[subscriber:lastname | default:reader][subscriber:email]さん

2月に入り暖かくなってきて、いろいろな花が咲く時期になりました。
同時に、多くの昆虫も活動を始めるはずです。

花の色を見定めるための、昆虫の視覚は優れているのはよく知られています。
では、音を聞くこと、聴覚はどれほど優れているのでしょうか。

今回は昆虫の聴覚について、紹介したいと思います。

(今回の記事は『遺伝子から解き明かす脳の不思議な世界』「小型でハイスペックな昆虫の脳」上川内あづさ・石川由希、『昆虫たちの不思議な性の世界』「愛をささやく昆虫たちのことば」大場裕一、をもとにしています)

おはようございます。
一色出版の岩井峰人から配信しています。
(毎週月曜配信、年中無休)

昆虫の視覚受容器官、いわゆる目は、ほとんどの昆虫グループで同じ位置にあるようです。
しかし、聴覚器官、いわゆる耳は、グループごとにさまざまな箇所に位置していることが知られています。

バッタやコオロギでは脚、カマキリでは胸、セミは腹、そしてミツバチやカ、ハエでは触覚に耳を持っています。

なぜ、これほどまでさまざまな箇所に耳を持つようになったのでしょうか。
進化の過程において、どのように聴覚は獲得されたのでしょうか。

●昆虫の耳の位置がさまざまになった理由
「昆虫は少なくとも19回、独立に聴覚器官を獲得した」とされていて、ここまで多くの獲得回数が関係しているかもしれません。

ここまで多様な位置に耳をもつ昆虫たちですが、音を聞く仕組み自体もいろいろなタイプがあるのでしょうか。

●昆虫が音を聞く仕組みとは?
耳のある位置が多様なのとは反対に、仕組みは共通したものになっているようです。
その仕組みとは、
1)鼓膜の振動をキャッチし、中枢神経に情報を伝える
2)関節の「たわみ」をキャッチし、中枢神経に情報を伝える
というように、大まかに上記の2タイプの方法によって、聞くという活動が成り立っているとされます。

人間と同様に、バッタやコオロギやセミは、音を聞くための鼓膜を持ちます。
したがって、1)のタイプになるようです。

しかし、ショウジョウバエなど一部の昆虫は鼓膜器官を持ちません。
これらの昆虫は2)の方法で音を知覚しているようです。

しかし、鼓膜の振動は想像できますが、「たわみ」をキャッチするとは、どのような仕組みでしょうか。

●鼓膜を持たない昆虫は、どのように音を聞くのか?
そもそも「たわみ」とは、なんでしょうか。
例えば、弓で矢を射る際、引っ張るためにできる、弦(つる)の変形とされます。
弦が伸びたように見えることですね。

このように、音を聞くための器官内でできるたわみを利用して、音を検出しているとされます。
音刺激によって触覚内の一部が振動し、それを受けて別の器官が引っ張られて「たわみ」を発生します。

このたわみの発生する器官はジョンストン器官と呼ばれます。

音を検出する、つまり音を聞く時に、重要な役割を担う器官として近年、明らかにされてきました。

このジョンストン器官において発生するたわみを感覚ニューロンが検出して、中枢神経に伝えられるとされます。
なお、このジョンストン器官は多くの昆虫が持っていて、触角の第二節に位置するとされます。
Johnston's organ
クリックして拡大
図12.ショウジョウバエの「耳」から脳への神経投射。
A:脳の中にある情報伝達先。
B:情報伝達先の拡大図。「耳」の中にある、音刺激を伝える聴覚ニューロンは、それぞれ周波数(音の高さ)特性の異なる3種類の小集団ごとに、脳の特定領域に情報を送っている(図中、赤色、緑色、オレンジ色の領域)。重力や風向きを検出する2種類の機械感覚ニューロンは、音情報が伝達される領域とは別の領域に、それぞれ情報を送る(水色、青色の領域)。
いわば、ショウジョウバエはジョンストン器官を耳として使っています。

●求婚相手のメッセージを聞き逃さないために
ジョンストン器官は、音刺激を大幅に増幅できることも知られています。
その増幅の大きさは、ショウジョウバでは10倍にも達することが報告されています。

なぜ、これほどまで大幅に増幅させる必要があるのでしょうか。

昆虫の中には、オス・メス間のコミュニケーションに、鳴き声を利用しているものがいますね。
代表的なものはコオロギやキリギリスなど直翅目であり、セミなども知られています。

これらの昆虫のオスはメスに向け、求愛ソングとして鳴いていることが知られています。

この時、オスの鳴き声をメスは、慎重に聞き分ける必要があります。
というのは、まず同じ種のオスであるかを確認しなくてはいけません。
それだけでなく、生殖相手とふさわしいか、判断材料に利用しています。
実験によって、メスがより好む鳴き方のあることがわかっているようです。

このように、生殖活動において鳴き声は貴重な判断材料になります。
この声を聞き逃さないためにも、増幅する必要があるのかもしれません。

ところでジョンストン器官には、音を聞く以外に、もうひとつ大事な役割があるようです。
それは人間でも同じことが当てはまるとされます。

●ジョンストン器官のもう一つの大事な役割
ジョンストン器官には、およそ480のニューロン(ジョンストンニューロン)があるとされます。
これらは大まかに5つ細胞グループに分類されています(A〜E)。

5つのうち、2つは音ではなく、傾きに応答するとされます。
つまり、風や重力の検知に役立っていることがわかっています。

人間の耳が聞くことだけでなく、バランス感覚を担うのと同じように、ハエの耳もまた、二つの役割を担っています。

===========================================
『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

『昆虫たちの不思議な性の世界』
(大場裕一編/300ページ/3800円+税)
https://ws.formzu.net/dist/S93315378/

今日のメルマガはいかがでしたか?
ほんの一言、率直なご感想をこのメールに
返信いただけましたら次回からの執筆に反映させていただきます。
(メルマガは毎週月曜にお届けしています)

*********
メールマガジンの解除は下の「購読中止」をクリックください
*********
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
株式会社 一色出版 Isshiki publishing
岩井峰人Iwai Minehito
〒112-0001 東京都文京区白山2-2-6 -402
TEL 03-6801-6905/FAX 03-6801-6915
https://www.isshikipub.co.jp/
https://twitter.com/isshiki_shuppan