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視覚という感覚は人間にとって大きな役割持っています。
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一方で昆虫には視覚に頼らない生活を送るものが多くいます。
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彼らは、彼らにふさわしい器官を発達させ、生活をつづけてきたと言えるかもしれません。
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しかし、「視覚があれば、もっと繁栄できたのでは」と感じてしまう昆虫がいます。
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今回は、視覚に頼らない生活を送る昆虫、シロアリと彼らに擬態する微生物に触れていきます。
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シロアリと聞くと、人間に害をもたらす昆虫というイメージが強くないでしょうか。
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とくに、人間の住宅に大きな害をもたらし、その害の規模は、火災に匹敵するとも言われています。
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これほど大きな害を発生させるのならば、どれほど多くのシロアリ種が害をもたらしているのでしょうか。
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現在シロアリ目は3000種ほどが記載されています。
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そのうち、実際に害を与えるのは100種ほどのようです。
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その割合は3%ほどで、人間にとって害となる種はわずかなようです。
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多くの種は朽ちた植物などを分解し、共生微生物の協力を得たりしながら、そこからエネルギーを得ているとされます。
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人間に害を与えるもの与えないもの、いずれにしても、暗闇の中で視覚に頼らない生活をしているのは同じです。
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では一体、どのような方法で外界を把握しているのでしょうか。
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シロアリは視覚に頼らずとも、形・大きさを判別することはできるようです。
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また、対象の表面の質感、つまりざらざらしているか、ツルツルかということも判別するようです。
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さらにシロアリは、他にも独特の手段で対象を判別することが知られています。
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シロアリは仲間同士、また卵に自らの唾液などを塗りつけるという行動を習慣的に行います。
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グルーミングという行動で、他の動物でもよく見られます。
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シロアリのグルーミングでは、唾液を塗りつける際、リゾチームという物質が含まれます。
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これは病原性をもつ微生物から自分たちをまもる、抗菌作用のある物質です。
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しかも、この物質は抗菌性を持つだけでなく、眼を持たないシロアリが仲間同士を判別をする際に役立つことも知られています。
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そこで、ダミーとして、形・大きさ・表面の質感もシロアリの卵に似せたガラスビーズを用意しました。
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その卵にはグルーミングの際に含まれる物質、リゾチームを人為的に塗りつけてあります。
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偽の卵に対したシロアリワーカーは、ガラスビーズにもかかわらず、本物の卵と同様に育室に運搬し、世話を始めることが認められました。
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このように、暗闇で生活するシロアリは、化学物質など他の判別材料を使って生活しているようです。
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しかし、暗闇で暮らすがために、大きなデメリット、致命的とも言えるデメリットを被ってい流こともわかります。
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カビなどに代表される、糸状菌と呼ばれる微生物です。
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この微生物は、形状・大きさ・質感ともにシロアリの卵によく似た形状をとることができます。
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そのため、ワーカーたちは自分たちの卵として判別してしまい、グルーミングをします。
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グルーミングされた偽の卵は丁寧に世話をされ、本物の卵と一緒に卵塊の奥へと運搬されるようです。
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つまり糸状菌という微生物による擬態であり、卵に擬態している状態です。
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この擬態卵はターマイトボールと言われ、「世界で唯一の卵擬態する菌類」とされます。
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あるシロアリの育室では、半分ほどがこの擬態卵で占められることもあります。
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このような糸状菌による寄生は、ヤマトシロアリ属に普遍的に見られるようです。
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しかし、この擬態卵は人間が光のあるところで見ると、はっきりと偽物であることがわかります。
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というのも、本物の卵は透き通るような白色であるのに、偽の卵は茶褐色なのです。
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光のある場所で、視覚を持ち合わせていれば、簡単に判別できるでしょう。
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しかし、視覚で判別できないシロアリたちは、自分の卵と思いこみ、丁寧にグルーミングして、他の微生物から擬態卵をまもるという羽目になっています。
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擬態卵は発芽すると、本物の卵を死亡させることも観察されています。
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この微生物は、シロアリに世話をされ、他の微生物からまもってもらうだけでなく、シロアリがコロニーを新たに作るときには、生息域の分散にもあやかっています。
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対して、シロアリは世話をするというコストを払っているだけで、この微生物からは何もメリットを受け取ってないようです。
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完全にこの微生物によるシロアリへの寄生となっているとされます。
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松浦健二「昆虫と菌類の奇妙な関係」佐久間正幸など『昆虫科学が拓く未来』(京都大学出版会、2009)
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東城幸治「男の仕事・女の仕事」大場裕一『昆虫たちの不思議な性の世界』(一色出版、2018)
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