ナミアメンボが水中に産卵することは前回のメルマガで触れました。

ナミアメンボの天敵で寄生バチの一種tiphodytes gerriphagusは、その水中の卵を探し当て、自らの卵を生みつけようとします。

深い時には40センチという深さに生みつけられるナミアメンボの卵を、どのように探し当てるのでしょうか。



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上記のtiphodytes gerriphagusという寄生バチは、アメンボのみに寄生する種になります。

そのため、寄生できるか否かは死活問題になります。
なんとしても、水中のアメンボ卵を探し当てる必要があります。

しかし、そもそも寄生バチは水に潜れるのでしょうか。
ハチが水に潜るという話はあまり聞いたことがありません。

ところが、寄生バチにはミズバチという種類がいます。
文字通り、水に潜れるハチです。

このミズバチももちろん、水中で酸素が必要になります。
酸素の確保の仕方は、アメンボ寄生バチと同じです。

体表が毛で覆われていて、そこに泡をくっつけ酸素を確保しているようです。
ミズバチ
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ミズバチ(Agriotypus gracilis)の成虫(雌)。(『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』第4章より)
日本では2種が報告されています。
・ニンギョウトビケラに寄生するミズバチ(Agriotypus gracilis)
・アツバエグリトビケラ類に寄生するミヤマミズバチ(Agriotypus silvestris)

さて、ミズバチはどのように寄生する相手を探し当てるのでしょう。

ミズバチは水中に入って寄生相手を探すとき、触覚は背中にそわせて畳んだ状態になります。
触覚は使われないので、匂いを頼りに探すわけではないようです。

ミズバチは空中から「見て」、巣があると思われる石に着地します。
その後、石をつたって水中に歩いて入って行きます。

つまり、空中でも水中でも視覚に頼って、ミズバチは寄生相手の巣を探しているようです。

ミズバチが寄生するのはニンギョウトビケラというトビケラの一種。
ニンギョウトビケラの巣の特徴として、平たい長いひも状のものが飛び出すという点があげられます。

このような特徴を頼りに、寄生相手を見つけるようです。



一方で、アメンボに寄生する寄生バチはどうでしょうか。

ミズバチとは違い、アメンボ成虫は「匂い」を手がかりに探すようです。

アメンボ成虫が産卵のために水に潜る前、水面に残ったアメンボ成虫の匂いが手がかりになるとされます。

ちなみに、匂いを手がかりにすることは、寄生バチにとって一つのメリットがあるようです。
それは、新鮮な卵にありつける、という点です。

匂いは時間とともに消失していきます。
まだ消失していない匂いを手がかりに卵を探すことは、新鮮な卵を見つけられることにつながります。

アメンボは産卵して、10から14日間で羽化します。

産卵されたアメンボ卵の発生が進行してしまうと、寄生には適さないものになってしまいます。
寄生に適したアメンボ卵は、産卵後、1から2日間ほどのものとなります。

さらにこの寄生バチは、別の手がかりも利用するようです。

匂いを探しているのは自分だけではありません。
同種の他の寄生バチも探しています。

他の寄生バチが密度高くいるということも、寄生する卵があるというヒントとなるようです。

とはいっても、他の寄生バチに先を越されて寄生されたしまったアメンボ卵も、寄生に適していません。
先にいる寄生バチ幼虫と、生き残りをかけ競争しなければならないからです。

アメンボ寄生バチは、寄生にふさわしい卵を見分けて卵を生みつけているとされます。

まとめますと、
・ミズバチという潜水できる寄生バチが日本にいる
・ミズバチは視覚を頼りに寄生相手を探す
・アメンボ寄生バチは匂いを頼りに寄生相手を探す
・新鮮でまだ寄生されていない卵を見分けて寄生する
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今回の内容は以下のものをもとにしています。
・平山寛之「アメンボと卵寄生蜂との水面下での争い」大庭伸也編『水生半翅昆虫の生物学』2018、北隆館
Matti Nummelin, et.al (1988) Infection of gerrid eggs (Heteroptera: Gerridae) by the parasitoid Tiphodytes gerriphagus Marchal (Hymenoptera: Scelionidae) in Finland, Annales Zoologici Fennici, Vol. 25, No. 4.

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