第5章 知能の普遍デザインとは何か︱タコと軟体動物の脳

知能は独立に進化する

 タブラ・ラーサ。知性は「何も刻まれていない石版」から生じうるという、ギリシアの哲学者プラトンの『テアイテトス』にみられる考え方である。昨年20171018日、このタブラ・ラーサは再び世界で引き合いに出された。事前に人間からの教示と経験を必要とせず、自ら学習するAlphaGO ZEROと名付けられた人工知能が生み出されたのである。その知能はさらに能力を上げてAlpha ZEROへとバージョンアップした。知能はヒト以外でどのように進化しうるのか? 私の研究テーマは、知能とよばれるものが、我々ヒトとは別の動物の系統で一体どのように進化したのかを調べることだった。その理由でタコやイカといった軟体動物の脳を研究対象に選んだ。ヒトなどの脊椎動物とは独立に脳を大型化させ、精巧化させた動物だったからである。

図1.自分を理解する自己意識のような心的現象は共通の回路と分子機構で生み出されるのか? もしくは独立に進化しうるのか?[エーデルマンおよびゼス博士の2005年の論文から改変]

 本章では貝やイカなどの軟体動物とよばれる奇妙な動物たちに焦点を当てる。軟体動物の脳は、アサリなど二枚貝の単純な神経系から、頭足類であるイカやタコなど無脊椎動物の中で最大の脳まで含んでいる。その進化の道筋そして保存されている遺伝子は私たちと大きく違い、神経回路の設計図も他の動物と異なる。しかし共通して神経細胞とグリア細胞からなる脳とよばれる構造物は存在する。その脳によって感覚、運動、情動、記憶、そして認知という心的現象が生じる。軟体動物の「脳」そして「知性」とは私たちのそれとどこが違うのか? 進化心理学者のエーデルマン博士らが2005年に既に問うたように(図1)、ヒトをヒトたらしめている自己意識など、数多の心理状態を生み出すのに必要な遺伝子や回路基盤は多様な動物で共通なのだろうか? 多くの教科書で語られている典型的な我々の脳を、一度意図的に解体して再構築するのが本章の目的である。そのために軟体動物のような異質な脳の研究を必要とする。主に紹介していくのはマウスのような小型の哺乳類と同等のサイズに進化した、数億の神経細胞からなるタコの脳である。

 近年発見されたタコゲノムのシャッフリングという現象、ヒトや他のどの動物よりも多いある種の接着分子、シナプスでのRNA編集、神経細胞で多く発現する「動く遺伝子」トランスポゾン、動物界最大の巨大シナプスと巨大ニューロン、独特に配置されたホムンクルス状の感覚運動野など。本章は僅かではあるがそれらの興味深い内容を紹介したい。

異端がもたらした3つの革命

 軟体動物の脳と神経系は他の動物のそれに比べると、まるで異端のように見える。系統的な由来が大きく異なって進化したためである。それにもかかわらず、逆説的ではあるが生命科学もしくは神経科学の普遍的な原理、すなわちどの動物にも共通な原則の発見につながった革新的な研究例がある。ここでは軟体動物の研究の重要性を強調する意味で3点ほど紹介したい。

 第一の革命は、現代にまで影響する神経系の相同性についてである。古くは1830年にパリで起こった自然科学のアカデミー論争に端を発する。文豪ゲーテをして、あらゆる政治や科学の問題よりも面白いと言わしめた、動物の体の設計図についての議論である。その始まりは、イカなどの頭足類と鳥などの脊椎動物の体の設計プランが似ていると主張する、無名の自然科学者によるひとつの論文に端を発する。その論文は既に失われたが、当時の動物学の権威であるジョフロア・サンチレールは、そのアイデアを自身の理論として発展させた。それは、これまで比較困難であった動物の神経系や体に、共通の設計図があると提唱したものだった。しかし、真っ向から反対したのは古生物学の創始者であると同時に神経解剖学者のジョルジュ・キュビエである。彼は自ら作成した、タコと鳥の精密な解剖図を公表して、その考えは誤りであると主張した(図2)。彼自身は、独自の動物を比較する体系を既に構築しており、その体系に基づけば、昆虫や脊椎動物、そして頭足類に共通プランは存在しないはずだった。キュビエの反論は、内臓の形などの体のプランはタコと鳥で一見似ている。しかし神経系の配置が全く異なり、脳は体の逆側に配置されている。つまりタコと鳥に共通する体や神経系のプランは存在しないという主張だった。脳と神経系の共通な設計図は分子生物学が興隆した現代でも未解明の問題である。タコと鳥の脳は一体どのように比較できるのか? その起源は? 本章の後半でこの問題について触れたい。

図2. 体と神経系の相同性を論じた初めての論文のひとつ。解剖学の権威だったジョルジュ・キュビエが作成したトリとタコの比較解剖図。内臓の配置を似せるために鳥では体を折り曲げて比較しても、脳が逆側に配置されていることがわかる。[キュビエ1830を改変]

 第二の革命は、神経科学の分野で広く知られているものである。ヤリイカの巨大な神経軸索である。20世紀初頭において動物界で最大径の神経線維(軸索)がジョン・ヤングとよばれる英国の研究者によって報告された。巨大軸索を初めて発見した人物はウィリアムという解剖学者だが、英国プリマス臨海実験所で働いていたヤングはこの軸索を再発見して、解剖と電気生理的な特徴を調べたのである。そして英国や米国の多くの研究仲間に紹介した。その中にケンブリッジ大学の生理学者のホジキンとハクスリーが含まれていた。この2人は現代のどの教科書にも載っている、ニューロンが興奮する仕組みを調べ、モデルとして提唱した。他の動物、特にヒトや哺乳類では至難の技だったが、イカの巨大軸索は容易にガラス電極を細胞内に刺入できる長所があったことも奏功した。その後も、電気伝達やイオンチャネルの仕組みが分子レベルで解明されていった。さらに、このイカの巨大軸索を用いて、ニューロンの応答を見られる膜電位感受性の色素の探索が行なわれ、特にイオンチャネルの構造を中心に生理学的な特性が、イカの研究を契機として発展することになった。現代のイオンチャンネルの研究はこのホジキン・ハックスリーの活動電位のモデルが提唱された1952年に開始したとされている。イカの巨大軸索から始まり、あらゆる動物のニューロンとイオンチャネルの特性が見えてきたのである。

 第三の革命は、学習と記憶の分子レベルでの仕組みについてのものである。アメフラシという軟体動物を用いて、記憶の基本的な分子機構が解明された。その立役者は、2000年にノーベル医学生理学賞を受賞したエリック・カンデルである。彼はザリガニ、ハエ、センチュウ、マウスなど多くの動物を研究するなか、当時世界で2人しか研究していなかったアメフラシという軟体動物に集中して研究することを決めた。アメフラシの神経系を用いる最大のメリットは、神経細胞数が18000個程と極端に少ないこと、学習過程とその反射行動がとても容易に同定できること、そして個々の細胞のサイズが異常なほど大きく、細胞を同定しながら神経伝達物質の生化学や分子生物学の研究が可能なことである。記憶の仕組みは、この軟体動物の発見から大いに刺激を受け、現代ではマウスやハエの研究が追随した。しかしなぜ、アメフラシを含む軟体動物が非常に大きな神経細胞を持つのかは未だに謎であり、分子レベルで精力的に研究されている。カンデルそしてその弟子の研究に刺激を受けた日本人研究者も多く、現在もアメフラシや近縁のナメクジなどを用いた研究が継続して行なわれている。

