鳴く昆虫といえば、直翅目、つまりバッタやキリギリス、コオロギの仲間をあげる人が多いでしょう。
それらの昆虫が「鳴く」と言われるのは、人間が聞き取れるほどの音量、または周波数だからと言えるかもしれません。

しかし、人間の聞き取れる周波数とは異なる周波数を利用している昆虫も知られています。
一部のキリギリスでは、人間の聞き取れない高い周波数を使っていることが確認されています。

昆虫たちは、そのような人間の聞き取れない周波数帯域を利用して、独特の世界を築いているようです。
音は利用は主に、オスとメスとのコミュニケーションで見られます。
しかし、近年の調査では、周波数を、今まで知られていなかったような方法で利用するものもいることがわかったようです。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人です。
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人間が聞き取れる周波数は、20ヘルツ〜20キロヘルツと言われています。
ただ、このように言われても、想像しにくいかもしれません。

例えばカエルは50ヘルツ〜10キロヘルツとなっていて、人間と比べ、低い周波数を使った鳴き声とされます。
逆に高い周波数を持つものには、イルカ類があげられます。
その周波数域は、150ヘルツ〜150キロヘルツとされています。

このように、さまざまな動物が、それぞれの周波数によって生活を営んでいることがわかります。
一方で、昆虫でも、それぞれのグループによって利用する周波数が違うことが知られています。

鳴き声を利用する昆虫といえば、冒頭にあげたようにバッタ類が思い浮かぶでしょう。
彼らは主に、オスメス間のコミュニケーション、つまり求愛ソングとして利用されることが多いようです。

しかし、これ以外の利用方法が近年、身近な昆虫で明らかになってきたようです。

●トウモロコシを食害するアワノメイガ
三大作物の一つとされるトウモロコシ。
そこに食入する名高い昆虫として、アワノメイガがいます。
Ostrinia furnacalis
アワノメイガは、トウモロコシの商品価値を下げてしまう害虫とされるため、
農学では特によく調べられてきた昆虫と言えるかと思います。

農作物への被害対策で重要な点の一つが、繁殖を抑えることでしょう。
ガ類の繁殖戦略といえば、メスの性フェロモンによるオスの誘引が有名です。

しかし、フェロモン以外のものによって、オスメス間でコミュニケーションされていることがわかってきたようです。

●アワノメイガの聞こえないな鳴き声
アワノメイガ属のオスは、人間には聞き取れない周波数を使っていることが知られています。
その目的は、メスにアピールするため、言い換えれば求愛ソングを歌っているとされます。
これはあくまでオスがメスに向けて発するもので、メスはまったく発しません。

また、フェロモンを使ったコミュニケーションの場合、離れたところにいる仲間に向けられます。
しかしオスによる特別な周波数の利用では、近くにいるメスに向けて利用されます。

では具体的には、どのようにこの特別な周波数帯域を持つ音を利用し、求愛するのでしょうか。

●超音波の求愛ソング
アワノメイガが発する周波数帯域は、35キロヘルツ〜80キロヘルツという報告があります。
人間は20ヘルツ〜20キロヘルツですから、高い帯域を使っていることがわかります。

しかし、そもそもガが鳴くとは、どのようにして成立しているのでしょうか。
ガには一見、音の出そうな器官は見当たりません。

昆虫の鳴き方といえば、例えば、セミが腹部の膜を振動させたり、コオロギが前翅をこすり合わせて鳴くことが知られています。
では、アワノメイガというガは、どのように音を発してるのでしょうか。

調査によると、アワノメイガでは前翅の付け根(基部)と腹部の横に特別な鱗粉を持っているようです。
一体、この鱗粉は、どのような意味があるのでしょうか。

●オスだけが持つ特別な鱗粉
前翅と腹部に特別な鱗粉を持つアワノメイガ。
この鱗粉の上にマニキュアなどで覆ってしまうという実験を行ったようです。
すると、アワノメイガは鳴くことができなくなることが確認されました。

つまり、この特別な鱗粉を利用して、アワノメイガは音を発していることがわかります。

また、鱗粉はオスとメスで違いがあることも確認されています。
オスはこのオス固有の鱗粉をこすり合わせ、特別な周波数帯域の音、超音波を発していることがわかりました。

このように、アワノメイガはオスが鱗粉を利用して求愛ソングを歌っています。
しかし、この求愛ソングは、メスへの求愛という、ロマンチックな利用方法だけではないようです。

オスの求愛ソングは、これを別のことに利用して、自らの交尾の成功率をあげているようです。
求愛ソングを求愛以外に利用するとは、どういうことでしょうか。

●求愛ソングの正体とは?
コウモリが発する超音波を感じると、ガたちはフリーズして、落下するなどの防御行動をとることは別のところでも紹介しました
「超音波で身をまもる昆虫」2021年2月15日メルマガ))。

アワノメイガも同様に、コウモリが発する周波数の音を感じると、フリーズします。
アワノメイガのオスは、この習性を巧みに利用しています。

アワノメイガのオスの求愛ソングは、このコウモリの周波数と似ていることが確認されています。
そのためメスは求愛ソングを聞くと、コウモリがいると勘違いして、フリーズします。
メスがフリーズしてじっとしている時をねらって、オスは交尾を成功させています。

メスは、アワノメイガのオスとコウモリの超音波を識別することができないため、
両者の超音波を感じると、区別なくフリーズしているようです。

求愛ソングと聞くと昆虫にもロマンがあると感じてしまいます。
しかし、ガとコウモリとの攻防の末に生まれた、進化した繁殖戦略と言えるかもしれません。

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今回の内容は、大場裕一編著『昆虫たちの不思議な生の世界』(2018年、一色出版)、高梨琢磨「アワノメイガとその近縁種における求愛歌と性フェロモン」『昆虫の発音によるコミュニケーション』(H23、北隆館)をもとに紹介しています。
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

『昆虫たちの不思議な性の世界』
(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

https://ws.formzu.net/dist/S93315378/

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