遺伝子から解き明かす「脳」の不思議な世界

遺伝子から解き明かす〈脳〉の不思議な世界

編著=滋野修一、野村真、村上安則

B6サイズ/520ページ/4500円+税/2018年12月15日発売/ISBN978-4-909383-05-1/欧文タイトル:Mystery world of the brains revealed by genes. – 500 million years of the evolutionary history

生き物の最上位中枢である脳。動物は5億年におよぶ進化において、その脳の中で新たな領域の出現、脳神経回路の効率化などを通し、あらゆる環境に適応してきた。このような脳の進化の具体的な様子を、目覚ましい進展を見せる遺伝子研究の視点によって、プラナリアなど原始的な生き物から、鳥類・魚類また両生類・爬虫類からクジラ類やヒト、昆虫に至るまで、豊富な写真やイラストとともに、脳進化の具体的な様子を鮮やか、かつ詳細に解説。

 原始的な生物からヒトの脳さらにAIまで、
あらゆる動物の脳の進化プロセスをあとづけた
「脳から見た生物の進化ストーリー」

〈3つの特徴〉

1 脳の進化ストーリーを網羅

脳の起源となった原始的な生物での神経系の集中をはじめ、プラナリアにみる感覚器官と中枢神経系の進化プロセス、長期短期の記憶など高い学習能力を持つ巨大な脳を発達させたタコやイカ、水中生活に適応し電気感覚をも発達させた魚類の脳、並外れた大きな平衡器をもつ翼竜の脳、高度な認知・行動を司る独自の脳を獲得した鳥類、霊長類とは異なる高い知能を水中生活で発達させたクジラ類、そして意識をもち言語を駆使し、またこころを生み出す特殊な脳を獲得したヒト、さらにヒトを凌駕するほどの超知能を目指すAIなど、生物という概念を超えて進化を続ける脳の全貌を一冊に収録。

2 最新の脳科学の知見に言及

起源から現在のかたち・機能を獲得するまでの脳の進化の経緯や、さまざまな動物のもつ多様な感覚とそれを進化させた背景、またそれぞれの脳領域の発生の仕組みなど、日進月歩で発達する分子レベルので研究によって明らかにされてきた最新の脳研究の知見を紹介

3 webコンテンツ展開

巻末に記載されたシリアル番号(発売時シール貼付)を、一色出版のトップページにある「webコンテンツはこちらから」をクリックしたあとに入力すると、本書の内容全てが見られるサイトへ入れます。各デバイス対応デザイン(レスポンシブ)で、画像は高解像のカラーで掲載され、拡大閲覧もスムーズ。さらに動画も視聴できます。パソコンはもちろんスマートホンでも読みやすく、いつでも読書を可能にします。
通常の電子書籍(kindleなど)では難しかった、見開きにわたる大きな画像の見やすいレイアウトなど、ビジュアル面を重視した体裁にしています。

【目次】

第1章 脳の研究史
古代エジブトとギリシアにおける研究史/18世紀以後の進化をめぐるアカデミー論争/ニューロン説をめぐるカハールとゴルジ/神経回路の追跡方法と顕微形態学の発展/分子生物学の興隆/脳と人工知能/脳の完全地図の作成とコネクトーム/コラム 頭部分節説/コラム 脳の構成要素︱ニューロンとグリア/コラム 脳の三位一体説

第2章 脳の起源︱中枢神経系の誕生
原始的な脳/中枢神経系の構造/進化の過程を理解する︱最大節約法/動物の系統樹/原始的な動物の神経系/様々な進化のシナリオ/ヒドラそして鍵をにぎる刺胞動物の神経/刺胞動物の神経系/中枢神経系の起源はどこに?/遺伝子から明らかにされた新事実/体と神経系を作る遺伝子/神経細胞を生み出す遺伝子/神経伝達物質と神経ペプチドの起源

第3章 脳の再生と集中神経系の起源︱プラナリアの脳
扁形動物、プラナリア/プラナリアの脳のかたち/プラナリアを通して見る感覚器官の進化/環境応答行動と神経回路/高次な脳機能/脳の再生/脳を頭部につくる仕組み/コラム Readyknock