 当然のことながら、上記の3つの軟体動物を用いた研究成果は、あくまで代表例で、その背景には膨大な数の研究者の努力とその蓄積があった。ただ共通して言えることは、軟体動物の神経系は個性的であり、その点に注目して未解明な現象が明らかにされてきた研究史があったことを強調したい。

軟体動物と脳の多様性

 一度ここで軟体動物の概要を紹介しよう。軟体動物は多様な種からなり、現生種で85000種、化石種で6万から10万種もしくはそれ以上の種が既に知られている(図3)。これは昆虫などの節足動物の次に多様なグループである。軟体動物は日本ではタコ、イカ、巻貝、二枚貝など食材として身近なものが多い。陸上、地下、森林、河川、海洋、深海、そしてトビイカなど短時間飛行する種も含めて多くの環境に適応繁栄した。化石研究ではアンモナイトやチョッカクガイ、深海研究ではダイオウイカやメンダコ、神経科学の分野ではヤリイカ、タコ、アメフラシ、ナメクジなどが最も知られている。蛇足ではあるが深海動物で最も人気があるのがメンダコであり、グロテスクさでは歴史的にみてもダイオウイカに敵うものはない。その一見して他の動物と異なる特徴は、そのボディープラン、すなわち体の多様性にある。ミミズ状の形をしたカセミミズ、平たく分節的な貝殻をもった岩礁ではごく一般にみられるヒザラガイ、固着性の二枚貝、らせん状のサザエ、貝殻を無くしたウミウシやナメクジ、浮遊性の生きた化石オウムガイ、魚類と同じく高速遊泳する外洋性のイカ、骨格のない腕で瞬時に擬態するタコなど、極めて豊富である。

図3. 軟体動物の多様性と分子系統図。 [Kocotら(2011) とSmithら (2011)を簡略化]

 体の多様性は脳の多様性を反映する。その代表例を図4に示した。原始的なサンゴノウミヒモなどの無板類ではコード状の神経索をもち、アメフラシやカタツムリでは嗅覚が発達し、その節が神経節として集中する。固着生活を送る二枚貝はより単純で少ない細胞数からなる神経系を持ち、濾過食の中枢が発達する。原始的なプランを持つオウムガイでは神経系の集中化が見られ、イカ類ではその集中化が最も進む。

 軟体動物の脳全体の相同性は、細部を除けば異論は少ない。頭部に集中する脳神経索、腹側神経索、側神経索と、共通プランは他の無脊椎動物とでさえ同様に見られる。なお、神経索は球形に集中すると神経節と呼ばれる。

図4.軟体動物の神経系と他の動物との比較。濃色で示す前脳もしくは脳神経索が共通して体の前部にある。動物種によって集中化の程度が異なる。[Shigeno(2017)を簡略化]

 成体の持つ神経系は種差が大きく、種特異的な適応様式に対応した組織構造のために比較が困難な場合が多い。しかし、発生期の初期にその原型が認められ、右記の3部からなる神経索プランは、種にかかわらず非常に共通しており、極めて保存的であることがわかってきた(図5)。軟体動物に共通するプランとして、脳神経索はそのまま脳神経節、腹側神経索は足部神経節、側神経索は外套内臓神経節へと発達する。頭足類の脳発生の分子機構については後に述べるが、私たちのオウムガイの発生の研究からその原型が同定されてきた。

図5.軟体動物の胚期にみられる共通プランとその仮想的な原始プラン。共通して脳神経索、腹神経索、側神経索の3つの塊からなる。 [Shigenoら(2010)を改変]

タコとイカの巨大脳

 高度な知性と多彩な行動様式をもった頭足類は、タコやイカを含む類とオウムガイ類に分けられる。特に鞘形類は脊椎動物とは系統が離れているにもかかわらず、小型の哺乳類と同程度の、ヒトの親爪サイズほどになる巨大な脳を発達させた(図6)。もちろん霊長類にはほど遠い小ささではあるが、無脊椎動物では最大である。最も祖先的な頭足類の脳はオウムガイ類が持ち、コード状である。オウムガイ類の脳は内部の組織も明瞭に分化しておらず、特に腕、視覚、遊泳中枢が脳葉という脳内の区画として認められない。深海種のジュウモンジダコやコウモリダコでは中間形を有し、特に学習と記憶に関与する触覚の中枢が未分化である。これらの種は一般に深海に生息するため、視覚中枢および平衡感覚器官とその中枢が相対的に発達する。最も分化が進んだ脳は沿岸に住む種で、海底を這うタコ類、遊泳するコウイカ類、群体を作る社会性のアオリイカ類などが挙げられる。

図6. タコの脳の切片写真と背面からみた生体標本。大きな視葉と分化した脳葉が確認できる。[左図はスミソニアン自然史博物館のJZヤング・コレクションから筆者が撮影]

 視覚に関わる中枢の、体に対する相対サイズが最大なのは小型種のヒメイカであり、海藻が茂る藻場に住んでいる。最大サイズの脳はダイオウイカで知られ、その眼は鯨類を含めてあらゆる現代の生き物の中で最も大きい。

 一般的に底層に生息するタコ類は腕の触覚の中枢が大きく発達する一方、沿岸および外洋域に生息するイカ類は遊泳と視覚を司る中枢の神経細胞の数と体積が増加する。マダコでは吸盤が並ぶ腕に約18万個の化学受容細胞が分布し、その回路は直接高次の中枢へと投射する。

 短期・長期の記憶を可能とする高い学習能力を持ち、環境と同化するカモフラージュ能は多くの種で見られ、身体中に広がる色素細胞群は神経制御され、体色模様を瞬時かつ自在に操作するのは他の動物にない特色である。

 タコとイカを含む鞘形類[しょうけいるい]の脳塊は、楕円状の視葉が左右において顕著に発達し、中心部には食道が貫通して食道上塊[じょうかい]そして下塊[かかい]から構成される(図7)。36程度の脳葉に分化し、各脳葉はさらに小葉に分けられている。

図7.タコの脳の正中断面図。食道が脳を貫通し、多くの脳葉と高次の連合野の分化が見られる。

 組織学的に見ていくと、脳は外側に位置する細胞域と、神経繊維の塊であるニューロパイルに分けられる(図8)。この構造は、あくまで全般的に言えることだが、前口動物である昆虫やミミズなどの環形動物などと似た組織構造であり、脊椎動物のように神経細胞層と神経繊維層が混在して配置するのとは異なる。要するにタコの脳では細胞体と繊維が明確に分かれて層を作る。神経細胞も多くは単極性、つまり細胞体がひとつの太い軸索を伸ばし、他の箇所でシナプス結合する。

図8. マダコ脳の視覚連合野である上前葉(カハール銀染色切片像)。右図はゴルジ染色した一部の拡大図。外側には細胞体が、内側には繊維の層が確認できる。

[スミソニアン自然史博物館のJ. Z. ヤング・コレクションから筆者が撮影]

 食道上塊には、学習や記憶の強化をともなう感覚の統合野である垂直葉と上下に位置する前葉がある。マダコの垂直葉では、哺乳類の海馬と同じく、神経の信号伝達が持続する長期増強という効果が見られる。この仕組みが数ヶ月におよぶ長期の記憶を生み出す基礎ではないかと考えられている。

 食道下塊には、主に腕、内臓を包む外套、内蔵などの低次の感覚と運動を司る中枢が発達する。タコ類では腕の触角から得られる情報の学習と記憶の座である脳葉が発達するが、これらはイカ類には見られない。また食道下塊には、高次の運動制御を行なう基底核や小脳の類似物である基底葉、生殖に関与する視床下部の類似物である下柄葉がある。

