近縁とされる)などもいるが、板鰓類はそれらがいた時代を生き抜き、それらが滅んだ後も海洋生態系の覇者として存続している。これは、もともとの設計図が優れていた(海洋という環境によくマッチしていた)ということであろう。

 これら軟骨魚類は、その名の通り軟骨性の骨格を持っている。これは祖先的な形質であると考えられてきたが、エンテログナトゥスという板皮類の化石の研究などから、皮骨性骨格は軟骨魚類と硬骨魚類の共通祖先の段階で獲得され、軟骨魚類はむしろ二次的にそれを退化させたと考えられるようになった。ただし、軟骨魚類は硬い組織をただ失ったということではなく、硬い装甲を発達させる代わりに、サメ皮に見られるような小粒ではあるが硬い、まるで鎖帷子のような構造を発達させている。

脊椎動物の脳の多様性と普遍的パターン

 脳は脊椎動物の生理や生態を特徴づける本質的な要素のひとつである。つまり、先述のように脊椎動物の適応放散の過程では、系統ごとに形態や生理機能に様々な変化が生じているが、その形態を「使いこなす」ためには何らかの制御システムが必要となる。空を飛ぶための飛行機は主翼や尾翼など飛行のための構造を持つが、実際に飛ぶためにはそれを動かすための操縦システムが必要となろう。もしゴジラが実在したならば、その巨体や長い尾を適切に動かす指令を発する場所や、熱線を口から吐く際にその方向や出力を調整するシステムが必要となるだろう。それが脳である。

 脳は全身に張り巡らされた神経ネットワークによって、体の様々な器官を直接的あるいは間接的に制御しているので、あらゆる生理機能の要といえる。動物には空を飛ぶものや水中を泳ぐものがおり、その形態は多岐にわたっているが、脳も同様に種分化の過程で脳以外の形態と共進化するかのように様々な形態へと進化してきた(図4、図5)。別の言い方をするなら、脳の形態は、その持ち主の形態や生理機能を反映しているのである。だから、脳の外部形態を概観するだけでも、その持ち主の性質をおおよそ言い当てることができる。

図4.脊椎動物の脳の基本構成。嗅球と終脳半球を合わせた領域が終脳(大脳)である。IIは視神経を示す。

 例えば、中脳は目の網膜から多くの視覚入力を受け、小脳は平衡覚や運動の制御に関わっている。したがって、中脳が大きい場合、その持ち主は視覚が発達しているであろうし、小脳が大きい場合は多かれ少なかれ運動能力が優れているであろう。逆にいえば、水中や空中を活発に動き回る活動的な動物では小脳が発達していると推測できる。もしゴジラが実在したなら、水中を移動し、さらに陸上では器用に二足歩行しているので、小脳はよく発達しているだろう。熱線を発する際の方向や出力の調整には、クジラが音波を特定の方向に発する場合と同じく、顔面神経系が使われているのではなかろうか。

図5.様々な脊椎動物の脳(全て背面からの観察)

> 脳にはそのような多様化が見られる一方で、脊椎動物系統間で高度に保存された「普遍的な」形態パターンも存在している。例えば、脳は前方から後方にかけて、終脳、間脳、中脳、菱脳が並んでいるが、その構成は、どの種でも変わらない。さらにそれら脳領域の中にある神経細胞の種類や神経伝達物質、領域と領域をつなぐ神経軸索の配線様式もよく似ている場合が多い。つまりこうした要素は脊椎動物の進化の初期段階で出来上がり、それを皆が大事に受け継いできたと考えられる。

 では、そうした祖先の脳とは実際のところどういったものだったのか? それを調べるための方法は大きく分けてふたつある。それぞれについて見ていくとしよう。

脳の起源の探索︱化石を使った探索

最古の脊椎動物の脳

 脊椎動物の脳の進化的起源に迫るための最も手っ取り早いやり方は、祖先となった動物の脳を直接観察することである。もしも化石化した動物の脳を調べることができれば、脳の進化について貴重な情報が得られることは間違いない。恐竜や翼竜の脳がどうなっていたのかは極めて興味深いところであるが、脊椎動物の黎明期の動物の脳もそれに劣らず重要である。それは我々が持つ脳にいたる壮大な進化がどのように始まったのかを教えてくれるからだ。

 ではカンブリア紀に現れた最初の脊椎動物ハイコウイクチスの化石から何がわかるだろうか? これらの動物には鰓らしき構造や、対になった眼、耳胞や鼻孔らしきものを備えている(図2)。この動物に見られる鰓状の構造が脊椎動物型の鰓弓(鰓やその派生物である顎などを作る要素)であったとすれば、それらを作る「神経堤細胞」が存在していたことを示している(図6)。そうであれば、神経堤細胞によって作られる末梢神経系の神経節なども存在していた可能性が高い。

図6.A:脊椎動物のプラコードと神経堤細胞。プラコードは表皮の一部が分厚くなった部分のこと。発生期の脊椎動物の頭部には汎プラコード領域と呼ばれる場所があり、そこから鼻プラコード、下垂体プラコード、三叉神経プラコード、上鰓プラコードなどが生じる。これらが末梢にある感覚細胞や脳神経節のニューロンを形成する。神経堤細胞は胚の背側で表皮と神経板の境界付近から発生する。その後、体のあちこちに移動してゆき末梢神経系の神経節を作る。神経堤細胞は神経細胞以外にも色素細胞、さらに骨などに分化する。
B:化石魚類の脳をエンドキャスト解析で可視化したもの 
Thomasら(1971)を改変
C:脳形成に関わる遺伝子の比較。PAL:外套、MB:キノコ体。
[Tomerら(2010)を改変]

 また、頭部の感覚器(目や鼻)があれば、視覚器や嗅覚器の感覚細胞や感覚神経を作る「プラコード」という構造があったことが予想できる(図7)。つまり、脳に関連する神経要素の有無がこれらの化石から推測できるのだ。しかし脳そのものは化石には残らないため、化石動物から知ることは難しい。

 ただし、化石から脳の形態を知る手段は存在する。それは、化石化した頭蓋骨の内部にある空洞から脳の形を類推する方法(エンドキャスト解析)である。デボン紀に生息していた骨甲類(キアエラスピスやノルセラスビス)の脳がこの方法により調べられ、中枢神経系の大まかな形態が明らかにされている。これらの種の化石では、末梢神経の形態も極めてよく保存されており、現代の脊椎動物に見られる脳神経が同じようなパターンで存在していたことがわかっているが、頭部の両脇に網目状に広がる正体不明の構造も確認されている(図6)。

コラム:円口類の脳の形態
円口類の脳は、体重に対する脳体積の割合では脊椎動物の中で最も低い値を示す(同じ体サイズのヤツメウナギとヌタウナギでは後者の方がその値が2〜3倍大きいようだ)。しかしその脳の形態を見ると、前から順に嗅球、終脳半球、間脳(視床下部、下垂体を含む)、中脳、菱脳が並んでいるのがわかる(下図)。この並びは他の脊椎動物と同じである。つまり、これらの領域は脊椎動物の共通祖先の段階で獲得されていた可能性が極めて高い。ただし、他の脊椎動物と異なる点もいくつかある。特にヌタウナギの脳は特殊化が著しい。彼らは巨大な菱脳を持つが、その背側には小脳が見られない。発生期には脳室(脳内にある腔所、後述)が見られるが、成体になるとそれらはかなり退縮する。そのため、多くの脊椎動物で脳室の背側に発達する脈絡叢がヌタウナギには見られない。また、円口類では通常の脊椎動物では中脳と菱脳の間にあるはずの小脳が不明瞭である。  また、ヤツメウナギもヌタウナギも髄鞘(ミエリン鞘)が見出されていない。つまり、中枢神経系でミエリン形成に関わるオリゴデンドロサイトがこれらの動物には存在しないと思われる。ミエリン化された軸索では跳躍伝導が起こり神経伝達のスピードが上がる。これを持たない無顎類では、体が大きくなった場合、尻尾の先に何かが触れてもそれを脳で感知するまでに時間がかかってしまうだろう。初期の無顎類は小型のものが多いのはこれも関係しているかもしれない。一方、ミエリンを獲得していたと思われる初期の顎口類にはダンクルオステウスに代表される10メートル近いサイズを誇る種がいた。このことを考えると、ミエリンの獲得は顎口類の進化的な成功に少なからず関わっているのかもしれない。

 

最新の手法による化石の脳の再現

 最近、化石動物の脳形態を探る画期的な方法が確立されてきた。それは医学で用いられているコンピューター断層撮影CTの技術を使って化石動物の頭骨の内部構造を調べ、そこにある空隙などの情報から、筋肉や神経などの軟組織の情報を得る方法である。この方法により、様々な古生物の脳の形態が(頭骨の内腔から予想した間接的なものではあるが)、明らかにされつつある。