第4章 小型でハイスペックな脳の獲得 |昆虫の脳
昆虫にも脳がある/私たちの脳と昆虫の脳/昆虫が感じる世界/昆虫も覚え、学ぶ/昆虫の社会性と分業/脳の機能を支える分子レベルの仕組みと遺伝子

第5章 知能の普遍デザインとは何か︱タコと軟体動物の脳
知能は独立に進化する/異端がもたらした3つの革命/軟体動物と脳の多様性/タコとイカの巨大脳/明かされたゲノム/南極のタコから見つかった多量のRNA編集量/脳の発生から原型を探る/タブーを超えて見えてきたデザイン原理/タコのホムンクルスはどこに?/おわりに︱未知なる意識の神経基盤そして人工知能

第6章 脊椎動物の脳の誕生前夜︱ギボシムシ、ホヤ、ナメクジウオの脳
由来の歴史は化石に残らず/鍵を握る役者たち/明らかにされた遺伝子とその発現パターン/脳の起源と脊椎動物の原型を再考する

第7章 脊椎動物の脳の起源︱円口類の脳
顎を持つものと持たないもの/脊椎動物の脳の起源の謎を解く生物︱円口類/初期の魚類/脊椎動物の脳の多様性と普遍的パターン/脳の起源の探索その①︱化石を使った探索/脳の起源の探索その②︱発生に関わる遺伝子を使った探索/進化発生学が見いだしたもの/菱脳の起源/小脳の起源/中脳の起源/間脳の起源/終脳の起源

第8章 水生に最適化した脳の多様化︱魚類の脳
魚類の脳の構成要素と外形/なぜ真骨類の脳は多様なのか?/運動中枢/真骨魚類特有の脳部位とその多様性/膨隆が形成されるメカニズム/コラム 電気感覚と発電魚

第9章 脳進化の分水嶺︱爬虫類の脳
爬虫類を飼育する/爬虫類とは/爬虫類の起源/爬虫類の脳/爬虫類の大脳︱祖先型か、それとも独自の進化の産物か?/謎のDVR/果てしない論争/兵隊の位でいうとどれくらい?/コラム 爬虫類の脳の外観/コラム 翼竜とその脳について

第10章 もうひとつの高次脳システムの出現︱鳥類の脳
鳥類とは/大脳皮質のない鳥の脳︱Bird brain?/大きな外套の発生メカニズム/刷り込み/小鳥のさえずり/実行制御機能と巣外套/カラスの大きなDVR/恐竜脳は鳥脳が大きくなった理由を語るか

第11章 広範な適応拡散を可能にした大脳皮質の獲得︱哺乳類の脳
奇妙な標本/哺乳類型脳の特徴/大脳皮質の解剖学的特徴/何故層構造なのか?/インサイド-アウト方式による大脳皮質形成/神経細胞の誕生日をいつ誰が決めるのか/移民のような神経細胞/哺乳類型大脳皮質の進化

第12章 水中生活への挑戦︱クジラ類の脳
クジラ類の脳︱特殊な進化を遂げた哺乳類/クジラ類の頭部/クジラ類の感覚︱水中で生きるということ/クジラ類の中枢神経に起きた変化/クジラ類の終脳/クジラ類の新皮質/新皮質の領野について/終脳の線維連絡/クジラ類の聴覚系︱水中で生きるための様々な改変/コラム 脳神経

第13章 脳進化、その特殊化の極致︱ヒトの脳
暗闇に浮かび上がる祖先の痕跡/草原への適応と脳の進化/ヒト胎児脳に存在する特殊な細胞/言語は遺伝子によって進化した?/祖先の遺伝情報を入手する/祖先の意識の復活は可能か?/再び洞窟へ/過去を照らすランプを手にして

