多くのチョウ類で、擬態するものが知られています。

ただ、オスとメスとでは、同様に擬態しているわけではないようです。

つまり、オスとメスによって擬態に性差があることも報告されています。

例えばシロオビアゲハでは、特にメスが擬態すること知られています。

ただメスは卵を持っていたり、オスより体が大きかったり、オスよりも多くのコストを負担しています。

その上、擬態を行うとすると、さらに大きなコストが課せられそうです。

そこまで大きなコストを払ってまでも、擬態するには理由があります。
それは、捕食者から回避できるという大きなリターンが得られるためですね。

もしそうならば、全てのメスが擬態するはずではないでしょうか。
実際には、全てのメスが擬態するわけではないようです。

なぜ、一部のメスだけが擬態するのでしょうか。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人です。
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この問いには、三つの説があげられています。

一つ目の理由は、擬態したメスはオスから求愛されにくくなくなる、という理由です。

つまり、擬態したメスはオスから同種のメスと認識されづらくなります。
そのため、求愛の対象と認識されず、繁殖に成功する可能性が低くなります。

その結果、集団内に自分の子孫が広がりにくくなるとされます。

これを証明する、一つの実験がされました。

まず、シロオビアゲハの未交尾メスを野外に放置しました。
すると、シロオビアゲハのオスは、自身と同じ翅模様を持つ非擬態型に対して、より多く求愛することが確認されたのです。

二つ目の理由は、生理的なコストがあげられます。
擬態メスの翅模様には、擬態しないものに比べ、赤色の面積が広くなります。
この赤色の彩色には、生理学的により高価なエネルギーを必要とすることが考えられています。

そのため、翅模様の赤色の面積が広いほど、寿命が短くなる傾向があるようです。

その結果、擬態するメスは集団全体に広からずに、一部にとどまるとされます。



三つ目は、擬態メスが増えることによる弊害です。

擬態するものが増えるのですから、より集団内にこのタイプが広まりそうです。
しかし、そういう結果に至らないのは、どういう理由でしょうか。

その答えは、捕食者の学習機会にあるようです。

擬態メスが捕食者から回避できるためには、
実際に毒を持っているチョウが捕食されなければなりません。

捕食者は有毒チョウを食すことによって、そのチョウが自身にとって有害であることを学びます。

同時に、その有毒チョウの翅模様と有害の関係を覚えます。

以降、捕食者は、有毒チョウと有害の関係を認識して、食すのを避けるようになります。

しかし、擬態メスの割合が高まってしまうと、有毒と翅模様の関係を捕食者が学習する機会が減ってしまいます。

そのため、擬態メスが集団内に広がることが抑制されると言われます。

このことを裏付けるような野外調査が行われました。
琉球列島の5つの島で、有毒であるベニモンアゲハと、これに擬態するシロオビアゲハの割合が調べられました。

すると、有毒であるベニモンアゲハが少ない島では、やはり擬態するシロオビアゲハも少ないことが確認されました。
逆に有毒のベニモンアゲハが多い島では、擬態率は高くなったようです。

(今回の記事は、加藤三歩「シロオビアゲハの擬態の進化」『チョウとガの不思議な世界』(現在制作中)から紹介しています)
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

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(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

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