ハチの持つ特別な器官は、針だけではありません。

狩りバチのグループの一つに、ドロバチがいます。

ドロバチとは文字通り、主に泥を使って巣をつくるハチのことですね。

そのドロバチの一種に、アトボシキタドロバチ(Allodynerus mandschuricus)がいます。

このドロバチは、胸とお腹に特別な器官をもっています。
アトボシキタドロバチ
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図14.アメリカフヨウの髄に営巣中のアトボシキタドロバチ。このドロバチは他の八にはあまりない特別な器官を持つ(寄生バチと狩りバチの不思議な世界、第12章より)
その器官を作り維持するには、大きなコストのかかることが予想されます。

それにもかかわらず、その器官をもっていることには、そういったコストを上回るメリットがあるようです。

つまり、その器官のおかげで、外敵から身をまもることができています。

おはようございます。
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上記のドロバチが持つ器官は、アカリナリウム(acarinarium)と呼ばれます。

アカリナリウムは、ある生き物を入れるポケットとしてしられています。

上記のドロバチの場合、アカリナリウムは胸部と腹部にあるようです。

胸部のアカリナリウムは、左右の翅の付け根に発達します。

その大きさは、自分の体に不釣り合いなほど広く深いポケットになっているようです。

このような大きな器官を特別に発達させるには、大きなコストを支払っているはずですね。

それを上回るメリットとはなんでしょうか?

そのメリットとは、外敵から身をまもることのようです。

身を守るといっても、このポケットから毒を噴射するなど、特別な武器をもっているわけではありません。

ここに入っているのは、ダニです。

ダニを入れるために、わざわざ深く広いポケットを発達させました。

ではそのダニは、どのようなメリットを、つまり外敵から守ってくれるのでしょうか。



そのダニは正確にはアドボシキタドロバチヤドリコナダニと言います。

このダニが、一匹のドロバチあたり平均150匹ほどポケットにいます。

このダニが攻撃する相手は、クロヒラタコバチ類(属名のメリトビアMlitobiaで呼ばれる方が多い)という寄生バチです。

この寄生バチはドロバチの幼虫に寄生しようとします。

ここでポケットのダニが活躍してくれます。

メリトビアが寄生しようとすると、このダニが攻撃して寄生させないようにします。

その攻撃方法は、「しがみつき」「かみつき」。

産卵場所を探してハチ幼虫の表面をうろついている寄生バチを見つけると、
ダニは「しがみつき」、そして「かみつき」ます。

攻撃を受けた寄生バチは、動きが鈍くなり、やがて死んでしまいます。

と、ここまではダニの勇ましさに触れましたが、
しかし、このダニはボランティア精神でドロバチを守っているわけではありません。

ダニはポケットを提供してくれているドロバチの幼虫の体液を吸って成長します。
さらに、ドロバチ幼虫が蛹になると、そこに母ダニが産卵し、やはり体液を吸って成長します。

やはりダニにもメリットがあったので、身を挺してドロバチを守っていたのですね。

ただ、このアカリナリウという器官はなにも、寄生バチの専売特許ではありません。

クマバチの中にも、同様にアカリナリウムをもっている種がいることがしられています。

次回のメルマガは、日本のクマバチ、台湾のクマバチ、両方に見られるアカリナリウムについて触れてみたいと思います。

まとめますと、
・ドロバチの一種アトボシキタドロバチはアカリナリウムというポケットを持つ
・ポケットにはダニが寄生している
・ダニはドロバチに寄生しようとするハチを追い払う
・ダニ自身はドロバチの体液を吸って成長する
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今回の内容は以下のものをもとにしています。
牧野俊一/岡部貴美子「第12章 竹筒のなかの小宇宙:営巣トラップに集う生き物たち」前藤薫『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』(2020)

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