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大きくなりすぎた木材を破壊するために、ロープでくくりつけられたダイナマイトの写真です。

と聞くと、そのまま信じてしまいそうになりますが、そういうわけではないようです。
これはハチを誘引するために取り付けられたトラップ、竹筒トラップといわれます。

ハチには、「管住性(かんじゅうせい)ハチ」と呼ばれる種類がいます。
文字通り、彼らは筒状のものに巣を作ります。
彼らのこの習性を利用したトラップのようです。

利用する筒状のものには、例えば、茅葺き屋根の中、アオイ科など植物の茎の中などがあります。

その中は非常に狭く、ハチたちも自由に動き回ることはできません。
しかし、この狭く細い筒の中で、ハチと彼らをめぐる生き物たちの間に、不思議な攻防が見られます。
鍵を握るのは、非常に小さなコバチ類や、さらに小さな生き物です。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人からお届けしています。
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管住性ハチというグループには、どのれほどの種がいるのでしょうか。
これまでの報告を合わせると、80種ほどがいるようです。
ハチの属する膜翅目(まくしもく)は15万種といわれるので、割合としてはかなり低く、珍しいグループになることがわかります。

80種ほどの管住性ハチには、どのようなものがいるのでしょうか。
日のあたる明るい場所にはドロバチやハナバチが、暗い場所にはクモバチが多いようです。

彼らドロバチなどは、この狭く細長い筒の中で、安住できているわけではありません。
このような狭い空間でも、他の生き物の脅威にさらされています。

●筒の中の攻防
ドロバチなどの天敵となるのは、彼らに寄生するハチです。
ヒメバチ科、ヒメコバチ科、セイボウ科といった寄生バチになります。
しかし、巣をまもる母ドロバチは、その寄生するハチたちにとってもまた、脅威になります。
というのも、ドロバチは強力な大アゴ、また毒針を持つので、返り討ちにあう可能性があるためです。

そこで寄生する側も、さまざまな工夫をこらして侵入する必要があります。
例えば母バチが出かけるのを隠れて待ち、侵入する方法があります。

しかし、非常に手の込んだ方法で侵入方法するものもいます。
その昆虫は直接、ドロバチの巣に自ら侵入するのではありません。
より安全に侵入するために、他の昆虫を利用するようです。

●獲物に寄生するハエ
ドロバチにハムシドロバチという種がいます。
このドロバチは名前の通り、ハムシ幼虫を狩りして巣に持ち帰ります。

ハムシ幼虫を巣に持ち帰るこのドロバチは、かなり高い確率でヤドリバエというハエに寄生されるようです。

ただ、この寄生の仕方が通常ではありません。
寄生する多くの場合、巣の近くでハチが出ていくのを待つという、待ち伏せ戦略が見られます。
しかし、このヤドリバエに限っては、待ち伏せしているところが見られません。

密室殺人にも似たこの寄生方法ですが、どのように寄生に成功しているのでしょうか。

答えは、ハムシドロバチが捕獲するエサ、ハムシに隠されているようです。
ハチによって捕獲される前に、ハムシの体内に、ハエが自分の幼虫を生みつけます。

ドロバチはハエ幼虫が寄生したそのハムシを捕獲し、巣の中に持ち帰ります。
ハムシ幼虫の中にいたハエ幼虫は、こうして巣の中に侵入できるとされます。

侵入したあと、ドロバチが集めたハムシをハエ幼虫は食べて成長していきます。

このように、ドロバチといった狩りバチでも、寄生バチや他の昆虫に工夫を凝らしたスタイルで寄生される場合があります。

今回のケースのように、ハエが巣に侵入することは、侵入されるドロバチにとってメリットはないといえるでしょう。
しかし、他の昆虫に寄生されることで、大きなメリットを受け取っている狩りバチもいるようです。

●ハチをまもるダニ
アドボシキタドロバチというドロバチがいます。
このドロバチのメスには、他のハチには見られない特徴があるのが知られています。

それは「アカリナリウム」と呼ばれる特徴です。
これはアドボシキタドロバチのメスの翅の付け根、また腹部にある大きな空洞のことをさします。

空洞の存在自体は、100年ほど前の論文でも報告されていました。
しかし、何のための空洞かは、わかっていなかったようです。

近年の調査によれば、この空洞にはダニの幼虫が隠れているのがわかりました。
1匹のハチにつき、平均150匹ほどのダニがいるようです。
このダニは、アドボシキタドロバチヤドリコナダニといいます。

ダニがハチに寄生するケースは他にもあるようですが、このハチに限っては、わざわざダニ専用の部屋ともいえる、このような空間が用意されています。

何か意味があると考えるのが自然ではないでしょうか。

●ドロバチにそなわるダニ専用の部屋
アドボシキタドロバチという、変わった特徴をもつハチにも、やはり寄生しようとする天敵がいます。
クロヒラタコバチというコバチです。
メリトビアともいわれます。
この体長1〜2ミリほどのコバチは、アドボシキタドロバチに寄生して、幼虫や蛹に卵を生みつけます。

寄生されたドロバチは、ただ死ぬしか道はないようです。

しかし、ダニが一緒にいるアドボシキタドロバチについては、致死率が下がることが実験でわかったようです。
なぜ、ダニがいると致死率が下がるのでしょうか。

このコナダニという種類のダニは通常、平和主義者として知られています。
他の生き物を攻撃することは、知られていません。

ただし、このアドボシキタドロバチの中にいたダニ(アドボシキタドロバチヤドリコナダニ)に限っては、話が違うようです。
このダニは、自分に専用部屋を提供しているドロバチに寄生しようとするコバチを見つけると、口器を使って攻撃することが観察されました。
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図17.ハチの前蛹の上でメリトビアを攻撃するアトボシキタドロバチヤドリコナダニ。
クリックして拡大
アドボシキタドロバチのもつ空洞(アカリナリウム)にいたダニは、単に専用部屋を提供されているだけでなく、それにふさわしい働きをしていることがわかりました。



茅葺きや茎の中など狭く細い空洞の中で、狩りバチと、そのハチに寄生しようとするハチ、そのハチを退治して生息を確保しているダニという、それぞれの利害関係で成り立つ世界が垣間見れます。

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今回の内容は、牧野俊一・岡部貴美子「竹筒のなかの小宇宙」前藤薫『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』(2020年、一色出版)をもとに紹介しています。
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

『昆虫たちの不思議な性の世界』
(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

https://ws.formzu.net/dist/S93315378/

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