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他の生き物のすみかに居候して暮らす生き物は、たくさん知られているでしょう。
中でも、鳥はさまざまな形の巣を作るせいか、色々な生き物が利用しています。

鳥の巣を利用する生き物のなかには、昆虫も含まれています。
チョウ目、なかでもガは、鳥の巣を利用することが知られています。

しかし、昆虫の捕食者、天敵といえば鳥を思い浮かべないでしょうか。
鳥に対して、あるチョウたちは、擬態して隠れ捕食されないようにする種類がいるのはご存知かと思います。

しかし、そんな天敵である鳥が作った巣に、あえて居候するチョウ目がいるようです。

今回は、そのような、あえて鳥の巣という危険な場所にすむチョウ目を紹介します。

(今回の記事は『チョウとガの不思議な世界』那須義次「鳥の巣をすみかとする鱗翅類」をもとにしています)

おはようございます。
一色出版の岩井峰人です。
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・どれほどの種数がいるのか?
さて、鳥の巣に居候するチョウ目ですが、一体どれほどいるのでしょうか。
国内のものに限っては、以下のように報告されています(2016年時点)。

「フクロウをはじめ13科20種の鳥の巣を調査し、新たに7科32種の鱗翅類の発生を確認した」

この調査までは「5種の鱗翅類が記録されただけ」とあるので、37種が見つかっているようです。

もちろん、チョウ目全体から見ればわずかな種数にすぎません。
しかし、それだけに、あえて鳥の巣で暮らすこれらの種の暮らし方が気になります。

なぜ、彼らはあえて、天敵とも言える鳥の巣に居候するのでしょうか。

・エサとしての利用
巣の中には、巣材である枯れ草など、それにヒナから抜け落ちた羽鞘屑といったケラチン、餌の食べ残しなどがあります。

多くの昆虫は、ケラチンといった強固なタンパク質は利用しないものです。
しかし、ヒロズコガ科の多くは、ケラチン分解菌の助けを借りて分解していると推測されています。

那須・図7 マエモンクロヒロズコガ幼虫とケース
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図7 マエモンクロヒロズコガの幼虫。幼虫は、生息環境に隙間が多い場合、移動用ケースを造り、中に潜みながらケースごと移動する。隙間が少ない場合は移動用のケースは造らない。
ヒロズコガ科の中でもコイガにおいては、多種類のタンパク質分解酵素を持つとされます。
この分解酵素と、消化管内を特殊な状態に保つことによって、ケラチンを消化分解し、摂食して、栄養源として利用しています。

またメイガ科は、「巣材の枯葉や糞に含まれる未消化の穀類や餌の食べ残しなどの植物質を食べている」とされます。

それだけではありません。
鳥の巣にはエサの食べ残しがあったり、親鳥やヒナが未消化物として吐き戻したペリットが散乱したりしています。
(ペリット:消化されずに口から吐き出されたもの)

さらに、幼鳥の糞も巣内にたまり、放っておけば巣内は徐々に汚れていってしまいます。

ヒロズコガ科の幼虫は、巣内に山積になっている羽毛や獣毛などのケラチンや糞、ペリットなどの動物質を摂食してもいます。

このような栄養源の豊富な環境のせいか、一巣から300個体以上のマエモンクロヒロズコガが発生した記録があるようです。

・蛹化場所としての利用

鳥の巣の利用は、摂食場所としてだけではありません。
ガたちは、他の利用方法も見つけたようです。

その一つが、蛹になる場所とした利用です。

例えば、シジュウカラとヤマガラの巣箱から、ドクガ科のオオヤママイマイ(Lymantria lucescens)の幼虫脱皮殻と蛹殻が多数発見されました。

蛹の抜け殻は捕食等により破壊されていなかったことから、終齢幼虫が蛹化場所として積極的に利用したと推察されています。

蛹になるのに利用したのは、もちろん雨風が防げますし、そのため越冬などにも利用されるようです。

・巣の中での共生
これまでみたように、ガの幼虫たちは、巣の中のいろいろな物を分解し、摂食しています。
これによって、巣の中はきれいにされ、鳥たちにとってのメリットを提供しています。

お互いにメリットを提供していて、共生できているのがわかります。

しかし、鳥の巣を利用して繁殖するのは、チョウ目だけにとどまりません。

コウチュウ目のアカマダラハナムグリは、能動的に巣に飛来し、利用していることが知られています。

1つの巣から、300個体近くも見つかった事例もあるようです。

一見、捕食者である鳥との共生は不可解に思えます。
しかし、巣内で「腐食連鎖」とも呼ばれる生態系が成り立血、共生関係の成り立っていることがわかります。
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

『昆虫たちの不思議な性の世界』
(大場裕一編/300ページ/3800円+税)
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