 初期の顎口類については、板皮類のロムンディナという種の脳の形を三次元的に再構築した研究がなされている。それによると、ロムンディナの脳は終脳が小さく前後に短く、顎口類よりもむしろ円口類の脳に近いらしい。現生の顎口類は一般的に前後に伸びた終脳を持っているのだが、顎口類の初期の段階では終脳の形態進化がまだ起きていなかったようである。

 こうした画期的な研究がなされてはいるものの、脳の機能は脳内の神経細胞や神経回路によって遂行されるため、外形が体裁を整えていたとしても、その中身の様子はわからない。それを調べるには、少し遠回りになるが、実体のある脳を持つ現生生物を使うしかない。

脳の起源の探索②︱発生に関わる遺伝子を使った探索

現生動物の脳を比較する︱比較形態学と比較発生学

 脳進化の過程を探るにあたり、古生物学の知識を補完あるいは上書きできるのが比較形態学である。これはヒトの脳を基準としながら、それとは異なる進化を遂げた動物の脳を調べて互いに比較し、どこまでが共通でどこからが異なるのかをつきとめ、脳が経てきた進化過程を再構築するのである。その研究の歴史は長く、これまでに様々な動物の脳が調べられてきた。本章のメインテーマである「脳の進化」についても、脊椎動物の進化の初期に分岐した円口類の脳を用いた比較形態学から、重要なことが見つかっている(コラム:円口類の脳の形態)。ただし、完成した成体の脳はあまりに複雑すぎるため、系統間での比較が困難なことが少なからずある。ならば、脳ができてくる過程をみれば、もっとわかりやすい比較ができるのではないか? このような疑問を受け、最近の脳進化研究では脳の発生が注目されている。

 脊椎動物の脳は、神経管という単純なチューブ状の構造がいくつかの領域に分かれることで形成される(図7)。興味深いことに、発生期の脊椎動物の脳では、多くの遺伝子が特定の場所に現れて(発現して)機能している(図8)。これらの遺伝子が脳を作るのに関わっているならば、鳥と哺乳類のように脳の形が大きく異なっている場合、これらの遺伝子の発現場所や機能が両者で多かれ少なかれ異なっていることが予想される。

図7.脊椎動物の中枢神経系の発生(水平断面)。神経管は発生期の胚の表皮外胚葉が陥入してチューブ状になったものであり、発生に伴って前から順に前脳胞、中脳胞、後脳胞に分かれる。これらが後に様々な脳領域になる。ただし真骨魚類では3つの脳胞のうち、2番目の脳胞から中脳と菱脳吻側部ができるという報告があり、他の脊椎動物の発生パターンと一致しない。

図8.発生期の脊椎動物の中枢神経系の模式図。 村上安則「生命の科学」 66 (3), 2015(医学書院)を改変して引用

 このように「脳の発生に関わる遺伝子」を使って進化を探る試みは、進化発生学(EVO−DEVOとも言われる)と呼ばれている。この考えに従えば、もし全ての脊椎動物の脳に共通して発現し機能している遺伝子の組み合わせがあれば、それこそが祖先が備えていた脳形成の仕組みである。そして、この研究は思わぬ発見へとつながっていく。脳を作る遺伝子が、脊椎動物の中だけでなく、昆虫などの無脊椎動物でも共通していることがわかったのだ。

進化発生学が見いだしたもの

 古典的な形態学では、脊椎動物と、昆虫をはじめとする節足動物は全く異なる生物であり、互いに異なる発生プログラムを持つと考えられていた。なお、現在でも哺乳類と昆虫とは別物であるという考えは一般的には広く信じられているかもしれない。脳の発生についても、脊椎動物の脳は神経管の一部がふくらむことで形成されるが、昆虫の脳は外胚葉が肥厚したプラコード様の組織から作られる。また脊椎動物の神経系は消化管の背側に位置しているが、節足動物など無脊椎動物の多くでは神経系は消化管の腹側にある。このような背景から、両者の脳は由来を同じくする「相同」なものではないと言われてきたのである。しかしながら、分子発生学が進み、脊椎動物と昆虫の体を作る遺伝子が比較できるようになると、それら遺伝子の発現の様式やいくつかの遺伝子の発現の組み合わせが互いによく似ていることがわかってきた。脳を作る過程で働く転写調節因子についても、哺乳類のマウスと無脊椎動物の一種である環形動物のゴカイで共通のものが多く使われているのである(図7)。

 脳を作る基本的な仕組みを脊椎動物と節足動物が共有しているということは、この仕組みは前口動物と後口動物の共通祖先の段階で確立されていたことを意味している。このように、従来の形態学的「相同性」の概念にあてはまらないが、遺伝子レベルで見ると保存性が見られる現象を「深い相同性」(deep homology)と呼んでいる。しかし最近になって、体幹部の神経系は、左右相称動物の幾つかの系統で独自に進化した可能性が示唆されている。それについては第2章を参照されたい。

菱脳の起源

 これからいよいよ脳の起源を探っていこう。一般的に感覚系の情報は菱脳から入って小脳や中脳、終脳などの統合中枢に運ばれていくので、これからの説明は脳の後ろ(菱脳)から前へ(終脳)へと進めていく。

 菱脳は脳の後部(尾部)に位置し、脊髄と接している。比較形態学の分野では後脳(小脳と橋)と延髄を合わせた領域を菱脳と呼ぶ場合や、橋と延髄をひっくるめた領域のみを菱脳とする場合もある。本章では後者の立場、すなわち小脳を除き、延髄と橋を含む領域を菱脳と呼ぶ。

 一般的に菱脳には頭部にある脳神経系の神経節から様々な感覚神経が入力する。また、体幹や四肢から脊髄を通ってやってくる感覚情報も菱脳に入る。例えば、海を泳いでいる人の顔面にヤツメウナギがベタッと吸い付いたとすると、まるで巨大なヒルに吸い付かれたようなおぞましい感触が皮膚にある感覚器で感知され、菱脳へと伝わる。そこからより高次の脳領域に情報が伝えられてい。

 人にとってのこの惨劇をヤツメウナギの側から見ると、ヒトの頬にベタッと吸い付くときには、その恐るべき吸盤が相手の皮膚にきちんとひっつくように細やかな調整をしているだろう。それは吸盤の筋肉を支配する運動神経によってなされる。そうした運動神経(この場合は鰓弓運動神経のひとつ三叉神経運動枝)は菱脳に細胞体があり、その軸索が脳から出て吸盤の筋肉を支配している。これら感覚性や運動性の神経核が前後軸に沿って規則的に並んでおり、その様子は柱を横にしたようにイメージされるため、カラム(column)と呼ばれる。例えば、運動性の核については、前から順に三叉神経運動核、顔面神経運動核、舌咽神経運動核、迷走神経運動核が並ぶ。これら「似ているけれども少し違う」神経核が前後に並んでいるのが菱脳の大きな特徴だ。菱脳には触覚・聴覚・味覚など、様々な情報が入力されるので、それらを振り分ける上でこうした分節構造が有益なのかもしれない。

菱脳の発生様式

 前述のように、菱脳にはよく似た性質を持つ神経核が前後に並んでいるが、このような構造ができる秘密は、その発生過程にある。菱脳が形成されている時期の脳の様子は、成体のそれとはかなり異なっており、その形は一見するとまるで昆虫の幼虫のように見える(図8)。これは発生期の脳にはふくらみとくびれが連続し、ボコボコした分節構造を生じているためである。これらの分節は現在では脳分節(神経分節:ニューロメアとも)と呼ばれており、菱脳にあるニューロメアはロンボメアと呼ばれている(図9)。各々のロンボメアを構成する細胞は互いに混じり合わず、それぞれから特定の神経核ができる。またロンボメアは繰り返し構造なので、ちょうど昆虫の体節のように、よく似たセットの神経を作るが、それぞれのロンボメアの性質は完全に同じではなく、少しずつ違う。このことが菱脳にみられる「似ているけれども少し違う神経核が並ぶ」カラム構造を作り出す基盤となっている。つまりロンボメアは菱脳という構造物の最も基本的かつ重要な枠組みなのだ。各ロンボメアからどの神経が発生するかについては、ここで書くと大変煩雑になるためコラムにまとめてみた(コラム:ロンボメアから発生する神経)

コラム:ロンボメアから発生する神経
顎を(ヤツメウナギでは吸盤を)動かす役割を持つ三叉神経運動核は、2、r3から発生し、顎や歯の触覚に関わる三叉神経主感覚核はマウスではr2とr3、ニワトリではr1からr3から発生する。マウスでは、眼球に附属する筋肉を動かす外転神経運動核はr5から発生し、聴覚系の神経核である上オリーブ核や台形体核もr5から発生する。平衡覚に関わる前庭神経内側核はおよそr5-7に生じる。味覚の情報が入力する孤束核はr7より後方に形成される。舌を動かす役割を担う舌下神経運動核はr9-r12に位置している。菱脳の前方腹側にある橋核の本体はおよそr3−4に位置しているが、それを作るのはr6-7の菱脳唇に由来する細部群らしいので、後方にある細胞が前方へと移動してきたことになる。同様に、顔面神経の運動核はr6に位置しているが、実はもっと前の方(r4)で発生したものが後方へ移動してきたものである。小脳との連絡や他の脳機能において重要な役割を担う下オリーブ核はr8より後方の腹側に位置しているが、これはr8-11の菱脳唇の細胞が腹側に移動することにより形成されたものである。