 マダコの視覚情報については、2000万個の視細胞、50万個の視葉の細胞を介して、最終的に統合野である上前葉、さらに垂直葉において2500万個の小型のアマクリン細胞群で処理される。ここでは、信号伝達が持続的に向上する長期増強が同定されている。さらに、その回路は垂直下葉や基底葉に連絡し、運動中枢へと連絡する。要するに階層的に情報が処理されている。

 巨大軸索、巨大シナプス、そして血液脳関門はイカの神経系で特に発達し、他の無脊椎動物にはほぼ見られない。ヤリイカ類の外套にある巨大軸索は、直径およそ1ミリと動物界で最大サイズであり、また同じ神経に発達する巨大シナプスも動物界で最大の化学結合タイプのシナプスである。巨大軸索は脊椎動物のように、伝導を速めるミエリンで覆われず、伝導速度はおよそ25メートル/秒で、マウスなどの哺乳類で最速の80120メートル/秒と比較して遅い。また細胞とシナプスの巨大化の分子機構は残念ながら不明である。軟体動物で特に顕著に発達したこの細胞の「巨大化」は何を意味するのか。単純に軸索を太くし、ミエリンという他の動物が獲得した構造を持たずに電気伝達速度を上げるための手段だったのか。いずれにしても今後はその分子レベルでの仕組みの解明が期待される。

明かされたゲノム

 現在、頭足類の複数の種でゲノムや転写物の解読が行われている。日本では長浜バイオ大学の小倉氏や島根大学の吉田氏を中心にしてヒメイカとオウムガイのゲノムが解読されてきた。また、米国ウッズホール海洋生物学研究所ではヤリイカ、ヨーロッパではコウイカやダイオウイカなど、複数の種で系統関係や生態学的特徴を考慮して体系的に計画が進行しており、ゲノム研究のための国際的なコンソーシアムも設立されている(CephSeq: https://www.cephseq.org/)。その中で大きな進展があったのは、2015年、カリフォルニアイイダコ(Octopus bimaculoides)のドラフトゲノムの解読結果が公表された点である。既に近縁であるナスビカサガイ(Lottia gigantea)やイトゴカイ(Capitella teleta)のゲノム配列は公開されたが、軟体動物の神経系に関しての詳細な研究は皆無だった。

 このタコのゲノムは、特に脳の進化を考慮して解析された。タコのゲノムサイズは27億塩基対と推測され、これはヒトのゲノムのおよそ32億塩基対に近い。

 タンパクをコードする合計33638遺伝子が同定された。基本的な神経伝達物質、Gタンパク質受容結合体、嗅覚受容体、シグナル伝達因子、そして細胞機能に関する遺伝子群は他の動物と種数も類似し、既にゲノム配列が報告されているナスビカサガイやイトゴカイなどの近縁種、そして脊椎動物や昆虫などの他の動物とも保存的である。一方でタコゲノムの固有の特徴は、神経線維の接着に関わるとされるプロトカドヘリンファミリーに属する遺伝子群がヒトで58遺伝子に対して、タコで168遺伝子と莫大に多様化している点である。さらに発生調節遺伝子群C2H2タイプのZnフィンガー型転写因子)もヒトが764遺伝子に対して、タコで1790遺伝子と大幅な増加が見られた。これらの遺伝子は特に脳で多く発現していたこと、さらに他の動物では神経回路の形成に関与しているため、現在、タコの脳回路の形成機構の特異性が注目されている。

ゲノム・シャッフリングと脳に高発現するトランスポゾン

 タコのゲノムでは他のどの動物とも異なり、大規模な配列上でのシャッフリングが同定された。ある特定の遺伝子のハイブリッドもしくはキメラを生み出す「シャフッリング」という現象は、植物などの数種でも知られているが動物種における頻度は少ない。またこの現象は近縁の貝類や他の無脊椎動物でも見られないため、タコもしくは頭足類が出現した際に生じた、固有の進化的イベントであったと推測されている。このゲノムの大規模改変の起因として、一般に「動く遺伝子」と呼ばれるトランスポゾンもしくは転移因子が有力視された。実際にタコゲノム全体のおよそ45にトランスポゾンの配列が見られ、5600万年前そして2500万年前の2回にわたって多様化したと推定された。

 ショウジョウバエでも数十年程度の期間内に、水平伝搬によって導入されたトランスポゾンが急速にゲノム改変したことが知られている。ではタコの脳においてこれらの転移因子は一体どのような意味を持つのだろうか? トランスポゾンが脳の神経細胞に強く発現し、哺乳類で知られるように記憶等との関連性が考えられている。これらの遺伝子は脊椎動物とは独立に出現した頭足類の複雑な回路や、細胞種の多様化の仕組みを明らかにする上でとても重要である。また、実際にはラットの海馬の神経前駆細胞にレトロトランスポゾンが関与してモザイク的に細胞タイプの運命を決定することが知られている。このことはタコのゲノムに多く存在し、脳に発現するトランスポゾンがモザイク的に神経細胞の分化や回路構造の形成に関わることも期待される。

ゲノムの重複に依存しない脳の複雑化

 遺伝子が重複するという現象は、遺伝子の種類を増加させ、結果的にタンパク質や種の多様性を増加させる。大野乾[おおのすすむ]によって1970年以降に提唱されてきた見解では、遺伝子の重複が脳や神経系の複雑化を駆動した主要因であると言われてきた。実際に、脊椎動物が生まれる際に全ての遺伝子が倍加した、いわゆる全ゲノムの重複が2回起き、体や神経系の進化に重要な枠割を果たしたと推測されている。その進化理論のため、頭足類でも同様に全ゲノムの重複が起こり、遺伝子の多様性の増加と並行して脳の複雑化が生じたと予想されていた。

 しかし、タコのゲノム解読の結果はそれに反するものだった。実際には頭足類が進化した以前、もしくは以後に全ゲノム重複の結果は見つからなかった。具体的に体や神経系を形作るHox遺伝子群で興味深い発見がなされた。脊椎動物ではゲノムの重複と共にHox遺伝子群の複製が生じ多様化してきた。重複が起こらなかった無脊椎動物では、ショウジョウバエに見られるように、典型的な直列のHox遺伝子群(クラスター)を形成する。しかし、ゲノム解析の結果、タコのHox遺伝子群も他の無脊椎動物のように単一のクラスターを作るが、他のどの動物とも異なり、異なるゲノム位置上に細分化して配置されている(図9)。

図9.タコのゲノム解析から明らかにされたHoxクラスターの分散化。軟体動物であるナスビカサガイやショウジョウバエとも異なる配置を持つ。

 タコのこの特異なクラスター配置が、先に述べたゲノム・シャッフリングやトランスポゾンの影響で起こったかどうかは不明である。しかし、ゲノムの解析される以前は、どの無脊椎動物もショウジョウバエと似た遺伝子配列を持つだろうと予測されていたのに、蓋を開けてみれば例外は思いのほか多く見つかったのである。

南極のタコから見つかった多量のRNA編集量

 全ゲノムの重複によって遺伝子の多様性が生じ、複雑な脳が生まれたという考えは脊椎動物のみの進化戦略を物語る。しかし頭足類の複雑な脳や身体の進化を説明できなかった。それではどのような別の戦略が存在するのだろうか? 近年、大変面白い発見が相次いだ。頭足類では脊椎動物や他の無脊椎動物とも異なり、多量のRNA編集がタンパク質の多様性を生み出すという新しい仮説が主張されている。すなわち、ゲノムよりもRNAが進化の主要な駆動因という説である。この説はある生態学、生理学、そして分子生物学の境界領域における研究から生まれた。

