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現在、一色出版では『ヒトゲノム事典』という事典を進行中です。

もちろんヒトがメインの事典ですが、
その中にも昆虫の話題が出てきます。

ヒトゲノムの文脈でどのように記述されているのか、
今回はその紹介をしてみます。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人から、
メルマガをお届けしています(年中無休、毎週月曜の更新)。



●項目名「3.2: 性染色体」
性染色体に関する項目では、ホシカメムシが登場します。

「1891年、ヘンキングにより、
ホシカメムシの精巣からX染色体が発見された。
この時は、なんだかよくわからないもの
(減数第一分裂で相同染色体と対合していない染色質体)
として『X』という名が付けられ、
性別との関係はわかっていなかった。」
IMG_1076
その10年後、1901年、
キリギリスの仲間であるササキリから
「付属染色体」が発見されました。

これがヘンキングがすでに発見していた「X」。

ササキリのオスの精子には、
このXを持つもの、持たないものが同時に発見されました。

そこで、この「Xのあるなしで性別が決まるのでは?」
という仮説が、この時、提唱されました。

ちなみにササキリは、「XO型」の性決定スタイルに
なるようです。

さらにその4年後の1905年、
「アメリカ人女性研究者スティーブンは、
オスのみが持つ小さな染色体を
昆虫(コメノゴミムシダマシ等)から発見した。」

彼女はその染色体を「Y」と名付け、
オスという性になるのに、
決定的な意味を持つ染色体としました。

X・Yの発見があって、
ヒトをはじめ、多くの動物においても、
性決定に大きな意味を持つことが
明らかにされていったとされます。



●項目名「18.1 視覚にかかわるオプシン遺伝子群」
この項目では、脊椎動物、特に霊長類の視覚、色覚の進化について、
解説されています。

色覚は光の波長の違いによって、様々な光、色を識別する感覚とされます。
脊椎動物は3種類の波長の違いを感覚できるとされ、
そのため、「3色型の色覚」と呼ばれます。

この3色型の他に、2色型や4色型も存在しますが、
どうして、この3色型に霊長類は進化したのでしょうか。

「3色型色覚は森林において
背景となる成熟葉から赤−緑色相が異なるものを
「何でも」検出するのに進化した」
とされます。

どういうことでしょうか。

赤−緑色相とは、果実(赤)と若葉(緑)の色相を指したものです。

この果実と若葉は、霊長類が好んで食べる資源となってきたため、
この2つの色相を特に識別できるように進化してきたという説です。

これは「森林説」と呼ばれ、
なぜ3色型色覚が進化してきたかの、
有力な説とされています。

しかし一方で、霊長類でも3色型より、
2色型が有利なケースがあるとされます。

例えば、周囲の環境と
同じような色の生き物を識別する時です。

これは皆さんも、
太古の霊長類になったつもりで想像すればわかるかもしれません。

もし、見通しの悪いヤブのなかを進まないといけない時、
そこに潜み、危険な存在であるヘビを見つけたり、
または大事なタンパク源となる昆虫を見つける時ですね。

周囲の色と類似の色を持つヘビや昆虫を見分けるのには、
2色型の方が有利と言えるようです。

実際に、そのような研究もされています。

「野生オマキザルの昆虫採食の調査においても、
周囲の色にブレンドした昆虫の採食効率は
2色型の方が3色型よりも有意に高いことが報告されている」

もしヒトが2色型であったら、
もっと昆虫採集もしやすくなっていたでしょう。



●項目名「8.1:トランスポゾン」
ヒトゲノムの多くの割合を占めるトランスポゾン。

かつては「似た配列が大量に存在するリピート配列であり
『がらくた(junk)DNA』と呼ばれていた」
とされます。

しかし、現在では遺伝子の働きに関わるなど、
大きな役割を持っていることがわかっています。

このトランスポゾンという配列は、
種に特有の構造を持つ場合があります。
そのため、進化系統の研究によく使用されます。

クジラとカバが近縁であることが解明されたのも、
トランスポゾン研究の結果によるところが大きいとされます。

もちろん昆虫にも固有のトランスポゾンがあるので、
種の特定に役立つとされています。



●項目名「10.5 アスコルビン酸合成に関与する酵素の偽遺伝子」
聞いたことのない名称が出てきました。

アスコルビン酸とは、「有機栄養素ビタミンC」とされます。

そう言われても、
まだよくわからないかもしれませんが、
主要な機能は抗酸化作用にあるとされていて、
食品の酸化防止剤にも使用されています。

このアスコルビン酸ですが、
2つの型に分類され、
GULO型、GLDH型に別れます。

進化の過程では、GULO型のみが、
その機能を失ってしまうことがあったとされます。

ショウジョウバエなどの植物食昆虫では、
この型を作る遺伝子の完全な欠失があったとされています。



●項目名「18.6 温覚にかかわる遺伝子」

温度に対する感覚は、
「熱い・冷たい」などの物理刺激が末梢神経で電気信号に変換され、
その信号が脊髄を経由して脳に伝わることによって生じるとされます。

この時、「TRPチャネル」という器官が
信号の伝達に役立っています。

このTRPチャネルは、ヒトやマウスなど、
多くの脊椎動物で同じものが使われています。

一方、昆虫も種類は大きく異なるものの、
同様に温度感受性TRPチャネル保有しています。

つまり、脊椎動物と無脊椎動物が分かれる前の
祖先にまで、
起源をさかのぼることができます。

TRPの一つのタイプ、TRPA1も
ヒトや昆虫で共有されています。

このTRPA1はヒトやマウスでは
低温で活性化しますが、
昆虫では高温で活性化します。

動物種によって温度感受性が
相当に異なっているとされます。

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