第3章 脳の再生と集中神経系の起源―プラナリアの脳

扁形動物、プラナリア

扁形動物

 私たちヒトの脳は、どのような進化をたどってきたのだろうか? ヒトだけではなく、多くの動物の脳についても学ぶことで、この問いに答えられるかも知れない。脳をもつ動物群は、系統的に左右相称動物に分類され、さらに脊椎動物が含まれる新口動物と旧口動物に大別される。旧口動物はさらに、脱皮動物とらせん卵割動物(冠輪動物)に分けられる(図1)。扁形動物は、らせん卵割動物の中でも比較的初期に分岐した動物群と考えられており、左右相称動物の進化を理解する上で重要な位置にある。本章では、プラナリアを代表とする扁形動物の脳について、歴史的な研究や最新の研究の中から脳の進化を理解するために重要な話題を紹介していきたい。
早速ホットな話題に移りたいところだが、やはりまずは知っておくべき基本的なところからはじめたい。
扁形動物は、その名の通り平たい体をした動物類のことを指す。英語では、平たい虫を意味するflatwormという。以前は放射相称の刺胞動物門から最初に左右相称動物に進化した動物群として考えられていたが、リボゾームRNAの配列を用いた分子系統解析の結果から、近年はらせん卵割動物の中に分類されている(図1)。あまりな染みがないかもしれないが、扁形動物門の中には、サナダムシやエキノコッカスが分類されている条虫綱に加え、単生綱、吸虫綱といった寄生虫としての生活環をもった動物が多い。非寄生性の扁形動物には渦虫綱がある。渦虫綱には、ヒラムシ、コウガイビル(コウガイビルはヒルではなく扁形動物であり、ヒルはミミズと同じ環形動物である)、プラナリアなどが分類されている。

図1. 左右相称動物の系統樹

図1. 左右相称動物の系統樹 左右相称動物は、新口動物、旧口動物に大きく分けられる。珍無腸動物は、新口動物と旧口動物が分岐する前に出現したと考えられているが、集中神経系は持っていない。集中神経を持つものの中には、脊椎動物などの新口動物と昆虫などの旧口動物がある。さらに旧口動物は、脱皮動物とらせん卵割動物に分けられる。らせん卵割動物の中でも、扁形動物は初期に分岐したと考えられている。

 渦虫綱の体の構造の特徴は、体腔がないこと(無体腔動物)、三胚葉性(外胚葉、中胚葉、内胚葉)であることと、そして、集中神経系を持つことである。集中神経系は、頭にある脳と体幹部にある一対の腹側神経索のふたつの主要な構造体から構成されている。昆虫のはしご状神経系に対して節構造を持たないことから、かご状神経系と呼ばれている(図2)。
プラナリアとは、実は分類学上の名前ではなく、淡水性の渦虫類のことを総称した名前である。プラナリアは、三岐腸目(ウズムシ目)に属する。大きな主腸管が前方に1本、後方に2本の3本に分かれていることが三岐腸という名前の由来である。ちなみに、海水棲の渦虫類で有名なのはヒラムシであるが、ヒラムシには多数に枝分かれした腸があることから多岐腸目という名前で分類されている。一方、腸を持たない無腸類や珍渦虫も、プラナリアと同様に平たい体をしていることから、以前は扁形動物門に分類されていた。しかし、発生中の胚の形態の観察や分子系統解析の結果から、扁形動物門から外れ、左右相称動物の中で最初に分岐した新しい動物門である珍無腸動物門に分類されている。いずれにしても、扁形動物は古くから現在に至るまで進化研究に重要な情報を提供し続けている動物群なのである。

図2. プラナリア A:実際のプラナリア(ナミウズムシ; Dugesia japonica)の写真。頭にはふたつの眼があるのがわかる。三角形のところは耳葉と呼ばれ、匂いなどを感じる器官とされている。 B:プラナリアの体の構造の模式図。中央部には食べ物を取り込むための咽頭がある。咽頭で摂取した食べ物は腸管へと取り込まれ全身に栄養を送る。腸管は大きい管が前方に1本、後方に2本伸びる。浸透圧は原腎管で調節される。間充織とよばれる器官の隙間には、幹細胞が多数散在している。集中神経系は脳と腹側神経索からできている。脳と腹側神経索は別の構造である。脳は左右2葉にわかれており、外側に向かって側方突起と呼ばれる突起が左右9対突出している。側方突起は匂いや接触刺激などを脳に伝える働きをしている。眼の視細胞から伸びた視神経の軸索は視交叉をつくったのち脳に投射してい信号を脳へと伝えている。

 プラナリア

 プラナリアは、世界中に数百種が存在し、国内でも20種以上が確認されている。そのうちの一種ナミウズムシ(Dugesia japonica)は、国内で最もよく見られる種である(図2)。本章で紹介するプラナリアとは、基本的にはナミウズムシのことを指す。
プラナリアを一見すると、くっきりとした黒目と白目のある眼が印象的である(図2A)。黒目はキョロキョロ動くことはないが、少し寄り目に見えるのもかわいらしい。
自然界でプラナリアを探すには、きれいな水が流れている川の日陰で、川底に落ちている石や落ち葉めくってみると比較的簡単に見つけることができる。意外にも肉食で、カワゲラなど水棲昆虫を好んで食べている。頭にある三角形の耳葉と呼ばれる匂いを感知する器官で匂いを嗅いで獲物を探して、あっという間に獲物にまとわりついたかと思うと、身体のほぼ中央にある咽頭を腹側の口から出し、それを伸ばして象の鼻のように器用に動かして餌に吸い付くと、餌を咀嚼しながら吸うようにして食べてしまう。摂取した餌はそのまま腸管へと運ばれ、消化される。血管系がない代わりに、全身に腸管がはりめぐらされていて、細胞は直接腸管と栄養分や老廃物の交換をしている。排泄物は食べる時にも使った咽頭から吐き出す。他にも、体液の浸透圧を調節する腎臓と同じ働きをする原腎管も備えていて、見た目よりもしっかりとした体のつくりをしている。

驚異的な再生能力

 プラナリアの最大の特徴は再生能力であり、古くから多くの研究者がこの再生能力に興味をもってきた。種の起源の著者であるチャールズ・ダーウィンもビーグル号に乗って航海している途中にオーストラリアに寄港した際に、プラナリアの再生実験を行なっている。
プラナリアの再生能力については、驚異的という言葉がふさわしい。プラナリアを縦でも横でも断片に切断したとしても、それぞれの断片から、1週間もあれば完全な元の形態および機能を持った個体に再生してしまう(図3)。頭や咽頭がなかった尾部の断片からも、頭や咽頭を再生する。身体の一部を再生するというより、身体の一部から個体を再生できるといった方が適切な表現かもしれない。まさにナイフに対しては不死身の動物である。
プラナリアの再生を担う細胞は、新生細胞(ネオブラスト)と呼ばれる全能性幹細胞である。全能性幹細胞とは、体中の全ての細胞の種類を作りだせる幹細胞のことである。プラナリアの新成細胞は、全ての体の細胞のうち20〜30%もある。プラナリアは、成体でも体中に分布するこの幹細胞を自在にコントロールすることで、身体のどの部分からでも元の体を再生できるのである。今ではプラナリアの再生能力は、学術的な意義だけではなく、再生医療分野でも着目されるようになっている。

図3.再生能力 A:プラナリアを切って1週間後に再生した個体。1個体を6断片に切断すると、1週間後には全ての断片が再生することで、6個体になる。 B:再生の仕組みの模式図。筋肉細胞や神経細胞などの分化した全ての細胞は、幹細胞から生まれる。再生の初期には切断面から再生芽ができ、シグナリングセンターとして働く。シグナリングセンターからの情報をうけとった幹細胞は、適切な場所で、幹細胞から筋肉細胞や神経細胞などの分化細胞が生みだされている。

 プラナリアの高い再生能力は、なにも人に切られた時のために準備されているのではなくて、本来は無性生殖のためにある。プラナリアに餌をずっと与え続けていると、ある一定の大きさに成長すると、「自切」といって、首付近や尾の付近で横方向に自分で分裂して2〜3断片になる。それぞれの断片が全て元通りに再生することで個体数を増やしているのだ。ホ乳類のようにオスとメスが交配することで子孫を残す生殖様式を有性生殖と呼ぶのに対して、プラナリアのようにオスとメスの交配を介さずに個体数を増加させる生殖様式を無性生殖と呼ぶ。プラナリアの生殖戦略で興味深いのは、無性生殖と有性生殖をいったりきたりすることができることだ。有性化すると、1個体内に精巣と卵巣および外部交接器を発達させる。雌雄同体ではあるが、1匹の個体内の精子と卵子が受精する自家受精をすることがないような体のしくみになっていて、他個体と交配することで他家受精をする。プラナリアの種の中には、有性生殖を主に行なう種もいるし、無性生殖と有性生殖とを転換する種もいる。このように無性生殖と有性生殖を切り替えるための機構には不明な点も多いが、栄養状態や、温度や光などの環境刺激が関わっており、神経系の役割も重要だと考えられている。

プラナリアの脳のかたち

 頭部神経節 vs 脳

 前置きが長くなってしまったが、プラナリアの神経系とは、どのようなものなのかを覗いていこう。
プラナリアの脳の神経細胞の数は非常に多く、体全体の細胞数の約15%を占めている。体長が約8ミリのプラナリアで見てみると、約50万個から100万個にもなる。プラナリアの集中神経系は、頭部にある脳と体幹部にある一対の腹側神経索のふたつから構成されていて、それぞれ独立した構造になっている(図4)。従来、プラナリアの脳は均一な神経細胞の集合体(頭部神経節)と呼ばれていた。「脳」とは呼ばれていなかったのだ。脳には、神経細胞の多様性や規則的な神経回路があると考えられていて、プラナリアには、そのような多様性や規則性はないと考えられていたからだ。集中神経系の中にある神経細胞の集合体を神経核と呼ぶのに対して、神経節とは集中神経系の外にある神経細胞の集合体のことをいう。つまり、胴体部に伸びる腹側神経索の一部が頭部で肥大化しているだけと考えられていた。

