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最近はほぼお酒を飲まなくなり、
もっぱらノンアルビールをたしなむようになりました。

というのも、飲み始めると、つい深酒になりがちであり、
また酔うと仕事はできないし、足がもつれ、
思わぬ怪我をしてしまったこともありました。
(気がつくと頭から流血)

昆虫が酔っ払うことはないでしょうが、
脳に神経毒を注入され、
相手の意のままに操作されることがあるようです。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人から、
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1 ブランコサムライコマユバチ

自分の意思とは別に、勝手に体が動き、他者に都合よく操作される現象があります。

「皆さんなら、一世一元のイベントに妨害者がやってくる恐れがある場合、
どうされるだろうか。
ボディガードを雇うのも一案だろう」
という言葉から紹介されるのは、ブランコサムライコマユバチ。
(『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』第1章より)

このハチは、寄生相手であるマイマイガの幼虫から脱出した後、
一昼夜をかけて繭を作ります。
ブランコサムライコマユバチ
図13.ブランコサムライコマユバチ(Glyptapanteles liparidis)の集合繭とマイマイガの幼虫。寄主のマイマイガ幼虫はコマユバチが脱出したあとも繭の近くに留まって捕食者をふり払う。

その間、誰かに守ってもらわないと、
安全に繭を作ることができません。

そのボディガード役を、寄生相手の幼虫にやってもらうという作戦です。

少し前まで、その体内を食していたにもかかわらず、
さらに自分の都合で一定期間、生きていてもらい、
天敵が近づいてきたら追い払ってもらいます。

マイマイガ幼虫にしてみれば、
訳も分からずに操作されていて、
人間の私が聞いていると、相当に非人道的なやり口に
心が痛みます。

また、テントウハラボソコマユバチも
寄生相手であるテントウムシを操作します。

子どもたちにも人気のナナホシテントウも、
このコマユバチに操作され、
繭を守ることに利用されます。

神経系に感染するRNAウィルスの関与が原因とされます。

ウィルスに困っているのは、人間だけではないようですね。



2 クモヒメバチ

寄生相手を操作するメリットは、
相手が自分より強く、
天敵から守ってくれることが挙げられます。

それが昆虫以外でも、
守ってくれるのであれば、
なんとか意のままにしようとするようです。

クモは一般にどう猛な生き物と知られ、
蛇などとともに、日本の昔話でも
悪役、魔性の生き物と紹介もされます。

このようなクモを操ろうとする勇敢なハチ。
それがクモヒメバチ 。

このハチはクモに飼い殺し寄生し、
幼虫はクモの体表で成長します。
parasiticwasp05-07
図7.ニホンヒメグモに飛びかかろうとするキマダラクモヒメバチ(Zatypota maculata)の雌成虫。

やがて繭を作って蛹になりますが、
安全に繭を作る場所が必要になります。

「木や葉ではアリなど天敵に襲われやすい。
では網の上ではどうだろう。」

こうクモヒメバチ が考えたかはわかりませんが、
網の上に繭を作る作戦をとるようになります。

とは言っても、そもそも網は壊れやすく、
クモが死んでしまうと
メンテナンスするものもいなくなり、
ますます安全性が低下します。

これを打開するのに、
ハチはクモ操作という手法を行います。

「幼虫が終齢脱皮する頃、寄主クモの行動が大きく変化し、
通常とは異なる構造の網が、
わずか一晩のうちに出来上がる」
(第5章 クモヒメバチ、より)

これは操作網、cocoon webと呼ばれ、
もうすぐ死ぬ運命にあるクモが
一心不乱に作ります。

なお、実験的にハチの幼虫をクモから引き剥がすと
次第にクモ操作の効果が薄れていくので、
濃度が高いほど効果を発揮する原因物質が
幼虫によって注入されることが指摘されています。

3 カリヤサムライコマユバチ

まずはこちらの写真をご覧ください。
parasiticwasp06-03
図3.アワヨトウに産卵しているカリヤサムライコマユバチ。

カリヤサムライコマユバチの成虫がアワヨトウ幼虫に
卵を産み付けているシーンです。
この10日ほど後、
この幼虫は以下のような状態になります。
parasiticwasp06-04
図4.アワヨトウ幼虫から脱出しているカリヤサムライコマユバチ3齢幼虫。

100頭ほどの3齢幼虫が、
一斉に体を食い破って脱出してきます。

このシーンも迫力ありますが、
不思議なのは、
1 脱出してくる間、アワヨトウ幼虫はじっとしている
2 脱出の後、アワヨトウ幼虫は数十センチだけ前進する
といったことです。

1の、「じっとしている」には物理的な束縛が答えになります。

人間でも、相手を動かなくさせるときは、
体にロープなどを巻いて相手を制します。

しかしカリヤサムライコマユバチは、
内側に糸を吐き、
これによって体を縛り制しています。

建物の建築の際に、梁に角材を渡し、
建物を強固にする仕組みに似ているかもしれません。

さらに、カリヤサムライコマユバチ幼虫は
脱出の際に吐いた糸を足場にして、
体表を食い破りますが、

これも工事の人が、
電気配線を準備したり、
壁を貼る際に足場にするのに
似ているかもしれません。

2の疑問ですが、
これは酵素の分解と関係があります。

糸を張られて動けないアワヨトウ幼虫ですが、
カリヤサムライコマユバチ幼虫が脱出する際に
その糸を分解する酵素(トリプシン)を吐き出します。

脱出の終わる頃に酵素の効果が現れて、
自由になったアワヨトウ幼虫が前進するという事情になります。
parasiticwasp06-07
図7.カリヤサムライコマユバチ幼虫が脱出した後、前進するアワヨトウ幼虫。
Harvey et. al., 2008.より抜粋。

ただし、すでに体内を食い破られたアワヨトウ幼虫は、
すぐにご臨終となりますが。。。



さて、今日からお盆明けですね。
職場復帰のかたも多いかと思います。

コロナと猛暑、そして店舗の時短営業、買い控えムード、、、
厳しい後半戦がスタートした印象ですが、
リフレッシュできたつもりでのぞみましょう。

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