 では、このようなロンボメアはどうやってできるのか? その鍵はHox遺伝子群が握っている。Hox遺伝子群を構成する遺伝子の発現はロンボメアの境界とぴったり対応している(図8)。例えば、Hoxa2の発現ドメインの前端はr1/2の境界と符合し、Hoxa3の発現ドメインの前端はr4/r5に対応している。これらのHox遺伝子が欠損すると、そこにできるロンボメアの性質が変わってしまう。つまり特定のHox遺伝子の発現により、個々の分節は独自のアイデンティティを獲得し、特定のニューロンを生み出す特性を得るのだ。

円口類の菱脳の発生

 菱脳の進化的起源を明らかにしたければ、①発生期の円口類の菱脳にロンボメアがあるかどうか、②それらは他の脊椎動物と同一なのかどうか、を見るべきだ。ここ20年ほどの間にヤツメウナギのHox遺伝子とその転写制御に関わる領域の研究が行なわれた結果、ヤツメウナギも他の脊椎動物と同様のHox遺伝子を持ち、ロンボメアに対応したHox遺伝子の発現様式やその発現調節の仕組みも他の脊椎動物とよく似ていることがわかっている。つまり、菱脳の基本設計図は円口類と顎口類の分岐以前の段階で獲得されたと考えられる。

小脳の起源

 小脳(cerebellum)は菱脳(橋)の前方背側に生じる。もともと小脳とは「小さい脳」という意味なのだが、顎口類の小脳は多くのニューロンを持ち、多くの種では脳のニューロンのおよそ75以上が小脳に存在していると言われる。種によっては終脳や中脳よりも巨大化し最大の脳領域となっている例も見られる。このように小脳は系統ごとに多様性があり、しかも極めて重要な機能を担っている。

小脳の構造

 小脳は鳥類や魚類など、空中や水中を三次元的に移動する動物群でよく発達している(図4、図9)。一方、両生類や爬虫類の一部(カメ、トカゲ類)など、あまり活動的でない動物では小脳はそれほど発達しない。これについては、小脳が多くの脊椎動物において平衡覚や固有感覚(身体内の関節の状態などの感覚)を受け、運動の制御に関わっていることと関係があるだろう。この小脳の起源を探るために、その誕生の鍵を握る円口類の小脳を見ていこう。

円口類の小脳の形態と発生

 興味深いことに、円口類では小脳が痕跡的か(ヤツメウナギ)、あるいは全く確認できない(ヌタウナギ)。小脳に特徴的なニューロンであるプルキンエ細胞、顆粒細胞も円口類でははっきりしない。それに対し軟骨魚類は正真正銘の小脳を持つ。例えばサメの小脳には平衡覚の情報を受ける前庭小脳と小脳体があり、小脳体には多くの皺が見られる。これを引き伸ばすと脳の中でおそらく最大の領域となるだろう。プルキンエ細胞なども存在している(図9)。つまり、小脳は円口類が分岐し、軟骨魚類が出現するまでの間に劇的に出現したことになる。

図9.様々な脊椎動物の小脳皮質の模式図。小脳は分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層という3つのパートに分けられている。これが顎口類で一般的に見られる教科書的な形態であるが、いくつか例外もある。プルキンエ細胞はふつう単層であるが、ヘビ類では「層」という感じではなく、プルキンエ細胞が塊状に分布している。肺魚や軟骨魚類でもプルキンエ細胞が分子層や顆粒層の中に散在している様子が観察されている。[Butler and Hodos (2005)の図を改変して引用]

 現在の比較形態学の総評として、円口類には「実体」としての小脳は存在しない、としておくべきだろう。真の小脳が現れるのは顎口類からで、その時期はデボン紀あたりか。しかし近年、上記の見解を覆す事実が発生学の分野からもたらされた。脊椎動物の小脳形成には発生期に中脳と後脳の境界に生じ、胚発生の初期に中心的役割を担う峡オーガナイザー(IsO)が深く関わっている(図8)。ここに発現する転写制御因子や、分泌性のシグナル分子が全てヤツメウナギ胚の中脳と後脳の境界部で発現していたのである。つまりヤツメウナギには顎口類の小脳発生の基点となるIsOが存在しているのは明らかだ。

 また、下オリーブ核や橋核など小脳と連絡する神経核群の発生に関わるPax6についても、ヤツメウナギ胚の菱脳背側において「小脳があるとしたらここ」という場所で発現していることを兵庫医大の菅原らが見いだしている。彼らはさらに、ヤツメウナギよりも小脳の発達が悪いヌタウナギでさえ、顎口類と同様に後脳の背側部にPax6の発現が見られることも突き止めた。さらにはヌタウナギのIsO相当領域には他の脊椎動物と同様にFgf8の発現が見られることも判明した。つまり、小脳を特異化する機構のうち、IsOとそこから分泌されるFgf8シグナル、菱脳唇でのPax6の発現は脊椎動物に共通する形質として、円口類の分岐以前の段階で確立されたのだと考えられる。ただし、円口類の系統ではこのシステムが小脳を作るために「起動」することはなく、ヤツメウナギでは貧相な小脳体のみが形成され、ヌタウナギにいたっては小脳体さえも形成されない。それに対し、顎口類の系統では、祖先が確立し維持してきたこのシステムに灯が点り、小脳体の発達やプルキンエ細胞と顆粒細胞の分化など、さらなる発展を遂げたのではないかと推測される。それによって彼らの運動能力がレベルアップし、太古の海を自由自在に泳ぎ回れるようになったのだろう。

 進化の過程ではこのように、確立された当初は表だって役に立ってないように見える仕組みが、後の進化の際に極めて重要になる例がそこかしこに見られる。哺乳類の顎に新しい関節が生じた時に不要になった過去の顎関節が耳小骨として音の増幅装置になったことなどがその例である。このような例を前適応(外適応)と呼んでいる。

 顎口類における小脳の進化的革新に関して、胸ビレや腹ビレなどの付属器の発達は無関係ではないだろう。これらの鰭は飛行機の主翼や水平尾翼のような姿勢制御装置として、あるいはブレーキとして機能するため、水中を三次元的に移動する上で極めて重要である。これらの「翼」を上手く制御するためには、自身の姿勢がどのようになっているかを正確に知る必要があり、また適切な運動情報を出力しなければならない。したがって姿勢制御(運動制御)と平衡感覚の中枢として働く小脳は、対鰭や平衡器などの付属装置と共進化してきたと考えられる。事実、対鰭が無いヤツメウナギ類では、平衡感覚に関わる半規管の数はふたつ(前半器官と後半器官)であり、ヌタウナギは形態的にはひとつである。だが顎口類では三つ(前半器官と後半器官に加えて水平半器官)に増えている。

 小脳の発達とヒレの進化に関係があることは、化石記録からも示唆される。対鰭の発達が見られ始める初期の魚類である骨甲類では、後脳の背側部が肥大しているのだ。その位置から考えると、おそらく小脳に相当すると思われる。すなわち、対鰭の出現に協調するように小脳原基が分化したようなのだ。

 中脳の起源

 中脳はMesencephalon、すなわち「中の、中位の」脳という名が示す通り、脳の真ん中くらいに位置している(図4)。

 一般的に中脳は、①背側に視覚情報を主にして様々な感覚情報が入力する視蓋があり、②中間には被蓋がある(図10)。被蓋には網様体の前部(中脳網様体)があり、他にも黒質や赤核など辺縁系の一部を構成する神経核が存在する。そして哺乳類では③腹側に大脳脚が認められる。これは終脳皮質からの下行性線維の束であり、終脳が著しく発達する哺乳類の特徴である。

図10.脊椎動物の中脳の基本構造(上)。ただし全ての脊椎動物にこれらの要素が全て存在しているわけではない。視蓋への入力様式(下)。キンギョの脳を背面から見たもの(右)。[Butler and Hodos (2005)の図を改変して引用]

視蓋の役割と起源

 現生の脊椎動物の視蓋には層構造が見られる。これは脳の進化を考える上で重要だ。というのも、中脳や小脳、あるいは真骨類にみられる電気側線葉や迷走葉など、高度な情報処理能力が必要と思われる場所には層構造が見られるからである。層構造は情報処理の効率や速度を上げ、様々な情報を統合する上で有効なのであろう。

 円口類のヌタウナギの中脳は比較的小さいが、それでも視蓋には4つの層がみられる。同じ円口類のヤツメウナギは、アンモシーテス幼生の視蓋領域には層構造が見られないが、変態してカメラ眼が生ずる時期には視蓋が拡大し、8つの層構造が見られるようになる。