図4. 脳の領域
ホメオボックス関連遺伝子の発現によって、脳の機能領域が決められる。OtxA遺伝子は視細胞と脳の最も内側の領域で発現していて、視覚と脳の視覚中枢を形成している。OtxB遺伝子は脳の中央部で発現して、様々な眼や嗅神経で受容した情報を統合する領域を形成している。Otp遺伝子は脳の最も外側にある側方突起で発現していて、匂いや接触刺激を脳に伝える領域を形成している。

 プラナリアの神経系の研究は、再生の研究にも引けをとることなく古くから関心をもたれてきた。しかし、当時の細胞や組織を染色する技術や顕微鏡の性能では、細部まで観察できなかったようで、そのため、脳と腹側神経索の構造を区別することに限界があったからかもしれない。では、頭部に集まっただけの神経節ではなく、脳として認識されるようになったきっかけはなんだったのだろうか?
ドイツの動物学者であるリチャード・ヘス博士は、プラナリアの眼の形態を観察しているが、実は、彼が1887年に発表した論文の中では「Gehirn」(ドイツ語で脳の意)というふうに記載されている。しかし近代において、脳として再定義されたのにはどのような歴史があったのか。それは、当時姫路工業大学(現兵庫県立大学)の助教授を務めていた阿形清和博士が、神経細胞で特異的に発現する遺伝子を単離して、それを標識することで、細胞単位でプラナリアの神経系を細部まで可視化することに成功したことにある。ヘス博士による記載から100年以上たった、1998年のことだった。そこでは、腹側神経索と脳が別の構造であるということだけではなく、脳の内部構造も詳細に観察されていた。プラナリアの脳は左右二葉性をしていて、前側でつながっているので、ちょうど逆U字のかたちをしている。また、眼から脳に投射している視神経は、脳の内側背側にある決まった領域に伸びていることも突き止められた。ただ神経細胞が頭部に集まった節だと考えられていたものが、驚くほど精密な構造をしているということがこの時初めてわかったのだ。

脳をつくる基本設計図

 少し話をプラナリアからそらしてみたい。動物の脳は多くの形や大きさがあり、神経細胞の数も様々である。脊椎動物や昆虫など多くの左右対称動物に見られる集中神経系は、共通の進化的起源を共有するのか、それとも、それぞれの動物たちは別々に脳を進化させたのかというのは、脳の進化を研究する多くの研究者たちの関心事だった。動物の脳は相同器官なのか相似器官なのか、という問いとも言い換えられる。昆虫の翅と鳥類の翼は同じ働きをしていても、起源が異なるため相似器官である。つまり、他人の空似である。果たして、脊椎動物の脳と無脊椎動物の脳は起源を同じものとするのか、それとも他人の空似のどちらなのだろうか? 一見すると、無脊椎動物であるハエと脊椎動物の両方が、脳から1本の神経線維が胴体へ伸びた構造をしていて、全体の基本的構造の類似性は高い。その反面、脊椎動物の脊髄は背側にあり、昆虫の腹側神経索は腹側にあるという違いや、脊椎動物の神経系は管状の構造(神経管)として形成されるのに対して、昆虫の神経系はそのような管構造はつくらないといった違いもある。
そんな中、イタリアのエドアルド・ボンシェッリ博士のグループが、最初の手がかりを見つけた。成功のポイントとなったのは、彼らがショウジョウバエの頭部形成に働くotd、emsホメオボックスという遺伝子に着目したことだった。これらの遺伝子はいずれも、遺伝子の発現を調節する働きをしている転写因子をコードしていている。彼らは、それらの相同遺伝子であるOtx1、Otx2、Emx1、Emx2の4つを脊椎動物であるマウスからそれら単離した上に、それら4つの遺伝子が脳の領域に対応してそれぞれ発現していることを示したのだ。これらの遺伝子群は、脳をつくる遺伝子としてまさに相応しい発現パターンをしていたのだ。脳をつくるための遺伝子が同じだったということは、もはや他人の空似だけではすまされない。その後すぐに、日本人らの手によって、遺伝子ノックアウト解析が行なわれ、これらの遺伝子群が確かに脳をつくる遺伝子として働いていることが証明されたことは大きな衝撃として研究史に残っている。
ここで、話をプラナリアに戻そう。先に述べたように、扁形動物の系統的位置は、昆虫と脊椎動物とは遠縁にあり、脳をつくるプログラムの共通性を知る上で非常に興味深い位置にある。そこで、梅園良彦博士は、otd/Otx関連ホメオボックス遺伝子のプラナリア相同分子3種類(OtxA、OtxB、Otp)を単離し、発現解析を行なった。結果は期待した通りで、これらの遺伝子は脳に発現していたのだ。しかも、それぞれが脳の領域ごとに特異的に発現していて、プラナリアの脳は解剖学的に腹側神経索とは別の組織として構成されているだけではなく、領域性を持っていることも明らかにされた(図4)。この発見によって、無脊椎動物や脊椎動物に共通して、脳を形成するための基本となる遺伝子プログラムが存在していることが強く示唆された。一見単純に見えたプラナリアの「頭部神経節」は、実は小さいながらも「脳」と呼べるものとして認知されるきっかけとなったのだった。

プラナリアを通して見る感覚器官の進化

 光受容(眼)

 プラナリアが、環境からの情報を受け取るための感覚器官、受け取った情報を統合する脳、そして環境情報に対して適切に応答する行動などの特徴について紹介していきたい。ここからは少し専門的な用語も交えつつ説明することになるが、できるだけ読み進めやすいように遺伝子やタンパク質そのものに関する詳細な説明は省略する場合が多い。詳細に説明されている書籍が数多くあるので、そちらを参考にするとより理解を深めることができるであろう。

図5.昆虫、ホ乳類、プラナリアの視細胞における光情報の伝達経路の違い
昆虫型はR-オプシンで受容した光信号をGタンパク質を経由した後、TRPチャネルにシグナルは伝えられる。ホ乳類型はC-オプシンで受容したシグナルはcGMP(環状グアノシン一リン酸)依存性チャネルに伝えられる。プラナリアは、昆虫型とホ乳類型の特徴の両方を合わせ持ったハイブリッド型で、シグナル増幅にはTRPチャネルとcGMP依存性チャネルの両方を使っている。

 プラナリアと他の動物種の眼を比較してみたい。動物の眼の形態は生物種によって多様であるが、無脊椎動物と脊椎動物の眼の関係性は長い間形態学的特徴をもとに研究されてきた。眼には多くの細胞の種類があり、そのひとつに光を感じるための神経細胞の一種である視細胞がある。視細胞の中には、オプシンと呼ばれるタンパク質が光を感じるために働いている。どの動物もこのオプシンタンパク質を光受容に使っていて、オプシンタンパク質で受け取ったシグナルは、他のタンパク質へと次々に伝達されていく。ポイントとなるのは、動物の種類によって少しずつシグナルの伝え方が異なっているというところである。そのシグナルの伝達の仕方を動物種の間で比較してみることで、どのように眼が進化してきたのかをかいま見ることができるのだ。
分子系統解析から、ショウジョウバエをはじめとする脱皮動物群の視細胞では、R-オプシンを使っていることがわかっている。脱皮動物の視細胞は、ラブドメア(微絨毛)という構造を持つことから、頭文字のRが用いられている。一方、脊椎動物群のオプシンは、視細胞が絨毛(ciliary)という構造をしているので、C-オプシンという。こちらはciliaryの頭文字のCということだ。同じ光を感じるタンパク質でもオプシンタンパク質は、脱皮動物と脊椎動物では少し違っていて、オプシンタンパク質の種類は視細胞の構造の違いと相関している。オプシンだけではない。オプシンで受容したシグナルを別のタンパク質へ伝える仕組みも違う。
ホ乳類では、C-オプシンで受け取ったしたシグナルは、cGMP依存性イオンチャネルにシグナルを伝えるのに対して、昆虫(ショウジョウバエ)の場合はTRP(Transient Receptor Potential:トランジエントレセプターポテンシャル)チャネルによってシグナル増幅され、脊椎動物と昆虫ではシグナル増幅の様式が異なることが解明されている(図5)。

 では、プラナリアはどちらなのだろうか? プラナリアのオプシンはR-オプシンで、脱皮動物と同じである。つまり、無脊椎動物はR-オプシン、脊椎動物ではC-オプシンという使い分けになる。では、その後のシグナルの伝え方はというと、プラナリアでは、脊椎動物型と脱皮動物型のハイブリッド型なのである。つまり両方使っているらしいことが最新の研究でわかってきたのだ。眼の進化の初期には、両方のシグナルの伝え方をしていたのかもしれない。
今度は眼の形成に関わる遺伝子についてみてみよう。眼が形成される過程では、Dachshund、Eyes absent、Otx、Pax6、Rax、Six1/2/3遺伝子が昆虫でも脊椎動物でも同じ働きをしている。これらの遺伝子はいずれも、転写因子をコードしている。このように眼をかたちづくる遺伝子は昆虫でもホ乳類でも共通していることから、左右相称動物が進化する前に共通祖先(Urbilateriaと呼ばれる左右相称動物の共通祖先が想定されている)の眼の発生プログラムは既にでき上がっていて、新口動物でも旧口動物でも同じだと考えられてきた。しかし、無脊椎動物の中の1グループである昆虫と脊椎動物であるホ乳類だけを比べて、眼の発生プログラムが同じだからといって本当に左右相称動物の共通祖先の眼の発生プログラムとして考えてよいかどうかについては少し疑問である。
プラナリアを見てみよう。プラナリアの視細胞もEye absent、Otx、Six1/2など脊椎動物と脱皮動物の眼の形態形成に関わる転写因子をコードする遺伝子群は眼形成に関わっているけれど、Dachshund、Pax6、Rax、Six3はどうやら使われていないらしい(図6)。Eye absent、Otx、Six1/2は、脊椎動物、脱皮動物およびらせん卵割動物で共通して働く遺伝子であることから、共通祖先では、この3つの遺伝子をもとに眼を形成していたのではないかと考えられるようになりつつある。特にPax6遺伝子は、脊椎動物と昆虫とに共通する眼を形成するためのマスター遺伝子として広く認識されているが、プラナリアの研究結果は、Pax6遺伝子は共通祖先型のマスター遺伝子ではない可能性を示している。これを裏付けるように、ショウジョウバエでも幼生の眼の発生や、甲殻類、環形動物の成体の眼の発生にもPax6遺伝子は必要ではないことがわかっている。左右相称動物の共通祖先の眼の形態形成については、他の動物種の解析をもう少し待つ必要がありそうだ。

