子どもの成長には十分な栄養が必須ですね。

人間はもちろん、昆虫も同じです。

ただ、昆虫は生きたままの相手を食べます。
ここには特別な工夫が必要そうです。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人から配信しています。
(毎週月曜、年中無休配信)



わが子の成長を大事に思うのは、人間も昆虫も同じ。

特に子ども想いの昆虫に寄生バチの親が挙げられます。

子どもに大事なのは、何はともあれ栄養です。

人間では母乳または食べやすい食事を親が作ってくれます。

電子レンジなどで加工して、食べやすく消化しやすくしてくれますね。

ただ、寄生バチの母親はそのような手法は取りません。

もっと大胆かつ直接的。

食べ物そのものの中に、我が子を生みつけます。
寄生バチであるカリヤサムライコマユバチの母バチは、
寄生相手の体内に卵を生みつけます。

しかも相手は生きています。
これ以上、新鮮なエサはないでしょう。

カリヤサムライコマユバチに生みつけられる相手は、ガの一種アワヨトウ、その幼虫です。

ただ、母バチが新鮮なエサの中に生みつけて、おしまいというわけにはいきません。

相手は生きていて常に成長します。
やがては蛹になります。

カリヤサムライコマユバチは幼虫に寄生するので、
蛹になってしまうのは都合悪い。
でも、相手は生きていて、どんどん蛹化に向かっています。
これは難問です、どうすればいいのでしょうか。

母バチから子供へのプレゼントがこの難問を解決してくれます。

プレゼントとは、ウイルス。

この母バチから贈られるウイルスが、
アワヨトウ幼虫の体内で、あるホルモンの分泌を邪魔します。
そのホルモンとは蛹化をうながす作用をもちまシウ。
母バチは産卵と同時にウイルスも産みつけていたのです。

成長が邪魔されたアワヨトウ幼虫の蛹化は不成功。

蛹にならないアワヨトウ幼虫を、カリヤサムライコマユバチの幼虫は食べ尽くします。
めでたく大人のハチに成長出来ました。。。。

となればいいのですが、まだ難問が残っています。

ウイルスによって成長が邪魔され、蛹にならないのは好都合です。
しかし、成長が邪魔されたおかげで寄生相手の体が小さいままです。
十分な栄養が得られません。

またしても難問、どのようにハチは解決するのでしょうか?

またしても解決の主役はウイルス。

嫌われ者のイメージが強いですが、
寄生の場面では英雄です。

ウイルスはアワヨトウ幼虫内の代謝を変化させます。
どういうことでしょうか?

アワヨトウ幼虫はウイルスが侵入したせいで食欲減退します。

当然、成長がうまくいかず、体が大きくなりません。
でも、エサが小さいままでも、ハチの幼虫だけは栄養をきちんと確保できます。

というのは、栄養がハチ幼虫自身に高い割合でいくように、ウイルスが寄生相手の代謝の仕組みを変化させます。

エサの中で成長するというライフスタイル。
そのために、母の体内でウイルスを飼い慣らすというしくみが進化したかもしれません。

まとめますと、
・カリヤサムライコマユバチは母バチ体内でウイルスを育てている
・ウイルスは寄生相手の体内で成長を操作し蛹にさせない
・寄生相手の代謝を変化させ幼虫は高い割合で栄養を獲得できる

今回の内容は、前藤薫編著『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』(2020年、一色出版)をもとにしています。
  • 『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』前藤薫(編著)、2800円+税、オンライン版付き
  • 『遺伝子から解き明かす脳の不思議な世界』滋野修一・野村真・村上安則(編著)、4500円+税、オンライン版付き
  • 『遺伝子から解き明かす性の不思議な世界』田中実(編著)、4500円+税、オンライン版付き
  • 『遺伝子から解き明かす魚の不思議な世界』神田真司(編著)、4500円+税、オンライン版付き
  • 『遺伝子から解き明かす鳥の不思議な世界』上田恵介(編)、4500円+税、オンライン版付き
  • 『ヒトゲノム事典』斎藤成也他(編著)、12,000円+税、オンライン版付き
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