 視蓋の機能として、①受け取った感覚入力を処理し、②運動において動き方を指令する、③特定の対象に選択的に注意を向ける、ことが挙げられる。こうしたことから哺乳類の視蓋(上丘または前丘とよばれる)のニューロンは動きに対して極めて強く反応するという特徴を持つ。つまり視界に入ったエサをすかさずパクッと食べたければ視蓋に任せておけばいいのだ。しかし、実際の自然界には毒を持つ生き物もいるので、いきなり噛みつくのは危険である。ヒトが公共の場でそれをやると非常識極まりない。そのため、多くの脊椎動物では視蓋で処理された情報が終脳へと送られていて、そこでは過去の経験や、その時の感情などを照合しながら、さらに高次の処理が行なわれている。

半円堤

 哺乳類では下丘(後丘とも)と呼ばれ、聴覚の中枢となる場所である。半円堤は多くの脊椎動物に見られ、視蓋と協同して様々な感覚情報の統合を行なう。円口類のヤツメウナギにも見られるが、同じ円口類のヌタウナギでは半円堤は見出されていない。これについては、ヌタウナギで側線神経が二次的に退化していることと関係があるのではないかと推察されている。

被蓋の特徴と起源

 哺乳類の被蓋には動眼神経核や三叉神経中脳路核、赤核、黒質、青斑核など、脳機能において重要な役割を担う神経核が多く存在する。これらの領域の有無は脊椎動物の系統により異なっている。例えば眼球を動かす外眼筋を動かす動眼神経核は、ヤツメウナギには見られるが、目が退化していて外眼筋が無いヌタウナギには見られない。赤核は円口類には見られない。一方、黒質や青斑核、Mesencephaliclocomotor region(ヒトでいうところの中脳歩行誘発領域)は、円口類の段階で相同と思われる神経核が見出されているため、この神経系の起源は脊椎動物の共通祖先にまで遡る可能性がある。

 中脳には、顎の筋紡錘からの感覚を伝えることによって、顎の筋肉の運動調節に関与する三叉神経中脳路核がある(図10。この核は顎の噛む力を調節する機能を持ち、顎を持たない円口類には見出されていない。この神経核は顎口類の段階で生ずることから、顎の進化に伴って確立されたと考えられている。ただ、ヤツメウナギには神経管の背側にDorsal cellという大型の細胞がいくつか存在しており、これらと中脳路核との関係性が示唆されている。

中脳の発生

 中脳が発生する際にも、小脳の節で述べた狭オーガナイザーIsOが鍵となる。IsOを挟んで前側にはOtx2が発現し、後方にはGbx2が発現する(図8)。発生の初期ではこれらふたつの遺伝子はIsOの辺りで重複して発現しているが、発生の進行に伴い、これらは互いにその発現を抑制しあい、やがて明瞭な発現境界ができる。すなわち、Otx2は前脳胞と中脳胞に、Gbx2は菱脳胞に発現するようになる。そしてその境界すなわちIsOではOtx2と重なるようにWnt1が発現し、ドーパミンニューロンなど生理的に重要な神経の産生に関わる。

 中脳の特徴としては、Pax6が発現しないことも挙げられる。そのため、様々な系統の動物で発生期の脳を見て進化的な考察を行う際には、「Pax6が発現しているか否か」という点が中脳領域を見極める指標となる。

 発生期のヤツメウナギの脳ではOtx2Gbx2の相同遺伝子の発現が他の脊椎動物と同様に境界を形成している。さらに、ヤツメウナギの中脳原基には他の脊椎動物と同様にPax6の相同遺伝子が発現していない。成体のヤツメウナギでは視蓋や半円堤も立派に存在していることを考え合わせると、中脳を作る仕組みは脊椎動物の祖先の段階ですでに確立していた可能性が高い。

間脳の起源

 間脳は今、形態学におけるその定義が大きく揺らいでいる。この地球に生きるほとんどのヒトは絶え間なく降りかかってくる様々な難事への対応に追われていて、自分の脳の中にある場所の定義など気にする余裕などないだろうが、脳の研究者にとっては神経科学の教科書が大きく書き換わる可能性をはらむ事態が生じている。

間脳の基本形態

 脊椎動物の間脳は終脳と中脳に挟まれた領域であり、後方の視蓋前域と呼ばれる領域で中脳と接し、前方では視神経交叉のところで終脳と接している(図8)。視交叉の先には眼がついている。つまり眼は間脳の一部である。哺乳類の間脳はこれまで小さな視床上部、巨大な視床複合体、腹側視床、視床下部に区分けされてきた。

 視床上部は手綱核群、松果体、視蓋前域などから構成される。手綱核群は基底核や辺縁系と連絡しており、左右でその大きさが異なる場合が多い。円口類を含む多くの脊椎動物では、手綱核の背側に光受容や1日のリズム(サーカディアンリズム)を調整する上生体が発生する。これはヒトでは無対の構造であるため、デカルトはここに魂が宿ると考えていた。ただし、円口類をはじめとするいくつかの系統では上生体は必ずしも単体の構造ではなく、副松果体、前頭器官(両生類)、頭頂眼(爬虫類)が隣接している。これらは上生体と共に松果体複合体と呼ばれ、光受容や体内時計の機能に携わっている。

 視床は、羊膜類では終脳と他の脳領域とを中継する極めて重要な場所である。菱脳や中脳からくる感覚性の線維は特定の視床核に入力し、視床核群は終脳の領域と相互に連絡している。したがって終脳が大きくなった種では視床もそれに合わせて発達する。逆に言うと、円口類のように視床から終脳に行く線維が貧相な系統では視床が小さい。

 視床下部は漏斗、灰白隆起、乳頭体など多くの神経要素を含み、自律神経系の中枢として内分泌系と密接に関係し、自律神経機能、摂食、サーカディアンリズムなど生物の生存に必須な機能(いわゆる植物神経系としての機能)を担う。睡眠と覚醒の制御に関わることでも有名である。視床下部は無羊膜類ではよく発達し、一般的には視床よりも大きな領域を占める。羊膜類の段階になるとようやく視床のサイズが視床下部より大きくなる。間脳を中世から近世の日本に例えると、長い歴史を持ち古くから開けていた視床下部が京都で、羊膜類になってから発展してきた視床は江戸(東京)のような感じだろうか。

間脳の基本形態に関する最近の考え

 近年の分子発生学の進歩にあわせ、間脳の領域が遺伝子発現と照らし合わせて調べられた結果、発生期にプロソメア(p:前脳分節あるいは前脳節)というコンパートメントが現れることがわかった。それを受けて現在では、間脳を後ろから順に視蓋前域(Pretectum)、視床(Thalamus)、視床前域(Prethalamus)に分ける考えが提唱されている(図8、図11)。これらはプロソメア123の背側要素(翼板)にそれぞれ対応している。困ったことに、これらは先述の形態学的単位と対応しない。例えば従来の考えでは視蓋前域と上生体は共に視床上部に含まれているが、新しい考えでは視蓋前域と上生体はそれぞれプロソメア1とプロソメア2に属する異なる領域である。また、腹側視床は視床前域という名称に変更されている。

図11.発生期のマウスの間脳。網掛けした部分が二次前脳である。[Puelles and Rubenstein (2015)を改変]

 最近の比較形態学的研究ではこの新しいモデルが優勢になりつつある。ただし、このアイデアを提唱したプエイエスらは、これに飽き足らず、間脳の定義をさらに刷新すべく、さらにユニークな考えを提示している。それは視床下部についてのものだ。

視床下部

 視床下部は、他の間脳領域(プロソメア13とは発現する遺伝子の種類が大きく異なっており、視蓋前域や視床に発現する遺伝子の多くがここでは見られないことから、我々(の脳)を悩ませてきた。このことに関して、プエイエスらは、視床下部はその他の間脳領域とは「別物」であり、むしろ終脳と近しい関係にあるというモデルを提唱している(図11)。

 この視床下部−終脳コンパートメントはsecondary procencephalonと名付けられている。正しい日本語訳が未だないようなので、ここでは仮に二次前脳と呼ぶことにする。つまり、発生期の前脳からは、これまで言われていたように「間脳と終脳」ではなく「視床下部を除く間脳と二次前脳」が生じるというわけだ。このモデルに従うなら、二次前脳の背側部分が終脳で、その腹側部分が視床下部となる。そして、これまでの考えでは脳(神経管)の最も前方の領域は終脳であったが、この考えに従えばそれにあたるのは視床下部である。二次前脳はさらにふたつのHypotyalamo-telencephalic prosomere(HP)に細分されており、HP1が後方でHP2が前方にある。終脳に関してはHP1が多くの領域を占め、HP2は視索前野と前交連を含む領域を占める。これらの領域の分子発生機構については、マーカーとなる遺伝子の発現やそれぞれの領域で発現する遺伝子プロファイルの比較など、今後さらなる詳細な研究が必要であろう。

