筋肉を大きくすることを仕事としている人がいます。

プロのボディビルダーを見ると、大きな胸、腕、太ももに目を見張ります。

昆虫の世界にもボディビルダーがいないでしょうか。

体の一部を極端にマッチョにした昆虫がいました。

その名はアギトアリ(Odontomachus monticola)。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人から配信しています。
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日本では屋久島、種子島など、海外では中国、台湾、ミャンマー、インドでみられるようです。

このアリ、どこかの筋肉が異常に大きくなっています。

それは頭部の筋肉。

いくらボディビルダーでも、頭を大きくする人はいないでしょう。

このアリは、どうして頭を大きくさせているのでしょうか。

ヒントは「アギト」という名に関係あるようです。

アギトとは、ラテン語に由来するアゴの別称。

その名の通り、素早く噛み付くための筋肉を、頭にぎっしり詰めこんでいるためです。

このアリは頭部に大きな筋肉を発達させています。

この筋肉を使い、急速にアゴを閉じることができるといいます。

アゴを閉じる速さは、動物界ナンバーワン!

ではなぜ、そこまで素早く閉じる必要があるのでしょうか。

一つには捕食のため。

秒速64メートルに達する速度で他の昆虫を捕えます。

ゾウムシの硬い体も、動物界ナンバーワンのアゴで突き破ります。

アゴを急速に閉じる能力は、他の用途にも役立ちます。

他の用途とは、敵からの逃走です。

なかでもアリの天敵とされるアリジゴクからの逃走で発揮します。

アリジゴクの巣は、絶妙な傾斜角によってアリを地獄の穴に引きずり込みます。

この地獄の穴の傾斜角は無計画に作られたものではないようです。

アリジゴクの巣穴の作業工程を少し覗いてみます。

まずはアゴを篩(ふるい)がわりに、砂粒の大きさを選別します。

巣穴に必要なのは小さな砂粒。

大きすぎると獲物が滑落しにくくなります。

そのため、崩れやすいよう小さなものを選んでいきます。

選んだだけでは終わらず、大きく不要な砂粒は避けて、小さなものだけを巣穴に敷き詰めたいところです。

このときアリジゴクは大きさに応じて砂粒を放り投げます。

大きな砂粒は45度の角度で遠くに、小さな粒は60度に投げ、近くに落下するようにします。

結果、巣穴の中心は小さく細かな砂粒が集まり、獲物が滑って逃げにくい仕組みが完成です。

さらに、アリジゴクにはもう一工夫あるようです。

巣穴の傾斜は砂が崩れるか崩れないか、ギリギリの角度、安息角でつくれらます。

何もなければ砂が崩れることはありません。

しかしここに獲物が落ちると砂が崩れだし、中心で待ち構えるアリジゴクの元に滑ってくるという作戦です。

なおかつ逃げようとする獲物には下から砂をかけて、滑落させます。

捕獲のために何重にも仕掛けをほどこされたこのトラップに対し、アギトアリはどのように対抗するのでしょう。

アギトアリがとった脱出方法はジャンプでした。

大きく左右に開かれたアゴを急速に閉じ、地面を叩くようにして脱出する。

アギトアリは動物界ナンバーワンの道具を脱出用具としても利用しています。

一方でようやく獲物がトラップにかかったと喜んでいたアリジゴクは、どんなにがっかりするでしょう。

ただし、アギトアリもすぐに脱出できるわけではありません。

なかなか思った方向にジャンプできないので、幾度も試みる必要はあります。

そのうち、運悪く穴の中心に落下することもあるかもしれません。

イリノイ大学の研究チームの報告では、調査した117回のうち、脱出ジャンプの成功率は14.5パーセント。

動物界ナンバーワンのアゴも、まだまだ改良の必要性があるのかもしれません。

まとめますと、
・アギトアリは動物界最速の動作ができる
・素早く閉じるアゴは硬いカメムシの体も突き刺す
・アリジゴクの計画されたトラップからの脱出にも活躍する
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今回の内容は、岩本裕之『昆虫たちのすごい筋肉』(2019年、裳華房)、
森林総合研究所「自然探訪2020年6月 歩くトラバサミ「アギトアリ」」(https://www.ffpri.affrc.go.jp/snap/2020/6-agitoari.html)
をもとにしています。

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