植物が人間にとって有用なものへと変化することを、栽培化と言います。

また動物、主に哺乳類が人間に有益なものへと変化することを、家畜化と言います。

では昆虫ではどうでしょうか。

古来、昆虫も人間の暮らしに侵入してくることがあります。

ただ、昆虫の場合は人間に有益なものに変化はしないようです。

むしろ、人間にとって有害な生活史へと変化させます。

これは害虫化と呼ばれるようです。

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また植物、動物の場合、遺伝的変化を伴います。
一方で昆虫は遺伝的変化はありません。

ただ、野生型で元々持っていた機能を変化させるケースがみられます。

特に人間が貯蔵した穀物を餌にする昆虫は、以下の4点が代表的な徴候としてあげられます。

・休眠しなくなる
・飛ばなくなる
・成虫で摂食しなくなる
・産卵の数が増える

変わった例として、ゾウムシの一種、ヨツモンマメゾウムシがあげられます。
Callosobruchus_maculatus_(female_on_leaf)_(cropped)
メスのヨツモンマメゾウムシ(Callosobruchus maculatus
このゾウムシには飛翔型と非飛翔型がいます。

飛翔型は飛ぶためのエネルギーのために脂肪量が多いようです。

対して非飛翔型は脂肪を多くは持ちません。
代わりに、メスのお腹には成熟した卵がたくさん入ります。

そのため、羽化してすぐに交尾し産卵できます。

このヨツモンマメゾウムシは文字通り、マメ類を主要な餌とします。

もちろん、人間の貯蔵するマメも彼らの餌になります。

ただ、貯蔵マメに多くの幼虫が生まれると、彼らゾウムシにとって良からぬ事態が起きます。

というのも、多くの幼虫の新陳代謝のせいで、貯蔵マメに熱が発生します。

熱が発生すると、虚弱体質の幼虫が生まれるという事態を招きます。

ただ、この幼虫は発育が遅く、長いことかかって成長していくために、最終的には飛翔型の成虫になります。

飛翔型の個体は野外へ飛んでいき、マメ類に産卵します。

そのマメ類が収穫され、他の貯蔵場所へと生息域を広げていきます。

ではこのような貯蔵穀物を狙う昆虫に対して、古来、人間はどのような対策をとってきたのでしょうか。

紀元前のギリシア地域などでは、貯蔵庫を密閉するなど、物理的な防虫対策がとられていたようです。

これとは別の方法として、貯蔵穀物の中に特定の植物を入れるという対策もとられていました。

エーゲ海に浮かぶ島の一つにサントリーニ島があります。
この島では、紀元前2000年紀頃の噴火によって滅びましたが、それまでは居住地として栄えていました。

この島の人びとは壺にオオムギを入れて貯蔵していたようです。

その壺の中には、月桂樹やコリアンダーが入れられていました。

これらは防虫効果のある植物として、現代でも使用されていますね。

島の人びとは、天然の防虫剤としてこれらを利用していたようです。

では、日本に目を転じてみましょう。

縄文時代の後期、今から3600年ほど前、大分県中津市に集落が存在しました。

現在は法垣(ほうがき)遺跡として知られています。

この遺跡からはサンショウの一種、カラスザンショウが発見されました。

なぜ、サンショウが遺跡の居住跡から出てきたのでしょう。

その成分を調べると、答えがわかります。

このカラスザンショウには、1,8シネオールという成分が含まれます。

この成分はコクゾウムシに対して強い殺虫能力を持つことが知られています。

おそらく、縄文人は経験的にこのカラスザンショウがコクゾウムシ抑制に効果的であることを知っていたのでしょう。

縄文時代の他の例として、クスノキの利用がわかっています。

クスノキといえば、その精油成分から得られる樟脳(しょうのう)が有名です。

樟脳はコクゾウムシ、マメゾウムシの防除に有効なことが最近の研究では明らかにされています。

縄文時代の居住跡が残る立小野堀(たちおのぼり)遺跡(鹿児島市)からは、クスノキの利用跡が発見されています。

ここでも縄文人は経験的な知識から、クスノキの成分が防虫に効果的だったことを知っていたのかもしれません。

まとめますと、
・昆虫は害虫化によって機能や生活史を変化させる
・紀元前のギリシア地域では月桂樹やコリアンダーが防虫用に利用されていた
・縄文時代の日本ではサンショウやクスノキが防虫用に利用されていた
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今回の内容は、小畑弘己『昆虫考古学』(角川選書、2018)をもとにしています。

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