間脳の発生とその起源

 間脳領域については、軟骨魚類のサメにおいて他の脊椎動物と同様の領域が見られることがわかっている。さらに円口類についても研究が進んでいる。発生期のヤツメウナギではプロソメアを規定する遺伝子発現Pax6Pax3/7Lhxなど)が見られ、ZliにはShhに相同な遺伝子(HhB)が発現しており、そこから発生する神経要素も他の脊椎動物のものと対応している。そして最近になって発生期のヌタウナギの間脳が調べられたが、この種でも遺伝子の発現様式は他の脊椎動物やヤツメウナギとよく似ていることが明らかとなった。このことから、脊椎動物の共通祖先の段階で間脳のプロソメアを規定する分子基盤は成立していたと考えられる。つまり間脳の設計図は極めて古いということだ。ただし、間脳は進化の過程で様々に変化していく。間脳にある視覚系の中継核は哺乳類と爬虫類・鳥類で大きく異なっているし、視床の神経核も哺乳類ではその数がずっと多くなっている。つまり間脳はその発生メカニズムが確立された後、その基本形を維持しつつも、進化の過程で系統ごとに様々な改変がなされ発展してきたと考えられる。

終脳の起源

 終脳はそのラテン語名Telencephalon(終わりの脳)が示すとおり、脳の前端にある。終脳は大脳(cerebrum)とも呼ばれ、多くの脊椎動物、特に羊膜類では感覚器からの情報を受け取り、複雑かつ高度な情報処理を行ない、それに基づく運動プログラムを出力する最高次の中枢である。また、記憶の貯蔵庫としても機能しているため、入ってきた情報をこれまでの経験と照らし合わせて適切な応答をすることが可能となる。さらには情動(怒り、喜び、悲しみなどの感情)にも深く関わる。哺乳類の終脳は際立って大きく、ヒトやクジラの脳の外観はほとんど終脳によって占められている(図4)。

 いろいろな脊椎動物の終脳の断面を見ると、その際立った多様性が明らかである(図12)。その外見は哺乳類を除けばどの種でものっぺりとした半球状に見えるが、内部の形態は動物ごとにまるで違う。進化的にみると終脳は嗅覚と縁が深いようで、円口類や軟骨魚類では終脳の多くの領域が嗅覚の処理にあてられている。だが脊椎動物の進化の過程で終脳は劇的な変化を遂げた。ヒトにいたっては、認知や思考などを司る最高次の中枢となり、さらには文化や文明を生み出す礎ともなった。まさに脳進化の極致と言えよう。

図12.様々な脊椎動物の終脳の断面。
a.bas.(area basalis telencephali)、AV(area ventralis telencephali)、Am(扁桃体核群)、DC(背側皮質)、DVR(背側脳室稜)DP(背側外套)、Hip(海馬)、HP(高外套)la1-la5(layers 1-5)、LC(側皮質)、LP(外側外套)、MP(内側外套)、M(中外套)、NC(新皮質)、NP(外套巣部)、pr.hip.(海馬原基)、Pir(梨状葉)、PTh(外套肥大部)、S(中隔域)、St(線条体)、ppir(梨状葉原基)、Vd(AVの背側部)、Vv(AVの腹側部)。[村上安則「生命の科学」66 (3), 2015(医学書院)を改変して引用]

終脳の基本構造

 脊椎動物の終脳半球には著しい多様性があるが、そこには進化的に保存された(祖先的な)構造と特殊化した(派生的な)構造とが並存している。建物にたとえると、平安時代頃に作られた日本式家屋が、その枠組みを中心に残したまま増改築されて、あるものは寺社、またあるものは天守閣という具合に様々な建造物になっている感じだろうか。

 全ての脊椎動物の終脳に共通する要素、すなわち祖先的要素は、終脳半球が外套と外套下部に分かれることだ(図9)。外套には嗅球、海馬などがあり、哺乳類の外套からは新皮質という独自の構造が生じ、ここが人間の持つ高度な知性の源となる。外套下部には線条体や淡蒼球などの大脳基底核群が存在している(図12)。つまり脊椎動物の終脳は外套と外套下部というふたつのフィールドを基盤として構築されているのである。終脳の起源を知るには、これらの構造が円口類でどうなっているかを知らなければならない。

独自の形態を示す円口類の終脳

 ヤツメウナギの終脳半球は一般的な脊椎動物に比べると小さめであるが、成体の終脳半球には他の脊椎動物と同様に外套と外套下部が認められる。また、その終脳は軟骨魚類や羊膜類と同様に、外套が内側外套を内側にしながらくるりと巻くように発達する。これを内翻という。その結果、左右の終脳壁はドーナツのように側脳室を囲むようになる(図12)。ただし、ヤツメウナギの終脳は背側の海馬原基と呼ばれるところでは、内翻が起こらず条鰭類のように外向きに広がる形態(外翻)が見られる。最近の研究によると、ここは間脳の一部(P3)のようだ。

 一方、ヌタウナギの終脳は内翻した相対的に大きな終脳半球を持っている点で極めて特徴的である。その終脳領域の多くは嗅覚系神経の入力を受けているようだ。事実、ヌタウナギは匂いに敏感で、深海に沈んだクジラの死体などに集まってくる。さらにヌタウナギの終脳はその内部構造も特異な形態を示す。その外套領域には5層の構造があり、それらのうち135層は神経線維、24層は細胞体から構成されている(図12)。

 層構造といえば情報処理中枢として発達した脳(例えば中脳の視蓋や小脳)に備わっている構造である。軟骨魚類、条鰭類、両生類の外套(嗅球を除く)には層構造は見られない。後述するがヤツメウナギの外套にも層があるようだ。なぜ円口類の外套が層構造を持っているのか? これは興味深い研究テーマであるが、未だ答えは得られていない。

ヤツメウナギ終脳の機能

 これまで、ヤツメウナギの終脳外套では主に嗅覚の処理が行なわれていると考えられてきた。事実、ヤツメウナギでは嗅球が相対的に大きく、そこから多くの線維が終脳半球に入力している。しかし、間脳からの感覚線維が終脳に入っているという報告などから、ヤツメウナギの終脳は嗅覚の処理の他にも機能を担っていることが仄めかされていた。そして最近、驚くべき結果が報告されている。

 話が少し逸れるが、我々哺乳類の終脳には新皮質があり、ここが感覚情報の統合や随意運動の制御、さらには認識や思考などの高次機能に関わる。ヒトでは大変よく発達しており、我々ヒトが持ついわゆる「知性」の源泉と言えるだろう。この領域は特徴的な6層構造をなしている(11章参照)。そして、その起源としては以下のような推測がなされてきた。①爬虫類の終脳にある背側皮質は3層構造をしており、②無羊膜類の終脳背側では層構造が不明瞭である。このことはつまり、羊膜類の共通祖先の段階で3層構造を持つ皮質が獲得され、哺乳類はそれを改変して6層構造の新皮質を作り上げたのだ。

 ところが、ヤツメウナギの終脳で詳細な生理機能解析を行なった研究によれば、ヤツメウナギの外套は内側と外側のふたつに分かれていて、外側外套の背側にあるニューロンは基底核や視蓋、中脳の運動領域、網様体、脊髄と連絡しているという(図13)。つまりこのニューロンは哺乳類の第Ⅴ層のニューロンと酷似しているのである。そればかりか、線条体と淡蒼球による運動経路である直接路と間接路の存在を示唆する結果も得られている。哺乳類では直接路は行動の決行に関わる経路であり、間接路はこれとは逆に行動の抑制という機能を担う。このことから考えるとヤツメウナギの終脳には哺乳類の運動野に似た神経回路が備わっている可能性がある。しかも、ヤツメウナギの外側外套は爬虫類に見られるもののように3層に分かれているらしい。もしそうならば、終脳の層構造と、そこに出入りする神経接続のパターンは円口類と顎口類の分岐以前の段階で獲得されていたことになる。ただし、我々哺乳類の運動野が終脳外套の背側(背側外套)に由来するのに対し、ヤツメウナギの「運動領域」は背側外套ではなく外側外套に存在するようだ。これが正しいとすると、ヤツメウナギの運動制御システムは顎口類とは異なる場所にある、つまり哺乳類とは異なるシステムが収斂的に生じたことになるが、ヤツメウナギの外套部については、未だ十分に調べられたわけではない。今後はヤツメウナギ終脳の領域についてより詳しい研究が必要である。

円口類の終脳の発生

 発生期のヤツメウナギの大脳半球原基では、一般的な脊椎動物における外套と外套下部のマーカー遺伝子が他の脊椎動物と同様のパターンで発現している(図13)。また、脊椎動物の終脳に特異的に発現するとされるAnf/Hesx1もヤツメウナギの終脳でその発現が確認されている。したがって、外套と外套下部は円口類と顎口類が分岐する以前の段階で確立されていたと考えられる。しかし詳しく見るとヤツメウナギの外套にはマウスの外套の形成に関わるSp8の発現が見られない(図13)。この結果は、ヤツメウナギの「外套」領域をパターニングする機構が他の脊椎動物と異なる要素があることを示している。このことは、いくつかの形質は無顎類と顎口類が分岐した後、顎口類の祖先の段階で確立されたことを示しているのかもしれない。あるいは、ヤツメウナギの系統で独自に終脳発生機構に変化が生じ、いくつかの形質が二次的に失われたのかもしれない。それを確かめるためにはヌタウナギ胚を用いた研究を進めることがとても重要である。