図6. 昆虫・哺乳類とプラナリアの眼の形成に必要な遺伝子の違い
昆虫と哺乳類の眼の形成には、Eye absent、Otx、Six1/2/3、Dachshund、Pax6、Raxが必要とされている。プラナリアでは、Eye absent、Otx、Six1/2は眼の形成に必要だが、Pax6、Rax、Six3は必要ではない。

温度受容

 温度は生物にとって、環境条件の中でも最も重要な一因である。低い温度だと酵素反応も低下するし、動きも鈍くなってしまうが、高温になってしまうと多くの生物にダメージを与えてしまう。プラナリアは、ホ乳類の体温よりも低い30℃でも致死的なダメージとなる。そのためプラナリアは敏感に温度変化を感知して高温を回避しなければいけない。試しに、1枚の鉄製の板の片方を40℃くらいにして、もう片方を10℃くらいにすると、ちょうど真ん中がプラナリアの飼育温度である25℃くらいになる。その中央にプラナリアを置くと、プラナリアは低温を感知して低温側に移動する。プラナリアは、生息温度というよりも低温を好むらしい。今度は、冷たい氷を置いてみる。すると、氷の方に寄っていき動かなくなってしまう。プラナリアは0℃以下になると低温麻酔され、身動きがとれなくなってしまうのだ。わざわざ自分から氷に近寄っていき、そのまま低温麻酔され動けなくなってしまうという少し滑稽な行動もみせる。
脊椎動物の温度を感じるためのタンパク質は、TRPチャネルタンパク質である。TRPチャネルファミリーの中のTRPM(TRP melastatin)は、さらに8つのサブファミリー (TRPM1〜TRPM8)に分けられる。そのうちのTRPM8チャネルのみが温度感受性で低温域(10〜25℃)の刺激で活性化することが知られている。分子系統解析をしてみると、興味深いことに、プラナリアのTRPMチャネルは、分子系統的に脊椎動物や脱皮動物のTRPMファミリーで形成されるグループの外側に位置する (図7)。このことは、プラナリアのTRPMチャネルは、脊椎動物や脱皮動物のTRPMファミリーよりも遠縁にあることを意味している。つまり、TRPMファミリーのうち祖先型でのTRPMが既に低温感受性を獲得していて、その後にTRPM8がその機能を引き継ぎ、それ以外のファミリー分子は別の機能を獲得していった可能性を示唆している。
TRPファミリーの中のTRPA(TRP ankyrin)チャネルタンパク質は、脊椎動物や脱皮動物の間で同じような機能を保存している。痛覚、低温、高温で活性化し、また、痛覚刺激性の薬剤に対する反応性も多くの動物種で類似している。らせん卵割動物での機能は知られていなかったのだが、プラナリアでは、高温を避けるための感覚に用いられていることが最近になって明らかにされた。興味深いのは、プラナリアのTRPAチャネルは、他の動物と違って高温刺激では直接活性化することはない点だ。高温刺激によって体内で活性酸素の生成が誘導され、活性酸素がTRPAチャネルを間接的に活性化させることで高温を認識するという仕組みになっている。一方で、プラナリアのTRPAチャネルも痛覚刺激性の薬剤によって、ホ乳類のTRPAチャネルと同じように直接活性化される性質を持っていることから、TRPAの祖先的な機能は温度感受ではなく、痛覚として使われていたのかもしれない。

図7.TRPMファミリーの分子系統樹
哺乳類のTRPMファミリーには、TRPM1〜TRPM8の8種類のサブファミリーが存在し、ハエやセンチュウにもそれぞれ相同タンパク質が存在する。その中で、プラナリアのTRPMは最も最初に分岐している。哺乳類の中で低温感受性のTRPM8は最初の方に分岐している。また、哺乳類のTRPM8は低温で活性化されるが、プラナリアのTRPMも低温で活性化されることから、TRPMは元々低温を感知するチャネルだったのではなないかと推察される。

 プラナリアは致死的な危険を伴う高温から逃れるために、TRPMチャネルによって直接低温を認識する機構と、TRPAチャネルを介して間接的に高温を認識する機構のふたつを備えていて、さらに、それぞれのTRPチャネルのプロトタイプに近い機能を保持したまま利用しているということが窺える。

環境応答行動と神経回路

脳で制御される環境応答行動

 プラナリアは様々な環境からの情報刺激に応答して適切な行動を示す。このような行動のことを環境応答行動という。例えば、光を当てるとプラナリアは光から逃げるようにして、光源とは反対方向に移動する(動画参照)。その他にも、餌などの匂い源に移動する行動や、低温、水流に対する応答行動など多くの環境応答行動が知られている。味覚もあるので、ヒトの五感と同じ感覚をプラナリアも一そろいもっているようだ。これらの行動が、脳によって制御されているであろうということは簡単に調べることができる。頭をナイフで切断すればよい。プラナリアは頭を失っても平然と動き回っているが、環境刺激に対する応答行動は完全になくなってしまう。


【動画】光に対して応答行動するプラナリア

 神経細胞レベルでの解析が進んだのは最近のことである。2000年代になって、プラナリアの行動を詳細に追跡できる行動解析手法が確立されたこととRNAi(RNA干渉)法による遺伝子の機能阻害が可能になったことで、プラナリアの行動を制御する遺伝子や脳の神経回路が次々と明らかにされていった(図8)。

図8.環境刺激に応答する神経経路
環境刺激は感覚器官に発現する特定のタンパク質で受容され、その信号は全て一度脳の一次中枢に伝達され、さらに統合中枢に集約される。集約された情報は刺激の強さによって選別されることで、最終的に環境刺激に対して進むまたは遠ざかるなどの行動を選択する。以前は、プラナリアのような単純な動物では、ひとつの環境刺激に対して脳で判断することなく反射的に行動すると考えられていたが、脳で情報を集約すことで複数の環境刺激にさらされても適切な行動をとることができる。

環境応答行動を制御する神経回路網

 直射日光が当たることで水温が上昇してしまうと、プラナリアは生存の危機にさらされるが、餌を捕食するためには日光が当たっているような場所にもある程度は出て行かなければいけない。そのためプラナリアは、様々な環境刺激を連鎖させながら光刺激を一種の目印として利用しているらしく、光応答行動は最も重要な感覚応答行動のひとつとなっている。光刺激を受容する視細胞の軸索は脳の視覚中枢に投射していて、視覚中枢のGABA作動性神経が視覚情報を処理している。視覚細胞はGABA受容体を発現していて、プラナリアは左右の眼で受容した光刺激の入力値の左右差によってどちらの方向から光が照射されているかを認識し、左右差がなくなるように光源から反対方向に身体を屈曲させて方向転換する。
左右の眼で受容された入力の割合の差が2倍以上になると、プラナリアは身体の反応を示すが、差が2倍以下の時は応答しない。いわゆる全か無かの法則に従った二値的な反応を示す。この二値化の情報処理は、GABA受容体遺伝子を発現する視細胞と脳の視覚中枢にあるGABA作動性神経細胞の神経回路が担っている。
温度はTRPMチャネルやTRPAチャネルが感知していることは前出の通りである。では、温感神経で受け取った情報は脳のどこに送られるのだろうか? セロトニンの合成経路の律速酵素をコードするTPH(tryptophan hydroxylase)遺伝子を脳特異的に阻害すると、プラナリアでは温度を認識できなる。このことから、TRPMチャネルによって受容された温度情報は、脳のセロトニン作動性神経細胞によって情報処理されていることがわかる。
摂食行動は、餌の匂い源への定位行動、咽頭を口から出す、餌の摂取の3段階に分けられる。そのうち、咽頭の突出には、アミノ酸系やアミン系の神経伝達物質は関わっておらず、神経ペプチドが作用していることが示されている。興味深いことに、咽頭を口から出すという単純に思えた行動は単一の神経ペプチドや神経細胞による制御ではなく、複数の神経ペプチド作動性神経細胞が関わっていることがわかった。また、特定の領域の神経細胞が制御しているというわけではなく、考えられていたよりも複雑な神経基盤によって支えられていることが明らかになりつつある。

自律運動と光応答行動

 プラナリアの眼についてもう少し詳しく見てみよう。
まず黒目に見えたのは色素杯と呼ばれる部位で、数十個の色素細胞がお椀のようなかたちに並んでいる(図9)。白目のところには光を受容する視細胞が前後方向に縦に並んでいる。片方からは光を受容して反対側からの光を遮ることで、光源の方向を感知する仕組みだ。視細胞の数は、20〜100個程度で、色彩や映像を認識することができない。ヒトの視細胞は1億個、昆虫のトンボでも2万個の個眼を持っていることと比べると、プラナリアの視細胞は非常に少ない。デジタルカメラの画素数で例えるなら、それぞれ1億画素、2万画素あるのに対して、プラナリアはせいぜい100画素といったところで、仮に映像を認識できたとしてもとてもぼやけた画像であろう。では、何を見ているのだろうか?

