メッセンジャーRNAを利用した技術により、昆虫の分子レベルの研究の幅が広がったことを前回紹介しました。
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では実際に、どのような昆虫において、どのようなことが明らかにされてきたのでしょうか。
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この技術はRNAiと呼ばれるもので、RNA interferenceの略称とされます。
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その一つの事例に、メタリフェルホソアカクワガタ (Cyclommatus metallifer) があげられます。
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そもそもなぜ、大アゴはクワガタムシのオスにだけ現れるのか、という疑問です。
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メスにもアゴはありますが、オスほどの発達した大きさは見られませんね。
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オスとメスという性差を作る要因と関係があるのでしょうか。
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この段階では、成長を促進する幼若(ようじゃく)ホルモンが特に分泌されます。
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このホルモンのおかげで、大アゴの発達がうながされるようです。
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オスメスで異なる発達ぐあいになる理由は、ある遺伝子が影響しています。
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ダブルセックス(doublesex)遺伝子と言われるものです。
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この性差に関わる遺伝子が、大アゴの発達において、オスとメスとで異なる仕方ではたらきます。
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大アゴの発達をうながす幼若ホルモンは、オスではダブルセックス遺伝子のはたらきによって大アゴを作ります。
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幼若ホルモンは、メスではダブルセックス遺伝子のはたらきによって大アゴを作ることが妨げられます。
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ダブルセックス遺伝子は、オスでは大アゴの発達をうながし、メスでは発達を妨げているようです。
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このことを確かめるために、ダブルセックス遺伝子のはたらきを妨害する必要がありました。
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その際、RNAiという手法によって実験されたようです。
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またRNAiを使って調べられた昆虫にナミテントウがいます。
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ここでの疑問は、なぜ、あのような斑紋(背中の模様)が現れるのか、ということです。
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ナミテントウのさまざまな斑紋は特定の遺伝子が大きな要因になっている
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(Gilles San Martin from Namur, Belgium - Harmonia axyridisUploaded by Jacopo Werther, CC 表示-継承 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24612418による)
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通常、斑紋など形態に関わる遺伝子は複数であることが多いようです。
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しかし、ナミテントウの斑紋を作るのは、たった一つの遺伝子でした。
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では、この遺伝子がはたらかないと、どのようなことが起きるのでしょうか。
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斑紋の黒い部分は、メラニン色素によって黒くなります。
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パニア遺伝子がはたらくと、このメラニンが作られることがわかっています。
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ところで、RNAiという手法は、チョウやガには効果が出にくいとされています。
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ところが、アゲハチョウでこの手法が効果的に利用された事例があります。
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アゲハチョウ幼虫は生まれたばかりの頃、鳥のフンに擬態します。
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成長していくと、この幼虫は葉っぱそっくりの色に変化します。
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幼虫から蛹、成虫へと成長することで形態や色模様が大きく変化することは納得できます。
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しかし、幼虫という一つの期間でこのように大きく変化できるのは、どのような理由でしょうか。
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まず、鳥のフンに擬態した幼虫時期から緑色に変化する時期にはたらく遺伝子を探しました。
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遺伝子を特定するために、この期間ではたらくRNAを調べたようです。
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その結果、目玉のあたりのみで特別にはたらく遺伝子が、また黒いあたり、白いあたりで特別にはたらく遺伝子が、およそ20ほど見つかったようです。
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これら20ほどの遺伝子に対し、RNAiを使って、遺伝子のはたらきを妨害しました。
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しかし、チョウにはRNAiが効きにくいことが知られています。
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研究チームはここで一工夫して、RNAiが効きやすくなるようにしたようです(エレクトロポレーション法という手法を利用したようです)。
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その結果、かんきつ系の葉っぱへと幼虫が変化する時期に、変化が確認されました。
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通常であれば、背中に目玉模様が、側面には白い部分などができます。
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しかし、RNAiによって遺伝子の働きが妨害された幼虫は、模様が正しく作られなかったようです。
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・RNAiという手法によってさまざまな昆虫の体の仕組みが解明されてきた
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・クワガタムシの大アゴ形成はダブルセックス遺伝子のはたらきが大きな要因となっている
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・ナミテントウの斑紋はパニア遺伝子のはたらきが決定的
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・アゲハチョウ幼虫の体の変化は20ほどの遺伝子で制御されている
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・大場裕一『昆虫たちの不思議な性の世界』(2018)
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・大場裕一ほか『遺伝子から解き明かす昆虫の不思議な世界』(2015)
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・藤原晴彦「鳥の糞から柑橘類の葉へ – アゲハ幼虫の変身を制御する遺伝子の発見」(https://academist-cf.com/journal/?p=11050)
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・新美輝幸他「ナミテントウのlarval RNAi法」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/nl2001jsce/2006/121/2006_121_121_32_/_pdf/-char/ja)
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