「神によって世界は設計された」。
これは伝統的なキリスト教的世界観を表す言葉とされます。
キリスト教の神は、万物を創造した存在と、長い間西欧社会では信仰されてきました。

ただ近世・近代になると、このような世界観に対し疑いを持つ人も増えてきたようです。
なかでも、1859年に出版された『種の起源』は、キリスト教的な世界観を相対化する、一つのインパクトになっているとされます。

その著者ダーウィンは、ある昆虫の行動をみて、神の存在に対する疑いを強く持ったとされます。
それは現在の私たちがみても同様に、おぞましく、残酷な印象を強く持つものです。

ダーウィンが神の存在を疑うまでに至った、おぞましい昆虫とは、どのようなものでしょうか。

おはようございます。
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●神の存在を疑わせる寄生バチの存在
ダーウィンに神の存在を疑わせた昆虫こそ、寄生バチでした。

ダーウィンは、毛虫の体内から体を食い破って出てくる寄生バチの幼虫をみて、
神の存在を疑ったとされます。
図4.アワヨトウ幼虫から脱出しているカリヤサムライコマユバチ3齢幼虫。
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図4.アワヨトウ幼虫から脱出しているカリヤサムライコマユバチ3齢幼虫。
「ガの幼虫を体内からむさぼり食べるヒメバチのような冷酷無情な生物を、
慈悲深い全能の神が創造されるはずがない」

このように感じるのは、ダーウィンだけではないでしょう。

では、このように冷酷無情と形容される寄生バチは、神による創造でなければ、
どのように誕生したのでしょうか。

●ハチの誕生
ハチ目が誕生したのは、2億8000万年前とされます。
これは遺伝子解析の結果から推定されています。

その頃、陸上には巨大な爬虫類などが生息していて、これがのちの恐竜になるとされます。
また植物の種類も、シダ植物だけでなく、イチョウやソテツなど、裸子植物も繁栄を始めた時期のようです。

このように陸上には豊かな生態系ができ始めたことが、ハチ目など昆虫たちの誕生の背景となったのかもしれません。

では一体、ハチたちの中でも、寄生バチはどのような出来事を経て、誕生したのでしょうか。

●寄生バチへの進化
ハチ目の誕生は2億8000万年前と上記しました。
そこから3000万年ほど経ってから、寄生バチが誕生したとされます。

それまでは、ハチは植物の茎などに卵を生みつけていました。
植物の中で生まれた幼虫は、その植物を食べて成長していたようです。

しかし、そのようなハチ幼虫には、生まれた植物体の中で、
他の昆虫の幼虫に、たまたま出くわすこともあったようです。

さらに、相手が蛹になる前の、動かない幼虫だった場合、
その幼虫にかじりついてしまうことがあったのでしょう。

かじりついた昆虫の幼虫の、その栄養分の豊富さは、植物を非常に上回るものだったようです。
そのため、成長する速度は、植物を栄養とするよりも、ずっと速くなったと考えられます。

やがて母バチは、植物内にひそむ幼虫をめがけて産卵管を差し込むようになったとされます。
このような経緯を経て、「寄生バチ」は誕生したとされます。

では、寄生バチは、他の昆虫に寄生しやすいように、
どのような体・機能を持つように進化していったのでしょうか。

●寄生バチの獲得した体
寄生バチに限らず、ハチたちはそれまでの他の昆虫にはみられない、新しい特徴を身につけたとされます。
一つは「くびれた腰」です。
多くの人は、ハチといえばこのような特徴の腰を思い浮かべるのではないでしょうか。

対して、原始的な昆虫は寸胴で幅広の腰を持つものでした。

では、原始的な昆虫と、くびれた腰を持ったハチでは、どのような違いがあるのでしょうか。

このことを理解しやすいように、では、下のようなことを想像して下さい。
自分が、くびれていない、寸胴の腰の人間ということを思い浮かべてみましょう。
体をひねったり、足元に落としたものを拾ったりするには窮屈(きゅうくつ)で、不便ではないでしょうか。

対して、くびれた腰を持った場合、自由に体を動かせるし、
特に胸部と独立して腰を動かせることが想像できないでしょうか。

それはハチたちも同様だったかもしれません。

ハチはくびれた腰に進化することで、
自在にさまざまな角度に腹部を動かすことができるようになったようです。

これによって、腹部の先にある産卵管を、自由な角度で刺すことが可能になりました。
このように動かしやすい腰を手に入れることによって、
エサとなる昆虫をピンポイントで狙って、産卵管を刺せるようになったとされます。

また、人間と違ってハチたちは、胸部と腰が独立することによって、
より巧みに飛翔することができるようになったとされます。

このように巧みな飛翔と、さまざまな角度に刺せる産卵管を手に入れることにより、
寄生バチはその生態を確立していったとされます。



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今回の内容は前藤薫「ハチの進化と誕生」『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』をもとにしています。
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

『昆虫たちの不思議な性の世界』
(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

https://ws.formzu.net/dist/S93315378/

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