ガやチョウの擬態には、さまざまな種類が知られています。
木の葉、樹木の皮、また岩に擬態するものもいるようです。

一目見ただけでは、背景や擬態相手との見分けがつかないこともあります。
中には、バラの茎などトゲの生えた茎に擬態して、「自分は食べられないもの」と標識しているガの幼虫もいます。

ところで、たしかに私たち人の目から見ると、擬態している幼虫は確かにトゲや鳥の糞、また木の葉に見えます。
しかし、実際の捕食者、天敵である鳥なども、トゲや鳥の糞、また木の葉としてきちんと見ているのでしょうか。

私たち人間はガの天敵とは言えないでしょう。
その人間から見てバラのトゲと識別されているだけでは、擬態という戦略が成功しているとは言えないかもしれません。

実際に彼ら昆虫を捕食する鳥などにとっても、トゲや鳥の糞として見られているのでしょうか。
この疑問には、二つのことが確認される必要があるようです。

一つには、鳥が昆虫を何かの存在として確認すること、です。
もう一つは、鳥がその存在を食べられるないものと認識すること、になります。

さて、本当に鳥は擬態した昆虫をバラのトゲや木の葉と認識しているのでしょうか。
鳥は「きちんと」だまされているのでしょうか?

おはようございます。
一色出版の岩井峰人です。
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●隠蔽擬態(いんぺいぎたい)と扮装擬態(ふんそうぎたい)
昆虫の擬態にはさまざまな種類が知られています。
それらの一つの分けたかに、隠蔽擬態(いんぺいぎたい)と扮装擬態(ふんそうぎたい)があります。

隠蔽擬態とは、「背景に溶け込む色(保護色)をまとって捕食者から姿を隠す戦略」と言われます。
例えば、樹皮にそっくりに化けるキシタバ(Catocala patala)やムクゲコノハ(Thyas juno)などはその類と言われます。

一方で、扮装擬態とは、捕食者にその存在を確認されているものの、エサと見られないもの、とされます。
例えば、「木の枝に擬態しているツマキシャチホコ、あるいは、Eudryas grataなどのように鳥の糞に擬態したものもいる」とされます。
ムクツマキシャチホコ
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扮装擬態するムクツマキシャチホコ
では、こういった擬態した昆虫は、鳥など捕食者はどのように確認しているのでしょうか。
その疑問のヒントは、捕食者が対象を「検出」しているのか、「認識」しているのか、という二つの方法があげられるようです。

●物体検出と物体認識
物体検出とは、「背景に溶け込んで隠れている昆虫を、捕食者がその存在を識別すること」とされます。
例えば、樹皮に擬態しているガを、鳥が識別(検出)するようなことです。

物体認識とは、昆虫の存在を識別し、「食べられるもの/食べられないもの、として物体を認識」することとされます。
例えば、アケビに擬態するアケビコノハ、枯葉に擬態するカレハガなどを「食べられないもの」として認識することがあげられます。

では鳥は擬態している昆虫を、検出そして認識できているのでしょうか。

●鳥は本当に昆虫にだまされているのか
この難問を解くために、2010年に英国ニューカッスル大学で擬態を研究しているジョン・スケルホーン(Skelhorn)らによって、ある実験がされました。

実験は、捕食者が過去に、バラのトゲを見たりつついたりした経験を持つニワトリと、その経験のないニワトリをまず用意することから始められました。

その後、それぞれのニワトリにトゲに擬態したガ幼虫を差し出したところ、

トゲの経験が「ある」ニワトリ・・・ガ幼虫への攻撃をためらう
トゲの経験が「ない」ニワトリ・・・ガ幼虫へためらわず攻撃

といった結果になったようです。

ここからわかるのは、ニワトリが確かにガ幼虫を物体検出しつつ、かつ物体認識もしていることです。
ニワトリは攻撃をためらってい流のは、ガ幼虫を食べられないものと認識している(物体認識)ことを示すためです。

ここから、このガ幼虫は、鳥に対して効果のある扮装擬態をしているとされています。
また「このスケルホーンらによる実験は、扮装擬態を証明した初めての研究例」とされています。
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今回の内容は現在制作中の、鈴木誉保「枯葉や木の枝に化けるチョウやガの擬態」『チョウとガの不思議な世界』をもとにしています。
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

『昆虫たちの不思議な性の世界』
(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

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