 ギャレットとローゼンタールは2012年にある興味深い発見をした。彼らは、いわゆる極限環境である南極の寒冷海域に生息する種と熱帯域の種の神経系における電気依存性のイオンチャンネルについて研究した。マイナス2度の低温もしくは37度の高温に生息するタコの神経細胞に注目したのである。低温に耐える神経とそのイオンチャンネルは何か特別な伝達速度を上げる分子的な仕組みがあると期待した。その結果、彼らは電気伝達するカリウムチャンネルの開閉が、零下である低温でも効率良く機能することを見出した。またその遺伝子と転写物を調べた結果、カリウムチャネルに関するメッセンジャーRNAが、南極と北極の寒冷海域に生息するタコ類で、熱帯域のそれに比べてイオンチャネルに関与する遺伝子が90程度と極めて多い割合で編集されているということがわかった。特に2本鎖RNAのアデノシンをイノシンへと変換するADAR遺伝子ファミリーの編集量が有意に多かった。

 このA-to-I RNA編集はその後イカ類の神経系、特にシナプス関連遺伝子と受容体で多く同定され、頭足類のイカとタコ類の多くの種で確認された(図10)。また、このRNA編集量は系統的祖先に近いオウムガイ類やアメフラシなどの他の軟体動物では少ないため、イカとタコ類で固有に生じた進化的な出来事であると考えられた。現在、RNA編集量が増加するとゲノム進化の速度が遅延するという進化仮説が提唱され、RNA編集が頭足類においては神経系の分子的な多様性を生み出す機構であると考えられている。すなわち脳や組織の多様化を知りたいのならばRNAに注目する必要があるということである。

図10. イカのシナプス関連遺伝子におけるRNA編集。[Alon, S.ら(2015)より改変]

 当然のことながら先に述べたように、ゲノムの研究で同定された神経接着因子であるプロトカドヘリンの種数が多いことなども細胞タイプの多様性の創出に寄与していると想定できる。またトランスポゾンによるゲノム・シャッフリングが新たな細胞種を生み出すという考えも興味深い。

 このようにいわゆるモデル動物を多く含む脊椎動物や昆虫類で想定された進化理論が、頭足類では必ずしも当てはまらないというのは、脳そして遺伝子の進化の奥深さを物語るものである。

脳の発生から原型を探る

 既に過去に起こった進化イベントを推測するためには、発生学の知見が極めて重要である。卵という単一細胞から複雑な知性を生み出す脳が生じる。特に頭足類ではこの興味深い現象を数週間で観察することができるが、頭足類の脳の発生を記載した論文は筆者が学生だった15年前には、わずか一報のみで、しかもドイツ語で書かれていた。その後、いくらかの進展があった。

 タコやイカの脳は先に記したように3部の神経索(脳、足、外套内臓の部位)から構成される。神経細胞が外胚葉から分化する際には、この3部の神経索は別個のクラスターとして分離している。そして発生後期に食道を中心に集中化して、いわゆるドーナツ状の脳塊が作られる(図11)。神経回路は発生初期から形成され始めるが、その様式はとても建設的である。まず、低次の感覚と運動の回路が出現する。例えば腕、眼、内臓、そして外套の感覚細胞もしくは筋肉への運動神経である。次に高次の感覚と運動野である基底葉で回路が形成される。要するに低次回路を調整する場所が生じる。そして最後に最高次の前葉や垂直葉といった学習と記憶、そして感覚と運動の連合野が発生してくる。

図11.タコの脳の発生。三つの神経索が集まって脳になる。

[Shigenoら(2015)より]

 頭足類は幼生期を持たず、成体のミニチュアとして生まれる。生後数日は内部の卵黄で生活できるが、同時に捕食活動をする。この際に敵や仲間を識別できるし、自分の体と同じサイズの魚類やエビ類を捕えることを学ぶ。脳の学習と記憶に関わる垂直葉の体積はこの時期で急速に成長する。

 イカの脳発生に関与する遺伝子は1997年に初めて報告された。Pax6というホメオドイメンを持つ転写因子がハエとマウスのみでなく、ヤリイカの目と脳の発生でも発現し、イカの相同である遺伝子をショウジョウバエで機能させるとハエの目が形成された。脊椎動物、昆虫、環形動物における脳後部の分節化に大きな役割を持つHox 遺伝子群もミミイカの発生時に発現し、他の動物と同様に脳の後部に変形してはいるが、直列的な特徴あるパターンで発現することが報告された。さらに近年では脳の前部に局在するotxや背腹軸を規定する転写因子が胚の腹側から背側に沿ってnkx2.1-pax6-gsx-pax3/7-pax2/5/8-msxといった順序の空間配置で他の動物と似たパターンを示した。さらに、神経系形成に関与するNeurogeninなどの遺伝子も他の動物と似て発現する結果が得られている。すなわちイカやタコの脳が、図12にみられるように、他の動物と進化的に保存された分子機構や回路構造で発生するという事実が蓄積されてきた。

図12.マウスとタコの脳の比較。これまでに報告されてきた発生調節遺伝子と回路構造、および脳領域の除去実験を考慮した図。 [shigeno et al. 2018を改変]

 一方、多くの論文では進化的な保存性を探求して、その類似性が強調された。しかし違いも見えてきた。例えば先に述べたPax6はイカの目の発生には関与するが、網膜すなわち視細胞には発現しない。この結果は、とても重要なことだが軽視されてきた。これは環形動物には似るが脊椎動物やハエとは大きな違いである。さらに、吉田と小倉らは転写時におこる選択的スプライシングもヒメイカの眼において他の動物と異なるサブタイプを用いることを見出した。またPax6は哺乳類の大脳皮質の一部の発生に関与するが、イカの類似物と呼ばれる脳の箇所には発現しない。このように遺伝子発現の時空間パターンは一見すると進化的に保存的である。そして、その結果から予測される分子機構も、これまで考えられてきた以上に保存性は確かに存在する。しかし、脳を詳細な部位に分けて観察していくと保存する領域とは別に明瞭な種もしくは系統において固有の違いが現れる。

タブーを超えて見えてきたデザイン原理

 タコとヒトの脳の共通性はどこにあるのだろうか? この問題提起自体に意味がないという意見もある。実際、20世紀における研究者の間では、タコとヒトのみならず、脊椎動物やより近縁の昆虫の脳を比較すること自体がタブーだった。例えばタコの脳解剖および生理学の権威だったジョン・ヤングの論文数は100を超えるが、その中でタコの脳と脊椎動物の大脳や外套もしくは哺乳類の大脳皮質について記した箇所は、筆者が知る限りたった1箇所のみである。それもタコの垂直葉が似た回路構造を持つことを理由に「新皮質および海馬」と比較しうるという文章である。ヤングは円口類や軟骨魚類の脳解剖の研究も詳細に行なっており、ヒトの脳全般の一般著作も多く執筆している。それにもかかわらず頭足類や他の軟体動物、昆虫類、そして他の無脊椎動物と脊椎動物の比較を自ら禁止していたのか、また常に慎重に考えていたようである。