図13.ヤツメウナギの終脳。
A:成体の終脳とそれに関連する脳領域。外套は内層と外層にわかれ、哺乳類の運動野に似た線維連絡が存在している。
B:発生期のヤツメウナギとマウスの終脳に発現する遺伝子
PSB:外套ー外套下部の境界[(A)Suryanarayanaら(2017)を改変/(B)Murakami, Brain Evolution by Design, Springer 2016を改変]

 そして近年、ヌタウナギの終脳発生に関わる研究が進んできた。本書で折に触れて述べてきたように、ヌタウナギの脳はヤツメウナギと、そして他の脊椎動物とも異なる形態をしている。それではヌタウナギの脳発生機構は他の脊椎動物とは大きく異なっているのか? 結論からいえば、異なってはいない。ヌタウナギの脳形成に関わる遺伝子は、今まで見られたものに関していえばマウスのパターンと極めてよく似ていたのである。つまり、成体の脳の外見は著しく異なろうとも、脳の発生期には他の脊椎動物と共通の遺伝子が同じようなやり方で使われているのだ。つまり、脊椎動物の終脳形成機構は、円口類と顎口類が分岐する以前、おそらくは脊椎動物の共通祖先の段階では出来上がっていたことになる。最初期の脊椎動物の化石は5億年前のカンブリア紀に見つかっている。つまり我々の終脳の起源もそれくらい古いということである。

脊椎動物の終脳の起源︱大いなる旅のはじまり

 それではここで、これまでの知見を基に、円口類と顎口類の分岐以前の脊椎動物(分岐の時期から考えると、それは脊椎動物の共通祖先に極めて近い可能性がある)が備えていた脳の形態について考えてみることにする(図14)。

図14.発生期のヤツメウナギ、ヌタウナギ、顎口類(マウス)の脳(上)と、脊椎動物の仮想的な共通祖先が持っていたと考えられる脳形態の模式図(実際の脳形態を示すものではない)。[Sugaharaら(2016);Sugaharaら(2017)を改変]

 この動物は顎や対鰭を持たない小型の種で、ハイコウイクチスのような単純な外見をしていただろう。外部の状況は主に嗅覚や視覚、側線感覚から得ていただろう。また中枢神経系(脳と脊髄)があり、脳は終脳、間脳、中脳、菱脳に分かれ、そこからは現生の脊椎動物と同様に11対ほどの脳神経が出ていた。その脳神経系は我々のものとは比較にならないほど単純であったが、高次の中枢を進化させるためのポテンシャルをほぼ備えたものであった。

 多くの脳神経が出入りする菱脳では、18個あるいはそれ以上のロンボメアが生じ、そこからは三叉神経や顔面神経などの鰓弓神経の感覚核と運動核が発生したであろう。菱脳の先端では、未発達であるが小脳の萌芽となる形態(小脳体)は存在していたかもしれない。そこでは平衡覚や、体幹部からの固有受容感覚などが処理されていたと考えられる。

 菱脳の前方には中脳があり、その背側の視蓋は層構造をもち、そこには視覚や体性感覚など様々な感覚が入力していたであろう。視蓋の後方には側線神経などが入力する半円堤があったと考えられる。

 中脳の被蓋領域には黒質が分化し、菱脳へ続く網様体もあり、これらの要素が運動を司っていた可能性がある。その前方の間脳はプロソメアを基にする発生機構により作られ、視蓋前域、視床、視床前域に分かれていた。その先には視床下部があり、下垂体と連携して内分泌の中枢として機能していただろう。

 脳の最前端には終脳があった。終脳は外套と外套下部に分かれていた。外套の大部分は嗅覚からの情報を処理していたが、視床から他の感覚も受け取っていただろう。記憶の貯蔵庫としての海馬の雛形もあったかもしれない。さらに外套には基底核や黒質と連携して運動の制御に関わる領域も存在していた可能性もある。外套下部には線条体と淡蒼球から構成される基底核が存在し、運動機能などに関わっていた。

 こうした構造を基盤として、脊椎動物は様々なタイプの脳を進化させていった。脊椎動物の脳とは保守的な要素も持ちつつ、新たな回路や機能をどんどん加えることのできる柔軟性を備えた優れたシステムであると言えよう。そして長い進化の果てに、脊椎動物のあるものは空中を自在に飛行するための制御系を獲得し、あるものは言語を獲得しそれを使って個体の脳内でコミュニケーションを行い、脳の中に内的な新世界を作り上げることさえ可能になったのである。

謝辞
この章の執筆にあたり、菅原文昭先生(兵庫医科大学)、平沢達矢先生(理化学研究所)、山本直之先生(名古屋大学)、鈴木大地先生(基礎生物学研究所)には多くのご助言をいただきました。深く感謝いたします。

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ミエリン鞘はとも呼ばれ、軸索に巻き付いて絶縁体として働く構造である。これにより神経パルスはミエリン鞘の間隙を跳躍的に伝わる(跳躍伝導)ことで神経伝達が高速になる。ミエリン鞘は末梢神経系の神経ではシュワン細胞、中枢神経系ではオリゴデンドロサイトから構成される。

脳の中にある空洞のこと。脳脊髄液で満たされている。脊髄にあるものは中心管と呼ばれる。

神経堤細胞は脊椎動物の発生時に見られる神経管に隣接した組織。頭部では神経、骨、軟骨、甲状腺、眼、結合組織などの一部に分化する。

細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質の一種で、特定のイオンを選択的に通過させる孔をつくるものを総称してチャネルと呼ぶ。筒状の構造をしていて、イオンチャネルタンパク質が刺激を受けると筒の孔が開き、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを通過させることで、細胞膜で厳密に区切られた細胞の内外のイオンの行き来を制御している。刺激の受け方は種類によって多様で、cGMPが結合すると筒の穴が開くものをcGMP依存性イオンチャネルと呼ぶ。TRPチャネルも複数のファミリーからなるイオンチャネルの一群であり、非選択性の陽イオンチャネルである。発見された際に用いられた活性化因子の頭文字や構造的特徴から、A (Ankyrin), C (canonical), M (melastatin), ML (mucolipin), N (no mechanoreceptor), P (polycystin), V(vanilloid)の7つのサブファミリーに分類されている。TRPは、細胞内や細胞外の様々な刺激によって活性化してセンサーとして働いたり、シグナルを変換したり増幅したりするトランスデューサーとしての機能も併せ持つ。温度センサーやトウガラシに含まれるカプサイシンのセンサーとしても機能していることが知られている。

任意の遺伝子の転写産物(mRNA)の相同な2本鎖RNAを人工的に合成し生物体内に導入することで、2本鎖RNAが相同部分を切断して遺伝子の発現を抑制する手法。2006年には、この手法の功績者がノーベル生理・医学賞を受賞している。

様々な動物種間で塩基配列やアミノ酸配列を比較することによって、類似性や相違を明らかにする手法。この解析によって動物種間の近縁関係や進化の過程を予測することが可能になる。

発生過程で神経管を裏打ちする中胚葉組織であり、頭索類・尾索類では背骨のような支持組織としての役割を持つ。脊椎動物では運動ニューロンの分化を誘導するなど発生学的役割を持つ

魚類に顕著にみられる鰓のスリットで、哺乳類では発生の初期にはみられる。発生が進むと複雑な形態形成変化が起き、消失するが、外耳孔などは鰓裂の名残ということができる。

動物の初期発生において最初の形態形成運動として原腸陥入が起こる。原腸は消化管に分化する。この原腸陥入によって生じる「孔」を原口と呼ぶが、これが将来の動物の体の口になるのが前口動物であり、肛門になるのが後口動物である。半索動物、脊索動物は後口動物である。

ナマコの幼生のことをオーリクラリア幼生と呼ぶが、ウニのプルテウス幼生、ヒトデのビピンナリア幼生、ギボシムシのトルナリア幼生など、形態的共通性をもつ幼生全体をまとめてオーリクラリア(型)幼生と呼ぶ。今日ではディプルールラ型幼生という呼び方が広く使われている。この説はガルスタングが1928年に提唱した。その時代にはオーリクラリアという用語が使われたため(ディプリュールラ説ではなく)オーリクラリア説と呼ばれている。

Hox遺伝子はショウジョウバエで発見されたホメオティック遺伝子の相同遺伝子である。無脊椎動物のゲノムには基本的に1つのHoxクラスターがあり、脊椎動物のゲノムには4つのHoxクラスターがある。Hoxb1は4つあるクラスターのうちのBクラスターに属する1番目のHox遺伝子という意味である。