図9. プラナリアの眼の構造
右眼を示している。プラナリアの眼は黒い色素をもった色素細胞と光を感じる視細胞の2種類からできている。視細胞は、ラブドメアと呼ばれる光を感知する部分を色素杯の中に延び、もう一方からは感知した光の信号を脳に伝えるための神経軸索が延びている。視細胞がある側から光が当たると感知するが、色素細胞がある側から光が当たっても感知しないために、どちらから光が当たっているかを判断できる仕組みになっている。

 プラナリアの光応答行動の原理については、アメリカの動物学者であるウィリアム・H・トリバー博士が詳しく調べ、その結果を1920年の論文に発表している。その内容が現在の高校生物の教科書にも掲載されている。その内容を簡単に説明すると、プラナリアは左右の眼で受容する刺激入力値が等しくなるように、かつ、弱くなるようにからだの方向を調節するというものである。つまり、プラナリアは、左右の入力差を比べている。そして、プラナリアは、光の強弱(照度勾配)を認識しているというのである。前半部については筆者らも事実であることを確認しているし、そこにはGABA作動性の神経回路が介在していることも既に述べた。後半部について、もう少しだけ詳しく見てみよう。
自然界における光とは、基本的には太陽の光のことである。光は距離の逆二乗の法則に従って減衰する。川の流れを想像して欲しい。川の上流では落差が急だか、下流にいけばその流れも緩やかになっていく。光も、放出されてすぐは急速に光量が減衰するが、遠くなれば遠くなるほど、減衰の仕方は緩やかになっていく。つまり、遠く離れた地球では多少の距離では、光量はほとんど変わらない。太陽から放出された光は、約1億5000万キロ離れた地球に照射されるので、これを計算してみると、体長1センチ程度のプラナリアが検出しなければいけない照度差は、計算上1・0×10のマイナス10乗ルクス以下ということになる。ものすごく小さい照度の差をプラナリアが検出することは不可能であろう。
しかし、プラナリアが照度の勾配を認識していないとすると、新たなパラドックスが生まれる。光がプラナリアの真正面から照射されている場合を考えてみよう。プラナリアは左右の眼の入力の差を認識しているので、前方から光が照射された場合は、左右の眼で入力される値はどちらも同じになる。次に、光が真後ろから照射されている場合はどうだろうか。この場合も左右の眼の入力値は同じである。これでは、光が前方から照射されているのか後方から照射されているのか全く区別ができない、ということになってしまう。前から光が来ているのか後ろから光が来ているのか区別ができないというのは、光から逃げたいプラナリアにとっては大問題である。しかし、実際のプラナリアは、前方からの光には迷うことなく逃げるし、後方からの光にはそのまま前進を続ける。では、どういう原理でプラナリアは光の方向を認識しているのだろうか?
研究の世界で、わからないことがあったり壁にぶつかったら、もう一度よく観察しなおしてみることが鉄則だ。プラナリアの眼のかたちをよく見直してみると、左右に平行に並んでいるのではなく、どうも少しだけ内側に傾いているようである。測ってみると、20度くらい傾いていそうなのである。前からの光と後ろからの光を区別するのに関係してるかもしれない。もう少し詳しく見てみよう。
プラナリアの片方の眼の視野(光を感じられる範囲)は、おおよそ175度くらいである。これが内側に傾いているということは、前側に約40度の両眼視野(両方の眼とも光を感じる範囲)があって、後側には、約50度の死角(両方の眼とも光を感じることができない範囲)があるということになる。眼が傾くことで、光を感じられる範囲を前側と後側で違うようにしているらしい。これは大きなヒントをつかんだような気がするが、それでもまだ全部なぞが解けたとは言い難い。
プラナリアは左右の眼で光の強さの差を比べることで光の方向を認識しているということは、前側にある両眼視野では光の左右の差がわからないということだ。私たちヒトは、両眼で見ることで物を立体的に捉えたり、距離を測ったりしている。でも、プラナリアは、左右差がつかない、「見えない」両眼視野をわざわざつくっているらしい(図10)。

図10.両眼視野の角度と左右の光の差を認識できる光の入射角度
灰色の扇型で示している範囲が左右の差を区別できる範囲である。前方から光が照射された場合は眼の入力値は左右で同じになるため、前方には左右差を区別できない範囲(前方死角)が生じる。プラナリアは、前方と後方の両方に光の方向を区別できない死角をもっているが、これがあることで効率良く光から逃げられるようになっている。自律的首振り運動で右または左に前方の死角よりも大きいな角度で首を大きく振ると、光の方向を認識できる。

 ここでもう一度、観察に立ち返ってみよう。プラナリアは前方にのみ進むが、全身の表面の繊毛運動によって推進力をえている。余談だが、この繊毛の動きによってプラナリアの周囲に渦ができることから、渦虫という和名がつけられている。さて、プラナリアが泳いでいるところをよく観察すると、直進している場合でも頭を左右に動かしていることがわかる(動画参照)。面白いことに、この動きは、頭をなくしたプラナリアでも見られる。つまり、脳の活動とは関係のない自律運動であることがわかる。しかも角度は一定ではなくランダムにおきるようであるが、小さい角度が多くおきていて、大きい角度はやや少なめにおきているようである。このことを数学の分野で表すならば、プラナリアの首振りの角度は正規分布に従っている、となる。どうやら光の方向を認識するための最後は確率に委ねたらしい。確率的におきているということは、計算することができるということを意味する。実際に計算してみると、前側にある見えない範囲よりも大きい角度で首を振るのは、約40%程度の確率でおこるらしい。一見すくなく思えるかも知れないが、10回のうちの4回の首振り運動で光の方向を区別できるということである。1回の首振りは約0・7秒おきに運動しているので、2〜3回目には眼の入力値の左右差を生じさせることができるようになるのだ(図10)。時間にすると2秒もかからないくらいである。意外にも、あっというまに光の方向を見極めてしまえる。
プラナリアにはいろいろな種がいるので、眼の傾き方が大きい別種のプラナリアを見てみると、なんと大きい角度で首振りしている。両眼視野が大きいということは、前方にある死角の角度も大きくなる。そのため、首振り運動の角度も大きくしているらしく、眼の傾きの角度と首振り角度には相関関係があるようだ。

【動画】頭を左右に動かして移動するプラナリア

 自律的な首振り運動については、探索行動であったり、正確な方向への移動には邪魔な意味のない運動であると考えられていた。しかし、意味のないように思えたランダムな運動が、安定的に最も効率良く光源から遠ざかる行動に必須であることがわかったのだ。なるほど、この方法なら照度勾配を認識する必要もなく、脳が情報処理するのは左右の眼の入力値を比較するだけであり、脳の負荷は非常に低くてすみそうである。

高次な脳機能

マコーネルの記憶転移実験と記憶物質

 記憶はどこにあるのか? 確かに、記憶は脳でされているようである。特に海馬や扁桃体は記憶に関わる場所として知られている。しかし、記憶はどのようなかたちで保存されているのだろうか? この問いにはっきりと答えるのは今でも難しい。しかし、半世紀以上も前にその問いの答えが出そうであった「事件」がある。
アメリカの心理学者ローバート・トンプソン博士と当時その弟子であったジェームズ・マコーネル博士は、1950年代に光と電気ショックによる古典的条件付けを用いたプラナリアの学習能力と記憶の実験をした(図11)。当時は、下等な無脊椎動物は高次な脳機能を持っていないと信じられていた時代であった。その実験では、プラナリアを電気ショックと光刺激の両方を繰り返し与えて訓練すると、プラナリアは光だけで刺激された場合でも、電気ショックを与えた時と同じように身体を縮める反応をし始めたというのだ。つまり、無脊椎動物でも学習するだけの能力を持っているという結論を出した。プラナリアの脳がいかなるものか知っている今となれば当然の結果のように思えるが、下等な動物であるプラナリアが学習能力を持つということは、当時の考えを覆すものであった。

図11. マコーネルの実験
A:マコーネルが用いた古典的コンディショニング実験装置。上部にはライトがあり、プラナリアを入れる容器の両端には電気ショック用の電極が装備されている。[McConnellら(1960)Am J Phycholより抜粋]
B:光を照射した後に電気ショックを繰り返し与えられると、プラナリアは光刺激だけに反応し始める。グラフは、訓練試験の回数が増えると、光刺激だけでプラナリア電気ショックを与えたときに見られる収縮する割合を示している。[Thompson, R.ら(1955)より抜粋]

 数年後マコーネルはまた、プラナリアの高い再生能力に着目して、切断前に訓練されたプラナリアは、頭を切断後に尾部断片から新たに再生した脳を持つプラナリアでも記憶を保持し続けるのか、という疑問を抱いた。実験は、再生させても記憶が保持されているのであれば、学習にいたるまでの訓練の試行回数と比較して回数が少なくなるはずだという作業仮説のもとに行なわれた。その結果、未訓練のプラナリアが学習成立にいたるまでの試行回数よりも、一度学習して再生したプラナリアの試行回数の方が少なかったため、頭は新たに再生したものだったとしても記憶は保持されると結論づけた。さらに、この現象は様々な角度から解析された後、訓練していないナイーブなプラナリアが学習したプラナリアの身体を給餌(カニバリズム)することによって、ナイーブなプラナリアが学習を獲得を示したという、「プラナリアにおけるカニバリズムを介した記憶の転移」をマコーネルは報告した。再生実験と同様、学習が成立したプラナリアを食べたナイーブなプラナリアの学習が成立するまでの試行回数がより低減したというのである。
マコーネルはここで、記憶は物質として保存されており、それは再生やカニバリズムでも安定的に保持される記憶物質なるものを仮定した。この主張は、記憶は脳だけではなく、(少なくともプラナリアでは)記憶物質としてからだ全体に保存されていることを意味するものであった。このあたりから、少し批判的な意見も出始めたようだ。
しかし、話はまだ終わらない。彼は批判に応えるためにも記憶物質の実体解明にのりだした。そして、遺伝情報の実体として当時明らかにされたばかりのDNAやその情報を転写するRNAに着目した。最終的には、RNAが訓練された個体から訓練されていない個体に記憶を移すことができる記憶伝達分子であると主張した。筆者は1970代生まれなので、当時のことを直接知っているわけではないが、少し世代が上の生物学者なら、どの分野でもご存知の方が多いようだ。当時を知る方に伺うと、生物学者だけではく、多くの人の目や耳にふれ一世を風靡した研究だったとのことだ。ディーン・R・クーンツの傑作ホラー小説『ファントム』にもこのアイデアが登場する。確かに記憶物質の発見となれば大発見であるし、食べて記憶を得ることができるのなら、なにやら未来型ロボットの秘密道具のひとつのようで、多くのメディアがキャッチーな言葉を添えてセンセーションを巻き起こしたことも想像しやすい。
しかし、多くの研究者が記憶転移現象を確認しようとしたが、結果を再現することはできなかった。そうして、マコーネルの成功したプラナリアの学習研究は、記憶物質の転移の混乱した問題と相まって、全てが嘘であったかのように忘れ去られることになった。後日談として、有名になった彼は雑誌やテレビに露出するようになったが、それが災いして爆弾犯の標的にされた。これを機会に彼が表舞台から退いたことも、プラナリアの学習研究の忘却を加速させたのかもしれない。

プラナリアも意思決定できる!?

