昆虫が飛べるのは、体が小型化したおかげ。

体が小さく軽くなれば、それだけ浮きやすく、飛びやすくなるはず。

だから、体が小さいことは飛ぶことの前提になったはず、と。

このことに共感する人は多いのではないでしょうか。

しかし、事実はより複雑なようです。

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捕食者はたいてい、大きく、動きの遅い生き物から捕えていきます。

捕食者から逃げるのに適した小さな体を、昆虫は早い段階で手に入れたようです。

三体節・六脚というコンパクトデザインの体の獲得です。

三体節の胸部には飛ぶ力を生み出す筋肉群が収まりました。

この胸部からの力を利用し、昆虫の祖先は飛べるようになります。

では、やはり小さな体の獲得が、飛ぶことの前提になったのではと考えられそうです。

しかし、ここに見落としがないでしょうか。

体が小さいことは、イコール、羽も小さいということ。

羽が小さいと、どういうデメリットが出てくるでしょうか。

ご想像の通り、飛ぶための力、揚力が下がります。

体重は体長の3乗に、
一方、揚力は体長の4乗が必要とされます。

つまり、体が小さくなると体重が軽くなるというメリットよりも、
揚力が不足するというデメリットの方が大きくなるようです。

小さくなればいいというものでもないようですね。

では、そのとき昆虫はどのような手段をとったのでしょうか。

手段は二つ。

一つは、神経が一回興奮するたびに一回羽ばたき動作するパターン(同期型)。
例えば、バッタ、トンボなどが挙げられます。

もう一つは、神経の興奮とは無関係に羽ばたくパターン(非同期型)。
例えば、ハエ、ハチ。

前者のパターンは原始的、または昆虫の中では大きな体を持つ種類のものに見られます。

こちらは体が大きい分、羽も大きいままです。
そのおかげで、揚力が確保でき、少ない羽ばたき回数でも飛べました。

同期型とカッコ書きしていますが、一回の神経興奮で一回の羽ばたき動作をする、そのためこのように呼ばれます。

一方で、さらに小型化したハエ、ハチは、より小さな羽を持つことになりました。

同期型のように、一回の神経興奮で一回の羽ばたき動作では、飛ぶための揚力を得られません。

もっと羽ばたき動作を速くし、回数を増やし、その状態を維持しつつ、揚力を得なくてはなりません。

しかし、同期型では、羽ばたき回数を増やすことには限界があります。

というのも、回数を増すには、相応のエネルギーが必要になります。

多くのエネルギーが必要になれば、それだけエネルギーを生み出す装置を大きくする必要があります。

エネルギーを生む装置が大きくなれば、羽を動かすための筋肉(筋原繊維)を細胞内に配置するスペースが減ります。

例えば自動車。

自動車のエンジンを改良して速度は増しました。

しかし一方では、頑丈な車体が必要になります。
その分重量が重くなり、燃費が悪くなる弊害が出ます。

まんべんなく条件を満たすのは何事も難しいようですね。

自動車が改良されたように、昆虫ではふさわしい仕組みが獲得されたようです。

獲得されたのは非同期型といわれるものです。

非同期とは上に「神経の興奮とは無関係」としましたが、こちらも意味がわかりづらいかもしれません。

筋肉の収縮によって直接動かすのではない方法です。

胸部の外骨格を動かし、羽ばたき動作をしているものです。

ここで「胸部の外骨格を動かす」とはどのようなことでしょうか。

バッタやトンボの同期型、またハエやハチの非同期型、いずれも飛ぶための筋肉を持ちます。

大きな違いは、その飛ぶための筋肉が羽に付いているか、それとも外骨格に付いているか、という点です。

羽に付いている場合、飛ぶための筋肉が直接、羽を上下運動させます。

バッタやトンボの飛んでいる様子を思い出してみてください。

羽を打ち上げ・打ち下ろしているのがわかるでしょうか。

一方で、飛ぶための筋肉が外骨格に付いている場合、筋肉が直接、羽を上下に動かしているわけではありません。

では何を動かすのか。

筋肉の収縮は外骨格を歪ませます。

歪んだ外骨格が元に戻る反発力を利用して羽を動かしているとされます。

ハエやカ、ハチなどが飛んでいる様子を思い出しましょう。

ブーンとかプーンとか甲高い音を出しながら飛んでいますね。

バッタなどのように上下に羽を動かすというより、
羽を震わせるような印象がないでしょうか。

まとめますと
・昆虫は小さい体を獲得したが揚力不足になった
・筋肉の収縮で外骨格を歪ませて羽ばたくことができた
・歪んだ外骨格の反発力を利用して羽ばたいている
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今回の内容は、岩本裕之『昆虫たちのすごい筋肉』(2019年、裳華房をもとにしています。

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