昆虫の交尾器は、種の同定など、研究シーンではよく注目される部位かと思います。

多くの場合は、その形、オスメス間の一致不一致が調査の対象になっているようです。

しかし、形ではなくて、長さに注目した研究があります。

自分の体長よりも長く、倍以上もあるような特殊な交尾器を持つオスがいることは、よく知られています。

しかしなぜ、このような長い交尾器が進化してきたのでしょうか。
どのような背景で、このような交尾器が獲得されたのでしょうか。

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●長い交尾器の中身とは?
そもそも、これほど長くなった交尾器の中身は、どのようになっているのでしょうか?
そこで今回は、ハムシ科に登場してもらいます。

この科の一部には、体長より長い交尾器を持つオスがいることが知られています。
同時に、メスにも、長く深い構造を持つ交尾器を持つものがいます。

ハムシ科の中でも、クビボソハムシ亜科とカメノコハムシ亜科で、体長以上の、さらには体長よりもはるかに長い交尾器を持つものがいます。

このような長い器官の中身はどうなっているのでしょうか?

この交尾器の内側で重要な器官は、射精管と呼ばれるものです。
文字通り、精子をメスに送り込む管ですね。

ただ、この管の直径は2マイクロメートル (1 ミリの500分の1)という極細です。
このような細さで、精子が通れるのでしょうか。

結論を言えば、問題ないと言えるでしょう。
多くの昆虫で、その精子の太さは1マイクロメートル以下という計測データが報告されているようです。
したがい、精子はきちんと射精管を通過できているようです。

●なぜ、この昆虫の交尾器は長くなったのか?
一般に、昆虫の形態などの進化は、性淘汰の結果とされることが多いようです。
つまり、「繁殖により有利なものが残った」と考えられることが多いということです。

この一般論は、ハムシの交尾器の進化にも、当てはまるのでしょうか?

このことを考えるために、南米のカメコノハムシ類を扱った研究が参考になります。
カメノコハムシ
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カメコノハムシ類のカップリング。
https://www.flickr.com/photos/66062911@N03/より
このカメコノハムシのあるメスに対し、複数のオスと交尾をさせました。
多くの昆虫では、最後に交尾したオスの精子が受精する結果が見られます。
その結果、最後に交尾したオスの子が生まれてくることになります。

しかし、カメコノハムシでは、最後に交尾したオスが受精に至るのに有利なわけではないようです。

受精に有利だったのは、より長い交尾器を持つオスでした。

長い交尾器を持つと、より交尾時間がより長くなり、より多くの精子を送り込むことができるではという疑問もあったようです。
しかし、そのようなことも確認されなかったようです。

では、なぜ長い方が受精には有利なのでしょうか?

●なぜ長い交尾器が受精には有利なのか?
このハムシのメスは、交尾の最中にお尻から精子を次々と排出していきます。
その精子は、すでに交尾したオスの精子ではなく、交尾中の精子を捨てているのです。

この精子の排出する量は、相手のオスの交尾器の長さによって決まるようです。

短い交尾器の精子ほど多く排出され、
長いものほど排出される量は少なくなり、メス内部に貯蓄されます。

どうやらメスは、オスの交尾器の長さによって排出量をコントロールしているとされます。

つまり、「メスがどれだけの量の精子を受け取るか」ということが選択基準となって、長い交尾器が進化してきたとされています。

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今回の内容は、松村洋子「第12章 ハムシ―体より長い交尾器」『甲虫の不思議な世界』(制作中)をもとに作成しています。
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(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

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