 しかし時代は変わったように見える。20世紀後半の分子生物学と分子進化発生学の出現、さらに共通のデザインを探る情報学への興味のため、先に述べたようにハエとマウスの脳における共通の発生基盤が同定され、相同性が頻繁に議論されてきた。進化的な系統を省みた時、軟体動物と脊椎動物の共通祖先は、クラゲなどを含む刺胞動物のプラヌラ幼生のように散在的な神経系を保持していた種、もしくはプラナリアなどの扁形動物やミミズなどの環形動物のように幾分は集中化していた神経索を持っていたのかは未だ論争が絶えない。そもそも現代に生存する種は多かれ少なかれ祖先種とは異なるためである。しかし少なくともカセミミズのような原始的、そしてナメクジのような派生的な軟体動物の神経系を体系的に比較してみると、遊泳や平衡感覚のための高次の運動中枢は頭足類のみで発達したものである。腕と吸盤の化学感覚や運動に関する中枢も、頭足類の祖先的形質を保持するオウムガイでは存在するが、萌芽的である。視覚と触覚の学習に関与する垂直葉は、タコとイカで脳葉として大きく発達し、他の貝類などの軟体動物では観察されない。すなわち、脳の領域化は頭足類と脊椎動物で独自に精巧化したことは間違いない。ただし、完全に独立もしくは、似た脳が異なる系統で別に収束的に生まれた収束(収斂)進化の結果生じた脳であるかというと、厳密には間違いである。

 脳と高層建築物を一緒に考えるとわかりやすい。一見、建築の種類は全く異なったとしても土台となる支柱の構造は時代を超えて保存されている。コンクリートなどの材質は基本的に似たものだろう。欧米や日本の異なる様式の建築物では、窓や部屋などの種類は大きく異なるが、住みやすさを追求した結果、似た配置や構造を二次的に持ちうる。頭足類の脳と他の動物では、発生時の上流遺伝子にあたるHoxOtxなどの転写因子は、基本的に進化過程で保存される傾向がある。特に動物にとって変異すると致死に至る神経細胞やそれに関わる遺伝子は進化的に変化しにくいと考えられる。一方、学習や高次の心理機能は、失われても致死に関わる割合はより少ない。必ずしも同じ種類の遺伝子やタンパク質を使う必要性はないかもしれない。実際、頭足類では恒常性を司るような低次の脳中枢は他の動物と比べて保存的であるが、学習を司るような高次の中枢はより派生的で、独自のプランが見られる。

 先に述べたように、RNA編集やプロトカドヘリンのような遺伝子の種数の増大などは頭足類で独自に生じたものの、「建築物の支柱たる」体や脳の基本的な発生に関する制御遺伝子は保存的だった。そして仮に遺伝子と発生の基盤が進化的には保存的ではなくても、別の遺伝子や分子で代替できれば問題はなく、似た情報処理と脳機能を実行することは原則的に可能である。つまり、脳の進化を理解するためには、遺伝的背景とその系統的な保存性を考慮しつつも、同時に情報処理器官としての脳の機能デザインについて配慮する必要があるのである。

タコのホムンクルスはどこに?

 ヒトの大脳は最も発達が顕著なため、その進化的起源や多様性を探ることは多いに興味が持たれてきた。特に大脳皮質を特徴づける脳地図の存在はホムンクルスとして知られるように、視覚野、体性感覚野、聴覚野、体性運動野などと、「体」を表した配置で並んでいる(第11章参照)。魚類や爬虫類では不明瞭だが、マウスなどの哺乳類ではその地図は明瞭である。昆虫のキノコ体でもこのような機能地図を見つける研究は今現在盛んである。

 一方、タコの脳、特に垂直葉といった皮層にある脳葉には明確なホムンクルスもしくはオクト・ムンクルスがあり、「体」の位置情報が表現されている(図13)。それはマウスなどの哺乳類の脳の配置とは大きく異なる。口、唇、腕と吸盤、視覚、嗅覚、内臓などの中枢が明瞭に帯状の位置情報を持って配置されている。その配置様式は明確に体の位置と同じである。前側には口と腕、中間には眼と嗅覚器官、後方には外套と内臓。おのおのの中枢は同じ体における幾何学位置を保持する。これらは20世紀に行なわれた銀染色を用いた神経回路の組織学的な研究、脳の一部の除去もしくは電気刺激を与えて行動を観察する研究などの結果から見えてきたことである。特に哺乳類のホムンクルスは背側に感覚地図、そしてより腹側に運動地図がそれぞれ配置するが、頭足類ではそのような明瞭な区分が存在しない。

図13.タコ脳における体の表現とオクト・ムンクルス。マウスの場合も示す。

 タコの運動野、特に体性運動野の地図については近年論争の渦中にある。イスラエルの研究グループは、基底葉とよばれる箇所に微細電極で電気刺激を与えた結果、腕や外套の運動が同時に起こったことから、タコの少なくとも運動系にはホムンクルスや体の表現は無いという論文を有名誌に投稿した。しかし私たちの研究グループが明確に同じ脳葉の解剖地図が存在する結果を得ていたこと、また電気刺激ではいかに微細であれ、近隣の回路を刺激してしまうことなどから追試実験が必要との見方がある。また位置情報なしで動物が体の運動を制御するのは原理的に難しいとの意見もある。

 この問題は電極刺激と脳内活動のイメージングを行なえば、新しい結論に至ると考えられている。また、内臓の細部や平衡感覚を司る中枢など、まだ未発見の地図は多い。痛みや嫌悪の中枢も不明である。解剖学的研究でさえ不十分であり、電子顕微鏡で網羅的にシナプス結合を明らかにするコネクトミクスも開始されて間もない。MRIなどの脳内活動を調べる研究や遺伝子導入の手法も現在も克服しなければならない点があり、昆虫や脊椎動物と同じ手法が使用できない障壁がある。それらの研究と技術は進展中であり、今後の進展が期待される。

おわりに︱未知なる意識の神経基盤そして人工知能

 「何も刻まれていない石版」から知能を生み出したと謳われたAlphaGO ZEROは、まだヒトをヒトたらしめている自己意識を獲得していない。自己意識とは簡単に言えば私が私と知る能力である。かの二重らせん構造の発見者であるフランシス・クリックは晩年転身して、意識の神経基盤を見つけることに人生を賭けた。細胞接着の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞したジェラルド・エーデルマンも後に意識の研究に全精力を注ぎ込んだ。彼の息子であるデービッド・エーデルマンはタコと鳥とマウスの脳に共通する心理学的な共通性や意識とみられる現象をみつけ出すことに挑戦した。意識の生物学的な機構は科学の中で最大級の謎であるといわれる。今まさに私と読者が使用している……にもかかわらずである。

 近年、ハエなどの昆虫でも意識を持つ回路があると主張され、反対意見も誘発した。私個人の見解は、多くの心的機能の起源は想像以上に古く、ナメクジやミミズのような動物にその萌芽段階はあるとみている。脳の回路に共通なデザインがある点、また感覚を運動に変換する回路が多くの動物で存在しているためである。仮に意識の神経基盤が原始的な動物で機能していないとしても、その素地は存在し、多くの系統で似た機能が生じやすかったと考えるのが普通だろう。問題はその素地とは何だったかが明かされていないことである。

 脳の進化を体系的に研究することは、ヒトの心の進化の理解に必ず必要だと考えている。またタコの脳の研究から最大の謎である自己意識や未知なる心的機能の基礎を解明できないかと考えるのは、もはや時代を先駆けるものではない。今の時代は、未解明な意識などの構造を動物の脳から同定し、それを人工知能のアルゴリズムの開発に応用して、より革新的な知性を生み出す……ということまで考えることが社会的に要求されている。

 意識を、哲学や心理学、もしくは動物行動学のみの分野で捉えようとすると難解で脱出不能な袋小路に陥りやすい。あまりに複雑怪奇なヒトの脳とその入り組んだ建築物を簡単に理解するには、その基本的なデザインと原型を明らかにして、作り上げられる過程を見ていく作業が重要である。その研究の中で、知能ならしめている普遍的なデザインを見つけることができるだろうし、発展途上のAlpha ZEROをより進化させるための基本設計も見つけることができるだろう。現在の人工知能は、限られた計算と学習能力こそヒトを超えているものの、自然界に適応するという意味ではナメクジやタコにも及んでいないのである。