 少し昔話が長くなったが、プラナリアの高次な脳機能に関する最近の研究についても紹介したい。実際のところ、プラナリアの高次な脳機能に関する研究はまだ始まったばかりである。近年になってプラナリアが複数の環境情報を脳で統合して意思決定することで行動を選択していることが初めて示された(図12)。その実験では、まずプラナリアに光を照射してプラナリアが光源方向から遠ざかるように移動することを確認する。次に、プラナリアに先ほどと同じ明るさの光に加え、光源と同じ方向に餌の匂い物質を置く。すると、光刺激単独の時は光源とは反対方向に移動するのに十分の光量だったはずなのに、プラナリアは光源と同じ方向にある餌の匂い物質まで移動する。今度はもっと光の明るさを強くして、また同時に餌の匂い刺激を与えると、餌の匂い物質には移動せず、光源から反対側に移動するようになる。では、丁度中間くらいの明るさの光と餌の匂い物質を同時に刺激するとどうなるかというと、結果はランダムな動きを示した、である。ここで着目すべきは、各個体によって選択した行動の結果は異なるが、光から遠ざかるか餌の匂い物質に移動するかのどちらかの行動を各個体が選択している点である。無刺激の場合には2個体ともランダムな動きをしているが、匂い物質と800ルクスの光を照射した時には、ある個体は匂い物質に移動しているのに対し、別の個体は光から遠ざかる行動をしていて個体によって行動が分かれている。これらの結果は、プラナリア1個体内では、いくつかの候補となる行動戦略の中からひとつの行動戦略が決定されていることを意味している。このように非常に単純な左右相称動物でも、複数の外部刺激を脳に集約してから比較することで、最終的な行動を決定していることがわかったのだ。さらに、脳におけるsyt遺伝子を脳特異的に機能阻害して脳の神経活動を特異的に失ったプラナリアでは、そのような意思決定行動を失うことから、プラナリアの意思決定行動は脳で制御されていることがわかる。

図12. プラナリアの統合的行動を示すデータ
A:光および化学誘引物質の同時刺激に応答するプラナリアにおける統合的行動。プラナリアは中央(円)からスタート、光は図の上方向から容器に水平に照射し、餌の匂いは×印の位置に滴下する。環境刺激が何もない状態(無刺激条件)では、プラナリアは容器の中をランダムに動く。400ルクスの光で一方の側から照らされたとき、プラナリアは即座に光から遠ざかる。餌の匂い物質を滴下した上に、400ルクスの光を当てると、光刺激だけでは速やかに逃げたのに、同じ光量でも餌の匂い物質があると匂い物質の方に集まる。今度は光量を800ルクスに増やしてみると、匂い物質の方に集まったり、反対方向に光から逃げるように移動するようになる。さらに光量を1600ルクスに増やすと、光から遠ざかる。これらの結果から刺激の種類や強さによって行動を決定していることがわかる。
B:無刺激の場合と匂い物質と800ルクスの光を照射した時のプラナリア2個体の軌跡をそれぞれ示してある。匂い刺激と光刺激の強さが同じような場合でも個体毎にどちらかの行動を決定していることがわかる。

 興味深い点として、低光量光と餌の匂い物質を同時に刺激された場合は、光応答行動のスイッチをオフにして、匂い応答行動を優先し、また、高光量光と同時に刺激された場合には、反対に光応答行動が優先されているところである。餌を摂食することは、生存に直接影響するため、致死的な影響を与えない程度の光量の光であれば、餌に移動する行動は、適応的であり当然の結果のように見える。しかし、これらの行動選択を制御している機構については全くわかっていない。また、このような行動は幅広い動物種において共通する行動であり、今後この分野の研究の発展が期待される。

脳の再生

極性

 トーマス・ハント・モーガン博士は、ショウジョウバエを用いて遺伝学を確立した人物として名高い。モーガン博士はショウジョウバエ研究を始める前には、実はプラナリアの再生研究を行なっていた。彼がショウジョウバエを最初に実験に用いたのは、プラナリアの餌としてである。キッチンにいるショウジョウバエを捕まえてプラナリアに摂食させると、ショウジョウバエの眼が赤い色をしているためにプラナリアの腸管が赤くなってよく見えると文献にも記載されている。
モーガン博士は、プラナリア研究の中で、ありとあらゆる切り方をして実験した結果、極めて重要な現象を発見している。プラナリアを横方向に断片に切断すると、元々頭があった側から頭部を再生し、尾があった側から尾を再生する現象を発見したのだ。例えば、棒磁石を真二つに折っても、短くなった棒磁石の断片がN極とS極を元の長いままの方向性を保っている様子と似ている。この磁石に見られる性質を極性というが、生物学でも最近では当たり前に用いられている極性という単語を初めて生物に転用したのはモーガン博士である。1世紀以上前に、彼は、前方-後方軸に沿ってふたつの対立する形態形成因子(モルフォゲン)の濃度勾配によって、プラナリアの再生の不思議を説明しようと試みた。この仕組みであれば、頭側には頭を再生し、尾部側には尾を再生し、頭に脳をつくることができると考えたのだ(図13)。しかし、実際に細胞および分子レベルでのプラナリア幹細胞分化およびパターン形成の基本的枠組みが明らかにされたのは、ごく最近になってからである。
先に発見されたのは後側の因子の方であった。Wnt/β-カテニンシグナルを機能阻害すると、本来尾が再生してくるはずの傷口から頭が再生してしまい双頭のプラナリアになったのだ。このことから、後方因子の実体は、Wnt/β-カテニンシグナルであること突き止められたのだ。その後、細胞外シグナル調節キナーゼ(Extracellular Signal-regulated Kinase; ERK)シグナルが前方因子として発見された。このようにして、モーガン博士が予測したメカニズムの分子実体がそろったのであった。

図13. プラナリアの頭尾軸方向の再生原理
前方決定因子と後方決定因子による前後軸形成メカニズム。ERK活性化レベルは前方の頭部で最も高く、腹部および尾部では、ERK活性化レベルはWnt/β-カテニン活性によって低下する。反対に後方の尾部ではWnt/β-カテニン活性が高く、腹部や首では、ERK活性によって低下する。前後軸に沿って勾配を形成していると考えられる。

 近年、胚性幹細胞(ES細胞)を培養するために、2i培地と呼ばれる特殊な培養液が用いられている。これは、ERKとGSK3(Wnt/β-カテニンシグナルにおいて拮抗的に機能する)に対するそれぞれふたつの阻害剤を用いることに由来する。つまり、ES細胞が他の細胞に分化するのを防ぎ分化全能性を維持するために、ERKシグナルを抑制し、Wnt/β-カテニンシグナルを活性化させる必要があるということであり、プラナリアの幹細胞でも、ホ乳類の幹細胞でも同じような働きをしていることが推測される。

頭部再生に伴って脳の機能を回復するための機構

 さて、プラナリアの環境刺激に対して応答する行動は、頭を切られると失われるが、頭を再生すれば回復する。ではどのようにして脳機能を回復するのだろうか? 頭部が再生する様子を順を追ってみてみると、眼、嗅神経、温感神経は、再生2日目には幹細胞から新たに分化して再生する。再生2日目では脳の再生はまだ完了していないのに、既に感覚神経の細胞は分化しているのだ。
眼の再生について詳しく見てみると、頭部を切断して2日後には視細胞および色素細胞の両方の細胞が再生芽の中に形成される。3日目になると、左右の眼の視神経から伸びる軸索は交差して、反対側の脳に投射する(図14)。4日目には同側の脳への軸索の投射も完了し、形態的には視神経の再生が完了する。同様に、脳の再生も4日目には、脳の領域化や神経回路形成は完了している。
ところが、再生4日目のプラナリアの光応答行動を観察してみても、光源から反対方向に移動しようとする行動は見せるものの、非常に弱く、移動する方向も定まらず効率は悪い。5日目になると、切断前と同じような光応答行動を回復する。同様に、温度応答行動でも同様に頭部再生5日目にならないと回復しない。どうやら形態的な再生のみでは、正常な行動をするための脳機能は回復できないし、再生4日目と5日目の間には形態を再生する仕組みと機能を回復する仕組みの間に壁があるようだ。どうやら、5日目に機能を回復させる鍵があるみたいだ。

図14. 視神経の再生過程と光応答行動の回復過程
上段に視神経の再生過程、中断に光応答行動の様子。再生2日目にし視神経細胞が再生し、再生3日目には反対側の脳に軸索を伸長し、再生4日目には同側の脳に軸索を伸長し、眼の形態的再生は完了する。しかし、光応答行動は再生4日目では不完全で、再生5日目で光に応答できるようになる。再生4日目になると視細胞は光を感じて、その信号を脳に伝えることができるようになるため、光信号を受け取った視覚中枢の神経細胞では、光刺激に応じて1020HHとeye53遺伝子の発現が誘導される。その結果、脳の機能が回復して正常な光応答行動も回復する。

