自宅の前の家には、庭に栗の木が生えています。

すでに実が大きくなり始め、秋には赤茶色の、
例年のように太った栗ができるでしょうか。

実りの秋には様々な木から実がなり、
やがて地面に落下します。

栗やどんぐりなど、多くの木の実は、
着果すると地面に落下します。

ただ中には落下せずに、枝に残ったままのものもあるようです。

その正体は、実のように見えて、
虫が作った「虫こぶ」という膨らみである場合があります。

中でも、寄生バチが作った、虫こぶである場合が多いようです。

虫こぶの内側は、乾燥から身を守ることができ、
また他の昆虫や動物からも身を隠せるシェルターと言えるでしょう。

このシェルターをめぐるハチたちの攻防を、
今回は触れたいと思います。

(今回の内容は『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
[前藤薫編著、2020年]、をもとにしています)



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1 虫こぶを作る生き物

「虫こぶを作る代表的な昆虫こそ、寄生バチ・タマバチだ」
(「第3章 虫こぶをつくる寄生バチ」井手竜也より)

虫こぶを作る昆虫や他の生き物は、いくつかが知られています。

しかし、寄生バチの一種、タマバチこそ最も特徴的で、
豊富なバリエーションの虫こぶを作っていると言えるかもしれません。

タマバチは、「かじる・突き刺すといった物理的な刺激」や、
「唾液などによる化学的な刺激」によって、
植物の成長を巧妙に操るとされます。
スクリーンショット 2020-08-03 5.48.37
クヌギの芽に産卵するタマバチ。産卵管を差し込んで卵を産み付ける。(p.63、図3より)

タマバチはこの虫こぶの内側に卵を産みます。

そこで生まれた幼虫は、
栄養価の高い植物体の内部を餌にして、
成長していきます。

乾燥や外敵に守られながら大きくなると、
食べたのちの空洞を利用して蛹になります。

そして成虫になると、大アゴによって穴を開けて脱出し、
外へと飛び立つことになります。

大アゴは非常に長い産卵管とともに、
寄生バチの獲得した強力な道具とされます。
(「第1章 ハチの誕生と進化」より)

2 虫こぶのバリエーション

タマバチの作る虫こぶは、
豊富なバリエーションがあることが知られています。

新緑の葉のようなものから、
人工物のように整形されたものまで、
さらに毛のはえたものまであります。
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図4 タマバチが作り出すさまざま虫こぶ。左上:ナラハスジトガリタマフシ、右上:ナラハウラサカズキタマフシ、左下:カシエダフクレズイフシ、右下ナラハナケタマフシ。(p.64、図4より)

バリエーションの豊富さは外見だけでなく、
その中身にも当てはまります。

厚く硬い壁、スポンジのように柔らかいもの、
内部が空洞であったり、柱状のものなど。

なぜ、これほどまでに複雑さをもち、
バリエーションを発展させているのでしょうか。

この疑問に正確に答えることは、現段階ではできないようですが、
一つの考えには、寄生バチによる攻撃から守るためとされています。

自身、寄生バチであるタマバチが、
同じ寄生バチから身を守るために、
虫こぶの形を複雑に進化させてきたとされます。

また、異なる手段を使って、
他の寄生バチから身を守る場合が見られます。

3 虫こぶとアリとの共生

アブラムシが甘露(かんろ)という物質を利用した
アリとの共生は有名かと思います。

タマバチの作る虫こぶの中にも甘露に似た液体を分泌し、
アリを集めていることが知られています。

例えば、日本に生息するハコネナラタマバチAndricus hakonensisもその一種です。

アリが虫こぶに集まっているときは、
他の寄生バチに攻撃されることは稀です。
スクリーンショット 2020-08-03 5.54.48
ナラエダムレタマフシ。甘露状の液体にアリが集まる。(p.69、動画02より)
https://youtu.be/QTcDq46SkDk

しかしアリが離れると、虫こぶへの攻撃が激しくなるとされます。

ところで、甘露に似たというこの甘い物質は、
どのように産出されるのでしょうか。

アブラムシの場合、自らが糖を排出物として出しているようです。

一方タマバチの場合、虫こぶの中の幼虫が甘い液体を出しているわけでなく、
植物を使って間接的に出しているとされます。

植物の中には「花外蜜腺(かがいみつせん)」といって、
花以外から蜜を出すものが知られています。

しかし、このタマバチの寄生する木であるコナラなどでは、
そのような器官は持っていません。

タマバチが何らかの刺激を植物組織に与えて、
甘い液体を出しているとされます。

3 虫こぶをめぐる戦い

先ほどから、同じ寄生バチからも攻撃されると述べてきましたが、
さらに、より身近である、同じタマバチ科のタマバチに寄生される
場合があるようです。

このように、他のタマバチの虫こぶに寄生する
一つのタマバチのグループは、
「イソウロウタマバチ」と呼ばれます。

居候というと、単に宿主の同居人のような印象ですが、
単に同居するだけでなく、
宿主の餌と空間を奪い、
結果的には宿主の命を奪うことになるようです。
のイメージ...
図10 同じ種類の虫こぶから出てきたイソウロウタマバチ族(左)とナラタマバチ族(右)のタマバチ。よく似ているが、後体節(腹部)の特徴などで見分けることができる。(p.71、図10より)

このような迷惑な同居人がいたら、
人間社会であれば、
たちまちに取締りにあうでしょう。

しかし、タマバチの世界では取締り規制がゆるいのか、
タマバチ1400種のうち、
200種がイソウロウタマバチとされます。

タマバチの世界の過酷さの一端が垣間見れないでしょうか。



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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)
https://ws.formzu.net/dist/S93315378/

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===編集ちゅう===
・「ヒトゲノム事典」
編集委員による原稿査読の進行中。

・「チョウとガの不思議な世界」
編者とやりとりして、相互査読に入るよう推進中。
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