アメンボにとって一番怖い相手は何でしょうか。

カエルや魚、鳥などを思い浮かべるかもしれません。

しかし、アメンボの最たる天敵は、ハチのようです。

アメンボに寄生する寄生バチ、tiphodytes gerriphagusこそ、アメンボの卵を捕食する恐ろしい相手になります。

フィンランドで1988年に報告された調査では、一つのアメンボ集団で、最高で84%も寄生されたとされます。

しかし、アメンボも黙って寄生されるだけではないようです。

さまざまな工夫をこらして、寄生を避けています。

その証拠に、寄生から避けることがうまくいったアメンボ集団では、わずか4%ほどしか寄生されなかったようです。

では、アメンボが寄生を避ける工夫とは、どのようなものなのでしょうか。

とくに、アメンボは産卵の際、夫婦で行動をともにしますが、どのような良い点があるのでしょうか。

(今回のアメンボは、前回のメルマガで触れた外洋性アメンボではありません。
日本や海外でも普通に見られるナミアメンボ(Aquarius paludum paludum)になります)



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今回の登場人物の一人、tiphodytes gerriphagusという寄生バチは、体長1ミリほどの小さなハチです。
基本的には、アメンボ類のみに寄生するようです。

寄生バチにはよくいるタイプで、卵に寄生します。
つまり、アメンボ卵に産卵管と突き刺して、自分の卵を生みつけます。

アメンボ卵の中で生まれたハチ幼虫は、卵の中身を食べて成長します。

やがて蛹になり、羽化すると卵のからを破って外に出てきます。

何度聞いても、寄生バチの繁殖の仕方は残忍ですね。
卵ならまだしも、幼虫に寄生した場合、生きている幼虫の体を食い破ってハチが出てきます。

このような残忍な相手から、どのようにお母さんアメンボは卵を守るのでしょうか。



アメンボは、水面の草や漂流物に産卵します。
しかし、このままでは寄生バチにいいように寄生されてしまいますね。

では、寄生されないように、どのような作戦をとっているのでしょうか。

実はアメンボは水中に潜れます。
この潜水という能力を使って、お母さんアメンボは水中に卵を生むという方法をとるようです。

確かに水中であれば、水面より断然、寄生される確率は下げられそうです。

実験によれば、産卵場所が深ければ深いほど、寄生される確率が下がりました。
深さがおよそ40センチほどで、寄生はほぼゼロになったようです。

では、お母さんアメンボは全員、水中深く潜って産卵すればいいのか、と思われがちです。
しかし、そうもいかないようです。

水中に潜ることにも、いくつかの危険がともなうためです。

一つには、魚やミズカマキリなど、水中にいる捕食者の存在です。

もう一つには、おぼれ死んでしまう危険があります。
窒息という息ができなくなる危険だけでなく、浮力を失って水面に戻れなくなる危険もあるようです。

このように、水中に産卵するには危険がつきものです。
それでも水中に生もうとするのは、寄生バチの恐ろしさを経験したためとされます。

2009年の実験では、多くの寄生バチと一緒の容器で過ごした経験をもつアメンボを観察しました。
つまり、寄生バチの恐ろしさを経験したハチですね。

その経験をもったお母さんアメンボは、潜水して産卵する傾向だけでなく、より深い位置で産卵する傾向が見られたようです。

これまで、お母さんアメンボばかりが登場してきました。
ではお父さんの方は、どのような役割をもっているのでしょうか。

まさか、子どものことはお母さんにまかせて、自分は自由気ままに、、、というわけではないようです。
お父さんも、ある役割をもっているようです(よかった)。

多くの昆虫でも見られますが、メスの背中に乗ったまま一緒に行動するオスがいます。
これは交尾をした夫婦のアメンボでも見られ、オスはメスの背中に乗っかり行動をともにします。

調査によると、アメンボ夫婦の3分の1の割合で、このような行動が見られるようです。

この行動の目的は、他のオスが交尾しないための見張りとされます。
配偶者防衛(はいぐうしゃぼうえい)と言われます。

しかし、アメンボの場合、この配偶者防衛だけではないようです。

お母さんアメンボは潜水して産卵するとき、おぼれ死ぬ危険があると言いました。
このお父さんアメンボと一緒に潜ると、その危険を下げることができるようです。
どういうことでしょう。

アメンボは潜水の時、体の表面に酸素の膜を作ります。
この酸素をつかって、水中で長い時間、行動できるようになります。

つまり、体の表面積が増えると、つかえる酸素の量も増えることにつながります。

夫婦で潜るとき、お父さんの方は特に何もしないようです。
水をかいて、潜るための手助けもしません。
しかし、むしろそれが良いようです。

お父さんがつかまっていることで、お母さんの利用できる酸素の量が増えます。
tiphodytes_illust
クリックして拡大
何もしていないが母アメンボの手助けをする父アメンボ
お父さんはあえて何もしないことで、お母さんに貢献しているようです。
ほめてもいいのでしょうか。

このように苦労して生んだ卵に、寄生バチは自分の卵を生みつけます。
しかし、水中にある卵をどのように探し当てるのでしょうか。

次回のメルマガでは、この点など触れたいと思います。

まとめますと、
・アメンボの最たる天敵は寄生バチ
・寄生を避けるために水中に産卵する
・潜水には危険がともなう
・寄生バチとの遭遇経験がないと潜水産卵しない傾向がある
・オスがメスにつかまり酸素不足を避けている
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今回の内容は以下のものをもとにしています。
・平山寛之「アメンボと卵寄生蜂との水面下での争い」大庭伸也編『水生半翅昆虫の生物学』2018、北隆館
Matti Nummelin, et.al (1988) Infection of gerrid eggs (Heteroptera: Gerridae) by the parasitoid Tiphodytes gerriphagus Marchal (Hymenoptera: Scelionidae) in Finland, Annales Zoologici Fennici, Vol. 25, No. 4.

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