 脳に発現する遺伝子を網羅的に単離するという実験を行なったことで、頭部を切断した後5日目に発現が上昇する遺伝子がふたつ(1020HH、eye53)発見されている。加えて、このふたつの遺伝子はいずれも視神経が投射している脳の視覚中枢の神経細胞で発現して、視覚機能の回復に関与することを期待させるものだった。実際にこのふたつの遺伝子の機能を阻害してみても、脳および視神経のどちらにも形態学的な異常は認められなかった。しかし、遺伝子の機能が阻害されたプラナリアでは、5日目の再生体で通常観察される光応答行動の回復ができなくなってしまうのだ。この結果は、1020HHとeye53が視覚系の機能の回復に必要であることを示唆している。1020HHとeye53遺伝子は、どちらも神経ペプチドをコードしていることから、再生4日目までに再生した視神経からの信号が脳の視覚中枢に伝わることで、神経ペプチド遺伝子の発現が誘導され、発現した神経ペプチドの作用によって、視覚の機能が回復し、正常な光応答行動ができるようになると考えられている。

脳を頭部につくる仕組み

脳だらけ

 なぜ、脳は頭にあるのか? 脳が進化の過程でどのように獲得されたのか? それらの問いの答えのヒントになるかもしれないノウダラケ(nou-darake; ndk)遺伝子について最後に紹介したい。
ndk遺伝子は、頭部特異的に発現している。ndk遺伝子を機能阻害すると、本来脳がつくられてはいけないはずの頭部以外の体幹領域にも脳が形成されてしまう(図15)。遺伝子が働かなくなると、体中が「脳だらけ」になってしまうことから、その遺伝子が命名されたのだ。

図15. ノウダラケによる脳を頭部につくるための原理
NDKは頭部にのみ発現している。FGFRは全身の幹細胞で発現している。FGF様脳誘導因子は、FGFRを活性化させることで幹細胞から脳の神経細胞へ分化を誘導する。NDKによってFGF様脳誘導因子は捕捉されるので、結果として頭部領域の外側に拡散することができない。NDKがなくなると、過剰なFGF様脳誘導因子が頭部から胴体部へと漏れ出して、胴部の幹細胞を脳の神経細胞へと分化させてしまう。

 ndk遺伝子は、分泌因子として細胞外に分泌される分泌因子である線維芽細胞増殖因子(FGF)に対する受容体様タンパク質をコードしている。FGF受容体「様」というのは、通常のFGF受容体とは少し違っているからである。NDKタンパク質には他のFGF受容体に見られる細胞内領域のチロシンキナーゼドメインがないのだ。通常FGF受容体は、細胞外に出ている部分にFGFが結合すると細胞内にあるチロシンキナーゼドメインが活性化することで、信号を伝達していく仕組みになっている。しかし、NDKにはチロシンキナーゼドメインがないため、仮にFGFが細胞外領域に結合したとしても細胞内にその信号を伝えることができない。FGF受容体遺伝子(FGFR遺伝子)とともにndk遺伝子を同時に機能阻害してみる。するとndk遺伝子だけを機能阻害した場合に見られた場違いな脳形成はなくなり、正常に頭部に脳を形成するようになったのだ。FGFR遺伝子は頭部だけではなく、全身で発現していることから、NDKタンパク質は、ndk遺伝子を発現している細胞以外の細胞に働きかけて(このように発現している細胞以外の細胞に働き掛ける性質を非細胞自律性と呼ぶ)、頭部領域外でFGFシグナル伝達による脳形成を負に調節しているらしい。どうやら、NDKに結合する分泌因子はFGF様分子であり、FGF様分子が、脳の形成を誘導する因子でありそうだ。
これらの所見から、現在では以下の様な仮説が考えられている。頭部の中で脳を形成する過程においてNDKはFGF様脳誘導因子が拡散する範囲を頭部に限定するように機能している。その結果、FGF様脳誘導因子が後方の体幹部にあるFGF受容体に結合することがないため活性化しないことによって頭にのみ脳が形成される。ndk遺伝子を機能阻害すると、FGF様脳誘導因子がより多くの後部領域に移動し、頭部領域外のFGF受容体を活性化させ、場違いな脳の形成を引き起こすというものである。
頭という湖にNDKというダムによって、FGF様脳誘導因子が下流に漏れ出さないようにせき止められているというイメージをするとわかりやすいかも知れない。ダム(NDK)が決壊すると、溢れ出したFGF様脳誘導因子が体幹部にある幹細胞に働きかけて脳分化を促進してしまうので、そこら中に脳をつくってしまうのだ。実は脳は全身に同じようにできるのではなく、場違いに形成された脳は、まるで脳が頭からぽろぽろと溢れでたように、前側の方が多く形成され徐々に後方にいくしたがって場違いの脳は減少しているのだ。

nou-darake遺伝子の進化的考察

 実は、ndk遺伝子は脊椎動物も持っている。ndk遺伝子のアフリカツメガエルの相同分子(Xndk/XFGFRL1)は、胚発生過程の後期胞胚期では予定頭部領域で発現している。そして、神経胚期には中胚葉領域の前方での発現が増加する。どうやら脊椎動物であるカエルでも、ndk遺伝子は脳をつくる領域で働いているらしい。そこで、プラナリアのndk mRNAをアフリカツメガエル胚に注入する実験を行なうと、中胚葉の細胞であることを示すブラキウリ(Xbra)遺伝子の発現が抑制される。その結果、原腸形成も阻害される。この結果は、ドミナントネガティブ型FGF受容体(FGFに結合するがシグナル伝達はできず、また、量が多いため正常型のシグナル伝達を阻害する)をアフリカツメガエル胚に導入した際と全く同じ結果であった。やはり、NDKはFGF様リガンドと結合することはできても、細胞内にシグナルを伝達できないようである。反対に、本来胚発生に必要なFGFシグナル伝達を抑制していそうだ。
これらの結果は脊椎動物でも、FGFが脳形成に必須である可能性を示すものだ。プラナリアのndk遺伝子に関する研究から、脊椎動物と無脊椎動物で保存されたシグナル伝達機構が脳形成に機能しているかもしれない。
散在神経系を持つ刺胞動物のゲノムにはndk遺伝子はない。飛躍して考えると、ndk遺伝子を進化の過程で獲得したことが散在神経系から集中神経系への変遷の一因になった可能性も推察される。しかし、まだ無脊椎動物の中でも昆虫などの脱皮動物におけるndk遺伝子の解析は進んでおらず、今後の研究を待たなければいけない。

最後に

 本章では、プラナリアをメインに扁形動物の脳について紹介してきた。またプラナリアの中でも、ナミウズムシを代表として脳や行動に加えて再生について議論してきた。ナミウズムシは20℃前後で活発に活動し、温度をTRPチャネルで感知し、その信号を脳のセロトニン作動性神経細胞で処理することで高温を避け低温方向に移動するという機構を紹介した。また、ナミウズムシが光から逃げるためには、左右の眼の入力差を演算するとともに、眼の形態的特徴である両眼視野と自律運動である首振り運動が相関していて、その組み合わせによって効率良く光から遠ざかることができるという議論もした。
しかし、同じプラナリアでも生息温度や感覚器官の形態がナミウズムシとは異なる種も数多く存在している。例えば、熱帯地域に生息するプラナリアは、水温が30℃以上になっても生存可能であるし、10℃以下の低温地域に生息するプラナリアは氷上に乗せても低温麻酔されることなく氷の上を動き回る。日本に生息しているプラナリアの中には、1個の視細胞と1個の色素細胞の2個の細胞で構成されている個眼と呼ばれる眼が30〜70個ほど持っているものもいる。
このような生理や形態の多様性は、それぞれの種が生息している環境に適応していると考えられている。環境が異なれば、生存のために受け取る感覚情報の重要性や依存度も違ってくるのであろう。光情報を第1にする種もいれば温度情報を第1にする種もいるのかもしれない。これは脳での情報処理の仕方がそれぞれの生息環境や種で異なっているということである。
脳の機構には、多くの動物に共通した普遍的な原理もあれば、特定の環境に適応した固有の原理もある。どちらも生物の進化や生存には必要であり、また、どちらも面白い。本章では、扁形動物の中でもプラナリアをご紹介した。同じ扁形動物でも、本章ではほとんど取り上げなかった条虫綱や吸虫綱の生活環や行動様式、さらにはゲノム情報もとてもユニークで実に奥深い。
本書には、多様な動物の脳について様々な観点から論じられている。普遍性と多様性の視点でも興味をもって積極的に楽しみながら学ぶ機会となったら幸いである。

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ミエリン鞘はとも呼ばれ、軸索に巻き付いて絶縁体として働く構造である。これにより神経パルスはミエリン鞘の間隙を跳躍的に伝わる(跳躍伝導)ことで神経伝達が高速になる。ミエリン鞘は末梢神経系の神経ではシュワン細胞、中枢神経系ではオリゴデンドロサイトから構成される。

脳の中にある空洞のこと。脳脊髄液で満たされている。脊髄にあるものは中心管と呼ばれる。

神経堤細胞は脊椎動物の発生時に見られる神経管に隣接した組織。頭部では神経、骨、軟骨、甲状腺、眼、結合組織などの一部に分化する。

細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質の一種で、特定のイオンを選択的に通過させる孔をつくるものを総称してチャネルと呼ぶ。筒状の構造をしていて、イオンチャネルタンパク質が刺激を受けると筒の孔が開き、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを通過させることで、細胞膜で厳密に区切られた細胞の内外のイオンの行き来を制御している。刺激の受け方は種類によって多様で、cGMPが結合すると筒の穴が開くものをcGMP依存性イオンチャネルと呼ぶ。TRPチャネルも複数のファミリーからなるイオンチャネルの一群であり、非選択性の陽イオンチャネルである。発見された際に用いられた活性化因子の頭文字や構造的特徴から、A (Ankyrin), C (canonical), M (melastatin), ML (mucolipin), N (no mechanoreceptor), P (polycystin), V(vanilloid)の7つのサブファミリーに分類されている。TRPは、細胞内や細胞外の様々な刺激によって活性化してセンサーとして働いたり、シグナルを変換したり増幅したりするトランスデューサーとしての機能も併せ持つ。温度センサーやトウガラシに含まれるカプサイシンのセンサーとしても機能していることが知られている。