執筆陣

【編著者】

滋野修一(しげの・しゅういち)担当章:「第1章、第5章」
岡山大学自然科学研究科博士課程修了。博士(理学)。現在、シカゴ大学神経生物学科研究職員・アルゴンヌ国立研究所客員研究員。共著に「無脊椎動物の神経系における発生と進化」『進化学辞典』(共立出版・2012年)、監修に『深海のふしぎ』(講談社・2016年)、編著に『Brain Evolution by Design』(Springer Nature・2017年)などがある。

野村 真(のむら・ただし)担当章:「第9章、第11章、第13章」
名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。現在、京都府立医科大学大学院医学研究科准教授。編著に『Brain Evolution by Design』(Springer Nature・2017年)がある。

村上安則(むらかみ・やすのり)担当章:「第7章、第9章、第12章」
名古屋大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学。博士(理学)。現在、愛媛大学大学院理工学研究科准教授。著書に『脳の進化形態学』(共立出版、2015年)、編著に『Brain Evolution by Design』(Springer Nature・2017年)などがある。

【執筆者】(執筆順)

渡邉 寛(わたなべ・ひろし)担当章:「第2章」
東京工業大学大学院生命理工学研究科単位取得退学。博士(理学)。東京都臨床医学総合研究所研究員、ハイデルベルク大学研究員を経て、現在、沖縄科学技術大学院大学准教授。主に刺胞動物の神経系を対象に研究を進めている。共著に『Brain Evolution by Design』(Springer Nature・2017 年)がある。

井上 武(いのうえ・たけし)担当章:「第3章」
岡山大学自然科学研究科博士課程修了。博士(理学)。現在、学習院大学理学部生命科学科助教。共著に『生き物たちのつづれ織り―多様性と普遍性が彩る生物模様』(京都大学学術出版会・2012年)、『再生医療シリーズ―脳神経系の発生・再生の融合的新展開』(診断と治療社、2015年)、『Brain Evolution by Design』(Springer Nature・2017 年) などがある。

上川内あづさ(かみこうち・あづさ)担当章:「第4章」
東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。現在、名古屋大学大学院理学研究科教授。共著に『動物行動の分子生物学』(裳華房 、2014年)などがある。

石川由希(いしかわ・ゆき)担当章:「第4章」
北海道大学大学院環境科学院博士課程修了。博士(環境科学)。現在、名古屋大学 大学院理学研究科講師。共著に『行動遺伝学入門』(裳華房、2011年)などがある。

勝山 裕(かつやま・ゆう)担当章:「第6章」
東京都立大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。現在、滋賀医科大学解剖学講座教授。大脳皮質の発生と機能についてReelinシグナルに注目し研究している。主要論文に「Developmental anatomy of reeler mutant mouse」(Dev Growth Differ. 51 (3): 271-286.)などがある。

山本直之(やまもと・なおゆき)担当章:「第8章」
東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。博士(理学)、博士(医学)。現在、名古屋大学大学院生命農学研究科教授。主要論文にA new interpretation on the homology of the teleostean telencephalon based on hodology and a new eversion model(Brain, Behavior and Evolution, 2007年)がある。

伊澤栄一(いざわ・えいいち)担当章:「第10章」
名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程修了。博士(農学)。現在、慶應義塾大学文学部准教授。論文に「A stereotaxic atlas of the brain of the jungle crow(カラスの脳地図)」Watanabe &Hofman編『Integration of Comparative Neuroanatomy and Cognition』(2007年・Keio University Press)などがある。

ミエリン鞘はとも呼ばれ、軸索に巻き付いて絶縁体として働く構造である。これにより神経パルスはミエリン鞘の間隙を跳躍的に伝わる(跳躍伝導)ことで神経伝達が高速になる。ミエリン鞘は末梢神経系の神経ではシュワン細胞、中枢神経系ではオリゴデンドロサイトから構成される。

