寄生バチ・狩りバチの最大の武器といえば、
すぐに思いつくのは「針」でしょう。

しかし、寄生バチ・狩りバチには、それと同等、
さらにはより重要な器官があるようです。

「大アゴ」の重要性は専門家であれば当然、理解しています。
しかし、一般にはそれほど認知されてないかもしれません。

今回はその大アゴの注目すべき働き、
バリエーションを紹介したいと思います。

(今回の内容は『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』[前藤薫編著、2020年]をもとにしています)



おはようございます。
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大アゴの働き1 トビコバチの兵隊幼虫による撃退


ヤガに寄生するキンウワバトビコバチという寄生バチグループがいます。
図1.寄主卵に産卵中のキンウワバトビコバチ。
図1.寄主卵に産卵中のキンウワバトビコバチ。

このトビコバチの幼虫には、
通常の形態をしたものの他に、
奇異な形態をもつ幼虫がいることは
古くから知られていました。

その幼虫は「奇形の幼虫(teratoid larva)」と呼ばれ
出来損ないと考えられていたようです。

ただ、1981年に発表された論文で、
その奇形の幼虫が、侵入してきた寄生バチ幼虫を攻撃する
「兵隊幼虫」であることが示されました。

トビコバチが寄生したヤガ幼虫には、
その後から寄生してくる寄生バチ幼虫もいます。
先に寄生していたトビコバチ幼虫は、
自身のエサである寄主と自分自身を守るために、
後から寄生してきた他の種の寄生バチ幼虫を
攻撃する必要があります。

そこで武器となるのが、大アゴ。

多くの寄生バチ幼虫では、
自ら大アゴで相手に噛み付いて撃退します。

しかし、このトビコバチ幼虫は、
別の戦略をとります。

通常の幼虫とは別に、
攻撃のスペシャリストである兵隊幼虫が、
仲間の幼虫を守ります。

この兵隊幼虫は他の寄生バチ幼虫に対して、
圧倒的な強さをもつために、
噛み付くとすぐに相手は死んでしまいます。

その戦闘能力はメスの方がより高くなっていて、
逆にオスの兵隊幼虫の中には、
全く戦闘能力のないものもいるようです。
のイメージ...
図8.培養条件下でコマユバチの一種(Glyptapanteles pallipes)の幼虫を攻撃するトビコバチの兵隊幼虫。

大アゴの働き2 カリヤサムライコマユバチ幼虫による脱出


寄生バチであるカリヤサムライコマユバチは、
ヤガ科であるアワヨトウの幼虫の、その体内に寄生します。
のイメージ...
図3.アワヨトウに産卵しているカリヤサムライコマユバチ。

幼虫の体内に寄生することは、
豊富なエサに恵まれていること、
また乾燥を逃れられ、さらに天敵の攻撃を受けにくいという
メリットがあります。

ただし、成長して体内から脱出するときには、
自身を守ってくれていたその幼虫の皮膚を切り裂かなくてはなりません。

そこで役立つのが大アゴになります。

しかし、アワヨトウ幼虫の体内では、足場のない水中で浮遊した状態のため、
皮膚を切り裂くにも自身を固定できずに困難がともないます。

そこで事前に、アワヨトウ幼虫の体内に縦横無尽に走るように、
糸を吐き出しておき、その糸を足場にして切り裂きを行います。

寄生相手の体のサイズにもよりますが、
カリヤサムライコマユバチ幼虫は一度に100匹近くが寄生します。
図4.アワヨトウ幼虫から脱出しているカリヤサムライコマユバチ3齢幼虫。
図4.アワヨトウ幼虫から脱出しているカリヤサムライコマユバチ3齢幼虫。

その100匹近いカリヤサムライコマユバチ幼虫が、
寄生相手の体液を一斉に飲み、
アワヨトウ幼虫の体積を小さくしてから、この糸を吐き出して、
大アゴで皮膚を切り裂くための
確固たる足場を築いているようです。

大アゴの働き3 泥壁を破るメリトビアの大アゴ


クロヒラタコバチ類に、「メリトビア」と呼ばれる寄生バチがいます。

寄生相手はアトボシキタドロバチ。
草の髄部に穴をあけ、営巣するハチです。
図14.アメリカフヨウの髄に営巣中のアトボシキタドロバチ。
図14.アメリカフヨウの髄に営巣中のアトボシキタドロバチ。

営巣の際に泥壁を作りますが、
その強固な泥壁は、天敵の侵入を防御します。

なんとかして寄生を試みるメリトビアですが、
役立つのが強力な大アゴ。

泥壁を破って侵入することができます。

ただ話には続きがあり、
侵入を許したアトボシキタドロバチですが、
このハチはダニと共生していて、
そのダニが侵入してきたメリトビアを攻撃するようです。
「つまり用心棒だった」とも言われる由縁です。
図17.ハチの前蛹の上でメリトビアを攻撃するアトボシキタドロバチヤドリコナダニ。
図17.ハチの前蛹の上でメリトビアを攻撃するアトボシキタドロバチヤドリコナダニ。

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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)
https://ws.formzu.net/dist/S93315378/

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===編集ちゅう===
・「ヒトゲノム事典」
第15回目の編集会議をzoomにて行いました。
日本人類遺伝学会が2020年11月18-21日に名古屋で開催するので、
それを完成の目標にした進行方針に。

・「チョウとガの不思議な世界」
編者とやりとりして、相互査読に入るよう推進中。
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