任意の遺伝子の転写産物(mRNA)の相同な2本鎖RNAを人工的に合成し生物体内に導入することで、2本鎖RNAが相同部分を切断して遺伝子の発現を抑制する手法。2006年には、この手法の功績者がノーベル生理・医学賞を受賞している。

様々な動物種間で塩基配列やアミノ酸配列を比較することによって、類似性や相違を明らかにする手法。この解析によって動物種間の近縁関係や進化の過程を予測することが可能になる。

発生過程で神経管を裏打ちする中胚葉組織であり、頭索類・尾索類では背骨のような支持組織としての役割を持つ。脊椎動物では運動ニューロンの分化を誘導するなど発生学的役割を持つ

魚類に顕著にみられる鰓のスリットで、哺乳類では発生の初期にはみられる。発生が進むと複雑な形態形成変化が起き、消失するが、外耳孔などは鰓裂の名残ということができる。

動物の初期発生において最初の形態形成運動として原腸陥入が起こる。原腸は消化管に分化する。この原腸陥入によって生じる「孔」を原口と呼ぶが、これが将来の動物の体の口になるのが前口動物であり、肛門になるのが後口動物である。半索動物、脊索動物は後口動物である。

ナマコの幼生のことをオーリクラリア幼生と呼ぶが、ウニのプルテウス幼生、ヒトデのビピンナリア幼生、ギボシムシのトルナリア幼生など、形態的共通性をもつ幼生全体をまとめてオーリクラリア(型)幼生と呼ぶ。今日ではディプルールラ型幼生という呼び方が広く使われている。この説はガルスタングが1928年に提唱した。その時代にはオーリクラリアという用語が使われたため(ディプリュールラ説ではなく)オーリクラリア説と呼ばれている。

Hox遺伝子はショウジョウバエで発見されたホメオティック遺伝子の相同遺伝子である。無脊椎動物のゲノムには基本的に1つのHoxクラスターがあり、脊椎動物のゲノムには4つのHoxクラスターがある。Hoxb1は4つあるクラスターのうちのBクラスターに属する1番目のHox遺伝子という意味である。

脊椎動物胚の後脳領域には頭尾軸にそった分節性(等間隔の仕切り)がみられる。この各分節をロンボメアと呼び、図14に示すように7番目までは形態的に明瞭に観察できる。

脊椎動物のゲノムにはふたつか3つのIsletが存在する。Isletは脳幹(延髄、橋、中脳)の運動性脳神経核に発現して、運動ニューロンの分化に関与している。

感桿型では光刺激はホスホリパーゼCとイノシトールリン酸経路を活性化させる。繊毛型ではホスホジエステラーゼによる環状GMPの代謝が関与している。

気嚢による換気システムは獣脚類と呼ばれる恐竜から鳥類に至る系統で段階的に進化していったと考えられる。

このような特異な形態は胚発生期には見られず、生後に発達する。その過程は頭骨に見られる「テレスコーピング現象」と並行して進む。

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卵や精子、その元となる始原生殖細胞などを指し、子孫に遺伝情報が引き継がれる細胞そのものである。

卵や精子を作る減数分裂において、母由来の染色体と父由来の染色体が対合したときに、同じ領域がランダムに入れ替わる(組み換えられる)。つまり、我々の”配偶子の”染色体は、父親と母親由来の染色体がモザイク状に入り交じったものなのである(体細胞の染色体は免疫グロブリンなどの一部の領域を除いて基本的には均一なものと考えられている)。

 タンパク質にコードされる遺伝情報をもつ塩基配列。狭義にはゲノムDNAのうち、mRNAに転写され、タンパク質になる部分。近年は、タンパク質に翻訳されないものの、機能をもつtRNA、rRNAやノンコーディングRNAなども遺伝子の中に含められるようになっている。本書では、特に注意書きのない限り、タンパク質の元となるmRNAになる部分を遺伝子、と呼ぶ。

 では、その転写因子はなにが発現させるのか、というと、やはり別の転写因子である。卵の段階から、母親からmRNAとして最初期に発現する遺伝子は受け取っているので(母性RNA)、発生の最初期に使う転写因子を含む遺伝子群に関しては、転写の必要がないのである。その後、発生、分化が進んでいくと、それぞれの細胞集団に必要な転写因子が発現し、実際に機能をもつ遺伝子の転写を促す。

遺伝子は、核酸配列の連続した3塩基(コドンと呼ばれる)が1アミノ酸に対応し、順々にペプチド結合で繋げられてタンパク質となる。3つの塩基は43=64通りになるが、アミノ酸の数は20個、stopコドンを含めても21種類しかない。したがって、同じアミノ酸をコードするコドンは複数あり、たとえ変異が入ってもアミノ酸は変わらないことがある。これを同義置換と呼ぶ。一方で、変異によってコードするアミノ酸が変わってしまう置換を非同義置換と呼ぶ。

 ふたつの系統が祖先を共通にした最後の年代。本章では、近年の分岐年代推定を利用して作成された系統樹(当該文献[9]のFig.1を参照)からおよその年代を読み取り、記入している。

 アフリカツメガエルや、コイ科、サケ目など、進化上の随所でも全ゲノム重複が起こっている。

 最もよく知られている放射性同位元素による年代測定は、放射性炭素年代測定である。炭素12Cは紫外線や宇宙線によって、空気中では一部(1/1012)が常に14Cに変換されている。つまり、大気中ではいつの時代も1兆個の炭素原子のうちひとつが14C、残りが12Cという割合なのである(太陽活動の変化などにより若干のブレはある)。しかし一旦生物の体内に炭素が取り込まれ、そしてその生物が死に、地中に埋まってしまえば、もう宇宙線も紫外線も当たらないので、14Cへの変換は起こらない。ここで14Cは放射性同位元素であることに注目したい。14Cは約5730年で半分が崩壊し12Cに変換される。したがって、14Cの比率でいつその物質が地中に埋まったのかがわかるのである(文献7)。

 ただし、この放射性炭素年代測定では、14Cの検出限界の関係で、せいぜい6万年が限界である。それより昔は火山岩に含まれる物質の、やはり放射性崩壊の半減期を元に推定される。例えば、K-Ar法では、40Kが40Arに13億年の半減期で放射性崩壊することを利用する。溶岩からできたての火山岩か、あるいは何億年も経ったものかを調べることができる。40Kは岩石中に元々大量に存在するため、差異を検出することは不可能だが、40Ar(常温で気体)は大気中には微量しか含まれないため、岩石中に封入された気体の中の40Arの含有率を計測することにより、その岩石の古さがわかる。当然、40Arの率が高い物が古い岩石である。このように、複数の放射性元素の崩壊の半減期から地質年代というのは推定される。

 南米にもごく少数ながら有袋類が現存しており、これらのゲノム解析・比較から、オーストラリア・南米で現生の有袋類の共通祖先は、実は南米で生まれ、当時陸続きだった南極大陸を経て、オーストラリアにいたったと考えられている。

 世界で最も臭いといわれているシュールストレミングをネットで取り寄せて購入したとき、人々は逃げるどころか、わざわざ悶絶するために集まってきた。いい匂いの物を取り寄せても20人もの人数は集まるとは思えず、怖い物見たさという悪趣味な好奇心はたいしたものである。無論、取り寄せた私も例外ではない。ちなみに、シュールストレミングはひとかけらをクラッカーの上に載せるくらいの食べ方なら悪くない気もする。

このふたつの硬骨の作られ方について、第3章に詳述があるので参照。

 ガノイン鱗には我々の歯のエナメル質を作る遺伝子と相同な遺伝子が発現しており(文献18)、イメージとしては歯で身体を覆われているようなもので、当然極めて強固である。

 遺伝子にはその由来によっていくつかの異なる呼び名がある。オーソログとは、共通祖先がもつある遺伝子Aが、種分化によって2種以上の生物に受け継がれた時、受け継がれた遺伝子たちをオーソログと呼ぶ。パラログとは、遺伝子重複によって生じたふたつ以上の遺伝子を指す。最近では大野乾氏の功績をたたえ、ゲノム重複によって生じたパラログで現存するものを特にオオノログOhnologと呼ぶ。

 異化と同化……この2種類の化学反応によって生命活動は維持されている。異化は物質を分解してエネルギーを取り出す代謝経路、同化はエネルギーを使って必要な物質を体の中で作り出す代謝経路。

 アデノシン三リン酸の略。生体内のエネルギー通貨として、様々な化学反応に用いられている。

 組織中の核酸分子(ここでは特定の遺伝子から転写されたmRNAを指す)の分布を検出する手法。調べたい遺伝子の塩基配列を元に、そのmRNAに特異的に結合する分子を設計・合成することで特異度の高い検出が可能となっている。

 通常の生物の核ゲノムはそれぞれの両親に由来する染色体が2本1セット存在し(ディプロイド)、その染色体間で組み替えが起こるため遺伝的な由来を辿る作業がしばしば煩雑になる。しかしミトコンドリアは母親由来であるため(ハプロイド)、そのゲノムを利用することで比較的簡便に遺伝的な類縁関係を遡ることが可能となる。

 増幅断片長多型:制限酵素で切断したゲノムDNA断片をPCRにより増幅し、断片の長さの違いを網羅的に検出比較する方法。この断片長の違いを種間の類縁関係の推定に使用することが多い。

 sexual conflict。ある形質が片方の性にとっては有利だが、もう片方の性にとっては不利な場合にオスメス間で生じる対立。

 次世代シーケンサーを利用して、各組織に発現する遺伝子の種類や量を網羅的かつ定量的に推定する解析方法。

 真核生物のゲノムに散在する反復配列のうち、一度DNAからRNAに転写され、その後に逆転写酵素の働きでcDNAとなってからゲノム中の別の座位に組み込まれるものを指す。数多くのレトロポゾンが存在しており、例えばヒトゲノムは約40%がレトロポゾンによって占められている。

