外来種の侵入は、もともといた種に大きは変化を与えることが知られていますね。

ある特定の種にだけ影響を及ぼすこともあれば、その種に関わりのある、さらに他の種にも影響することもあるようです。

実際、そのような間接的な影響は、どのような過程で進むのでしょうか。



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アオムシコマユバチという寄生バチがいます。

北海道にも生息しており、モンシロチョウに寄生することが知られています。
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蛹の繭に乗ったアオムシコマユバチ
北海道には他のモンシロチョウ属として、スジグロシロチョウ、エゾスジグロシロチョウがいます。

アオムシコマユバチがこの2種に寄生しようとしても、2種それぞれの防御システムによって寄生できません。

したがって、アオムシコマユバチが寄生できるのは、モンシロチョウにほぼ限られています。



ところで、北海道にもともといなかったオオモンシロチョウという種が、1990年代半ばから確認されるようになりました。

2000年には北海道のほぼ全域で確認されるようになったようです。

オオモンシロチョウが侵入してきた当初は、アオムシコマユバチがこの相手に寄生することは、ほぼなかったようです。

というのも、オオモンシロチョウ幼虫は寄生してきた相手に噛み付いたり、大きく体を捻ったりして、防御していたためです。

しかし、時間がたつにつれ、徐々にアオムシコマユバチはオオモンシロチョウにも寄生していくようになります。

何しろオオモンシロチョウに寄生した場合、生まれてくる子の数は増え、子の体サイズもより大きくなります。

つまり、生存上有利な寄生相手と言えるでしょう。

このような相手に寄生できるように、アオムシコマユバチは適応していったとされます。

ただし、オオモンシロチョウの侵入によって適応進化したのはアオムシコマユバチだけではありません。

間接的に、他の種にも適応が見られたようです。

どの種に、どのような適応が見られたのでしょうか。




このアオムシコマユバチという寄生バチに、さらに寄生する寄生バチがいます。

ヒメコバチ科の寄生バチとコガネコバチ科の寄生バチになります。

寄生バチに寄生する寄生バチは「高次寄生バチ」と言われます。

寄生バチ自身が寄生されることは、珍しいことではないようですね。



オオモンシロチョウが寄生相手になってから、彼ら高次寄生バチにも変化が見られました。

それまでは、モンシロチョウに寄生したアオムシコマユバチに寄生していました。

しかし、オオモンシロチョウに寄生したアオムシコマユバチが増えてくると、そのようなアオムシコマユバチに寄生するように変化していったようです。

しかも、モンシロチョウ由来のアオムシコマユバチに比べ、オオモンシロチョウ由来のアオムシコマユバチに寄生した方が、生存上に有利なことがわかりました。

つまり、生まれてくる子の数が増え、子の体サイズも大きくなったようです。

ただし、この高次寄生バチがアオムシコマユバチに寄生する時でも、オオモンシロチョウ幼虫による防御がはたらきます。

アオムシコマユバチは既にオオモンシロチョウ内に寄生しているので、寄生するには、オオモンシロチョウの防御をくぐり抜ける必要があります。

上に述べたように、オオモンシロチョウ幼虫は噛み付いたり、体を大きくよじるなど、寄生するには大きな障壁が存在します。

その結果、幼虫の段階で寄生するような適応はほぼ見られなかったようです。

そうではなく、蛹の段階で寄生するように高次寄生バチが適応進化していきました。

これを証明する調査も行われています。

2002年と2005年に、富良野において、アオムシコマユバチ幼虫に寄生する高次寄生バチが採集されました。

その結果、従来通り、モンシロチョウ幼虫に寄生する高次寄生バチの比率が高かったようです。

この傾向は20世代が経過しても、変わらなかったようです。



まとめますと、

・オオモンシロチョウの侵入は一次寄生バチであるアオムシコマユバチの適応進化を急速に促した

・高次寄生バチにも急速な適応が見られたが、幼虫段階で寄生する高次寄生バチには変化が見られなかった

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今回の内容は以下のものをもとにしています。
・田中晋吾「侵入種の影響と在来種群集の迅速な適応進化」『昆虫科学が拓く未来』2009、京都大学出版会

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