脊椎動物胚の後脳領域には頭尾軸にそった分節性(等間隔の仕切り)がみられる。この各分節をロンボメアと呼び、図14に示すように7番目までは形態的に明瞭に観察できる。

脊椎動物のゲノムにはふたつか3つのIsletが存在する。Isletは脳幹(延髄、橋、中脳)の運動性脳神経核に発現して、運動ニューロンの分化に関与している。

感桿型では光刺激はホスホリパーゼCとイノシトールリン酸経路を活性化させる。繊毛型ではホスホジエステラーゼによる環状GMPの代謝が関与している。

気嚢による換気システムは獣脚類と呼ばれる恐竜から鳥類に至る系統で段階的に進化していったと考えられる。

このような特異な形態は胚発生期には見られず、生後に発達する。その過程は頭骨に見られる「テレスコーピング現象」と並行して進む。

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卵や精子、その元となる始原生殖細胞などを指し、子孫に遺伝情報が引き継がれる細胞そのものである。

卵や精子を作る減数分裂において、母由来の染色体と父由来の染色体が対合したときに、同じ領域がランダムに入れ替わる(組み換えられる)。つまり、我々の”配偶子の”染色体は、父親と母親由来の染色体がモザイク状に入り交じったものなのである(体細胞の染色体は免疫グロブリンなどの一部の領域を除いて基本的には均一なものと考えられている)。

 タンパク質にコードされる遺伝情報をもつ塩基配列。狭義にはゲノムDNAのうち、mRNAに転写され、タンパク質になる部分。近年は、タンパク質に翻訳されないものの、機能をもつtRNA、rRNAやノンコーディングRNAなども遺伝子の中に含められるようになっている。本書では、特に注意書きのない限り、タンパク質の元となるmRNAになる部分を遺伝子、と呼ぶ。

 では、その転写因子はなにが発現させるのか、というと、やはり別の転写因子である。卵の段階から、母親からmRNAとして最初期に発現する遺伝子は受け取っているので(母性RNA)、発生の最初期に使う転写因子を含む遺伝子群に関しては、転写の必要がないのである。その後、発生、分化が進んでいくと、それぞれの細胞集団に必要な転写因子が発現し、実際に機能をもつ遺伝子の転写を促す。

遺伝子は、核酸配列の連続した3塩基(コドンと呼ばれる)が1アミノ酸に対応し、順々にペプチド結合で繋げられてタンパク質となる。3つの塩基は43=64通りになるが、アミノ酸の数は20個、stopコドンを含めても21種類しかない。したがって、同じアミノ酸をコードするコドンは複数あり、たとえ変異が入ってもアミノ酸は変わらないことがある。これを同義置換と呼ぶ。一方で、変異によってコードするアミノ酸が変わってしまう置換を非同義置換と呼ぶ。

 ふたつの系統が祖先を共通にした最後の年代。本章では、近年の分岐年代推定を利用して作成された系統樹(当該文献[9]のFig.1を参照)からおよその年代を読み取り、記入している。

 アフリカツメガエルや、コイ科、サケ目など、進化上の随所でも全ゲノム重複が起こっている。

 最もよく知られている放射性同位元素による年代測定は、放射性炭素年代測定である。炭素12Cは紫外線や宇宙線によって、空気中では一部(1/1012)が常に14Cに変換されている。つまり、大気中ではいつの時代も1兆個の炭素原子のうちひとつが14C、残りが12Cという割合なのである(太陽活動の変化などにより若干のブレはある)。しかし一旦生物の体内に炭素が取り込まれ、そしてその生物が死に、地中に埋まってしまえば、もう宇宙線も紫外線も当たらないので、14Cへの変換は起こらない。ここで14Cは放射性同位元素であることに注目したい。14Cは約5730年で半分が崩壊し12Cに変換される。したがって、14Cの比率でいつその物質が地中に埋まったのかがわかるのである(文献7)。

 ただし、この放射性炭素年代測定では、14Cの検出限界の関係で、せいぜい6万年が限界である。それより昔は火山岩に含まれる物質の、やはり放射性崩壊の半減期を元に推定される。例えば、K-Ar法では、40Kが40Arに13億年の半減期で放射性崩壊することを利用する。溶岩からできたての火山岩か、あるいは何億年も経ったものかを調べることができる。40Kは岩石中に元々大量に存在するため、差異を検出することは不可能だが、40Ar(常温で気体)は大気中には微量しか含まれないため、岩石中に封入された気体の中の40Arの含有率を計測することにより、その岩石の古さがわかる。当然、40Arの率が高い物が古い岩石である。このように、複数の放射性元素の崩壊の半減期から地質年代というのは推定される。

 南米にもごく少数ながら有袋類が現存しており、これらのゲノム解析・比較から、オーストラリア・南米で現生の有袋類の共通祖先は、実は南米で生まれ、当時陸続きだった南極大陸を経て、オーストラリアにいたったと考えられている。

 世界で最も臭いといわれているシュールストレミングをネットで取り寄せて購入したとき、人々は逃げるどころか、わざわざ悶絶するために集まってきた。いい匂いの物を取り寄せても20人もの人数は集まるとは思えず、怖い物見たさという悪趣味な好奇心はたいしたものである。無論、取り寄せた私も例外ではない。ちなみに、シュールストレミングはひとかけらをクラッカーの上に載せるくらいの食べ方なら悪くない気もする。

このふたつの硬骨の作られ方について、第3章に詳述があるので参照。

 ガノイン鱗には我々の歯のエナメル質を作る遺伝子と相同な遺伝子が発現しており(文献18)、イメージとしては歯で身体を覆われているようなもので、当然極めて強固である。

 遺伝子にはその由来によっていくつかの異なる呼び名がある。オーソログとは、共通祖先がもつある遺伝子Aが、種分化によって2種以上の生物に受け継がれた時、受け継がれた遺伝子たちをオーソログと呼ぶ。パラログとは、遺伝子重複によって生じたふたつ以上の遺伝子を指す。最近では大野乾氏の功績をたたえ、ゲノム重複によって生じたパラログで現存するものを特にオオノログOhnologと呼ぶ。

 異化と同化……この2種類の化学反応によって生命活動は維持されている。異化は物質を分解してエネルギーを取り出す代謝経路、同化はエネルギーを使って必要な物質を体の中で作り出す代謝経路。

 アデノシン三リン酸の略。生体内のエネルギー通貨として、様々な化学反応に用いられている。

 組織中の核酸分子(ここでは特定の遺伝子から転写されたmRNAを指す)の分布を検出する手法。調べたい遺伝子の塩基配列を元に、そのmRNAに特異的に結合する分子を設計・合成することで特異度の高い検出が可能となっている。

 通常の生物の核ゲノムはそれぞれの両親に由来する染色体が2本1セット存在し(ディプロイド)、その染色体間で組み替えが起こるため遺伝的な由来を辿る作業がしばしば煩雑になる。しかしミトコンドリアは母親由来であるため(ハプロイド)、そのゲノムを利用することで比較的簡便に遺伝的な類縁関係を遡ることが可能となる。

 増幅断片長多型:制限酵素で切断したゲノムDNA断片をPCRにより増幅し、断片の長さの違いを網羅的に検出比較する方法。この断片長の違いを種間の類縁関係の推定に使用することが多い。

 sexual conflict。ある形質が片方の性にとっては有利だが、もう片方の性にとっては不利な場合にオスメス間で生じる対立。

 次世代シーケンサーを利用して、各組織に発現する遺伝子の種類や量を網羅的かつ定量的に推定する解析方法。

 真核生物のゲノムに散在する反復配列のうち、一度DNAからRNAに転写され、その後に逆転写酵素の働きでcDNAとなってからゲノム中の別の座位に組み込まれるものを指す。数多くのレトロポゾンが存在しており、例えばヒトゲノムは約40%がレトロポゾンによって占められている。

 太陽光には連続したことなる波長成分の光が含まれているが、その波長によってエネルギーが異なるため、水中に到達する波長成分の割合が深さによって異なることがわかっている。特に濁ったビクトリア湖のような水環境では浅場の方が短波長である青色光の成分が多く、深場では長波長の黄色〜赤色の成分が多いことがわかっている。

 タンパク質をコードするDNA配列上の塩基置換にはアミノ酸の置換を伴う非同義置換と、伴わない同義置換がある。一般に、同義置換は生体に影響を及ぼさないため中立であるが、非同義置換は生体にとって不利であることが多い。ただしタンパク質の機能変化が個体にとって有利な場合は非同義置換の割合が上昇することが知られており、それを正の自然選択と呼ぶ。同義置換と非同義置換の割合を統計学的に比較する方法がある。詳細については第7章およびコラム「適応進化に関わる候補遺伝子や候補領域を絞り込むアプローチ」を参照。

   発生初期の胚の一部の細胞群から作られ、生殖細胞を含む様々な組織に分化可能な性質(多能性)を有する細胞株。英語名(embryonic stem cells)の頭文字をとって、ES細胞と呼ばれることも多い。