 本章の前半では、軟体動物のような異端な動物が生物学にとって重要な発見をもたらす可能性を述べた。実際に、イカの巨大軸索やアメフラシは永らく神秘の対象であったニューロンの電位活動、イオンチャネルの機構、そして記憶の分子的な仕組みを明らかにした。次なる発見は何処から生まれるのだろうか? 思わぬ所からか、もしくは古くから存在する謎からか。研究者にとっては、「それ」を見極め、多くの方々に知って頂くことも重要な仕事であり、本章がその一端を担えれば幸いである。

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ミエリン鞘はとも呼ばれ、軸索に巻き付いて絶縁体として働く構造である。これにより神経パルスはミエリン鞘の間隙を跳躍的に伝わる(跳躍伝導)ことで神経伝達が高速になる。ミエリン鞘は末梢神経系の神経ではシュワン細胞、中枢神経系ではオリゴデンドロサイトから構成される。

脳の中にある空洞のこと。脳脊髄液で満たされている。脊髄にあるものは中心管と呼ばれる。

神経堤細胞は脊椎動物の発生時に見られる神経管に隣接した組織。頭部では神経、骨、軟骨、甲状腺、眼、結合組織などの一部に分化する。

細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質の一種で、特定のイオンを選択的に通過させる孔をつくるものを総称してチャネルと呼ぶ。筒状の構造をしていて、イオンチャネルタンパク質が刺激を受けると筒の孔が開き、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを通過させることで、細胞膜で厳密に区切られた細胞の内外のイオンの行き来を制御している。刺激の受け方は種類によって多様で、cGMPが結合すると筒の穴が開くものをcGMP依存性イオンチャネルと呼ぶ。TRPチャネルも複数のファミリーからなるイオンチャネルの一群であり、非選択性の陽イオンチャネルである。発見された際に用いられた活性化因子の頭文字や構造的特徴から、A (Ankyrin), C (canonical), M (melastatin), ML (mucolipin), N (no mechanoreceptor), P (polycystin), V(vanilloid)の7つのサブファミリーに分類されている。TRPは、細胞内や細胞外の様々な刺激によって活性化してセンサーとして働いたり、シグナルを変換したり増幅したりするトランスデューサーとしての機能も併せ持つ。温度センサーやトウガラシに含まれるカプサイシンのセンサーとしても機能していることが知られている。

任意の遺伝子の転写産物(mRNA)の相同な2本鎖RNAを人工的に合成し生物体内に導入することで、2本鎖RNAが相同部分を切断して遺伝子の発現を抑制する手法。2006年には、この手法の功績者がノーベル生理・医学賞を受賞している。

様々な動物種間で塩基配列やアミノ酸配列を比較することによって、類似性や相違を明らかにする手法。この解析によって動物種間の近縁関係や進化の過程を予測することが可能になる。

発生過程で神経管を裏打ちする中胚葉組織であり、頭索類・尾索類では背骨のような支持組織としての役割を持つ。脊椎動物では運動ニューロンの分化を誘導するなど発生学的役割を持つ

魚類に顕著にみられる鰓のスリットで、哺乳類では発生の初期にはみられる。発生が進むと複雑な形態形成変化が起き、消失するが、外耳孔などは鰓裂の名残ということができる。

動物の初期発生において最初の形態形成運動として原腸陥入が起こる。原腸は消化管に分化する。この原腸陥入によって生じる「孔」を原口と呼ぶが、これが将来の動物の体の口になるのが前口動物であり、肛門になるのが後口動物である。半索動物、脊索動物は後口動物である。

ナマコの幼生のことをオーリクラリア幼生と呼ぶが、ウニのプルテウス幼生、ヒトデのビピンナリア幼生、ギボシムシのトルナリア幼生など、形態的共通性をもつ幼生全体をまとめてオーリクラリア(型)幼生と呼ぶ。今日ではディプルールラ型幼生という呼び方が広く使われている。この説はガルスタングが1928年に提唱した。その時代にはオーリクラリアという用語が使われたため(ディプリュールラ説ではなく)オーリクラリア説と呼ばれている。

Hox遺伝子はショウジョウバエで発見されたホメオティック遺伝子の相同遺伝子である。無脊椎動物のゲノムには基本的に1つのHoxクラスターがあり、脊椎動物のゲノムには4つのHoxクラスターがある。Hoxb1は4つあるクラスターのうちのBクラスターに属する1番目のHox遺伝子という意味である。

脊椎動物胚の後脳領域には頭尾軸にそった分節性(等間隔の仕切り)がみられる。この各分節をロンボメアと呼び、図14に示すように7番目までは形態的に明瞭に観察できる。

脊椎動物のゲノムにはふたつか3つのIsletが存在する。Isletは脳幹(延髄、橋、中脳)の運動性脳神経核に発現して、運動ニューロンの分化に関与している。

感桿型では光刺激はホスホリパーゼCとイノシトールリン酸経路を活性化させる。繊毛型ではホスホジエステラーゼによる環状GMPの代謝が関与している。

気嚢による換気システムは獣脚類と呼ばれる恐竜から鳥類に至る系統で段階的に進化していったと考えられる。

このような特異な形態は胚発生期には見られず、生後に発達する。その過程は頭骨に見られる「テレスコーピング現象」と並行して進む。

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3. Hori, M. (1993) Frequency-dependent natural selection in the handedness of scale-eating cichlid fish. Science 260: 216-219.

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31. Janvier, P. (2015) Facts and fancies about early fossil chordates and vertebrates. Nature, 520(7548), 483.

卵や精子、その元となる始原生殖細胞などを指し、子孫に遺伝情報が引き継がれる細胞そのものである。

卵や精子を作る減数分裂において、母由来の染色体と父由来の染色体が対合したときに、同じ領域がランダムに入れ替わる(組み換えられる)。つまり、我々の”配偶子の”染色体は、父親と母親由来の染色体がモザイク状に入り交じったものなのである(体細胞の染色体は免疫グロブリンなどの一部の領域を除いて基本的には均一なものと考えられている)。

 タンパク質にコードされる遺伝情報をもつ塩基配列。狭義にはゲノムDNAのうち、mRNAに転写され、タンパク質になる部分。近年は、タンパク質に翻訳されないものの、機能をもつtRNA、rRNAやノンコーディングRNAなども遺伝子の中に含められるようになっている。本書では、特に注意書きのない限り、タンパク質の元となるmRNAになる部分を遺伝子、と呼ぶ。

 では、その転写因子はなにが発現させるのか、というと、やはり別の転写因子である。卵の段階から、母親からmRNAとして最初期に発現する遺伝子は受け取っているので(母性RNA)、発生の最初期に使う転写因子を含む遺伝子群に関しては、転写の必要がないのである。その後、発生、分化が進んでいくと、それぞれの細胞集団に必要な転写因子が発現し、実際に機能をもつ遺伝子の転写を促す。

遺伝子は、核酸配列の連続した3塩基(コドンと呼ばれる)が1アミノ酸に対応し、順々にペプチド結合で繋げられてタンパク質となる。3つの塩基は43=64通りになるが、アミノ酸の数は20個、stopコドンを含めても21種類しかない。したがって、同じアミノ酸をコードするコドンは複数あり、たとえ変異が入ってもアミノ酸は変わらないことがある。これを同義置換と呼ぶ。一方で、変異によってコードするアミノ酸が変わってしまう置換を非同義置換と呼ぶ。

 ふたつの系統が祖先を共通にした最後の年代。本章では、近年の分岐年代推定を利用して作成された系統樹(当該文献[9]のFig.1を参照)からおよその年代を読み取り、記入している。