 太陽光には連続したことなる波長成分の光が含まれているが、その波長によってエネルギーが異なるため、水中に到達する波長成分の割合が深さによって異なることがわかっている。特に濁ったビクトリア湖のような水環境では浅場の方が短波長である青色光の成分が多く、深場では長波長の黄色〜赤色の成分が多いことがわかっている。

 タンパク質をコードするDNA配列上の塩基置換にはアミノ酸の置換を伴う非同義置換と、伴わない同義置換がある。一般に、同義置換は生体に影響を及ぼさないため中立であるが、非同義置換は生体にとって不利であることが多い。ただしタンパク質の機能変化が個体にとって有利な場合は非同義置換の割合が上昇することが知られており、それを正の自然選択と呼ぶ。同義置換と非同義置換の割合を統計学的に比較する方法がある。詳細については第7章およびコラム「適応進化に関わる候補遺伝子や候補領域を絞り込むアプローチ」を参照。

   発生初期の胚の一部の細胞群から作られ、生殖細胞を含む様々な組織に分化可能な性質(多能性)を有する細胞株。英語名(embryonic stem cells)の頭文字をとって、ES細胞と呼ばれることも多い。

 変異体を元になった親系統と交配すること。TILLING変異体に関しては変異以外の部分を親系統由来のゲノムに置換するために行う。1回の交配で全体の50%の領域が置換されるため、90%以上を置換するためには最低4回の、99%以上を置換するためには最低7回の戻し交配が必要である。

 タンパク質の二次構造のうち代表的なモチーフのひとつ。水素結合により形成されたらせん状の形である。

 Francis Crickが1958年に提唱した、遺伝情報がDNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質、という流れで伝わるという概念のこと。分子生物学の基本となる極めて重要な概念である。

 ヒメダカの原因遺伝子としてだけでなく、ヒトの先天性白皮症(つまりアルビノ)やホワイトタイガーの原因遺伝子としても知られる。水素イオンを運ぶトランスポーターをコードすることがわかっているが、その黒色素産生(メラニン合成)における機能は未解明な点が多い。

 相同組換えの鋳型となる外来DNA断片のこと。通常、導入したい配列(GFP遺伝子や特定の塩基置換など)の上流・下流それぞれに、導入したいゲノム領域と相同な配列(相同アームと呼ばれる)を持ったDNA断片である。

 RNAポリメラーゼが結合し、RNAを転写するのに必要最小限の遺伝子上流配列。通常、単独では下流の遺伝子は転写されないが、周辺に転写活性化領域(エンハンサーなど)が存在すると、その影響を受けて下流に存在する遺伝子が転写される。

 オオシモフリエダシャクの「工業暗化」の例を考えるとわかりやすい。これは、産業革命以降のイギリスで、暗化型と呼ばれるより黒い個体の割合が多くなったとされる例である。この蛾は、自然が多い地域では淡色型が目立ちにくく、鳥に捕食されづらかったが、すすで黒くなった木が多い工業地帯では、より黒い暗化型のほうが目立ちにくく、生き残りやすかった。この場合、仮に蛾の色をより黒くするアミノ酸変異が生じたとすると、そのアミノ酸変異は工業地帯で生存に有利で、固定されやすいだろう。ちなみに、近年、具体的にどんな遺伝的変異がこの工業暗化に関わっていたのかが詳細に解析されつつある。

 SWS = short wave sensitive opsin、つまり短波長の光に感受性をもつオプシンのサブタイプ。

 第4章にも記載されているように、深いところには波長の長い赤い光のみが届く傾向がある。つまり、水深の深いところに棲む集団では、青い光を感受するSWSの機能は重要ではなくなってしまう。

 Gタンパク質はGTP結合タンパク質ともよばれ、GTPと結合することで活性化される。GTPを加水分解する性質をもっており、結合しているGTPがGDPに加水分解されると自身が不活性化される。受容体からの信号を中継するものは三量体(α、β、γサブユニット)として存在している。

 神経伝達物質は、放出された後、即座に分解されなければ迅速な伝達を成し得ない。したがって、こういった分解酵素の存在は、ATPが実際にその部位で神経伝達物質として働いていることの傍証となる。

 セロトニンは生体内に存在するモノアミンの一種であり、神経系では神経伝達物質として機能する。生体内のセロトニンの大部分(〜95%)は腸管に存在しており、神経系に存在するものは割合としては小さい。神経系では中脳の縫線核という部位のニューロンで産生され、情動機能等に関係しており、セロトニンの再取り込み阻害剤には抗鬱薬の作用がある。味蕾に存在するセロトニンはそれらとは別の働きをもっていると考えられる。

 迷走神経には感覚性の線維と運動性の線維の両方が含まれており、ここでの迷走感覚神経とはその中の感覚性の要素のみを指す。

 神経細胞(ニューロン)で、突起状の構造(軸索や樹状突起)以外の、核の周辺部の構造を細胞体という。

 ある細胞が放出するリガンドが、その細胞自身の受容体に働くことを自己分泌という。近傍の細胞の場合は傍分泌と呼ぶ。近隣の同じ性質をもった細胞に作用する場合と、自分自身に働く場合を合わせて、自己・傍分泌と呼ぶことが多い。哺乳類のキスペプチンニューロンは、キスペプチン以外に放出するニューロキニンB、ダイノルフィンと呼ばれるペプチドが、キスペプチンニューロン自身に作用することで、アクセルとブレーキのように働き、そのタイムラグでキスペプチンの放出を間歇的に引き起こす。これが前述のGnRHパルスを生み出しているとされている。

 市場に出ている子持ち昆布の中には、ニシン以外の魚(タラの仲間など)を用いて加工されているものもある。また、本物のニシンの卵の場合も、自然に海藻に産みつけられた卵はもっとまばらなので、あのようにびっしりと卵が並んで食べ応えのある子持ち昆布は人為的に作られているようだ。

 タンパク質の一次構造を形成する際にアミノ酸間に形成されるペプチド結合ではなく、側鎖にあるアミノ基とカルボキシル基の間に形成されるペプチド結合のこと。

 2-⑴で述べたように魚類の卵膜の別名は“コリオン”である。将来コリオンになるタンパク質のため、“材料”の意味をもつ“-genin”をつけて、コリオジェニンと呼ばれている。

 遺伝子のうち、半数体ゲノムにつき1コピー(体細胞では2コピー)しかない遺伝子以外のもの。

 共通祖先から生じたいくつかの遺伝子のうち、異なる生物種において類似または相同な機能をもつ遺伝子同士のこと。たとえば、ヘモグロビン、ミオグロビン、サイトグロビンなどは共通祖先から由来するグロビン遺伝子ファミリーであり、ヒトもマウスもこれらの遺伝子をもつが、このうちヒトのヘモグロビン遺伝子とマウスのヘモグロビン遺伝子はオーソログの関係にあるといえる。

 遺伝子ファミリーの中には、突然変異などによって機能を失ってしまうものがある。例えば、変異によって翻訳の途中にストップコドンが入ったり、プロモーターの欠損による転写不能や、転写後のプロセッシングに関与する配列の欠如による成熟mRNAの形成不全などがある。このように、配列の痕跡は残っており、どの遺伝子ファミリーに属するかは明らかだが、機能的でない遺伝子を偽遺伝子(Pseudogene)という。

 魚類では毎年数百の新種記載があり、2018年現在において硬骨魚類の現生種の記載数は3万をこえる。

 栄養リボンという邦訳は、山岸宏『比較生殖学』(東海大学出版会、1995年)による。

 第8章で触れられているデンキウナギなどは、長い身体の大部分が発電器官になっており、肛門の位置が同じように著しく前方に位置する。

 酵素活性は同じであるが、アミノ酸配列の違いによって性質の異なる酵素タンパク質。タンパク質の電気泳動度の差異から、その支配遺伝子座における遺伝子型の差異を検出できる。

 生物相の分布境界線で、この線を挟んで動植物相が大きく変化する。この線の西側が東洋区、東側がオーストラリア区とされる。ウォーレスとウェーバーがそれぞれ異なる境界線を提唱した。スラウェシ島やティモール島は両者の境界線の間に位置する。

 個体や系統を識別する上で目印となるDNA配列のこと。系統間で塩基配列が異なる領域があれば、そこをDNAマーカーとして利用できる。

 ゲノムDNAを制限酵素で切断し、100〜200kbの断片を細菌人工染色体(BAC)ベクターに組み込んでクローン化したもの。大きな領域の物理地図や塩基配列決定に必要とされてきた。

 DNAマーカーや既知のクローンを用いて、配列が一部重なり合うクローンを同定する作業を繰り返し、目的遺伝子近傍のクローンコンティグを作成する方法。

 ミュラー管とは哺乳類の発生過程で将来卵管になる管で、オスではこのホルモンの働きによって退縮する。しかし、真骨魚類にミュラー管はなく、別の機能をもつと考えられる。

 メダカ博士こと山本時男博士は、1953年d-rR系統(オスが緋色、メスが白色の限定遺伝をもとに育成作出された系統、X染色体上に潜性(劣性)のr遺伝子、Y染色体状に顕性(優性)のR遺伝子をもつ、体色により遺伝的な性の判別が可能)の孵化直後から性ホルモンを経口投与して性の人為的転換に成功した。すなわちXrXrでもアンドロゲン投与によりオスとなり、正常メスXrXrと交配して、メスメダカばかりを生んだ。XrYRもエストロゲン投与によりメスに性転換し、正常のオスXrYRと交配した。性ホルモンによる性転換が多くの研究者から示されていたが、山本博士によって初めて遺伝的な性と性ホルモンによる性転換の関連が明らかにされた。コラム⑧も参照。

 コ・オプション(co-option)、遺伝子の使い回し。既存の遺伝子が新たな機能を担うようになること。

 非同義置換よりも大きな影響を与えるのがフレームシフトである。3の単位で塩基は読まれていくが、もし、3の倍数以外の挿入/欠失が起こった場合は、その後の配列が全て読み枠がズレてしまい、その挿入/欠失より後(C末端側)ではまったく異なるタンパク質ができてしまう。

008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称

通称ブレグジット(英語: Brexit)とは、イギリスが欧州連合(EU)から離脱すること