作物を加害する昆虫は世界で1000種以上もいるとされます。

したがい、古来、害虫への対策は人々の大きな課題となってきました。

これに対して、近代科学の発達により農薬を使った対策が急速に普及しました。

ところが、農薬への過度の依存に対する警戒もあり、

天敵昆虫による対策が練られてきました。

おはようございます。
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古来、害虫被害を天敵昆虫で防ごうと試みられてきました。

カンキツ類の害虫に苦労していた古代中国。

これへの対策として当時の人々は、天敵アリを放し飼いにして退けたとされます。

また、ナツメヤシを加害するアリに悩まされていた中世のイエメン。

このアリ被害を防ぐために、山間部から連れてこられたのが、捕食性アリ。

アリをもってアリを制すという方法ですね。

しかし、本格的に天敵昆虫によって防除しようとする試みは、19世紀に入ってからになります。

1888年のロサンゼルス。

この地はすでに世界的な農業地帯に発展していました。

ここには海外から種子・苗が積極的に輸入されていたようです。

それに伴い、海外からの病害虫の侵入が大きな問題に。

代表的なものに挙げられるのがイセリヤカイガラムシ。

イセリヤカイガラムシはカンキツ類に加害します。

この昆虫の防除を目指し、「助っ人外人」としてオーストラリアから連れてこられた昆虫がいます。

現在でも日本ふくめ活躍中、ベダリアテントウムシです。

この助っ人外人の活躍によって劇的な効果が出ます。

・1890年頃ロサンゼルスに移入。
・すぐに南カルフォルニア全域に生息域を拡大。
・数ヶ月でイセリヤカイガラムシによる被害をほぼ無害に。

このテントウムシは、幼虫も成虫もイセリアカイガラムシを旺盛に捕食します。

なにせイセリアカイガラムシの成虫はもちろん、卵、幼虫も捕食に熱心。

この助っ人外人の目覚ましい活躍によって、イセリアカイガラムシに決定的な打撃を与えました。

このベダリアテントウムシをはじめ、
1930年代までに天敵昆虫の導入が進みました。

1919年には、「生物的防除(biologial control)」という用語が作られます。

ただ、一般のイメージですと、害虫対策としては農薬がまず挙がるかもしれません。

産業革命以降、世界の人口は増加し続け、
より収穫量の高い作物品種が求められます。

そのため、より効果的な防除として農薬の開発が進みました。

しかし1960年代になると農薬への過度の依存が問題視され始めます。

人や家畜、環境中の残留など、狙った効果以外への影響が高かったためです。

そこで生物的防除としてベダリアテントウムシに続き、期待されたのが、タマゴコバチ。

・1970年代に大量増殖の技術が確立。
・1975年までに、サトウキビ、トウモロコシ防除に効果。
・1985年までに、ワタ、テンサイ、キャベツ、リンゴ、トマト、イネ、さらに木材まで防除範囲を拡大。

こちらはベダリアテントウムシのような旺盛な捕食ではなく、
確実に一つ一つの卵に寄生して、害虫に打撃を与えます。

これだけ海外で導入が進めば、日本でも普及が予想されますね。

日本では、タマゴコバチの利用は1990年頃から進みました。

トウモロコシ害虫となるアワノメイガに対する防除です。

しかし、防除の効果は確認されたものの、実用化は進んでいないとされます。

ヨーロッパや中国では農薬登録されていますが、日本では未登録となっています。

まとめますと、
・古来、天敵昆虫の導入はあったが本格化したのは19世紀以降
・ベダリアテントウムシによる防除の成功が大きなインパクトに
・農薬への過度な依存の反省を経てタマゴコバチが導入
・日本では欧米中ほどは普及していない

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今回の内容は、仲井まどか・日本典秀編『バイオロジカル・コントロール』(2022年、朝倉書店)をもとにしています。
2009年に初版が出され、その後、生物的防除の知見の蓄積、また生物多様性保護への注目が高まったための改訂とされています。
全体を通して、研究者を目指す人に向けた専門性の高いものになっています。
『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』(前藤薫編)でお世話になった著者の方々が多数みられ、寄生バチと生物的防除に興味ある人は面白く読めるのでお勧めです。


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