なぜ、クモヒメバチは「子殺し」するのか?
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クモは多くの昆虫にとって脅威となる生き物です。
しかし、その獰猛なクモに対して、自分の子を産みつけるという勇敢な昆虫がいます。
それはクモヒメバチ。
彼らは、クモに寄生しやすいように進化してきたようです。
鍵状の爪、先が細く尖った産卵管、
これらを駆使して、クモに卵を産み付けようとします。
ここまでは前回のメルマガで触れました。
では、実際、クモヒメバチはどのように卵を産みつけ、
安全にふ化させるのでしょうか。
おはようございます。
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まずは寄生相手であるクモを見つけなければなりません。
空中から彼らは、どのように寄生相手を見つけるのでしょうか。
空中から獲物を見つける生き物に、ワシやタカなどの鳥がいます。
彼らは発達した視覚を利用して、小さな獲物も見つけます。
では、寄生バチもワシなどと同じように、視覚情報を利用しているのでしょうか。
クモの巣のアミは、獲物がかかりやすいように、もちろん見えづらい工夫がされています。
そのため、視覚だけでは、見つけるのは難しそうです。
寄生バチが利用するのは、クモの巣のアミから放たれる化学物質とされます。
クモの巣のアミはスピドロインというタンパク質をはじめ、様々な物質でできています。
これらを手がかりにして、寄生相手を見つけるようです。
では、うまく見つけられた後は、どのように寄生、つまり卵を産み付けるのでしょうか。
様々な昆虫を捕食するクモですので、工夫なく近づいたら、こちらの身が危ないはずです。
そのため、いくつかのプランが進化してきました。
まず、オオシロフクモバチという寄生バチをみてみましょう。
通常、クモの糸は粘着性があり、糸に触れたら捕獲されてしまいます。
しかし、この寄生バチは、クモの巣の糸の上を、上手につたっていきます。
なぜなら、粘着性のない糸があることを知っていて、そこを利用するためのようです。
近づいてくる寄生バチに気づくと、クモは落下して逃亡をはかります。
ただ、その逃亡方法もこの寄生バチは見抜いていて、落下したクモを針(産卵管)で仕留めるとされます。
ではクモヒメバチは、どのようにクモに近づくのでしょうか。
その方法は、かなりダイナミックです。
クモヒメバチは一定の距離までクモに近づくと、、、
いきなり飛びかかります。
直後に産卵管を突き刺します。
さらに麻酔を注入し、クモを動けなくします。
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図8.ゴミグモに飛びかかり麻酔をするゴミグモヒメバチ(
Reclinervellus tuberculatus
)の雌成虫。
(『寄生バチと狩バチの不思議な世界』「
第5章 クモヒメバチ」より)
このように電撃的な攻撃によってクモを動けなくし、産卵に入ります。
しかし、ここで問題があります。
寄生しようとしても、クモに、他の寄生バチがすでに卵を産みつけでしまっている場合があります。
こういった場合、すでにある卵は産卵管で突き刺されたり、引き剥がされたりします。
寄生バチの「子殺し」と言われる現象ですね。
なにも殺さなくても、他の子でも一緒に成長すればいいじゃないか、と思うませんか。
しかし、なかなか平和的にはいかないようです。
というのは、ある理由のためです。
先に生まれた子の方が成長が早いため、後に生まれた子は栄養確保の競争に負けてしまいます。
つまり、後の子は寄生相手の栄養源にあやかれないためのようです。
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図9.オオヒメグモを麻酔した後に、産卵管ですでに付着していた幼虫を取り除くマダラコブクモヒメバチ(
Zatypota albicoxa
)の雌成虫。
(『寄生バチと狩バチの不思議な世界』「
第5章 クモヒメバチ」より)
万が一、後の子が負けなかったとしても、共倒れになる可能性が高いとされます。
だったら最初から卵のあるクモは避けて寄生すればいいのに、と考えてしまいます。
しかし、すでに卵があるかは、麻酔をかけ動けなくした後でないと、わかりません。
結果的に、「子殺し」という残酷な行動がとられているようです。
自分の子が育ちやすい環境を手に入れたメス寄生バチは、安心して産卵に至ります。
と、ここまでクモヒメバチという寄生バチの産卵について紹介しました。
メスバチは、クモに飛びかかったり、麻酔をかけたり、子殺しをしたり、いくつかのハードルを越えて卵を産むことができます。
やがて、ふ化して子が成長していきますが、その時にも、様々なハードルをクリアする必要があります。
特に、安全に蛹になるための行動は、不思議さに満ちていると言えるかもしれません。
次回はこの不思議な行動などに触れてみたいと思います。
まとめますと、
・クモヒメバチは巣からの化学物質を手がかりにする
・寄生するにはクモに麻酔をかけ動けないようにする
・すでに卵がある時は子殺しをする
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今回の内容は以下のものをもとにしています。
・
松本吏樹郎・高須賀圭三
「第5章 クモヒメバチ」
『寄生バチと狩バチの不思議な世界』(2020、一色出版)
・馬場友希『クモの奇妙な世界』(2019、家の光協会)
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