mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは新しい仕組みのワクチンと言われます。

昆虫を調べる際にも、mRNAを利用した技術が普及してきているようです。

では、mRNAを利用した昆虫研究の技術は、従来とはどのようなところが違うのでしょうか。

また昆虫について、新しくどのようことがわかるようになってきたのでしょうか。
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メタリフェルホソアカクワガタ (Cyclommatus metallifer) 。RNAiというメッセンジャーRNAを利用した技術によって、大アゴの発達の仕組みが明らかにされてきた。
おはようございます。
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従来、昆虫の分子レベルのメカニズムを調べるには、調べたい昆虫の奇形種をスクリーニング(選出)する必要がありました。

調べるためには膨大な数の昆虫を飼育する必要があります。
その中から、調べたい変異を起こした個体を選抜しなくてはなりません。

しかし、このような方法には大きな困難がともないました。

大量の昆虫を飼育する設備はもちろん、数世代にわたり飼育しなくてはなリません。

こうなると、どのような昆虫でも調べるというわけにはいかなくなります。

一世代の期間が長い昆虫、また体の大きな昆虫などは、現実的には従来の方法では調べるのは難しかったようです。

mRNAを利用した技術では、このような困難を打開できるようになってきました。

この方法は「RNAi法」とよばれます。
RNA interferenceの略称ですね(interferenceは干渉という意味)。

特定の遺伝子の働きをおさえる技術です。
2006年にノーベル賞の候補になりました。

どのようなことが、改善されたのでしょうか。

一つには、上記のように、調べたい遺伝子をねらって、その働きを妨害できるようになります。

調べたい遺伝子の働きが妨害されると、その昆虫の行動や形態や性質に何らかの変化がみられることがあります。

その結果、調べたい遺伝子の役割がわかるというわけです。

ある行動や形態や性質に変化がみられれば、それらを作り出す遺伝子を明らかにすることができるようになったとされます。

従来は、膨大な数の個体を何世代か飼育し、そこから変異した個体を選抜していました。

しかしRNAi法では、調べたい遺伝子の働きを妨害することで、遺伝子と行動や形態や性質の関係を明らかにすることができるようになったようです。

また、従来は「膨大な数の数世代にわたる飼育」という困難のため、調べられる昆虫は限られていました。

従来の昆虫の代表的なものにキイロショウジョウバエがあげられます。
このような昆虫はモデル昆虫とよばれ、遺伝子と行動や形態や性質の関係を調べるのに重宝されていました。

ただ、RNAi法の登場によって、モデル昆虫に限らず、多くの昆虫の分子レベルの仕組みを調べられるようになります。

カブトムシやクワガタムシ、コガネムシなど、従来の方法では困難だった昆虫も、このRNAi法の登場によって遺伝子など、未知のことがわかるようになったとされます。

ただこの方法が万能がと言えば、そうとは言えないようです。

昆虫の種類によって、効果が出やすい・出にくいがあるとされます。

甲虫類やカメムシやコオロギなどは効果が出やすい昆虫のようです。

反対にチョウやガなどでは効果が出にくいようです。

また、RNAi法は遺伝子を壊すものではありません。
したがって、遺伝子の働きを、永久に止めるものではないようです。

では、このRNAi法によって、実際にどのような昆虫の、どのような行動・形態・性質が明らかにされたのでしょう。

次回はRNAi法が事例として、甲虫の角の発達などに触れてみたいと思います。

まとめますと、
・2000年代からメッセンジャーRNAを利用したRNAi法が普及
・限られた昆虫だけでなく多くの昆虫で遺伝子の解析が可能に
・現状、効果の出やすい昆虫とそうでない昆虫がある
・遺伝子自体を壊すのではないので、効果は一時的

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今回の内容は以下のものをもとにしています。
・大場裕一『昆虫たちの不思議な性の世界』(2018)
・大場裕一ほか『遺伝子から解き明かす昆虫の不思議な世界』(2015)
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
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『昆虫たちの不思議な性の世界』
(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

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