一色出版が所属している出版団体があります。

そこからは、次週に全国紙に書評掲載される本が事前にメール配信されてきます。

今回は珍しく、昆虫の本が書評掲載されるようです。

竹内剛『(新・動物記)武器を持たないチョウの戦い方:ライバルの見えない世界で』(京都大学学術出版会、244頁、2200円+税)。

今回は本書について触れてみたいと思います。

おはようございます。
一色出版の岩井峰人から配信しています。
(毎週月曜、年中無休で配信中)
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表紙はギフチョウの配偶行動でしょうか。本を通して「性」にまつわる行動が紹介されます。
メスアカミドリシジミというチョウをご存知でしょうか。

日本のほとんどの地域でみられる、3センチほどのチョウになります。

多くのチョウでみられるように、このチョウでもオスによる縄張り争いが行われます。

本書は、このチョウやギフチョウをはじめ、「縄張り争い」を中心に展開されていきます。

・縄張り争いはどのように行われているのか
・どのようなオスが勝つのか
・なぜ縄張り争いが成り立つのか

といったことが主なテーマとなっています。

ところで一般向けの生物学などの本で気をつけたいのは、粛々とした解説となってしまい、読者の興味を徐々に膨らましていくことが疎かになりがちな点です。

というのも、論理的一貫性はあるものの、無機質な印象を与えることは、著者による独演会になって読者を置いてけぼりにしそうです。

では本書ではそうでしょうか。
著者自身のチョウに対する愛情、子供の時の思い出や学生時代の体験、さらに研究者としての姿勢など、テーマとは少し離れて内容に広がりを見せていることが、読者興味への工夫となっている印象です。

では、メスアカミドリシジミの縄張り争いはどのように行われているのでしょうか。



メスアカミドリシジミの縄張り争いの行われる場所は、木々に囲まれた数メートルほどの開けた空間になります。
沢沿いにはこのような場所が、随所にみられるようです。

その空間の内側を向いて枝先などにとまっているのが、その空間を占有しているオスになります。

その空間に別のオスが現れると、飛び立って追いかけ、追い出そうとします。

この争いの時の飛翔の仕方を、卍巴飛翔(まんじともえひしょう)といいます。

このような飛び方によって、占有行動を実行しているようです。

なお、本書ではいくつかの画像にQRコードが載っています。
ここから動画視聴(YouTubeに移行する)できるのは面白いし、理解が深まりそうです。

この争いの勝敗を決める決定的な点が、その場所の占有時間とされます。

つまり、占有時間が長いほど勝利へのモチベーションが上がり、長時間にわたる争いからも引き下がりにくくなるという現象がみられるとされます。

では、そもそもなぜ縄張り争いをするのでしょうか。



縄張りには蜜源となる植物が特に密集しているわけでなないようです。

また、縄張り争いはオスだけにみられる点が指摘されます。

これらのことから、おそらくメスをめぐる争いではないかと推測されます。

しかし、ここから著者が特異な見解を述べていきます。

縄張り争いをしているチョウは、そもそも相手の性別をわかっていないのでは、としています。

これを「汎求愛説」という考えにまとめ、これが最大の訴求ポイントとなっている印象です。

ここからクロヒカゲ、キアゲハなど、またはライオンやカニなど他の動物も参考にしながら、チョウの性識別の話が展開されていきます。

また本筋を離れて、この内容を学術論文に掲載するにあたっての、苦労話、「山のような批判」についても触れられています。

同じ分野の研究者から、査読の結果、相当な批判が寄せられこと、また学会発表後に一本の論文に値するような長文メールで批判がきたことなど、専門外の人が読んでも苦労がおもんばかれる内容は、本書のテーマからはそれますが、興味深い内容ではないでしょうか。

やや気になるのは、チョウの生態を知ろうと思って読んだ人にとっては、少し物足りないところがあるかもしれないという点ですね。

ギフチョウの衰退とニホンジカの関係、その調査の詳細はじめ、チョウの生態から外れる内容に多くの紙幅が割かれている印象がやや残りました。

一方で、口絵でのチョウの紹介の仕方、本文中でも多くのイラスト図解、大きめの写真掲載は、読者にやさしい配慮ではと思います。
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本文で多く触れられる対象を丁寧に紹介しています
長文を読ませることは、ある程度のストレスを読者に負担してもらうことになります。

読解にともなうストレス解消になる写真や、今回は動画も、効果的なことは入れていきたいところですね。



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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/324ページ/2800円+税)

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(大場裕一編/300ページ/3800円+税)

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