昆虫は生物界の中でも、特に豊かな多様性を持つことが知られています。

多様化の原動力となったのは、さまざまな環境への適応能力とされます。

中でも、食べ物となるエサ資源が変わることによって、種の分化が進むことがあるようです。

例えば、アゲハチョウ科ではどうでしょうか。
最も古く、祖先的とされるジャコウアゲハ族から順にみてみると、、、

 1)ジャコウアゲハ族は、ウマノスズクサ科を食べる
 2)次に現れたアオスジアゲハ族は、クスノキ科・モクレン科を食べる
 3)さら次に現れたアゲハチョウ族は、ミカン科を食べる

となります。
ジャコウアゲハ族
クリックして拡大
ジャコウアゲハ (Byasa alcinous alcinous)
となります。

飛び火するかのように、さまざまな植物を渡り歩いていることがわかりますね。

つまり、「新しい種類が現れる時」、エサ植物の変更がともなうことが多いようです。

これは言い換えると、エサを認識する能力が変化していること、ともされます。

では、エサを認識する能力の変化とは、一体、具体的にはどのようなことが昆虫自身の中で起きているのでしょうか。

特にチョウ、中でもアゲハチョウの仕組みに触れていたきたいと思います。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人からお送りしています。
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アゲハチョウの仲間は世界でいうと、500種ほどいるとされています。
日本に限れば、18種ほどといわれます。

それぞれの種はその多くが、エサ植物が種ごとに異なっています。

では、エサ植物がかわるには、どのような条件が必要でしょうか。

一つには、幼虫がその植物を食べられるのか、またエサとして認識できるのか、といったことポイントとなりそうです。

そうはいっても、幼虫自身は生まれた場所の植物を食べるしかありません。

なにせ、アゲハチョウの生まれたばかりの幼虫では、体長1.5ミリと非常に小さく、自らエサを探すことは難しそうです。

では最も大事なことはというと、母チョウがどこに卵を生むのか、ということになりそうです。

なにしろ飛ぶことができますので、広範囲にエサを探せます。

では、アゲハチョウの母チョウは、どのように産卵する植物を探すのでしょうか。

アブラナ科をエサとするオオモンシロチョウでは、アブラナ科に含まれるカラシ油配糖体という成分が産卵行動をうながすことが報告されています。

カラシ油配糖体は、植物が昆虫からの被害を避けることに効果があるようです。
これが結果的には、オオモンシロチョウ幼虫を天敵からまもることに繋がっているわけですね。

一方で、アゲハチョウでは産卵をうながす物質は、どのようなものがあるでしょうか。

ナミアゲハの場合、温州みかんに含まれるシネフリンなど、10種の物質が産卵をうながしているようです。
(シネフリン、スタキドリン、カイロ・イノシトール、アデノシン、ルチン、ブホテニン、N-メチルセロトニン、ヘスペリジン、ビセニン-2、ナリルチン)
ナミアゲハ産卵物質
ナミアゲハの産卵刺激物質(10種)
(遺伝子から解き明かす昆虫の不思議な世界、より)
10種という多くの物質が必要とは、ずいぶん必要な要件が多いと感じるかもしれません。

しかし、産卵促進にはさらに条件があります。
10種の物質が適切な割合で含有されていることが必要とされます。

このような複雑な条件を持つ植物を、母チョウはどのように探すのでしょうか。

10種の物質が適切な割合で含まれいる必要があるとはいうものの、
特に重要な物質が特定されたようです。

それはシネフリンという物質です。

どうして、この物質がないと産卵促進されないと言えるのでしょうか。

実際に、試しにこの物質を認識できないチョウを、RNAiという手法によって作成したようです。

すると、そのチョウはドラミングという行動をとり、適切な物質があるかどうかを、長時間かけて判断したようです。

その後、さんざん迷った(ように見える)あげく、産卵することなく、飛び去るという結果になりました。

一方で、このRNAiチョウは10種の物質が適切な割合の植物には産卵します。

しかし、シネフリンが含まれていない場合に限り、産卵を避けるようです。

ある特定の物質が産卵をうながす鍵となっていて、
この鍵となる物質とそれを認識する能力が備わっていることによって、初めて産卵に至ることがわかります。

このような、植物と昆虫をつなぐ絆によって、種の分化がうながされているかもしれませんね。



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今回の内容は、尾崎克久「チョウの味覚と産卵行動」『遺伝子から解き明かす昆虫の不義な世界』をもとにしています。
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

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(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

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