 アフリカツメガエルや、コイ科、サケ目など、進化上の随所でも全ゲノム重複が起こっている。

 最もよく知られている放射性同位元素による年代測定は、放射性炭素年代測定である。炭素12Cは紫外線や宇宙線によって、空気中では一部(1/1012)が常に14Cに変換されている。つまり、大気中ではいつの時代も1兆個の炭素原子のうちひとつが14C、残りが12Cという割合なのである(太陽活動の変化などにより若干のブレはある)。しかし一旦生物の体内に炭素が取り込まれ、そしてその生物が死に、地中に埋まってしまえば、もう宇宙線も紫外線も当たらないので、14Cへの変換は起こらない。ここで14Cは放射性同位元素であることに注目したい。14Cは約5730年で半分が崩壊し12Cに変換される。したがって、14Cの比率でいつその物質が地中に埋まったのかがわかるのである(文献7)。

 ただし、この放射性炭素年代測定では、14Cの検出限界の関係で、せいぜい6万年が限界である。それより昔は火山岩に含まれる物質の、やはり放射性崩壊の半減期を元に推定される。例えば、K-Ar法では、40Kが40Arに13億年の半減期で放射性崩壊することを利用する。溶岩からできたての火山岩か、あるいは何億年も経ったものかを調べることができる。40Kは岩石中に元々大量に存在するため、差異を検出することは不可能だが、40Ar(常温で気体)は大気中には微量しか含まれないため、岩石中に封入された気体の中の40Arの含有率を計測することにより、その岩石の古さがわかる。当然、40Arの率が高い物が古い岩石である。このように、複数の放射性元素の崩壊の半減期から地質年代というのは推定される。

 南米にもごく少数ながら有袋類が現存しており、これらのゲノム解析・比較から、オーストラリア・南米で現生の有袋類の共通祖先は、実は南米で生まれ、当時陸続きだった南極大陸を経て、オーストラリアにいたったと考えられている。

 世界で最も臭いといわれているシュールストレミングをネットで取り寄せて購入したとき、人々は逃げるどころか、わざわざ悶絶するために集まってきた。いい匂いの物を取り寄せても20人もの人数は集まるとは思えず、怖い物見たさという悪趣味な好奇心はたいしたものである。無論、取り寄せた私も例外ではない。ちなみに、シュールストレミングはひとかけらをクラッカーの上に載せるくらいの食べ方なら悪くない気もする。

このふたつの硬骨の作られ方について、第3章に詳述があるので参照。

 ガノイン鱗には我々の歯のエナメル質を作る遺伝子と相同な遺伝子が発現しており(文献18)、イメージとしては歯で身体を覆われているようなもので、当然極めて強固である。

 遺伝子にはその由来によっていくつかの異なる呼び名がある。オーソログとは、共通祖先がもつある遺伝子Aが、種分化によって2種以上の生物に受け継がれた時、受け継がれた遺伝子たちをオーソログと呼ぶ。パラログとは、遺伝子重複によって生じたふたつ以上の遺伝子を指す。最近では大野乾氏の功績をたたえ、ゲノム重複によって生じたパラログで現存するものを特にオオノログOhnologと呼ぶ。

 異化と同化……この2種類の化学反応によって生命活動は維持されている。異化は物質を分解してエネルギーを取り出す代謝経路、同化はエネルギーを使って必要な物質を体の中で作り出す代謝経路。

 アデノシン三リン酸の略。生体内のエネルギー通貨として、様々な化学反応に用いられている。

 組織中の核酸分子(ここでは特定の遺伝子から転写されたmRNAを指す)の分布を検出する手法。調べたい遺伝子の塩基配列を元に、そのmRNAに特異的に結合する分子を設計・合成することで特異度の高い検出が可能となっている。

 通常の生物の核ゲノムはそれぞれの両親に由来する染色体が2本1セット存在し(ディプロイド)、その染色体間で組み替えが起こるため遺伝的な由来を辿る作業がしばしば煩雑になる。しかしミトコンドリアは母親由来であるため(ハプロイド)、そのゲノムを利用することで比較的簡便に遺伝的な類縁関係を遡ることが可能となる。

 増幅断片長多型:制限酵素で切断したゲノムDNA断片をPCRにより増幅し、断片の長さの違いを網羅的に検出比較する方法。この断片長の違いを種間の類縁関係の推定に使用することが多い。

 sexual conflict。ある形質が片方の性にとっては有利だが、もう片方の性にとっては不利な場合にオスメス間で生じる対立。

 次世代シーケンサーを利用して、各組織に発現する遺伝子の種類や量を網羅的かつ定量的に推定する解析方法。

 真核生物のゲノムに散在する反復配列のうち、一度DNAからRNAに転写され、その後に逆転写酵素の働きでcDNAとなってからゲノム中の別の座位に組み込まれるものを指す。数多くのレトロポゾンが存在しており、例えばヒトゲノムは約40%がレトロポゾンによって占められている。

 太陽光には連続したことなる波長成分の光が含まれているが、その波長によってエネルギーが異なるため、水中に到達する波長成分の割合が深さによって異なることがわかっている。特に濁ったビクトリア湖のような水環境では浅場の方が短波長である青色光の成分が多く、深場では長波長の黄色〜赤色の成分が多いことがわかっている。

 タンパク質をコードするDNA配列上の塩基置換にはアミノ酸の置換を伴う非同義置換と、伴わない同義置換がある。一般に、同義置換は生体に影響を及ぼさないため中立であるが、非同義置換は生体にとって不利であることが多い。ただしタンパク質の機能変化が個体にとって有利な場合は非同義置換の割合が上昇することが知られており、それを正の自然選択と呼ぶ。同義置換と非同義置換の割合を統計学的に比較する方法がある。詳細については第7章およびコラム「適応進化に関わる候補遺伝子や候補領域を絞り込むアプローチ」を参照。

   発生初期の胚の一部の細胞群から作られ、生殖細胞を含む様々な組織に分化可能な性質(多能性)を有する細胞株。英語名(embryonic stem cells)の頭文字をとって、ES細胞と呼ばれることも多い。

 変異体を元になった親系統と交配すること。TILLING変異体に関しては変異以外の部分を親系統由来のゲノムに置換するために行う。1回の交配で全体の50%の領域が置換されるため、90%以上を置換するためには最低4回の、99%以上を置換するためには最低7回の戻し交配が必要である。

 タンパク質の二次構造のうち代表的なモチーフのひとつ。水素結合により形成されたらせん状の形である。

 Francis Crickが1958年に提唱した、遺伝情報がDNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質、という流れで伝わるという概念のこと。分子生物学の基本となる極めて重要な概念である。

 ヒメダカの原因遺伝子としてだけでなく、ヒトの先天性白皮症(つまりアルビノ)やホワイトタイガーの原因遺伝子としても知られる。水素イオンを運ぶトランスポーターをコードすることがわかっているが、その黒色素産生(メラニン合成)における機能は未解明な点が多い。

 相同組換えの鋳型となる外来DNA断片のこと。通常、導入したい配列(GFP遺伝子や特定の塩基置換など)の上流・下流それぞれに、導入したいゲノム領域と相同な配列(相同アームと呼ばれる)を持ったDNA断片である。

 RNAポリメラーゼが結合し、RNAを転写するのに必要最小限の遺伝子上流配列。通常、単独では下流の遺伝子は転写されないが、周辺に転写活性化領域(エンハンサーなど)が存在すると、その影響を受けて下流に存在する遺伝子が転写される。

