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先日は、また強い地震がありました。
強い地震の場合、人間は身の危険をおぼえることが多いと思います。
ただ、弱い地震の場合は、あまり気にならないかもしれません。

一方、昆虫は振動にとても敏感であることが知られています。
例えば、ナミブ砂漠などにいるゴミムシダマシ科のキリアツメ。
この近縁種には、わずかな風によってできる、ナノレベルの地表の振動を感知できることが知られています。

なぜ昆虫は、このようなわずかな振動を感知できるのでしょうか。
また昆虫にとって、振動という刺激は、どこまで利用されているのでしょうか。

今回は振動によるコミュニケーション、特に、あまり知られていないカミキリムシの振動コミュニケーションに触れたいと思います。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人から配信しています。
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振動といって代表的なものは、空気による振動である「音」があげられるでしょう。
体の一部をこする、打ちつけるなど、空気を振動させると簡単に音が出せます。
そのため、昆虫だけでなく多くの動物で、音を積極的に利用していることが知られています。

他方で、空気振動である音だけではなく、地表など物体をとおした振動を利用する昆虫もいます。
しかし、音と違って物体を通した振動を利用する昆虫は、あまり知られていないかもしれません。
ただ実際には、少なからず(およそ200種以上)の昆虫種が振動を利用しているようです。

例えば、作物害虫として知られるウンカ、ヨコバイなどは、作物の振動をとおして異性にメッセージを送っているようです。
また、南アフリカにいるトクトク虫と呼ばれる昆虫は、オスがお腹を「タタタタ」とリズミカルに打ちつけることによって、メスとのコミュニケーションをしています。

また地面だけでなく、水面を利用する場合もあります。
アメンボは、オスが水面を振動させることで、縄張りを知らせたり、メスへのアプローチをしていることが知られています。

ただ、このような物体を通した振動を、カミキリムシも行っていることをご存知でしょうか。
カミキリムシといえば、キーキーという鳴き声が思い浮かぶかもしれません。
これは捕食者に対する威嚇音として利用されているようです。

しかし、カミキリムシが利用する振動は、鳴き声というこのような空気振動だけではありません。
想像をこえるわずかな振動を利用できるようですが、それは一体どのような振動でしょうか。

●歩くときの振動を利用する?
昆虫が歩くときに出る振動を、想像できるでしょうか。
この場合の昆虫とは、カミキリムシです。
そもそも「カミキリムシが歩くときに振動が出るのか」という疑問さえ抱きませんか。
ところが、ある種のカミキリムシでは、このような振動を利用して、オスメス間のコミュニケーションや個体の識別に利用しているようです。

調べられたのは、マツノマダラカミキリという種です。
Monochamus_alternatus
クリックして拡大
マツノマダラカミキリ(CC BY3.0-AU)
この種は、巧みに振動を利用していることが報告されています。
つまり、他の個体が歩くときの振動を感知し、相手の識別に利用しているようです。
しかし、想像のおよばないほどのかすかな振動を、どのように感知しているのでしょうか。

●どのようにカミキリムシは振動を感知するのか
マツノマダラカミキリが振動を感知するには、脚の膝(ひざ)下や腿(もも)にある弦音器官というところで行われています。

昆虫が音という振動を感知する場合は、鼓膜、またはジョンストン器官という特殊な器官を使って感知していることが知られています。

しかし、地表など物体を通した振動を感知する場合は、弦音器官で行われているようです。
具体的には、地表をつたってきた振動は、まず体表のクチクラに感知されます。
その後、体内にある細長いクチクラを通して、神経細胞を興奮させます。

このような仕組みをもつ振動感知の仕組みですが、では生活のなかで、どのように役立っているのでしょうか。
本当に足音だけで、他の個体や捕食者の識別ができるのでしょうか。

●どのように「相手がだれか」を識別するのか
マツノマダラカミキリが相手を識別するには、振動だけでなく、フェロモンといった化学物質、また触覚による相手への接触によることが知られています。

特に接触は、相手がだれかを識別するのに、高い有効性をもっています。
しかし、接触するには当然、相手が近づいた時でないとできません。
接触するには、触覚の届く範囲に限られます。
その際、近づいてくる相手の歩く振動によって、相手が誰かを識別するのに役立つとされています。

というのも、歩く振動だけでは同種の個体か、また同種でもオスかメスかの識別は難しいようです。
足の振動を感知しつつ、接触することによって、相手が誰かを識別することが成立しているようです。

ただ、自分より非常に大きな相手、例えば鳥などの捕食者に対しては、振動だけでも識別が可能になっているようです。
例えば、自分の寄主している木に、非常に大きな振動ができれば、改めて相手に接触する必要はありません。
相手が捕食者である感応性が高いので、近づいてくる前にフリーズ、また落下などの行動をとれるのです。



カミキリムシなどを捕まえるために、勢いよく木を蹴って、落ちてくるのを待ち構えた経験はないでしょうか?
これは蹴った時の振動によって落下してくるというよりも、大きな振動を感知した昆虫が自ら落下という行動をとったと言えるかもしれません。



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今回の内容は以下をもとにしています。
大場裕一「愛をささやく昆虫たちのことば」『昆虫たちの不思議な性の世界』(2018年、一色出版)
高梨琢磨・深谷緑「カミキリムシは振動を感知し、回避行動や配偶を行う」『昆虫の発音によるコミュニケーション』(H23、北隆館)
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

『昆虫たちの不思議な性の世界』
(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

https://ws.formzu.net/dist/S93315378/

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