 変異体を元になった親系統と交配すること。TILLING変異体に関しては変異以外の部分を親系統由来のゲノムに置換するために行う。1回の交配で全体の50%の領域が置換されるため、90%以上を置換するためには最低4回の、99%以上を置換するためには最低7回の戻し交配が必要である。

 タンパク質の二次構造のうち代表的なモチーフのひとつ。水素結合により形成されたらせん状の形である。

 Francis Crickが1958年に提唱した、遺伝情報がDNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質、という流れで伝わるという概念のこと。分子生物学の基本となる極めて重要な概念である。

 ヒメダカの原因遺伝子としてだけでなく、ヒトの先天性白皮症(つまりアルビノ)やホワイトタイガーの原因遺伝子としても知られる。水素イオンを運ぶトランスポーターをコードすることがわかっているが、その黒色素産生(メラニン合成)における機能は未解明な点が多い。

 相同組換えの鋳型となる外来DNA断片のこと。通常、導入したい配列(GFP遺伝子や特定の塩基置換など)の上流・下流それぞれに、導入したいゲノム領域と相同な配列(相同アームと呼ばれる)を持ったDNA断片である。

 RNAポリメラーゼが結合し、RNAを転写するのに必要最小限の遺伝子上流配列。通常、単独では下流の遺伝子は転写されないが、周辺に転写活性化領域(エンハンサーなど)が存在すると、その影響を受けて下流に存在する遺伝子が転写される。

 オオシモフリエダシャクの「工業暗化」の例を考えるとわかりやすい。これは、産業革命以降のイギリスで、暗化型と呼ばれるより黒い個体の割合が多くなったとされる例である。この蛾は、自然が多い地域では淡色型が目立ちにくく、鳥に捕食されづらかったが、すすで黒くなった木が多い工業地帯では、より黒い暗化型のほうが目立ちにくく、生き残りやすかった。この場合、仮に蛾の色をより黒くするアミノ酸変異が生じたとすると、そのアミノ酸変異は工業地帯で生存に有利で、固定されやすいだろう。ちなみに、近年、具体的にどんな遺伝的変異がこの工業暗化に関わっていたのかが詳細に解析されつつある。

 SWS = short wave sensitive opsin、つまり短波長の光に感受性をもつオプシンのサブタイプ。

 第4章にも記載されているように、深いところには波長の長い赤い光のみが届く傾向がある。つまり、水深の深いところに棲む集団では、青い光を感受するSWSの機能は重要ではなくなってしまう。

 Gタンパク質はGTP結合タンパク質ともよばれ、GTPと結合することで活性化される。GTPを加水分解する性質をもっており、結合しているGTPがGDPに加水分解されると自身が不活性化される。受容体からの信号を中継するものは三量体(α、β、γサブユニット)として存在している。

 神経伝達物質は、放出された後、即座に分解されなければ迅速な伝達を成し得ない。したがって、こういった分解酵素の存在は、ATPが実際にその部位で神経伝達物質として働いていることの傍証となる。

 セロトニンは生体内に存在するモノアミンの一種であり、神経系では神経伝達物質として機能する。生体内のセロトニンの大部分(〜95%)は腸管に存在しており、神経系に存在するものは割合としては小さい。神経系では中脳の縫線核という部位のニューロンで産生され、情動機能等に関係しており、セロトニンの再取り込み阻害剤には抗鬱薬の作用がある。味蕾に存在するセロトニンはそれらとは別の働きをもっていると考えられる。

 迷走神経には感覚性の線維と運動性の線維の両方が含まれており、ここでの迷走感覚神経とはその中の感覚性の要素のみを指す。

 神経細胞(ニューロン)で、突起状の構造(軸索や樹状突起)以外の、核の周辺部の構造を細胞体という。

 ある細胞が放出するリガンドが、その細胞自身の受容体に働くことを自己分泌という。近傍の細胞の場合は傍分泌と呼ぶ。近隣の同じ性質をもった細胞に作用する場合と、自分自身に働く場合を合わせて、自己・傍分泌と呼ぶことが多い。哺乳類のキスペプチンニューロンは、キスペプチン以外に放出するニューロキニンB、ダイノルフィンと呼ばれるペプチドが、キスペプチンニューロン自身に作用することで、アクセルとブレーキのように働き、そのタイムラグでキスペプチンの放出を間歇的に引き起こす。これが前述のGnRHパルスを生み出しているとされている。

 市場に出ている子持ち昆布の中には、ニシン以外の魚(タラの仲間など)を用いて加工されているものもある。また、本物のニシンの卵の場合も、自然に海藻に産みつけられた卵はもっとまばらなので、あのようにびっしりと卵が並んで食べ応えのある子持ち昆布は人為的に作られているようだ。

 タンパク質の一次構造を形成する際にアミノ酸間に形成されるペプチド結合ではなく、側鎖にあるアミノ基とカルボキシル基の間に形成されるペプチド結合のこと。

 2-⑴で述べたように魚類の卵膜の別名は“コリオン”である。将来コリオンになるタンパク質のため、“材料”の意味をもつ“-genin”をつけて、コリオジェニンと呼ばれている。

 遺伝子のうち、半数体ゲノムにつき1コピー(体細胞では2コピー)しかない遺伝子以外のもの。

 共通祖先から生じたいくつかの遺伝子のうち、異なる生物種において類似または相同な機能をもつ遺伝子同士のこと。たとえば、ヘモグロビン、ミオグロビン、サイトグロビンなどは共通祖先から由来するグロビン遺伝子ファミリーであり、ヒトもマウスもこれらの遺伝子をもつが、このうちヒトのヘモグロビン遺伝子とマウスのヘモグロビン遺伝子はオーソログの関係にあるといえる。

 遺伝子ファミリーの中には、突然変異などによって機能を失ってしまうものがある。例えば、変異によって翻訳の途中にストップコドンが入ったり、プロモーターの欠損による転写不能や、転写後のプロセッシングに関与する配列の欠如による成熟mRNAの形成不全などがある。このように、配列の痕跡は残っており、どの遺伝子ファミリーに属するかは明らかだが、機能的でない遺伝子を偽遺伝子(Pseudogene)という。

 魚類では毎年数百の新種記載があり、2018年現在において硬骨魚類の現生種の記載数は3万をこえる。

 栄養リボンという邦訳は、山岸宏『比較生殖学』(東海大学出版会、1995年)による。

 第8章で触れられているデンキウナギなどは、長い身体の大部分が発電器官になっており、肛門の位置が同じように著しく前方に位置する。

 酵素活性は同じであるが、アミノ酸配列の違いによって性質の異なる酵素タンパク質。タンパク質の電気泳動度の差異から、その支配遺伝子座における遺伝子型の差異を検出できる。

 生物相の分布境界線で、この線を挟んで動植物相が大きく変化する。この線の西側が東洋区、東側がオーストラリア区とされる。ウォーレスとウェーバーがそれぞれ異なる境界線を提唱した。スラウェシ島やティモール島は両者の境界線の間に位置する。

 個体や系統を識別する上で目印となるDNA配列のこと。系統間で塩基配列が異なる領域があれば、そこをDNAマーカーとして利用できる。

 ゲノムDNAを制限酵素で切断し、100〜200kbの断片を細菌人工染色体(BAC)ベクターに組み込んでクローン化したもの。大きな領域の物理地図や塩基配列決定に必要とされてきた。

 DNAマーカーや既知のクローンを用いて、配列が一部重なり合うクローンを同定する作業を繰り返し、目的遺伝子近傍のクローンコンティグを作成する方法。

 ミュラー管とは哺乳類の発生過程で将来卵管になる管で、オスではこのホルモンの働きによって退縮する。しかし、真骨魚類にミュラー管はなく、別の機能をもつと考えられる。

 メダカ博士こと山本時男博士は、1953年d-rR系統(オスが緋色、メスが白色の限定遺伝をもとに育成作出された系統、X染色体上に潜性(劣性)のr遺伝子、Y染色体状に顕性(優性)のR遺伝子をもつ、体色により遺伝的な性の判別が可能)の孵化直後から性ホルモンを経口投与して性の人為的転換に成功した。すなわちXrXrでもアンドロゲン投与によりオスとなり、正常メスXrXrと交配して、メスメダカばかりを生んだ。XrYRもエストロゲン投与によりメスに性転換し、正常のオスXrYRと交配した。性ホルモンによる性転換が多くの研究者から示されていたが、山本博士によって初めて遺伝的な性と性ホルモンによる性転換の関連が明らかにされた。コラム⑧も参照。

 コ・オプション(co-option)、遺伝子の使い回し。既存の遺伝子が新たな機能を担うようになること。

 非同義置換よりも大きな影響を与えるのがフレームシフトである。3の単位で塩基は読まれていくが、もし、3の倍数以外の挿入/欠失が起こった場合は、その後の配列が全て読み枠がズレてしまい、その挿入/欠失より後(C末端側)ではまったく異なるタンパク質ができてしまう。

008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称

通称ブレグジット(英語: Brexit)とは、イギリスが欧州連合(EU)から離脱すること