 オオシモフリエダシャクの「工業暗化」の例を考えるとわかりやすい。これは、産業革命以降のイギリスで、暗化型と呼ばれるより黒い個体の割合が多くなったとされる例である。この蛾は、自然が多い地域では淡色型が目立ちにくく、鳥に捕食されづらかったが、すすで黒くなった木が多い工業地帯では、より黒い暗化型のほうが目立ちにくく、生き残りやすかった。この場合、仮に蛾の色をより黒くするアミノ酸変異が生じたとすると、そのアミノ酸変異は工業地帯で生存に有利で、固定されやすいだろう。ちなみに、近年、具体的にどんな遺伝的変異がこの工業暗化に関わっていたのかが詳細に解析されつつある。

 SWS = short wave sensitive opsin、つまり短波長の光に感受性をもつオプシンのサブタイプ。

 第4章にも記載されているように、深いところには波長の長い赤い光のみが届く傾向がある。つまり、水深の深いところに棲む集団では、青い光を感受するSWSの機能は重要ではなくなってしまう。

 Gタンパク質はGTP結合タンパク質ともよばれ、GTPと結合することで活性化される。GTPを加水分解する性質をもっており、結合しているGTPがGDPに加水分解されると自身が不活性化される。受容体からの信号を中継するものは三量体(α、β、γサブユニット)として存在している。

 神経伝達物質は、放出された後、即座に分解されなければ迅速な伝達を成し得ない。したがって、こういった分解酵素の存在は、ATPが実際にその部位で神経伝達物質として働いていることの傍証となる。

 セロトニンは生体内に存在するモノアミンの一種であり、神経系では神経伝達物質として機能する。生体内のセロトニンの大部分(〜95%)は腸管に存在しており、神経系に存在するものは割合としては小さい。神経系では中脳の縫線核という部位のニューロンで産生され、情動機能等に関係しており、セロトニンの再取り込み阻害剤には抗鬱薬の作用がある。味蕾に存在するセロトニンはそれらとは別の働きをもっていると考えられる。

 迷走神経には感覚性の線維と運動性の線維の両方が含まれており、ここでの迷走感覚神経とはその中の感覚性の要素のみを指す。

 神経細胞(ニューロン)で、突起状の構造(軸索や樹状突起)以外の、核の周辺部の構造を細胞体という。

 ある細胞が放出するリガンドが、その細胞自身の受容体に働くことを自己分泌という。近傍の細胞の場合は傍分泌と呼ぶ。近隣の同じ性質をもった細胞に作用する場合と、自分自身に働く場合を合わせて、自己・傍分泌と呼ぶことが多い。哺乳類のキスペプチンニューロンは、キスペプチン以外に放出するニューロキニンB、ダイノルフィンと呼ばれるペプチドが、キスペプチンニューロン自身に作用することで、アクセルとブレーキのように働き、そのタイムラグでキスペプチンの放出を間歇的に引き起こす。これが前述のGnRHパルスを生み出しているとされている。

 市場に出ている子持ち昆布の中には、ニシン以外の魚(タラの仲間など)を用いて加工されているものもある。また、本物のニシンの卵の場合も、自然に海藻に産みつけられた卵はもっとまばらなので、あのようにびっしりと卵が並んで食べ応えのある子持ち昆布は人為的に作られているようだ。

 タンパク質の一次構造を形成する際にアミノ酸間に形成されるペプチド結合ではなく、側鎖にあるアミノ基とカルボキシル基の間に形成されるペプチド結合のこと。

 2-⑴で述べたように魚類の卵膜の別名は“コリオン”である。将来コリオンになるタンパク質のため、“材料”の意味をもつ“-genin”をつけて、コリオジェニンと呼ばれている。

 遺伝子のうち、半数体ゲノムにつき1コピー(体細胞では2コピー)しかない遺伝子以外のもの。

 共通祖先から生じたいくつかの遺伝子のうち、異なる生物種において類似または相同な機能をもつ遺伝子同士のこと。たとえば、ヘモグロビン、ミオグロビン、サイトグロビンなどは共通祖先から由来するグロビン遺伝子ファミリーであり、ヒトもマウスもこれらの遺伝子をもつが、このうちヒトのヘモグロビン遺伝子とマウスのヘモグロビン遺伝子はオーソログの関係にあるといえる。

 遺伝子ファミリーの中には、突然変異などによって機能を失ってしまうものがある。例えば、変異によって翻訳の途中にストップコドンが入ったり、プロモーターの欠損による転写不能や、転写後のプロセッシングに関与する配列の欠如による成熟mRNAの形成不全などがある。このように、配列の痕跡は残っており、どの遺伝子ファミリーに属するかは明らかだが、機能的でない遺伝子を偽遺伝子(Pseudogene)という。

 魚類では毎年数百の新種記載があり、2018年現在において硬骨魚類の現生種の記載数は3万をこえる。

 栄養リボンという邦訳は、山岸宏『比較生殖学』(東海大学出版会、1995年)による。

 第8章で触れられているデンキウナギなどは、長い身体の大部分が発電器官になっており、肛門の位置が同じように著しく前方に位置する。

 酵素活性は同じであるが、アミノ酸配列の違いによって性質の異なる酵素タンパク質。タンパク質の電気泳動度の差異から、その支配遺伝子座における遺伝子型の差異を検出できる。

 生物相の分布境界線で、この線を挟んで動植物相が大きく変化する。この線の西側が東洋区、東側がオーストラリア区とされる。ウォーレスとウェーバーがそれぞれ異なる境界線を提唱した。スラウェシ島やティモール島は両者の境界線の間に位置する。

 個体や系統を識別する上で目印となるDNA配列のこと。系統間で塩基配列が異なる領域があれば、そこをDNAマーカーとして利用できる。

 ゲノムDNAを制限酵素で切断し、100〜200kbの断片を細菌人工染色体(BAC)ベクターに組み込んでクローン化したもの。大きな領域の物理地図や塩基配列決定に必要とされてきた。

 DNAマーカーや既知のクローンを用いて、配列が一部重なり合うクローンを同定する作業を繰り返し、目的遺伝子近傍のクローンコンティグを作成する方法。

 ミュラー管とは哺乳類の発生過程で将来卵管になる管で、オスではこのホルモンの働きによって退縮する。しかし、真骨魚類にミュラー管はなく、別の機能をもつと考えられる。

 メダカ博士こと山本時男博士は、1953年d-rR系統(オスが緋色、メスが白色の限定遺伝をもとに育成作出された系統、X染色体上に潜性(劣性)のr遺伝子、Y染色体状に顕性(優性)のR遺伝子をもつ、体色により遺伝的な性の判別が可能)の孵化直後から性ホルモンを経口投与して性の人為的転換に成功した。すなわちXrXrでもアンドロゲン投与によりオスとなり、正常メスXrXrと交配して、メスメダカばかりを生んだ。XrYRもエストロゲン投与によりメスに性転換し、正常のオスXrYRと交配した。性ホルモンによる性転換が多くの研究者から示されていたが、山本博士によって初めて遺伝的な性と性ホルモンによる性転換の関連が明らかにされた。コラム⑧も参照。

 コ・オプション(co-option)、遺伝子の使い回し。既存の遺伝子が新たな機能を担うようになること。

 非同義置換よりも大きな影響を与えるのがフレームシフトである。3の単位で塩基は読まれていくが、もし、3の倍数以外の挿入/欠失が起こった場合は、その後の配列が全て読み枠がズレてしまい、その挿入/欠失より後(C末端側)ではまったく異なるタンパク質ができてしまう。

008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称

通称ブレグジット(英語: Brexit)とは、イギリスが欧州連合(EU)から離脱すること