脳の中にある空洞のこと。脳脊髄液で満たされている。脊髄にあるものは中心管と呼ばれる。

神経堤細胞は脊椎動物の発生時に見られる神経管に隣接した組織。頭部では神経、骨、軟骨、甲状腺、眼、結合組織などの一部に分化する。

細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質の一種で、特定のイオンを選択的に通過させる孔をつくるものを総称してチャネルと呼ぶ。筒状の構造をしていて、イオンチャネルタンパク質が刺激を受けると筒の孔が開き、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを通過させることで、細胞膜で厳密に区切られた細胞の内外のイオンの行き来を制御している。刺激の受け方は種類によって多様で、cGMPが結合すると筒の穴が開くものをcGMP依存性イオンチャネルと呼ぶ。TRPチャネルも複数のファミリーからなるイオンチャネルの一群であり、非選択性の陽イオンチャネルである。発見された際に用いられた活性化因子の頭文字や構造的特徴から、A (Ankyrin), C (canonical), M (melastatin), ML (mucolipin), N (no mechanoreceptor), P (polycystin), V(vanilloid)の7つのサブファミリーに分類されている。TRPは、細胞内や細胞外の様々な刺激によって活性化してセンサーとして働いたり、シグナルを変換したり増幅したりするトランスデューサーとしての機能も併せ持つ。温度センサーやトウガラシに含まれるカプサイシンのセンサーとしても機能していることが知られている。

任意の遺伝子の転写産物(mRNA)の相同な2本鎖RNAを人工的に合成し生物体内に導入することで、2本鎖RNAが相同部分を切断して遺伝子の発現を抑制する手法。2006年には、この手法の功績者がノーベル生理・医学賞を受賞している。

様々な動物種間で塩基配列やアミノ酸配列を比較することによって、類似性や相違を明らかにする手法。この解析によって動物種間の近縁関係や進化の過程を予測することが可能になる。

発生過程で神経管を裏打ちする中胚葉組織であり、頭索類・尾索類では背骨のような支持組織としての役割を持つ。脊椎動物では運動ニューロンの分化を誘導するなど発生学的役割を持つ

魚類に顕著にみられる鰓のスリットで、哺乳類では発生の初期にはみられる。発生が進むと複雑な形態形成変化が起き、消失するが、外耳孔などは鰓裂の名残ということができる。

動物の初期発生において最初の形態形成運動として原腸陥入が起こる。原腸は消化管に分化する。この原腸陥入によって生じる「孔」を原口と呼ぶが、これが将来の動物の体の口になるのが前口動物であり、肛門になるのが後口動物である。半索動物、脊索動物は後口動物である。

ナマコの幼生のことをオーリクラリア幼生と呼ぶが、ウニのプルテウス幼生、ヒトデのビピンナリア幼生、ギボシムシのトルナリア幼生など、形態的共通性をもつ幼生全体をまとめてオーリクラリア(型)幼生と呼ぶ。今日ではディプルールラ型幼生という呼び方が広く使われている。この説はガルスタングが1928年に提唱した。その時代にはオーリクラリアという用語が使われたため(ディプリュールラ説ではなく)オーリクラリア説と呼ばれている。

Hox遺伝子はショウジョウバエで発見されたホメオティック遺伝子の相同遺伝子である。無脊椎動物のゲノムには基本的に1つのHoxクラスターがあり、脊椎動物のゲノムには4つのHoxクラスターがある。Hoxb1は4つあるクラスターのうちのBクラスターに属する1番目のHox遺伝子という意味である。

脊椎動物胚の後脳領域には頭尾軸にそった分節性(等間隔の仕切り)がみられる。この各分節をロンボメアと呼び、図14に示すように7番目までは形態的に明瞭に観察できる。

脊椎動物のゲノムにはふたつか3つのIsletが存在する。Isletは脳幹(延髄、橋、中脳)の運動性脳神経核に発現して、運動ニューロンの分化に関与している。

感桿型では光刺激はホスホリパーゼCとイノシトールリン酸経路を活性化させる。繊毛型ではホスホジエステラーゼによる環状GMPの代謝が関与している。

気嚢による換気システムは獣脚類と呼ばれる恐竜から鳥類に至る系統で段階的に進化していったと考えられる。

このような特異な形態は胚発生期には見られず、生後に発達する。その過程は頭骨に見られる「テレスコーピング現象」と並行して進む。