なぜ、クモヒメバチのためのアミをクモは作るのか
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クモヒメバチはクモに卵を生みつけます。
クモというどう猛な生き物の背の上で、ハチ幼虫は安全にふ化できます。
しかし幼虫は守ってくれているそのクモの体液を吸って成長していきます。
最終的にはクモの体液を吸い尽くし、殺してしまいます。
しかし幼虫はサナギになるために、安全を確保しなくてはなりません。
そのためクモを殺す前に、ある工夫をすることが知られています。
おぞましささえ感じるその工夫とは、どのようなものでしょうか。
おはようございます。
一色出版の岩井峰人から配信しています。
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終齢になったクモヒメバチ幼虫はまゆを作り、サナギになります。
サナギの期間は、10日から2週間ほどです。
この期間を安全に過ごすことが大事ですが、守ってくれるクモがいない今、
どこにまゆを作り始めるのでしょうか。
木の葉や幹、また地面は危険そうです。
そこにはアリやムカデといった捕食者がいます。
幼虫はクモの巣のアミの上にまゆを作ります。
確かにここには他の捕食者がくることはなそうです。
しかし、アミは本来、非常に壊れやすい構造のようです。
しかもクモを殺してしまったため、
メンテナンスがされないので、余計にもろくなっています。
通常であれば平気な多少の風でも切れてしまうことがあるようです。
アミが壊れてはいけないため、
クモヒメバチ幼虫には特別な能力が進化しました。
幼虫が終齢になる頃、クモの行動が大きく変化します。
いつもとは異なる工程で、いつもとは異なるアミを作り始めます。
このアミは次のような特徴を持ちます。
・アミの枠になる糸が短くなる
・アミのサイズが縮小する
・捕獲のためにある粘着糸がなくなる
このように作られたアミは、構造がシンプルで雨や落下物に対して強く、壊れにくくなります。
また、獲物がかかりにくくなっています。
というのも、装飾糸という糸が編み込まれ、これが紫外線を反射するためのようです。
反射に気づいた昆虫などが、アミを避けられるようになるというわけですね。
獲物がかかるとアミが壊れるかもしれないので、いつもとは逆にかかりにくくなっています。
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a:ゴミグモヒメバチ(
Reclinervellus tuberculatus
)に寄生されたゴミグモが張った操作網。
b:ゴミグモの正常な網。
c:亜終齢(終齢より一つ前の齢)幼虫を背負って操作網を張るゴミグモ。
ではなぜ、クモはこのような特別なアミを作るのでしょうか。
その理由は、クモヒメバチ幼虫がクモに注入する特殊な物質にあるようです。
クモヒメバチ幼虫は、クモが生きている間から、ある物質をクモに注入します。
注入されたクモは、その物質の影響で特別なアミを作らせていることが知られています。
このようなアミは操作網とよばれ、わずか一晩で作られるようです。
しかし、特別なアミといっても、寄生されたときだけに作るアミではありません。
クモは生得的に知っているアミを作っています。
クモは脱皮する前に休息網という特別なアミを作ります。
この休息網をより強くしたものが、操作網となります。
その強さは、アミの中央部で約30倍、外周部で約3倍の強度を持つとされます。
つまりクモヒメバチ幼虫は安全にサナギの期間を過ごせるように、クモがもともと特殊な時に作るアミを、自分のために強制的に作らせていると言えるようです。
まとめますと、
・クモヒメバチ幼虫は特殊な物質をクモに注入する
・注入されたクモは耐久性の強い特別なアミ(操作網)を作る
・操作網は紫外線を反射する装飾糸によって鳥や虫がかかりにくい
・クモヒメバチ幼虫は強制的に休息網の強化版を作らせる
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今回の内容は以下のものをもとにしています。
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松本吏樹郎・高須賀圭三
「第5章 クモヒメバチ」
『寄生バチと狩バチの不思議な世界』(2020、一色出版)
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